黒髪美少女と怠惰系男子が出会ったら
黒くて暗くて、歪な空間。暗いはずなのに、不思議と自分の身体は視える。
「ここは、どこ___」
だ。それを言おうとしたときに突然激しい頭痛に襲われる。
「ぅ...ぐぁ..うぐ」
痛みのあまりに頭を抱えてしゃがみこむ。頭に膨大な量の何かが入り込んでいくような感覚に吐き気がした。
痛い、苦しい、けど懐かしい。...懐かしい?
「...懐かしい」
痛みが治まった頃にはそんな言葉が呟いていた。
不意に頬をつたる水滴に気がつく。水滴が唇を越えて口の中に侵入し、舌に触れて涙だと分かった。
「久しぶり、だね」
声のした方に振り返る。
目にした瞬間、胸の中を何かがこみ上げてきた。
腰まで伸びた銀髪がゆらりと揺れている。艶めかしいまでに美しく、人間離れした顔は神々しさを感じさせるほどだ。薄い桜色の下唇を小刻みに震わせながら噛んでいて、一対の耳はほんのりと紅潮していた。深紅に光るその瞳はどこか優しげで、溢れそうな涙を必死に抑えつけている。
_____女神ファリス
ふっと頭に浮かんだ彼女の名前。
何年ぶりの再会だろうか。
なぜ、今まで忘れていたのだろうか。
俺は今、すべてを思い出した。
「ああ、久しぶり。ファリス」
自分でも驚くぐらい優しい声音だった。
「浩二くん!」
ファリスは抑えたいた涙を、声と共に。胸に飛び込んできた彼女を、俺は優しく抱擁する。
何分間経ったか。いつの間にか彼女は泣きやんでいた。そっと背中を叩いて、もうそろそろいいか?と身体を離そうとする。しかし嫌だと言わんばかりに強く抱き締めてきた。
「お、おい?」
「離したくない」
ファリスは子供のようにギュッと腕に力を込めて、顔を埋めてくる。仕方がないとそっと頭を撫でてやると、顔をこちらに向けて目を細めた。
うっ、抱きしめられて上目遣いをされるとくるものがあるな。さすがにこれ以上は精神衛生上よろしくない。
「ファリス、ここに居れる時間は限られてるんだろ?」
「...うん」
ファリスはそう頷くと、今度こそ離してくれた。腕で目元を拭い、昔のように微笑むファリス。時間が限られてると自分が言ったのに、つい見惚れてしまった。
「...っと。そうだ、聞きたいことがあるんだ」
「うん、任せて。なんでも答える」
そう言ってまた微笑むファリス。
うん、やっぱり可愛いなぁ...。っじゃなくて。
「俺は転生されるわけではないんだよな?」
「その通り。キミは召喚されたんだ。他の380名と共に」
380名。うちの学校の三年生の総数と一致している。体育館で転移されたってことは、恐らく教師を含めない第三学年全ての生徒が召喚されたということになる。
「誰が俺たちを召喚したんだ?」
「シュペルグ=バージェス、ブラッデ王国の王様だよ」
知らない名だ。俺がいた頃にはブラッデの王様はラウジ=バージェスで、過去に王様になった人物にもそんな名前はなかった。
ということはラウジの子孫か?ってことは俺が行くのは何年後になる?
「キミは行くのは100年後のアルガンディアさ」
ちょ、質問をまだしてないのになん...。
「...そういや思考も筒抜けだったな」
さすが女神様だ。しかし目の前にえへん!とドヤ顔を浮かべるのはいいが、可愛ゆすぎて話が進まん。
「え、ちょ、か、可愛いって...」
「あー大丈夫、気にすんな気にすんな」
「そんなこと言われても...」
「さて、今のブラッデ王国はどうなってる?」
「...むぅ」
「頬を膨らませても無駄だ」
「」