バレンタインデー 前編
少し時間が経ってバレンタインデー。
最近は友チョコが主流になってきているとはいえ、やはり教室内はそわそわした空気で満ちていて、少し落ち着かない。
去年までは最初から諦めて、「バレンタインデー?そんなのあった」っけ?みたいなノリだったけど、今年は今までと何もかもが違う。
そう考えながら、僕は教壇に立つ最愛の人に目をやった。
もちろん笑い返したりとかはないけど、相変わらず近くを通る度に、控えめなスキンシップをしてくるので、今夜は期待してもいいだろう。
……いや、待てよ。
果たして自分がもらうことばかり考えていていいのだろうか?いや、よくない。
バレンタインデーに僕から渡したっていいじゃないか!
僕は人知れず小さな決意を胸に宿した。
「浅野君、授業に集中しなさい」
「はい」
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「うーん、何を買えばいいのか……」
学校帰り、デパートに来てみたはいいけれど、これというものが見当たらない。あと制服姿でバレンタインデーのコーナーをうろつくのはやはり気恥ずかしい。せめて着替えてくればよかったな……。
とはいえ、先生との約束の時間までそんなに時間があるわけじゃない。
さて、どうしたものか?
「あれ、祐一君どうしたの?」
「あっ、愛美さん……」
まさかこんなタイミングで遭遇するとは……いや、別に不思議じゃないのか。
愛美さんは辺りを見ただけで僕の目的を察したらしく、いたずらっぽく目を細めた。
「なるほどね。あえて自分から何か送ろうとするのは君らしいよ」
「あはは……」
「手伝おっか?どうせ何を買うか迷ってるんでしょ?」
「……ありがとう。でも大丈夫。自分で決めたいんだ」
「そっか。あーあ、残念。さりげなくデートに持ち込もうと思ってたんだけどなあ」
「えっ?」
「ふふっ、冗談だよ。でも、油断はしないようにね。あとこれ」
愛美さんは小さな紙袋を手渡してきた。
「バレンタインデーのチョコ。一応義理ということにしといて」
「あ、ありがとう!」
「じゃ、頑張ってね。私は今からクラスの友チョコ交換会に参加しなきゃだから」
そう言って愛美さんは颯爽と人混みの中へと去っていった。
僕はもう一度その背中に心の中で「ありがとう」と感謝を告げて、とりあえずヒントだけでも見つからないかと店内をうろつくことにした。
そういえば、ここにも先生との思い出があるんだよな。
優しい思い出に浸りかけたその時、ある考えが浮かび上がった。
勢いが消えないうちに、 僕は目的の場所へと足早に向かった。
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「さて、恋人になってから初めてのバレンタインデー……楽しみね。うふふ」
「廊下でその笑い方はやめときな」
「はい」