表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

第6話

あの後、街に着いてからアルに飲み物を買ってあげ、ホームポイントに戻ってログアウトした。

やはり、精神的な疲れは意識がある状態だと、なかなか回復しないと思う。

ゲームをして精神的に疲労するのは、どう考えても本末転倒だろう。

そして、【Ark】の中でそのまま寝たのである。



―――――



「ふぁ〜あ」


昨日は結局ほぼ1日中寝ていた為、逆に身体がだるい気がする。

まあ、今日も1日ゲームをするのは決定事項だが。


「なんか新しい情報あるかな?」


某大規模掲示板を見てみると、金ぴか君の事が書き込まれていた。

いや、それはいいのだ。それはいいのだが。


「いやいや。勝てないってどういうことよ!?」


イベントのフラグ自体は簡単な物で『ゴブリンを規定数以上倒す』だけらしい。

その情報が書き込まれた後、それを見た結構な人数のプレイヤーが挑んだらしいが、物の見事に砕け散ったっぽい。

確かに普通のゴブリンよりもかなり素早かったが。

あ、アレが原因か。

異常なHP量とHP0になっても何故か死なないという理不尽。

じゃあ、あの悪趣味な腕輪って結構なレアになるのかな?

金ぴかを楽に倒せるくらい、全体のレベルが上がるまでだろうけど。


「う〜ん。どうしよ? 早い内に腕輪の事書き込んで、何かと取引しようかな?」


もちろん、ここではなく公式HPの取引掲示板でだ。

多少の冷やかしはあるだろうが、流石に詐欺や嫌がらせなどはしないだろう。

という訳で、アイテム情報と同等の物との交換を望む旨を書き込む。


「メールお願いねっと。これでよし」


最後に、希望者は交換する物の情報をゲーム内でメールしてくれるよう追記した。



ちなみに、書き込んだのはアイテム名と効果だけだ。

決して、あの見た目について書けば、交換してくれる物のランクが下がりそうだ等とは思ってはいない。



―――――



「おはよ」


「おはよう、四季」


「アニキ、おはよ〜」


「遅いわね。夏休みだからってだらだらしない!」


う〜む。何故か姉さんかあさんがお怒りモードである。

チラリと親父を見てみると、何気なく新聞を読んでいる様に見えるが、こめかみから流れた汗を見逃さない。

新聞逆さだし。


「ごめん、姉さん。で、親父。何をやったんだ?」


「なっ、何を言ってるんだ。四季。お、お父さんが浮気なんてする筈ないじゃないか!」


「「「………………」」」


いや。流石にその自爆っぷりは人としてどうかと思うよ。

しかし、浮気? この変人が?

そんな物好きが母さん以外にいるとは思えないが。


「しぃきぃ?」


「申し訳ありません、お姉様」


心の声でもダメなのか? というか、どうやって心を読んだんだ?

若干の動揺を、両親の異常っぷりはいつもの事かと無理やり鎮める。


「で、どこの誰と浮気したんだ?」


「お隣りさんだって」


妹よ、それは本当か!?

あのご近所のアイドルでもある涼子さんが、親父の毒牙にかかるなんて、ジーザス。

砕け散った俺の初恋。

斯くなる上は、


「聞いてよ、四季。この人ったら今朝早く、一緒に散歩してたのよ!」


「いや。だから、お隣りさんに頼まれて散歩しただけだって」


「言い訳なんて聞きたくないわ!」


ん? 頼まれて散歩?

非常に気になるキーワードだ。

我関せずな妹に聞いてみる事にする。


「誰と散歩したんだって?」


「お隣りのマロンパピヨンよ」


どうせそんなオチだろうと思ったよ!



