四六時中眠ってるやつはハッキリ言って異常
第一話にして迷走してますので、ご注意下さい
桜が舞い散る並木道。新たな制服に身を包む新入生の人混み。
暖かい陽光に照らされ、これから通うことになる学校の校門の前でで立ち止まる。
「ここが...菊月川学園」
大きく聳え立つ校舎に目を向け、確かめるように呟く。
俯いた顔を上げ、そして一歩踏み出す。
「これから、俺の高校生活が始まるぞー!」
期待に胸をふくらませ、高らかに宣言する。
そんな新入生男子の隣で、俺___小池大地は立ちながら眠りに耽っていた。
ちなみに俺も新入生である。
* * *
「____であるかしてぇ、である。だからこそ、それがアレで、あれがソレであるのだ」
入学式で恒例の、禿げ散らかした学校長による退屈な演説。高校、いや学校という機関全てに於いて、これは定番のクソつまらないイベントだろう。
新入生達の大半はきっと、真面目な顔で聞いている振りをして別の考え事をしており、中には取り繕うまでもなく眠りこける者もいるだろう。
「すぅー、すぅー」
それこそが俺だ。
「ちょっと君、起きて!」
肩に揺れを感じて目を覚ますと、ボヤけた視界に見覚えのあるセミロングの茶髪が映る。
...ああ、なんだ。
「母さん、あと五分」
「わ、私は君を育てた覚えはないよ!」
「え"」
母親の非道な発言により鈍っていた思考が即座に加速し、視界が澄んでいく。
すると目の前には母親ではなく、見知らぬ女子が顔を赤くしていた。
...照れてる?
「寝ぼけてないで、早く起きて!」
怒ってたみたいだ。
どうやら俺の思考はまだまだ鈍っていたらしい。
「...なにか?」
「なにかって、もうすぐ新入生退場___」
「ああ、そうか。ありがとう」
「って、ちょ」
安心したらまた眠くなってきた。
「ごめん、あと...五時間」
「長い!?」
「すぅー、すぅー」
「寝るの早くない!?」
寝ることが好きすぎるあまり、ベッドに入ってから寝るまでのロスタイムを削ろうと、いろいろ頑張ったらこうなった。
いろいろはいろいろ、詳細は教えん。本当は知らん。できるかそんなの。
そして毎日9時には就寝しており、早寝を心がけている。実に健康的な生活だ。
だが早起き、テメーはダメだ。
「って最後まで人の話を聞いて!」
ぺちんという可愛らしい音と、頬に僅かな痛み。
「んー、まだなにかあるのか?」
「だからもうすぐ新入生退場だから起きてなよ!」
「あーうん、わかった」
「あれ? 素直?」
「すぅー、すぅー」
「って寝るなぁ!」
べちんという鈍い音と、頬に確かな痛み。
さすがに紅葉はできてないよな?
「最後まで話を聞いたじゃないか」
「そういうことじゃなくて、このまま寝てたらマズイでしょ?」
「なんで?」
「私たち新入生はもうすぐ退場するって言ってたよね」
「へーそうなんだ」
「とりあえず君が人の話を聞かない人間だということがわかった」
がっくりと項垂れるお隣さん。
そして顔を上げるかと思いきや、こちらを睨みつけてくる。
「次から、寝ても起こしてあげないからね!」
「え、マジで!?」
「そこで喜ぶなっ!」
完全に怒ったのか、腕を組んでそっぽを向いてしまった。
それからアレよアレよと入学式は幕を閉じ、彼女はプンスカと怒りながら退場してしまう。
ちなみにこの女の子とは次の日にまた教室で再開することになるとだけ言っておく。
* * *
「はい、それじゃあ自己紹介していきましょー!」
さて、タイムがフライしていつの間にか入学式の翌日。
担任である武藤先生の掛け声とともにクラスでの自己紹介が始まった。
関係ないけど、こういうルビの振り方を一度は経験したかったんだ。
「私の名前は喘木 琥恵です! 趣味は秘密☆ 特技は秘密☆ スリーサイズ? そんなこと女の子に聞いちゃ、ダ・メ! 一年間よろしくねっ」
「僕の名前は伊馬唐 郁代。趣味はAヴ...映画鑑賞。好きなものはホッカホカのパン...です。一年間よろしくお願いします」
「私の名前は___」
各々が順調に自己紹介を終え、とうとう俺の番がやってくる。
「すぅー、すぅー」
それでも俺は眠るのだ。
「確か、小池くんだっけ?」
「すぅー、すぅー」
「おーい、起きなさい」
「すぅー、すぅー」
「起きなさい!」
「ん、ふぁぁぁ、ふぅ...先生、なんでしょうか」
顔を上げると、目の前にはたわわに実った果実がたゆんたゆんと揺れている。
これは兵器だ、間違いない。
「新学期早々に居眠りなんて、いい度胸してるわね」
体を起こすと、武藤先生の艶やかな黒髪が目に映る。次に、怒りによって顔を赤くする先生の姿が...。
これは怒られるな、間違いない。
「初日から放置プレイだなんて、すごくいいわっ」
「いやホントすみませんでした」
女心も秋の空も、この人の性癖もさっぱり分からん。
「えーごほん。小池大他です。よろしく」
趣味も特技もわざわざ自分からカミングアウトするなんて面倒くさいので、とりあえず名前だけは言っておく。
早く眠ろうよっこいせっと席に座ろうとすると、どこからか視線を感じる。
辺りを見回すと、すぐ右斜め後ろに入学式で隣だった茶髪の子がいて、こちらを睨むように見ていた。
目が合うと大きく舌を出して、そっぽ向いてしまう。
「ふむ、ラブコメの予感...?」
「死にさらせ」
...ちなみに今のは割と傷ついたぞ。
* * *
またもやタイムがフライアウェイして気付かなぬままに休み時間。
いやアウェイしちゃ駄目だろ、などと意味の分からないことを考えながらトイレに向かおうとすると、廊下で例のあの人(茶髪セミロングの女の子)と遭遇する。
「ふんふふーんふふーん♪」
「大便か?」
「違うよっ!」
糞を連呼するなんて女の子じゃなくても凄くはしたないので止めた方がいいと思うぞ。
「なんだ、機嫌わるいな。生理か?」
「...なわけないでしょ?」
「あ、ハイ。謝るんでその拳を下げいただけませんか?」
「ふんっ!」
痛てぇ。
おーおー、今どき暴力系女子は流行らないぜ?
「君って本当にデリカシーないよね」
「少しでも他人に気を遣うのが面倒くさい」
「うん、最低だね」
蔑みの視線とガチトーンの低い声音。
しかし残念ながら俺には効かない。
なぜなら俺にはMっ気があるからだ。はーはっはー...冗談だ。
「んじゃ、俺はう〇こして来るから」
「だからやめてって」
「そういや名前なんだっけ?」
「ええっ!? クラスで自己紹介したでしょ!?」
「何故だかそのときの記憶が抜け落ちていてな」
「眠ってたからじゃん...」
ああ、そっか。
眠ってたから気付かなかった! テヘッ! で許されるのは可愛い女子だけだよな。
「私の名前は花沢花美、今度はちゃんと覚えてよ?」
「ふむ...今度こそラブコメの予感」
「やっぱ覚えんな」
自分の言ったことをすぐに撤回するなんて軽い女だな。
まさに尻軽女。いや、それは違うか。
ちなみに俺は最近、便秘気味だ。