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相合い傘

「はあ……」


 公園の東屋で雨宿りをしながら、一人溜息を吐く。

 降水確率50パーセント?大丈夫大丈夫!なんで考えて、傘を持たずに家を出たのが失敗だった。まさか、ここまでどしゃ降りになるなんて……こういう時、傘を持って行くと晴れることがよくあるので、つい調子に乗りました。

 家からはまだ結構距離があるし、本を買っているので、絶対に濡らしたくない。さて、どうしたものか……。


「浅野君」


 ここで読書に耽って雨が止むのを待つ?論外だ。いつ誰が来るかもわからない場所で、萌え系ライトノベルを読む勇気は僕にはない。クラスメートに遭遇したら、絶対気まずい空気になる。何でもオープンにすればいいわけじゃないと思うんだ……。


「浅野君」

「あ、はい……って、うわっ!!」


 いつの間にか、隣に誰かがいて、驚いた僕は危うくベンチから転げ落ちそうになる。


「……大丈夫?」

「だ、大丈夫です…………先生」


 いつの間にか僕の隣に座っていたその人は、僕の通う高校で、男女問わず皆からの憧れの存在の森原唯先生だ。先生はいつものスーツではなく、白いTシャツに青いデニムというラフな恰好をしている。

 そういえば先生の私服姿見るのは初めてだ。かなり新鮮な気分になる。

 貴重なものを見れた喜びに浸っていると、肩に温かいものが触れてきた。

 見てみると、先生が肩をくっつけてきて、僕の手に握られた書店の袋をじぃ~っと見ていた。

 距離を取ろうとしても、先生の顔が間近にあるという事実に緊張して、上手く体を動かせない。


「浅野君も、本屋に行ってたのね」

「え、ええ、まあ……せ、先生もですか?」

「ええ。私は欲しいのが見つからなかったけど……浅野君はどんな本を買ったの?」

「え?あ、いや……その……」


 やばい。何故かすごい興味を持たれてる。無表情なのに、何故かそこだけわかる。てか、本当に何故くっついてくるんだぁぁ!!?

 先生の柔らかな感触と甘い香りで思考回路はガンガンかき乱されているが、何とか適当な答えを口にする。


「……漫画です」

「…………そう」


 今、少し間があったのが気になる。

 やましいことなど何もないはずなのに、内心テンパっていると、先生は立ち上がり、僕の肩に手を置いた。


「そろそろ行きましょう」

「え?行くって……」

「傘が無くて困っていたのでしょう?浅野君のことだから、降水確率50パーセント?大丈夫大丈夫!なんて考えて外出してしまったのかと思ったわ」

「いぃっ!?」

「どうしたの?」


 心が読まれてる!?


「さあ、早く行くわよ」

「あ、は、はい……」


 *******


「あのー、先生……?」

「どうかしたの?」

「僕はこの辺からなら走って帰れますので……」

「ダメよ。濡れて風邪ひいたらどうするの?それより、もっとこっちに来て」

「え?でも……」

「はやくしなさい」

「は、はい……!」


 大人しく傘の下で体を縮こませながら歩く。

 …………先生の傘ちっちゃい!!!

 ちっちゃすぎて、さっきみたいに肩と肩がぴったり合わさっている。

 歩く度に、先生の息づかいが雨音を突き抜けて聞こえてくる。

 あと、こんな状態を誰かに見られたら……なんて、綱渡りをしているような緊張感がやばい!


「浅野君」

「は、はい……」

「道はこっちで合ってるかしら」

「あ、はい!大丈夫です!てゆーか、すいません。先生、遠回りになるんじゃ……」

「大丈夫よ。多分、そんなに変わらないから」

「え?」

「さ、早く行きましょう。その本、濡らしたくないのでしょう?」

「はい……」


 先生、僕の家知ってるのかな?いや、まさか……

 僕は先生と密着状態のまま、降りしきる雨の中を少し早足で歩いた。


 *******


「あ、先生。ここです!」


 自分の家の前で立ち止まると、先生は無表情のまま、こちらを見ずに頷く。きっとおいしい時間だったんだろうけど、緊張やら何やらで、それを実感できなかった……。

 僕は少し距離をとり、先生に頭を下げた。


「ありがとうございます!でも、本当に遠回りじゃなかったんですか?」

「平気よ。だって……」


 先生はこともなげに言うと、僕の家の正面の家を指さした。


「私、ここに住んでるから」

「……………………え?」


 それだけ言い残し、先生は軽やかな足取りで自分の家の中へと入っていった。

 傘……返さなきゃ。


 *******


「あ、相合い傘しちゃった♪ふふっ、今日はついてるわ……あ、傘……」

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