―――――



仕様もない夫婦喧嘩は放っておいて、さっさを朝食を済ませて部屋に戻る。

今日は、ゴブリンのみというのも飽きたので、街の近くを散策しようかと思う。

決して”アレ”に遭いたくないからではない、と思う。


「ふむふむ」


ゴブリンしかいない北の草原とは違い、街周辺は数種類のMobがいるみたいだ。

攻撃方法と注意点を出来るだけ記憶してからログインする。



―――――



ログインして、最初に目に飛び込んできたモノは、


「アル、何してるんだ?」


「イ、イエ。ナニモシテマセンヨ?」


鏡に向かって百面相しているアルの姿だった。

無表情なのを気にしていたのか。

鏡に映ったアルの笑顔に、不覚にもときめいてしまったのは秘密である。


「え〜と。今日は、街の周りを探索するつもりなんだ。昨日と違って色んなMobが出て来るから、気を付けてね」


「わかりました」


じゃあ、行くべと思ったが、


「ありゃ? もうメールが着てる」


メール着信のシグナルが点灯していた。

2件の着信があったが、


「赤ポ10個と【ショートパイク】? ああ。槍か」


赤ポは論外として、槍も多分買い換えて不要になった奴だろう。武器屋で見た気がする。

断りのメールを送り、今度こそホームポイントから出る。



―――――



「ウップ。グロッ過ぎぃ」


「シュウ?」


現実の人間の姿を外装に出来るくらいだから、【幻夢】のグラフィックはかなり本物に近い。

そのせいで、初戦のゴブリンにやられそうになったのだが、すっかり忘れてたようだ。

何が言いたいかというと、


「食後に【ゾンビ】はきついだろ」


って事である。

ログイン前に見たMob情報が思い出される。


注意点:外見 悪臭


って、どう注意すれば良いんだよ!?


「アル。自由に攻撃してくれ」


「わかりました」


仕様がなく普通に戦う事にする。


『オオオォーッ!』


叫び声を上げ、ゾンビが突進してくる。

攻撃方法は体当たりと掴んでの噛みつきだけだった筈だ。


「よっと」


ドタドタとした突進を避けた時、


「えい!」


アルの声と共にピシッ!デッ!っという音がした。

背後から攻撃しようと透かさず振り向くが、肝心のゾンビがいない。


「あら?」


周りを見渡すがそれらしい影もない。

アルが何らかの攻撃で倒したのかと若干気を抜く。


「シュウ。逃げてください!!」


「へっ?」


『オゥオァー』


「うげっ、離せ! このっ!」


突然、足元から現れたゾンビにしがみ付かれる。

うがぁ! ネトネトして気持ち悪いし、クセエ!

なにより、Mobとはいえ、男に抱き疲れるのが耐えられん!


『ウゥオァオァーッ』


「って、いい加減に離れんか!!」


顔面に剣を突き刺し、力任せに蹴り飛ばす。

アルも根っこで引っ張ってくれた様で、簡単に引き剥がせた。


「このっ! このっ! このっ!」


両手の剣を振り回し、滅多斬りにする。

アルも気を利かせてくれたのか、根っこでゾンビの両手を吊り上げ、襲い掛かって来ようとするのを阻止してくれた。


「クレセントッ!!」


『オゥオォォ』


ゾンビが断末魔の叫びを上げ、消えていった。



―――――



「なあ、アル?」


「何ですか?」


「ゾンビが俺にしがみ付いて来る直前、姿が見えなかったんだが、どうなってたんだ?」


「転んでました」


「へっ?」


「シュウの足元でうつぶせに倒れてました」


「………」


つまりこういう事か?

俺がゾンビの突進を横に避けて、背後から攻撃しようと振り向こうとした時にアルの攻撃で転んだ。

ん? あの”デッ!”か? あの”デッ!”なのか??

まさに灯台下暗し!! とでも言えばいいのか!?


「そ、そうか」


「どうかしましたか?」


「いや。何でもないんだ。何でもないんだよ。アル」


アルに”自由”に攻撃してくれと指示したのは俺だ。

恐らく、ゴブリンとの戦闘で多用したコードαから、転ばすのが戦闘手段として有用だと学習し、ゾンビの足を根っこで払ったのだろう。

その攻撃のタイミングが悪かったからと言って、アルに対して文句を言える筈もない。

足を引っ張って転ばすなんて事をアルに覚えさせたのは、自分なんだから自業自得なのだ。



―――――



ゾンビにしがみ付かれたせいで悪臭が漂っていたが、2,3分すると防具等に付いた汚れごと消えてくれた。

ちなみに、悪臭が消えるまでアルが若干距離を取っていたのは、気のせいだと思いたい。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv6 HP:265 SP:55


STR:41 VIT:46 INT:51 DEX:17 AGI:21


攻撃力:24 魔法攻撃力:27 防御力:36 魔法防御力:38 敏捷度:23


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


愛情度:272 [相方候補]

満腹度:98% [満腹]


備考:

ゾンビと戦った後は、毎回、臭いが無くなるまで距離を取る。

俺でもそうするだろうが……すごく切ない気分になる……。



―――――



※1:レア

レアアイテム。

Mobから稀にしかドロップしない物、難易度の高いクエストの報酬など、通常ではなかなか手に入らないアイテムのこと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