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第7話

現在、取引相手との待ち合わせ中である。

3日間で56通のメールが届いた。

その内、55通は先の2通と同じく余ったと思われる装備やアイテムだったが、残りの1通はちょっと変わっていた。

かなり丁寧な文面で、自分が鍛冶屋をしている事、交換する物の説明が難しいので直接会って話したいとの旨が書かれていた。

生産系で何故”アレ”が必要なのか不思議に思ったが、ここまで丁寧なお願いを無下に断るのは失礼だし、説明が難しいという交換する物にも興味があり、とりあえず会う事にした。

待ち合わせ場所は、街の南側にある広場の噴水前にあるベンチだった。

アルは俺の隣りに座り、例のドリンクショップで買った飲み物を味わう様にちびちび飲んでいる。

ちなみに、今飲んでいるのは【ウンディーネの憂鬱】だ。

ドリンクショップに行く度にサラマンダーの怒りを勧めているのだが、毎回きっぱりと断られている。



―――――



「シュウさんですか?」


「はい、そうです。【カナタ】さんですね」


「ええ。無理を聞いていただき、申し訳ありません」


取引相手のカナタさんは、30代後半くらいの真面目そうなおじさんだった。

チビな俺からすると、ものすごく羨ましい長身で、若干痩せ気味である。


「いえ。あ、え〜と。ゲームの中ですし、お、いや、僕の方が年下ですので、楽な話し方でいいですよ」


「そうかい? 偶にマナーに五月蝿い人がいるからね。初対面では、出来るだけ敬語を使う事にしてるんだよ」


そういうのがあるから、面倒になってソロが多いんだけど。

ごめんなさい。嘘です。口下手で人見知りだから、ソロオンリーなんです。


「確かに、そういうの厳しい人がいますね」


「押し付けられるのは困るよね。ああ、シュウ君も楽な話し方でいいよ」


「助かります。隣りに座ってるのは、使い魔のアルです」


無難に自己紹介を済ます。

アルは飲み物に気が向いていて、今頃カナタさんに気付いたのか、目をぱちくりさせている。


「アルちゃんでいいかな? カナタといいます。よろしくね」


「はい。アルルーナです。好きな様に呼んで下さい。カナタ」


「行き成り呼び捨てかよ!」


ぺちんっと、反射的にツッコミを入れる。

叩き易そうな位置に頭を向けていたアルは、上手くいったとばかりにニヤリと笑う。


「ぬぅ」


この3日、敢えてスルーをし続けてたのに、まずったな。

第3者がいる事で緊張が解け、気を抜いてしまったせいだろう。

金ぴか君イベント以来の敗北感を味わう。


「クックック。あ、ああ。いいんだよ。シュウ君」


「そうですか? すいません、なんか変な風に学習しているみたいで」


「しかし、使い魔だったかな? はじめて見たよ。cβの時は、まだ実装されてなかったから、残念だったんだけど」


ん? cβの時?


「カナタさんって、テスターだったんですか?」


「そうだよ。だから、シュウ君のアイテムがどうしても欲しくってね」


「どういう事ですか?」


「実は、鍛冶屋で必要な鉱石を掘る時にクリティカルが出ると、偶にだけどレアな鉱石が出て来たりするんだ」


初耳である。

多少興味があったので、情報は漁っていたがそんな情報は出ていなかった。


「えっ? でも、cβの時の情報には目を通してますが、そんな事出て無かったですよ」


「ああ。テスターの鍛冶屋は大体50人くらいでね。その中でも、熱心に情報収集してた鍛冶屋は20人程だったんだよ。で、話し合ってこの事は隠匿する事にしたんだ」


まあ、無い話じゃない。

どんな情報でも、何かを切っ掛けにお宝になる可能性がある。

この情報も、クリティカルなんて狙って出来ないから、一見意味の無い情報に思えるが、今回の取引アイテムである腕輪の存在が出た事で、一気に有益な情報になったわけだ。

あのイベントは、cβの時にはなかったから、腕輪の事は誰も知らなかった。

だから、新規プレイヤーがクリティカルの秘密に気付く前に間に合って、運がよかったとも言えるけど。


「でも、他のメールの人って赤ポや要らなくなった物とか、どうしても欲しいって感じがしなかったんですけど」


「それは……多分、戦闘系のテスターか新規の人だと思うよ。まあ、あわよくばと思って送った鍛冶屋もいたかもしれないけどね」


ふむ。ダメ元か。


「ただ、他の鍛冶屋と話した感じだと、下手に価値を知っていたせいで、交換する物を用意出来ないから、諦めたって雰囲気だったよ」


なるほどね。

だが、余計にカナタさんの交換する物が気になるな。

ここまで腕輪の価値を話しておいて、つまらない物を出して来るとは思えないが。


「この情報って言わなかった方が、取引しやすかったんじゃないですか?」


「ん〜、まあ、そうなんだけどね。後で、この事知って騙されたって思われたくないし」


「ならいいんですけど。じゃあ、見せてもらえますか?」


「これだよ」


と言って鞄からある物を取出した。

ショートソード? なんで?


