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ウォータースライダー

「おい、あれ見ろよ……」

「すっげえ美人……」

「お前、声かけてこいよ」

「いや、無理に決まってんだろ」

「お、お、俺はあのスクール水着の子のほうが……」


 そんな声が時折聞こえてくるけど、先生に声をかけてくる者は一人もいない。多分だけど、僕がいるからじゃなくて、美人すぎる女性には単純に声がかけづらいのかもしれない。僕も知り合いじゃなかったら、半径10メートル以内にすら近づけないと思うし。

 まあ、最後のロリコンっぽい人の発言はスルーで……。


「じゃあ、まずはウォータースライダーから行こうよ!」

「……序盤から飛ばしすぎじゃないかな?」

「そんなことないよ~。ここウォータースライダー10種類あるし、結構並ぶから、早い内に行っとかないと、全部回れないよ?」

「え?」


 10種類って……確かに広い所だなぁって思ったけど……。

 先生は、現在地がわかる掲示板を見ながら、辺りをキョロキョロ見回し、こちらを手招きする。


「ここからなら、『Highway to hell』というウォータースライダーが一番近いわ」

「な、何ですか……その物騒な名前は……」


 死にはしないまでも、トラウマを植えつけられそうな気がする。マップを見ても、詳しい事は記載されておらず、『乗ってからのお楽しみ』なんて、血が滴り落ちそうな文字で書いてあるだけだ。お化け屋敷か。

 一方、若葉は僕とは真逆のリアクションをとっていた。 


「あっ、それ学校で話題になってたやつだぁ♪さっそく行きましょう!」

「マジか……じゃ、じゃあ、僕は見てるので、二人で楽しんで……あれ?」


 何故か左右から腕をロックされている。

 しかも、右肘には……せ、先生の胸が……!

 こっちは素肌で、あっちは水着1枚だから、いつもよりさらに柔らかく感じられ、あっという間に顔が赤くなるのが自分でもわかった。


「せ、先生……!」

「はやく行きましょう。どんなものか、全部確かめなきゃ」


 先生……まさか、絶叫系のアトラクション大好きなのか?


「むぅ……また……ああ、もう!今は置いときます!さっ、お兄ちゃん、行くよ?」

「え、ええ!?」


 2人に有無を言わさず連れて行かれた僕は、そのアトラクションの名前通り、地獄へ直行する羽目になった。


 *******


「あぁ~気持ち良かった♪」

「……意外と楽しめたわ」

「…………」


 な、何なんだ、あれ……最近のウォータースライダーどうなってるの?やたらスピードがつくし、グルグル回ったり、上がったり下がったりを繰り返し、なんか途中で体が浮いた時は、本気で地獄へ行ったのかと思ったんだけど……。

 別に絶叫系が特別苦手というわけじゃない僕でも、滅茶苦茶怖かったというのに、2人はケロッとしていた。強い三半規管をお持ちのようで……。


「次はどれに行こっかな~♪」

「さっきのマップを見た限りあるでは、『BACK IN BLACK』が1番近いわね」

「あっ、それも友達が話してました♪」


 また危険そうな名前が……そろそろ僕は見守る側に回ろうかな。


「じゃあ、僕はここで見てるから2人は……あれ?」


 再び両腕を拘束される。

 あれ、2人共……力、強いなぁ……逃げられないなぁ。


 *******


「な、何だ、これ……」


 今回のウォータースライダーは、外は塀に囲まれ、どんなコースになっているのか、全然わからない。時折、アトラクションを堪能した客が、塀に取り付けられた扉から笑顔で出てくるので、楽しいアトラクションのようだけど……


「次のお客様、どうぞ~!!」


 係員に呼ばれ、階段を昇り、扉を開け、中に入ると、さっそくコースの入り口となっていた。

 入り口の向こうは薄暗く、どんな風になっているのかわからないが、そのことが却って想像力を刺激してくる。それでも僕は普通に滑りたい。


「……なるほど」


 先生は口元に手を当て、1人で納得している。先生、何がなるほどなんでしょうか?


「ほら、お兄ちゃん。はやく行こ!」


 若葉は係員に3人乗りのゴムボートを用意してもらい、はやく来いと手招きをしている。

 どのみち、ここまで来たら逃げようがないので、僕は腹をくくり、真っ黒なボートに乗り、溜息を吐いた。


 *******


「わぁ~、何これ!すご~い!」

「お、おぉ……」

「…………」


 今回のウォータースライダーは、意外と楽しい。

 どんなキワモノかと思いきや、真っ暗な空間に、星のような鮮やかな光がぽつぽつと輝き、まるで宇宙空間をボートで駆け抜けているかのようだ。

 しかし、そんな夢体験も終わりがやってくる。

 ラストの深いプールに到着すると、若葉は残念そうな声を上げた。


「あ~あ、もう着いちゃった」


 そして、僕の傍で立ち上がる。

 すると、こちらに重さが偏りすぎたのか、ボートがバランスを崩し、ひっくり返った。


「わわっ!」

「っ!」

「…………」


 や、やばい!いきなり過ぎて、鼻に水が入りまくった!

 少しでも早くプールから上がろうと、必死に手足を動かす。

 すると、顔面が柔らかな何かに激突した。

 何やら布の感触と、すべすべした何かの感触が瞼や鼻を覆う。

 え?こ、これって……

 慌てて手を離し、そのまま水面から顔を出し、2人を探そうとしたけど、若葉は既にプールの縁に捕まっていて、先生もすぐに顔を出した。


「…………」

「?」


 そして、先生は何故か半分しか顔を出さず、こちらをじっと見ている。ていうか、ジト目?…………あっ!

 すぐにその理由に思い至る。

 あの時、僕がぶつかったのは……!

 先生に声をかけようとしたけど、係員から声をかけられ、僕達はプールから上がり、ひとまずアトラクションをあとにした。

 

 


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