行間.洗脳
きらびやかなシャンデリアが輝き、巨大なベッドには輝く天幕がゆれる。そんなベッドに腰掛けながら少女は待ち望むように肩を上下させ、上がる息を必死に抑えながら、扉を一心に見つめていた。
そして、扉がゆっくりと開かれる。
「ああ、ギルド長様」
立場も何も忘れ、臆面もなく前面の笑顔を浮かべて立ち上がった少女は、入ってきた初老の男性に抱きついていた。
「ああ。ああ、お待ちしておりました。待ちわびて、私の心は乱れおかしくなってしまいそうにございます」
「お前が待っていたのは俺ではなくて、これ、だろう」
そう言って男は胸から一本の注射器を抜いた。
少女の瞳が、ひときわ輝いた。
「ああ、う、ち、違います。わたくしはあなた様をお待ちしていたのです。魔法の薬のためではありません。ただ、あなた様に会いたくて」
「そうか、ではこれはいらん、な」
そう言って男は注射器をしまう。
そうすると少女の顔が見る見る絶望に染まる。
「あ、う……ギルド長様。わ、わたくし、すべてあなた様の望むようにいたしました。第七課には『聖神の日差し』を襲わせます。全部全部、あなたのためなら、わたくし、どんなことでもいたします。だから」
そう言って少女は純白のドレスを脱ぎ捨てた。誰が評した言葉、だったか、神がつくりし最上の肉体とか。宝石のように輝く肌と、透き通るような髪。が、しかし今は右手が、うっ血した紫の注射痕で汚れていた。
「だからなにとぞ、なにとぞおなさけを」
そう言って少女は全裸でひざまずくと、男の足をなめる。
「女帝もこうなっては形無しだな」
「わたくしは……ただの道具にございます。わたくしの意思などなにもないのですわ。ただずっと玉座に着かされ、国民に偽りの笑顔を向けることがだけがわたくしの仕事。ですが、どうせ道具なら、わたくしはあなたに利用されたいのです」
男は、ゆっくりと片ひざをついて、少女の頬をなでた。
「サリナ、おまえは道具じゃないよ」
そう。アルメニア帝国は第17代女帝サリナ・コステッド・トスナ・フィリオニア・グラン・ド・アルメニアール4世である。
だがその実、彼女は何の権力も持たない。お飾りの『象徴』。議会の決めた言葉を吐くだけの、ロボットに過ぎない。たった16歳にして世界最大の国家『アルメニア帝国』の頂点につかされる彼女の、実態だった。
「わたくしはあなたと出会えて初めてよろこびを知ったのです。幸せを、知ったのです。ですから、ですからわたくしをもっと利用してくださいまし」
「利用などせんさ。俺はお前を大切に思っている。その証拠に」
そう言って、男はサリナの右手を取ると、注射器を指した。
「幸せの魔法薬だ。とっても高価なものなのだが、愛するあなたのために用意したのだ」
「ああ。あああああ!」
男の国で流通している、精神を覚醒させ、快楽情報を倍化させ、疲れや精神的な鬱憤を消化させる魔法の薬。いわゆる、覚せい剤と呼ばれる物質である。
「はあああああああああああああああああああああああああ」
突き抜けるような快感でサリナは身をよじる。
「んんんんんんんんひいいいいいいいいいいいいいいっ!」
男がサリナの胸をはじくと少女は崩れ落ちてよだれを吐き散らす。
「もっと、もっとくだしゃいいいいいいいいいっ! おなしゃけを、あ」
男のやる気のない乱暴な愛撫でサリナはそのたびに身をよじる。
「ひゃぁああああああああああああああああああああああああ」
人間のものとは思えない醜悪な悲鳴を上げながらサリナは絶頂し失禁した。
「……ごみだな、まるで」
痙攣を繰り返すサリナを足蹴にしながら男は言う。
「はやあああああああ。もっと、もっとののしってくださぃいい。汚らしいわたくしに、罰をおあたえください。ああああああああああああ」
男は乱暴にサリナの髪をつかんで立たせると、ベッドに投げ捨てる。
つまらなそうにため息をつきながら男がサリナの中に侵入すると、サリナはまた絶叫を上げた。
「んごおおおおおお。んのおおおおおおおおおおああああああああああああっ!」
「人間こうなったらおしまいだよな、なあ女帝さん」
「うんんんんんんんんんなああああああああああ。きぼちぁあああああああああよおおおおおお。もっとおおおおおおおおおおおお」
「聞いちゃいないか」
ため息をついて前後運動を繰り返す。
そうしていると、部屋の扉が開かれる。
「なんだ? 女帝様の寝室に入り込むなんて」
部屋に入ってきたのは青年だった。
「やりすぎだろ。……完全に薬チューになってやがんな」
青年はベッドを望みこむとサリナの顔を見て引いたようにそう言った。
「こいつには完全に人形になってもらわないとだからな」
前後運動を繰り返しながら男は答える。
「さすがは新宿同時多発テロの首謀者さん」
2018年、とあるカルト宗教団体が起こした、新宿同時多発テロ。800人の死傷者を出した戦後犯罪至上もっとも最悪の事件として知られる。
その教祖。
日本警察史上最高金額をかけられる推定死刑の指名手配犯。
元カルト宗教団体『アガペス』教祖、前園龍大である。
「しかし日本とアルメニアを戦争させてどうするつもりだ。日本政府と交わした、『アガペス』構成員の全犯罪の無罪化と、支配後のアルメニアの一地区の統治権。……あんたほどの男がその程度で満足するとは思えない、が」
「……もちろん。俺はこの世界を全部手にするつもりでいるよ。あくまでこれは第一歩。そのために第七捜査課をつぶしたかった。日本とアルメニアの戦争なんて知らんさ。勝手にやってくれればいい。俺の目的は第七捜査課……いや、郷林秋菜警視正さえ消せればいいんだ」
「あの女がそんなに脅威かね? まあ台原だけじゃなく、高幡と、東杉も派遣したってのに、返り討ちにあってる。たいした実力だとは思うが」
「あいつのスキルは時間を操ることだ」
「なに……?」
「時間をとめられるのか、戻せるのか。その時間がいかほどなのか、それはまだわからない。いや、あの女は絶対に情報を見せたりはしないだろう。今まで、ギルドの連中を何度か戦わせて図ってきて、わかっているのはそれだけだ。だが情報がわからない異状は最大限に評価して戦略を立てる。郷林秋菜は殺さなければならない。あいつの存在はあらゆる作戦行動の足かせになる。自衛隊全体よりも、おれはよっぽど郷林秋菜を脅威だと、沿うと思っている。」
サリナの中に精をはきながら、そう言った。
「まあ、だがいくら烏合の衆とはいえ、100レベル超えの能力者も有する『聖神の日差し』ならいくらなんでも郷林を殺せるだろう」
そう言ってサリナの上からどく。
「おまえもやっていくか? 一応はこの世界の最高権力者だぞ」
「ふざけんな。病気になりそうだ。そんないかれたごみとやったら」
そう言ってその最高権力者を蹴り飛ばした。
「……まあ壊してくれるなよ。それにはまだ利用価値がある。せいぜい踊ってもらうさ。俺の手の上でな」
そう言って男は笑った。