「ショートソードですよね? ひょっとして、情報とショートソード合わせてって事ですか? だったら」


「ああ、違う違う。これを出したのは、今からする説明をわかりやすくする為だよ」


「???」


説明ねぇ。まあ、自信あるみたいだから聞いてみるか。

気に食わなかったら、断ればいいんだし。

先に情報を出してもらってるので、無下にしにくい。


「どういう事です?」


「まず、このショートソードだけど、これは僕が造ったやつでね。君が持っているのと攻撃力を比べて見てくれないか」


「じゃあ、ちょっと貸してもらいますよ」


どういう事だろう?

あれ? カナタさんの剣の方が攻撃力と耐久度が高い。


「3高いですね。攻撃力と耐久度が」


「熟練度にもよるけど、同じ素材で同じ武器なら、基本的にプレイヤーの造った装備の方が、効果は高いんだ」


まあ、大抵のゲームではそうなってるな。

偶に化け物みたいなドロップ品もあるけど。


「で、とりあえず、このショートソードは手付として受けとって欲しい」


「手付ですか?」


「ああ。そして、良い鉱石が手に入ったら、優先して君の武器を作る事を約束する。ただ、その時はお金を払ってもらうけどね」


テスターの鍛冶屋なら、少なくても新規に任せるよりはいいだろう。

それに、今回の取引にしても頭の回転もいいみたいだ。

こういう人は、味方にしておいた方が得策だと思う。


「専属鍛冶屋みたいなものですか?」


「そうそう。他にお得意さんがいるけど、優先するって約束は守るよ」


こっちに有利過ぎる条件の様な気もするけど、それだけ腕輪に価値があると判断しているんだろう。

しかし、出し辛いな。

あの見た目だと、話しを無かった事にされそうで怖いな。


「で、どうかな?」


「あ。いえ、取引条件としては申し分無いんですけど、逆にこっちが出し辛いなって思ったんです」


「どういう事だい? もしかして、あのアイテム自体ガセだったなんて事じゃ」


ああ、勘違いしてるな。正直に話した方がいいか。

嘘を付いた訳じゃないんだし。


「いやいや。違いますよ。書き込んでいた通りの装備効果なんですけど」


「なんですけど?」


「見た目がちょっとアレなんですよ」


と、腕輪を出す。


「こっ、これは!? 確かに、出すのを躊躇うのがわかる気がするよ」


予想通りの反応である。

AIにまで嫌われた腕輪だもんな。


「この腕輪でいいですか? こちらとしては、先程の条件なら取引OKですけど」


「ちょっと見た目に吃驚したけど、効果があるのなら気にしないことにするよ」


「じゃあ」


「ああ。交渉成立だ」


やった〜! やっと腕輪とおさらば出来……じゃなくて。

腕が良いかは判らないけど、専属鍛冶屋ゲットである。


「ありがとうございました」


「こちらこそありがとう。無理を聞いてくれて」



―――――



あの後、カナタさんはフレンドリストに登録し帰って行った。

早速、街の南東にある鉱山に向かうそうだ。

全く会話に加わらず、静かだなと思っていたアルは、ぐっすりと寝ていた。

幸せそうな寝顔を見ていると、起こすのが可哀想だったので、起きるまで待つ事にする。



―――――



3時間後、全く起きる気配が無い。

いい加減起こすかと思った時、気付いてしまった。


「薄目開けてるの見えてるぞ」


「………!?」


「狸寝入りかよっ!」


ぺちんっ! にやり



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv10 HP:377 SP:75


STR:65 VIT:80 INT:86 DEX:25 AGI:33


攻撃力:38 魔法攻撃力:46 防御力:65 魔法防御力:55 敏捷度:27


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


愛情度:432 [相方かな?]

満腹度:87% [満腹]


備考:

ボケスキルが上がってきたのか、俺のツッコミスキルが上がってしまったのか、ツッコミを我慢できなくなった。

着実に洗脳されている気がする……。



―――――



※1:ドロップ

モンスターを倒す事によってアイテムを入手出来る事。

または、入手できるアイテム自体を指す。

単純に【落とす】とも言う。


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