プロローグ
最近思うように小説が書けないので中編書いてみようと思いました。
・・・あれ?結局メイン小説から遠ざかってる気が・・・。
遥か昔から人間と魔物は争いを続けてきた。
これまで数多くの勇者が魔王に挑んだが魔王の力は強大で倒しきることができずに千年もの間戦いは続いた。
しかしちょうど100代目の勇者が魔王を倒すのではなく封印することを思い付いた。
そして賢者たちの力を借りた勇者は魔王は封印。指導者を失った魔物たちはおとなしくなっていった。
こうして世界に平和が訪れたのだ。
しかしその二十年後、思っていたより早く魔王が復活した。
それにともないまた魔物は活性化し再び人間を襲い始め、人間たちは再び武器を手に魔物と戦う日々を送ることになったのだった。
今日も魔物は人間たちは生きるために戦う。
これはそんな世界でのお話である。
人間の領域より遥か北にある死の大地。荒野が広がる不毛な地だがそこに魔王城はある。
そこには恐ろしい魔物が住み、あわれな獲物が通るのを今か今かと待っているのだ。
そんな魔王城で魔物たちの間を駆け抜ける男の姿があった。
「うおおおお! 急げや急げ!」
彼の名はロドニー。魔王に仕えるダークプリーストの一人である。
「常に冷静、余裕を持って」を理念とする邪神官ではあるが彼は黒いローブを振り乱して全力疾走していた。
「廊下を走んじゃねえ!」という怒声に「こちらとら魔王様に呼ばれてんじゃい! 見逃せ!」と叫び返しロドニーは走り続ける。
そして走り続けること数分。ようやく魔王の間と呼ばれる場所の前までたどり着いた。
荒い息のままに走り続けて乱れたローブを軽く整えると魔王の間の扉を開けた。
魔王の間には魔物の中でも特に力のある幹部たちが控えていた。
そして中央の玉座には彼らの主たる魔王がいた。
「ぜぃぜぃ・・・・だ、ダークプリーストのロドニー。 ただ今到着しました・・・」
「よく来た・・・と言いたいがそれでは話しづらかろう。 少し息を整えるといい」
少し顔を赤くしてロドニーは息を整えた。
魔王はロドニーの息が整うのを待ったあとに「さて」と切り出した。
「急に呼び出してすまないな。 だが火急の要件であったのだ」
「いえ、魔王様に仕える身。 呼ばれれば文字通り駆けつけますとも」
その言葉に満足したかのように魔王は頷く。しかしここで疑問を挟んだ。
「だがそもそもだ、そんなに急いて走らなくともお前はワープができるだろう」
「いや城ん中でワープ禁止にしたの魔王様じゃないですか」
「・・・・・・そうだった、かもな」
次の瞬間、にっこり笑ったロドニーが杖を片手に魔王に飛び掛かった。
先程までの礼儀はどこへやら。振り回す杖の一撃一撃には情け容赦など欠片もない。
なぜなら魔王城をワープなしで移動するのは大変疲れるのだ。それなのに決まりだからとワープを使わずにいたというのに決めた本人がその事を忘れていたとなれば怒りもする。
「ロ、ロドニー! 気持ちはわかるが暴力は・・・みぎっ!?」
「殿中! 殿中にござる!」
「止めろ止めろ! 魔王様の盾になれ!」
「ぐへぇ!? おふ・・・お、おいウルドガ、君が抑えてくれ!」
「マカ、セロ! ウゴゴ・・・ミョウニ、イタイ!」
「つーかお前ダークプリーストなのに物理攻撃力高すぎだろ!」
止めようとする幹部たちを杖を振り回して薙ぎ倒していくロドニーを見ながら魔王は今度自分で決めた規則を見直そうと心に誓うのだった。
「さて、ロドニーよ。 お前を呼んだのは他でもない。 勇者のことだ」
魔王の頭部に一発かましたロドニーとかまされた魔王は場を仕切り直していた。
周りでは幹部数名が倒れたままだったがあえて触れる者もいない。
