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担任VS姉


 とりあえず浅野家の居間で話をすることにした。

 姉さんは鮮やかな金髪をかき分け、「暑い、暑い~」と言いながら、胸元をパタパタはだけさせる。相変わらず人目を気にしないというか何というか……こうして会うのは半年ぶりになるけど相変わらずだなぁ。

 姉さんは現在大学2年で、県外の大学に通っている。わざわざ県外の大学に通う理由は「何となく」だそうだ。大学に通ってからすぐに髪を金髪にした時の衝撃は今も忘れられない。ちなみにちょくちょく電話をかけてきて、自分と同じ大学を受けるよう説得してくるのが謎すぎる。さらに、何で今スーツを着用しているのかも謎だ。

 とまあ色々と疑問はあるけど、まずは……


「あの、姉さん……何でいきなり?連絡もなしに……」

「あら、弟を補充しに帰ってくるのに理由なんてあるのかしら?」


 ぱっちり大きな目を至近距離で向けられ、ぐっと言葉に詰まる。

 ……無駄に整った目鼻立ち……本当に同じ母親から出てきたんだよね?素直にそう思えるのが悲しい。

 いや、今はそんなことより……


「そ、そんなこと言われても……ほら、年齢的にあまりそういうのは遠慮したいと言いますか……」

「裕くんは私の弟だよ?」

「…………」


 いや、わかってたけどね?この人の説得が無理な事くらい。

 まあ、何と言いますか……いや、言わなくても既に気づいていると思いますが、僕の姉・蛍は僕が言うのもなんだけど、割と重度のブラコンです。今も……ああ、無言のまま腕にしがみついてきた……いや、別に嫌じゃないんだけど、やっぱり思春期特有の気恥ずかしさがあって……

 そこで先生が手を挙げた。


「あの……ちょっといいですか?」

「何でしょうか?」

「家族間のスキンシップは非常に大事かと思いますが、彼も年頃の男の子。あまり過度なスキンシップは教育上よろしくないかと」

「…………」


 今、空から「あなたがそれを言うのか!?」って聞こえた気がした。

 そんな先生の言葉を聞いて、姉さんはフッと得意気に笑った。


「ごめんなさいね。これはウチの家訓なの。『スキンシップは惜しむな』という素晴らしい家訓の、ね」

「……え?」

「……裕一君」


 先生がこっちを向き、問いかけるような目を向けてきた。

 僕は慌てて首を振り、否定する。そんな家訓。17年近くこの家で生きてきて、初めて聞きました。確かに良いことのように思えるけど、姉さんのスキンシップは一々過激すぎるから困る。実の姉がいきなり一糸纏わずに風呂に入ってきても、皆引くと思うんだよ……。


「裕一君は「そんな家訓はない」と目で訴えていますが……」

「裕くん?」

「えっと……ほら、僕も年頃だし、やっぱりそういうのは恥ずかしいというか……ね?」

「はあ……裕くんが私のお風呂を覗いたあの日から、この身は裕くんに捧げようと決めてたのに……」

「……裕一君?」

「違います違います!姉さんが入浴中なのに気づかなかっただけですよ!」

「でも見たのは事実よね?」

「うっ……」


 姉弟でこういう過去を責めるのはアリなんでしょうか?姉さんのドヤ顔を見ながら、恨めしい気持ちになっていると、先生もすかさず切り返した。


「私も裕一君に裸を見られたことくらいあります」

「なっ!?」

「先生!?」


 いきなり何を言い出すんだこの人!!しかも心なしかドヤ顔をしている。何でなの?絶対にそんなタイミングじゃありませんよね?

 さらに、姉さんの目が滅茶苦茶怖い。殺意の波動に目覚めたみたいだ。


「へえ……裕くん?どうなのかなぁ?ん?」

「いや、違う!違うよ!あれは事故で!!」

「でも、見たのは事実でしょう?」

「うっ……」


 先生、本当にどうしたんですか!?確かに見てしまいましたけど!何故ここで張り合うような真似を……。

 じぃーっと見つめ合う……いや、睨み合う二人。え?何、この展開。すごく逃げ出したい。

 いつまでこの胃がキリキリするような緊張感に耐えねばならないのかと気を巡らせていると、姉さんがはっとした表情になった。


「そういえば裕くん。今さらだけど、この人は誰なの?」

「今さら!?あ……そうか。姉さんは知らないんだったね。この人は僕の担任の森原先生」

「っ!?も、申し遅れました……私、担任の森原唯と申します」

「ふ~ん、裕くん。一つ質問あるんだけど、いい?」


 今、先生の肩が跳ねた。さっきまでメイドになりきって、自分の本職を忘れていたのかな……。

 姉さんは眉をひそめながら、そんな先生に冷めた視線を向けた。


「何で担任の先生の裸を裕くんが見たことあるの?ていうか、そもそも何でメイド服なの?最後に……何で裕くんが先生の家から出てきたの?」

「「…………」」


 しばらくの間、浅野家に重たい沈黙が訪れた。

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