天使降臨中
「今日の授業はここまで!お疲れ様!」
公民は中学から凄く苦手で授業に身が入らない。
ともかく今日の授業は終わったから早めに帰るか!
昨日リリースされた本を買って、感想文でも書くか!(大嘘)
だが、今日はこんな冗談を思えるほど上機嫌だった。それもそのはずだ。今日、巡李の人生の中で数少ない女子の連絡交換をしたからだ。男友達ならかなり連絡先を知っているのだが、女子は……とてもすくない。(母を含む)
そのときの話を詳しくしよう!
俺でもあの時はドキドキしたからなぁ~。
いつでも忘れられない……
それは昼休みの出来事だった。
「榛原……君……あの、ね?良ければ……電話番号を、お、教えてほしいなぁって……ダメ…かな?」
~廻音天使降臨中~
頭には疑問が浮かぶ前に体が動いていた。
なにも言わずスマホを取りだし自分の連絡先を教えた。事の重大さに気付いたのはそれから少しのことだった。
けど、今時電話番号聞かれるのも珍しいな……
と思いつつ今に至るわけだ。
「あっ!あの……榛原……君?部活……行かない?」
~廻音大天使降臨中~
「へっ??あっ……」
部活の事を完全に忘れていた。正式に入部届けを出したわけではないが入る部活もないし、ボランティア同好会に加入しようと考えていた。
(さようなら僕の新刊よ……いつか買ってやるからな……)
内心泣きながらも、廻音さんとボロい部室に向かった。
「やぁ!今日も来てくれたんだね!二人とも来てくれて嬉しいよ!」
この人はこの同好会の会長、四代周亞会長だ。
3年生一人で俺らが入学してくるまでは唯一のボランティア同好会部員だった。
2年生がいないのは……この部活人気なかったのか??
「所で廻音ちゃん。君また誰かに優しくしたね?」
なんでこの人廻音さんの名前を知ってるんだ?!
「あっ、もしかして巡李君、なんで名前知ってるんだろって思ってない??」
エスパー会長認定させていただきます。
「実は昨日君に熱い話をしたあと、廻音ちゃんとガールズトークってやつをしてたんだよ!」
この人もガールズトークって言葉使うんだ。
かなり意外だった。
「廻音ちゃん。君は本当にその道をたどって良いのかい?」
急に場の空気が重くなった。
その道ってなんだ?嫌な予感しかしなかった。
「会長、私はやっぱり困ってる人を見ると体が動いてしまうんです……ダメですか?」
「ダメとは言ってないよ。むしろ、良いことじゃないか。普通の人にとっては。」
余計に分からなくなった。普通の人?
けど、廻音さんは普通の高校生で可愛くて……
至ってどこもおかしくない……何が普通じゃないんだ??
「多分、巡李君はこの状況をわかってないと思うから教えたいと思うけど、覚悟はあるかい?」
俺は今、この場所でなにも理解しておらず、何も分からない。今の俺にできることは、今すぐに状況を判断することではないか?
と思い、コクリとうなずいた。
「じゃあ、説明するよ。
まず今から話す話は全部本当だと、思って聞いてほしい。昨日私が話した『優しくできる回数』の事を覚えているね?単刀直入に言うと廻音ちゃんは、生まれたときからその『優しくできる回数』の数が少なかったんだ。しかも、かなりの数で。」
会長が話していることが本当だとしたら……
と思い、廻音さんをチラッと見た。
今にも泣き出しそうで、だけど『人を助けたい』という意思が強いのか、歯を食いしばっているような顔をしていた。
「それに加えて、廻音ちゃんは人に優しくするとこが凄い好きで……そこからは分かるかな?」
会長が言ってる事を脳内で整理した。
まず、巡音さんは、『優しくできる回数』の母数が生まれたときから少なかった。
次に、巡音さんは、人を助けたいという意思が強いこと。
そして推測だが、『優しくできる回数』がゼロになると消えてしまうか、感情が消えてしまうか、どちらかだろう。
この3つを組み合わせると、出てくる答えは一つのみだ。
「このままだと、巡音さんは今のままではいられなくなる。ってことですね?会長。」
「当たりのようで正確な当たりではないけど
100点満点なら40点ってところかな。赤点回避おめでとう!」
と軽くジョークを入れつつ、会長がまた話し出す。
「巡李君の言ってることは大体合ってるようであってないんだ。テストでいうと解答欄がずれてる。って感じだね。」
「君達は『優しくできる回数』が0になったらどうなると思う?世界から存在が消えてしまう?もしくは、皆に忘れ去られると思う?」
さっきの俺の意見だと『消えてしまうか』『感情が消えてしまうか』
だった。
「この話は昨日、廻音ちゃんには話したんだけど『優しくできる回数』が0になると、別世界へ簡単にいうとパラレルワールドに飛ばされるんだ。
行ったことないから分からないけど、そこは地獄よりも天国。天国よりも地獄。いわば中間地域らしい。」
なるほど……だから俺の意見は解答欄がずれてるって言われたのか。
「それで廻音ちゃんはもうあと少ししか、人に優しく出来ないんだ。君は廻音ちゃんをどうしたい?まだ、生き残らせたいか?」
その時ばかりは隣の廻音さんの顔を見ることはできなかった。
そんなときにある言葉が脳裏をよぎった。
≪あなたは身近な人を……≫
答えはもうでた。
後は、それを口に出す勇気と覚悟だけだ。
「あの、お、俺は……榛原巡李は……
谷原廻音さんを守りたいです……!」
これが不器用な俺が出した最善の言葉だった。
「よし!よく言った!偉いぞぉ~よしよししてやる!」
会長の柔らかいなにかが当たりながらなでなでされた。なんかいい気分だ。
「それなら話は早い!明日二人でこの人物に会いに行ってくれないか?」
会長からノートの端をちぎったような紙をもらった。
そこにかいてあったのは
≪クラスまでは調べてないけど阿利継善男の子だよ。≫
なんだろう……聞いたことあるんだけど……いまいち思い出せない……
外を見渡すともう暗くなっており会長の解散を合図に俺たちは帰った。
その帰る途中で誰かに袖の裾を引っ張られた。
振り替えるとそれは廻音さんだった。
「あ、あの……榛原君?聞いてほしいことがあるの……」