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裏ルート突入

『浅野君、聞いてるの?』


「あ、はい!す、すいません!」

「浅野君!テレビに返事しちゃってるよ!その人、二次元の人だよ!」

「しっかりして、お兄ちゃん!ちょっと気味が悪いよ!」

「ごめん。つい……」


 何やってんだ僕は……。

 両手で頬を張り、気持ちを切り替え、再び画面に向かう。そう、これはゲームのキャラクターなんだ。断じて先生が画面の中にいるわけじゃない。


『浅野君、ご両親が海外で今独り暮らしらしいわね』

『はい。そうなんですよ。だから家事とか面倒で……』


「両親が海外に出張で独り暮らし……そんなことあり得るの?」

「しっ、そこは二次元と三次元の違いだよ。この設定はこういうゲームのお約束なんだから」

「そ、そうなんだ……わかった」


『じゃあ……今晩は私が作りに行ってあげる』

『え、いいんですか?』

『もちろんよ。どうせいつもインスタントとかで済ませてるんでしょう?ついでに作り方も教えてあげる』

『……ありがとうございます』

『じゃあ、君は先に帰ってて。私は食材を買って帰るから』

『いや、僕も手伝いますよ』

『誰かに見られたらどうするの?』

『あっ、そうですね。すいません……』

『ふふっ、じゃあまた後でね』


「……なんかこれ、おかしくない?」

「うん。でも、先生は攻略キャラクターじゃないってお父さんごが言ってた」

「多分、共通ルートのイベントじゃないかな」


 まあ、こういうサブキャラクターを掘り下げるイベントも、恋愛シミュレーションゲームの醍醐味だろう。普通は誰かのルートにさり気なくくっついてるものだと思うけど、これはこれでいい。決してこのキャラクターが先生に似ているから、内心ちょっとテンション上がってるとかじゃない。

 やがて、先生と料理を作るシーン(CG付き)になり、それが過ぎると食事のシーン(CG付き)へと移った。


「CG付くんだ……」

「ねえ、ちょっと長すぎない?さっき出てきたヒロインとの会話より長いよ」

「お兄ちゃん、何したの?これ、お兄ちゃんの仕業?」

「いやいや、何もしてないよ!そもそもこのゲーム初めてだし」


 僕がした事といえば、二人が話してる間に、序盤の選択肢で『先生に話しかける』を二回選んだくらいだし……それ以外は、飛び級でクラスメートになった年下女子とのイベント以外こなしていない。

 悩んでいる間も、画面の中の二人の会話は弾んでいる。


『先生、これすごく美味しいです!!』

『そう、ならよかったわ。はい、あーん』

『ええ!?』

『冗談よ。可愛いわね』

『もう、先生……からかわないでくださいよ』

『ダメ?』

『いや、ダメってわけじゃ……』

『ふふっ、じゃあ……たまにからかうわね。週5で』

『……多くないですか?月曜から金曜まで一日一回じゃないですか』

『そうかもしれないわね。でも、全然足りないわ。本当はもっと……』

『?』

『いえ、何でもないわ』


 何だか会話が長い気がする。さり気なく次のイベントが発生してるし。

 これじゃあ先生のルートに入ったみたいじゃんか。若葉と奥野さんも固唾を呑んで見守っている。

 その後も、先生との物語がどんどん進んでいった。


『浅野君……オイル塗ってくれない?』

『ええ!?』


「ええ!?」

「浅野君、ゲームの主人公とシンクロしちゃってるよ!しっかりして!」

「戻ってきて、お兄ちゃん!ガチで不気味だから!」


 いかんいかん。またやってしまった。このゲーム……恐ろしすぎる。でも、思春期男子なら、うっかり画面の向こうのキャラクターに返事するくらいよくあると思うんだけど……ないのかな?

 そして、物語はどんどん進んでいく。いつの間にか、年下ヒロインは一人も出てこなくなり、若葉と奥野さんは顰めっ面で画面を睨みつけていた。そんなにあのヒロインがお気に入りだったのか……


『浅野君、メリークリスマス。プレゼント……受け取ってくれる?』

『せ、先生……』


 二人の唇は徐々に距離を縮め、やがて……


「うわあああああああ!!!」


 突然の若葉の叫び声と共に、画面が真っ暗になる。どうやら電源を切られたみたいだ。


「若葉、いきなり切っちゃダメだろ!まだセーブしてないのに」

「いや、お兄ちゃんの方がダメだよ!なに顔真っ赤にしながらゲームしてんの!?目的忘れてない!?」

「いや、仕方ないじゃんか。こうなっちゃったんだから」

「う~ん。ネットで調べてみたんだけど、隠しルートで先生と付き合えるらしいよ。ランダムで選択肢が出てくるんだって。確率は100分の1らしいけど……」

「お姉さん……どんだけなの?」


 すると会話を断ち切るように呼び鈴が鳴る。時計を見ると、もう先生が帰ってくる時間になっていた。どうやらかなり集中していたみたいだ。

 出迎えに階段を降りようとすると、両脇を2つの影がものすごいスピードで駆け出す。

 僕が階段を降りる頃には、2人は先生に抗議していた。


「お姉さん、ゲームにまで出てくるなんてどういうこと!?」

「先生、何かまた裏で糸を引いていたんですか?どうなんですか!」

「?」


 当たり前だけど、先生はキョトンと首を傾げ、2人と僕を交互に見るだけだった。

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