「勇者・・・二十年前に魔王様を封じたというあの勇者ですか?」
「いいや違う。 聞くところによればかの勇者はすでにこの世にない」
「それは僥倖ですね。 」
「いやしかし今代の勇者が目覚めこの城を目指し旅立ったと聞く」
「なら要件というのは勇者をやっつけろ、ということでしょうか?」
しかし魔王は首を横に振った。
「いや。 勇者は我が城に迎え入れよう。 なに、魔王らしいやり方で歓迎するつもりだ」
余裕たっぷりに魔王は言うが前回それをやってうっかり封印されたことを知る者たちは呆れ顔である。
「しかし迎え入るにあたり問題があるのだ」
「それはいったい?」
「キルビス」
「はい。 ロドニー殿わたくしめが説明させていただきます」
魔王の側に控えていた執事服を着て白髭を生やしたのゴブリンが進み出た。
彼は昔から魔王の側近を勤めるキルビスだ。戦闘能力は低いが頭が回るので脳筋が多い魔王軍においては貴重な人材であった。
「その勇者なのですが先日、諜報部隊を用いて所在を調べさせました」
「さすがキルビスおじいちゃん。 それでなんの問題が? もしかして情報が秘蔵されてたとか?」
「いいえ」とキルビスは首を横に振った。
「わかりはしたのですが・・・どうも勇者が複数いるとの情報が入ったのです」
「はい?」
その場にいた全員が耳を疑った。驚いてないのは事前に知らされていた魔王と伝えた本人であるキルビスだけだ。
「そんなはずは・・・」
「勇者と名乗る者は我々が調べただけで178名おりますようで」
「多っ」
どういうことなの、とロドニーが魔王に視線を向けると魔王はため息を吐いて語りだした。
「どうも先代の勇者だが、かなりの好き者だったようでな。 その、なんだ・・・我が封印される前も後も各地で種を撒いていたらしい」
「わあ」
ロドニーの目が曇った。勇者に抱いていた様々な気持ちが根こそぎ吹っ飛んだのだ。
「いや待って。 待ってください。 いくら先代の勇者が性豪でも178人は多すぎる」
「はい。 それがもう一つの問題でして」
「と、言うと?」
「先代の勇者は信託も受けず血筋もないいわゆる村勇者だった者です。 それがまさか魔王様を封印するところまでいきましたので」
「まさか自分にも可能性があると勘違いした有象無象も勇者を名乗ってる、とか・・・」
キルビスが頷く。
もうめちゃくちゃであった。本来勇者というものはそんなに安い存在ではないのだが。
「それで本題だが」
場がなんとも言えない空気に包まれたがで魔王が咳払いをして空気を戻した。
「ロドニー、お前には勇者の間引きをしてもらいたいのだ」
「間引き、ですか」
「ああ。 弱き者でも数が揃って群がってくれば煩わしい。 そうなる前に選抜をするのだ」
わらわらと魔王城に攻め込む自称勇者の群れを想像する。魔王城を物量攻めとかまったくもって笑えなかった。
ロドニーはその光景を想像して眉をひそめ、幹部たちもげんなりした顔になった。
「選抜、ということですが基準は? 私が決めても?」
「弱き者は間引け。 あとは好きにせい」
「わかりました。 ・・・少々厳しめにしてもいいですよね」
魔王は鷹揚に頷いた。
「いいかロドニーよ。 お前はワープが使えることに加え、人に紛れても騒がれまい。 故にこの任を与えるのだ。 この意味がわかるな?」
「はい、魔王様。 このロドニーしかと期待に応えて見せましょう」
「ククク、その意気や良し! さあ行くのだロドニー! 勇者を名乗る愚か者どもを蹴散らしてやれい!」
「あ、その前に活動費ください。 あと一人じゃキツいんで何人か連れてきますね。 あとは何かあった際の保険に・・・」
「う、うむ・・・」
こうして魔王の命を受けたロドニーの勇者狩りの日々が始まったのだった。