変わり始める季節 後編
「先生」
「二人きりの時は?」
「あっ、すいません。つい……」
クラス替えを意識しているからか、つい間違えてしまう。先生もそれに気づいたのか、隣に腰を下ろし、ぴたりと肩を寄せてきた。
「やっぱり高校生活最後の1年だから、なるべく一緒にいたいよね」
「……はい。あっ、でも、先生にどうこうしてほしいとかじゃなくて!」
「わかってる。だからこそ教師として公私混同は避けるわ……自分で言うのもあれなんだけど、今さらって話よね」
「あはは……ですよね。校則違反どころじゃないし」
「ふふっ、ねえ、春休みは家族でどこかに行くの?」
「来週、じいちゃんとばあちゃんに会いに行きますよ」
「そう。楽しんできてね」
「ありがとうございます。二人には元気でいてほしいんですよ。いつか先生を紹介したいから……もちろんその先も……」
「あら、嬉しい。そういうこと自然と言えるようになったのね」
「か、からかわないでくださいよ。本当にいつか家族になりたいと思ってるんですから」
「……ありがとう。私もよ。はやく家族になって家族を作りたいと思ってるわ」
「なかなかストレートに言いますね」
「じゃなきゃ君には伝わらないから。とりあえずキスしていいかしら」
「わ、わかりました……むしろしたいです」
頷いた途端に唇を塞がれる。
想いが繋がってから何度そうしてきただろう。
する度に想いが強くなっていくのがわかる。
名残を惜しむようにつぅっと糸を引いてから、二つの唇が離れると、先生の目はとろんとしていた。
「ねえ、小説で勉強したことを試していいかしら?」
「もちろんです」
バレンタインデーの事を思い出した。あの本は僕も読んだから内容は覚えている。果たしてどのシーンを再現しようとしているのだろうか。緊張しながら待っていると、先生は眼鏡をはずし、上目遣いになった。
「祐一くぅん、私だけを見てほしいなぁ♪……待って、やっぱり死ぬほど恥ずかしいわ。顔から火が出そうとはこのことね」
「いや、可愛すぎるんですけど。後半はアドリブですか?」
「……わかってるくせに。今夜は寝かさないわよ」
「えっ?それはどういう……」
「今夜は一緒に将来のことについて話し合うわよ。朝まで」
「そ、そういう意味ですか。いや、嬉しいですけど」
「祐一君」
「はい?」
「変化を恐れないで。君の中に確かな気持ちさえあれば、ちょっとやそっとの変化なんて、人生を楽しむための隠し味だから」
「……わかりました」
その後二人で夜明けまで語り明かした。
ただの妄想にしか思えない内容も、言葉を重ねれば何だか現実になりそうな気がした。