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第8話

無理に反撃せず防御に徹して、攻撃を捌く事に専念する。

そして、アルの《悲鳴》が効いて【オーク】が倒れてしまう前に、


「クレセントッ!」


強引に技を始動する。

更に、倒れた所を左の剣で突き刺すと、


『ガァァァアァア!』


断末魔の声を上げ最後のオークが消えていく。


「ふぅ、やっと死んだか」


「お疲れ様です。シュウ」


「ああ。それにしても、無駄にHP高いんだよな、こいつら」



―――――



最近、戦闘時の役割が固定されてきた。

まず、攻撃力の低いアルは、Mobが1匹なら隙を作る役を、複数いる時には、敵が一気に襲って来ない様に足止めを担当している。

俺はというと、前者なら堅実に防戦に徹して隙を突いて倒し、後者なら多少強引にでも倒す速度を優先する。

相変わらず、紙一重で攻撃を避けたり、的確に攻撃を当てるなんて事は出来ないが、少し身体を動かす事に慣れてきた。

それに、レベルの上昇により現実と比べて身体能力が上がっているのである。

まだ、ちょっとした差だけど。



―――――



『オォオアァァァ』


すでに、御馴染みとなった臭いは慣れてしまった。

慣れたくは無かったが。


「クレセントッ!アルっ!」


「はいっ。えいっ!」


多少梃子摺っていたゾンビも、今では余裕を持って戦えるようになった。

しかし、豚も死体も食い飽きた。臭いも精神的に来るし。

新しい狩場でも探そうかな。


「シュウ!? お腹壊しますよ?」


「そういう意味の食うじゃねえよ! てか、なんで考えてる事がわかるんだ!!」


「フッ……」


鼻で笑われたし。


「オラァッ!!!」


『オゥァオゥォォ』


八つ当たりを受けたゾンビが消えるのと共に、キィーンと効果音がする。

アルのレベルが上がり、新しいスキルを覚えたらしい。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


「ふむ? 【奉仕の果実】ね」


アルの想いか。

日頃の事を考えると、碌な物じゃなさそうだが。


「アル。どんなのかわかるか?」


「1時間後を楽しみにお待ち下さい」


「むぅ……」


しょうがない。狩りをしながら待つか。



―――――



豚と死体狩りをしていると、カナタさんから頼んでいた武器が出来たとメールが着たので、街に戻る事にした。


「アル、街に戻るよ」


「………」


「ん?」


アルの様子がおかしい。

何かあったのだろうか。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


「シュウ」


「なんだ?」


相変わらずの無表情だが、どこかいつもと違い深刻な印象を受ける。

なんだ? 特殊イベントか? 進化でもするのか??


「………」


「シュウ。義理チョコです」


「まだ7月だ! それ以前にチョコじゃねえし!!」


アルが差出したのは、


「……桃?」


っぽい、果物だった。

とりあえず受け取り、アイテム情報を見てみる。


【奉仕の果実】

感謝の気持ちがこもった甘美な果実。愛情度により生命力の回復量が変わる。


「これがそうか。てか、アル。だったら普通に渡せよ」


「この方がサプライズ感があると思いました」


既視感デジャビュを覚える。

いや。そうだ! あの変人だよ。

恐ろしい、ゲーム機を通して汚染する能力があるのか。

前後の出来事は、精神衛生上無かった事にして、お礼を言う。


「まあ、どこか釈然としないが、ありがとな」


「いえ」


視線を逸らし俯くアル。

これが恋愛小説なら、頬を染めて照れているって構図なのだろうが。

短い時間だが一緒に過ごした経験から言うと、ツッコミを入れて貰えなかったので、いじけているのだろう。



―――――



カナタさんに、前回と同じ取引場所で待っているとメールを送った。

若干拗ねていたアルだが、例のドリンクショップで飲み物を買ってあげると、一気に機嫌が良くなった。

まあ、相変わらずの無表情なので違いはわかりにくいが。

ちなみに、今日飲んでいるのは【シルフィードの憧憬】である。


「やあ、待たせたかい?」


「いえ、そんな事無いですよ」


実際、5分も待っていない。


「アルちゃん、こんにちは」


「こんにちは」


挨拶を終えると、即座に取引に移行する。


「そうそう、なかなか良いのが出来たんだよ。まあ、とりあえず見てくれ」


「へぇ〜、【パリーイングダガー】ですか」


防御用の剣である。

左手に持つ剣は、攻撃よりも攻撃を防ぐ事が多いので、より防御しやすい剣をと注文したのだ。


「鉄製だから頑丈だし、鍔が大きめで攻撃を受け止めやすい。切れ味も現状のドロップ品よりかはマシな筈だよ」


「凄いじゃないですか!」


「あ〜。んー」


ん?


「どうしたんですか?」


「いや。その、使った材料と手間を考えると、ちょっと。かなり予算オーバーしちゃってね」


そういうことか。まあ、序盤にしては中々の良品だ。

それ程無茶な値段でなければ、是非とも買いたいが。


「で、いくらなんですか?」


「65万ユリルなんだよ」


「げっ!?」


650Kか。そりゃ確かに言い辛いわな。

確かに良い物だけど、序盤にしてはという言葉が付く。

払えない額じゃないけど、剣1本に650Kか〜。


「う〜ん……」


「やめておくかい? やめるんだったら、他のお得意さんにも聞いてみるつもりなんだけど。ああ。もちろん、シュウ君用の新しい剣も造るよ」


左手の方は、これを買えばしばらく買う必要もなくなりそうだし、いいかな?

