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変わり始める季節 前編

 3月になると、あるイベントが気がかりになってきた。


 進級。


 いや、クラス替え。


 まあ要するに先生と離れ離れになるかどうか、という重大イベントを迎えてしまうわけだ。

 別に違うクラスになったからといって会えなくなるわけじゃない。家も近所だし、恋人同士だから会う理由なんて放課後いくらでもある。

 でも、何故だろう。

 先生が担任じゃなくなるというのが……すごく嫌だ。

 我ながらものすごいワガママだと思う。少なくとも高校生が言うようなワガママじゃないよな……いや、でも……。


「どうかしたの、祐一君?」


 愛美さんがいきなり顔を覗き込んできたので、僕は思考を打ち切り、誤魔化し笑いを浮かべた。 


「あっ、誤魔化そうとしてる。それにしても最近こういうのにもあんまり慌てなくなったよね。前はかなり緊張してたのに。やっぱりバレンタインデーに何かあった?」

「あはは……」


 バレンタインデーは思い出すだけで口の中にチョコの味が広がってくる。いい思い出だから別にいいけど。


「もしかして、次も森原先生が担任だったらなぁって思ってた?」

「…………」

「あ、図星だ。まあそうだよね」


 愛美さんはうんうんと頷き、僕の肩に手を置いた。一応慰めてくれているらしい。ありがたい。


「ていうか、僕そんなに顔に出てるかな?」

「クイズ・ミリオネアの1000万円の問題に挑戦してる人みたい」

「し、深刻すぎじゃない?」

「だからそういう顔してるんだってば」

「…………」


 顔に出ているのはさすがにまずい。僕は深呼吸をして気持ちを整えた。もう時間だ。

 前方の扉に目をやると、かつかつと小気味よいテンポで足音が近づいてきて、驚くくらい音も立てずに開き、先生がクールな雰囲気を身に纏わせ、その姿を見せた。


「おはようございます」


 いつもどおりの穏やかな光景。でも、担任としての先生もあと数回で見納めになるのかと思うと、再び胸が締め付けられた。


 ********


「はあ……」

「どうしたのよ、アンタ。こんないい天気なのにバカでかいため息ついちゃって。まあ想像はつくけれど」

「…………」

「アンタならどんな手でも使いそうなもんだけれどね」

「それはそうなんですが……」

「ひ、否定はしないのね。じゃあやればいいじゃない」

「公私混同するのはどうかと……」

「今あちこちから『今さら!?』ってツッコまれてるわよ」

「…………」

「聞こえないふりするんじゃない」


 変わることを余儀なくされる季節。

 私は改めて時間が経つことの切なさを知った。


「いい話風にまとめないの」

「…………」




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