生徒指導室の正しい使い方?
「おはよう!」
翌日、下駄箱で靴を履き替えていると、愛美さんのハキハキした声が響いてきた。 なかなかの声量に、近くにいた隣のクラスの女子も驚いている。
「お、おはよう……」
「なになに?朝から元気ないじゃん!もしかして昨日寝てない?」
「そんなこともないんだけど……愛美さんの声が大きすぎて驚いたよ」
「あははっ、ごめんね?でもいい目覚ましにはなったでしょ?」
「確かに。授業中もお願いしたいくらい」
「おっ、祐一君もそんな冗談が言えるようになったんだね」
「おかげさまで」
昨日とぱっと見ではどこかが変わったわけではないが、身に纏う雰囲気はどこか違った。こう、何と言うか……清々しい。今日は雲一つない青空だけど、彼女のテンションのせいか、より青が深く見える。
「どしたの、祐一君?遅刻しちゃうよ」
「えっ?あ、まずいっ、行かなきゃ!」
いつものような朝も少しだけ変化が起きたのを感じながら、僕は駆け足で愛美さんの数歩後を進んだ。
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「昨日はごめんなさい」
「え?」
放課後、生徒指導室に呼ばれたので行ってみると、開口一番に先生に謝られたので、つい首を傾げてしまった。あと生徒指導室を正当な利用方法で一回も使ってないことに気づいてしまった。
いや、それはさておいといて……
「どうしたんですか?何かあったんですか?謝られるようなことありましたっけ?逆ならいくらでも出てきそうなんですが……いつもお世話になってばかりで……」
「実はね……昨日、偉そうに色々言っていたけれど、ものすごく嫉妬してしまっていたのよ」
「……え?」
「本当は君が私のいないところで他の女の子と二人きりになっているのを想像しただけで、胸騒ぎが止まらなかったわ」
「…………」
「それで、最初は今夜連絡するのはやめておこうって思ってたんだけど、嫉妬が止められない自分がいたわ」
「あ、謝らないでください……その……逆の立場なら自分も嫉妬してたと思うんで……」
体に電流が走ったように僕は椅子から立ち上がり、先生との距離を詰め……思いきり抱きしめた。
ふわりと腕の中で甘い香りが弾け、微かな吐息が胸元を湿らせた。
「……駄目よ。ルール違反だわ」
「ルールよりも大事なものがあります。目の前に」
「っ!?」
腕の中でビクッと体を小さく跳ねさせた後、先生はそっと抱きしめ返してくれた。
それだけで世界から切り離されたような感覚がする。ずっとこのままでいたい。
やがて、先生の唇が耳元に近づき、ひそひそと囁いた。
「今の結構きたかも……とりあえず、今日は私の家に来てもらえるかしら」
「わ、わかりました」
「ルールを破ったから特別指導をしないと」
「……………………え?」