見た目も気に入っちゃったし。


「買いますよ。僕用に造ってくれたんでしょ?」


「ああ、凄腕の剣士が使うと思ったら、気合が入りすぎてしまってね」


んん? なんか、幻聴が聞こえたような。

ゲームの中でも幻聴ってあるのかな?


「凄腕の剣士って、なんですか?」


「シュウ君の事だよ。掲示板見てないのかい?」


ここで言う掲示板とは某大規模掲示板の事だろう。


「あそこはガセの情報も多いし、全部見るのに時間がかかるので、最近は攻略サイトと公式しかチェックしてないです」


「そうか。じゃあ、話しておいた方がいいかな。実は、あの腕輪が原因なんだよ」


「どういう事ですか?」



―――――



要約するとこうだ。

公式の取引掲示板の俺の記事、あれについて掲示板で色々議論されていたらしい。

異常な強さの金ぴか君は今だ誰にも倒されてなく、俺の記事は釣りじゃないかというのが、大半の意見だった。

だが、カナタさんが取引をした事を話したお得意さんの1人が、その事を書き込んでしまったのだ。

勿論、キャラ名は晒さないでくれたが、それ以外の初日に手に入れた事とソロだという事は、はっきりと書かれてしまった。

初日に倒したという事で、そのプレイヤーが低レベルなのは間違い無く、更にソロだという事で余計に火がついてしまったらしい。

リアルで古武術の達人だの、チーターだの、実は運営の人間だの、様々な憶測が流れたが、最終的に凄腕の剣士という事に落ち着いたらしい。

まあ、よくわからない展開だが。

そのお得意さんの書き込みを含めて、釣りだという意見もないわけじゃないらしいけどね。



―――――



「参ったな。僕って、初戦でゴブリンにやられ掛けたようなプレイヤーですよ?」


「だが、ソロでゴブリンロードを倒したんだろ?」


いや。まあ、そうなんだが。

カナタさんが考えてるみたいに、まともに戦ってないんだよね。


「ええ。でも、アルもいましたよ」


「アルちゃんは、どう見ても戦闘系じゃないだろ? ん〜、癒し系かな?」


癒し系は関係無いだろ!とツッコむ気力も無い。


「どちらかというと支援系です」


「だろ? だったら、ソロとあんまり変わらないんじゃないか?」


はぁ。恥ずかしいが、全部話した方が誤解も解けるだろ。



―――――



「って、訳で、凄腕の剣士なんかじゃないんですよ」


「………」


呆れているのか、ぼーっとして反応がない。


「カナタさん?」


「あ、ああ。しかし、信じられない話だな、それは」


「まあ、自分でも恥ずかしい戦い方ですが」


穴があったら入りたい気分である。

実際穴があっても入りはしないが。


「そうじゃなくてね。発想というか思いつきというか」


「へ?」


「障害物を使って一方的に攻撃をするとか、壁役を立てて背後から攻撃するとか、そう言うのは聞いた事あるけど、転ばせるっていうのはね。まず、思い付かないものなんだよ」


「???」


どういう事だろ?


「ゲームの世界が、いくら現実に近くなったって言っても、日常の全ての行動を再現している訳じゃないからね。思い込みって言うのかな? 転ぶなんてRPGに必要な行動じゃないだろ? だから、そういうのはシステム的に省いてると思う以前に、思いつきもしないよ」


「そ、そういうものですか?」


クソッ! いつのまにか、俺も親父に汚染されていたのか。

凄まじい感染力だ。


「ん〜、これは黙っておいた方がいいね。それにシュウ君も、もう使わないほうがいいよ」


「えっ?」


「だって、つまらないだろ? ボスを転ばして倒しました。なんて、ゲーム」


「確かに」


どうせ、ゴブリン狩りでしか使ってなかった技?だし、楽過ぎて物足りなかったもんな。

技も覚えたし、それほど困るわけじゃない。


「んじゃあ、使わない事にします。実際、あんまり面白く無かったですしね、あの戦い方」


「掲示板の方も、もう少ししたら落ち着くだろうから、放っとけばいいよ」


「わかりました。忠告してくれて、ありがとうございます」



―――――



前回と同じく話に加わらなかったアルだが。

今回は、狸寝入りではなく本当に熟睡してしまったようだ。

真面目な話には出番がないと感じ取ったのだろう。

まあ、ツッコミをいれて貰えないという、理由が大きく占めるとは思うが。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv15 HP:529 SP:103


STR:96 VIT:118 INT:130 DEX:44 AGI:48


攻撃力:60 魔法攻撃力:77 防御力:96 魔法防御力:93 敏捷度:41


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


愛情度:484 [相方かな?]

満腹度:120% [かなり満腹]


備考:

やたらと手の込んだボケをするようになった。

しかも、不味い事に親父の影響を受けている節がある。



―――――



※1:パッシブスキル

取得しているだけで効果が現れるスキル。


※2:K

キロの略。

1Kは1000。

10Kは1万。

655Kだと65万5000。


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