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第5話

夜空に輝く満天の星を見上げる。

こんなに美しい星空を見ていると、自分が如何にちっぽけな存在なのかを痛感させられる。

日々の生活に追われ、夜空の星を見るゆとりすら忘れてしまっていたなんて。


「アル。星が綺麗だね」


傍らに佇んでいる、自分にとって掛け替えのない存在に声をかける。

出会ってから僅かな時間しか経っていないのに、彼女と一緒に居るだけですごく幸せな気分にさせられる。

彼女は私の顔を見上げ、


「シュウ。囲まれていますが、どうしますか?」


あっさりと現実逃避から目を覚ましてくれましたよっと。



―――――



現実とは違い、【ノア】は漸く夕暮れの時刻だ。

夕飯前と同じようにゴブリンを狩っていく。

1、2匹ずつの処理能力なので、それ程は効率が良くない。


「よいせっと!」


『ゴギェアァァ』


「ほいっと!」


『ゲギョグゥゥ』


「跪きなさいっ!!」


『ゲヘヘヘヘ』


「こなくそ!」


『ギョグウゥゥ』


なんか、若干不穏当な発言があったような気がしたが、スルーしておく。

キィーンという効果音と共に、技を習得した事を伝えるシステムメッセージが流れる。


「おっ、やっと技の登場か」


【片手剣】のスキル熟練度が100になり、やっと技を習得できた。


《クレセント》

斬り上げから斬り降ろしにつなげる基本技。

スキル熟練度に応じて攻撃回数が増加。


「ふむん?」


どうにも文字だけではイメージが掴めない。

実際に使ってみるか。


「アル」


「………」


ん? 聞こえなかったのかな?


「アル?」


「は、はい。なんですか? シュウ」


ツッコミ待ちだったのか。

狩りの相棒として特に不満はないのだが、やたらとファジーな思考に付いていけない部分がある。


「いや。覚えた技を試してみたいから、次のは手を出さないで見ててくれ」


「わかりました」


とは言ったものの、1人で戦うのは初戦以来である。

多少緊張しながら手近のゴブリンに向かう。

うまく気付かれずに背後から近付けたので、技を使おうとしたのだが、


「………」


あれ? 技が出ない。


「………」


やっぱり出ないな。

嫌な予感がするが、あれか? あれなのか?


「クレセントッ!!」


おおっ! グンッと若干身体が引っ張られ、自分が動かすだけよりも速く滑べらかに動く。

システムのアシストに乗るように、居合いの様な姿勢から逆袈裟に斬り上げ、来た道を戻るように斬り降ろす。


『ギョグエアァァ』


癖になりそうな快感を感じる。

1人ではゴブリン相手にすらあたふたしていた自分が、急に一端の剣士にでもなった気がしてくる。

それに魔法にはない爽快感がある。

しかし、


「選りによって音声入力かよ。今時、戦隊ヒーローじゃあるまいし」


というのが、ネックである。

考えてみて欲しい。ゲームの中とはいえ、現実の姿なのだ。

いい年した大人ではないが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

どおりでcβの時から、技についての詳細情報がなかった筈だ。

もう1つ、予想では勝手に身体が技の動きをするのかと思っていた。

だけど実際は、ある程度の動きはシステムが制御してくれるが、動かすのは自分の様だ。

まあ、技を使わずに自分だけで動きを再現するよりも、よっぽど動きが速く、ダメージが高くなるらしい――ゴブリン相手なので実感はないが、見付けた少ない情報の中にそう載っていた――ので嬉しいが……。

と、


「………」


いつのまにか傍までアルが来ていた。

な、何故だ!?

アルの視線から敬意の念を感じる。

小学生高学年の女子が、くだらない事で笑っているクラスの男子を見るかの様な視線を、向けられると思ったのに。



―――――



アルの期待の視線に後押しされる形で、コードαを封印しゴブリンを狩ることになった。


「クレセントッ!」


『ギョグアァァ』


1つ!


「クレセントッ!!」


『ガァァァァッァァ』


2つ!!


「クレセントーッ!!!」


『ギョエェゥェェェ』


3つ!!!

すでに、恥ずかしさなど忘却の彼方である。

というのも、何気に楽しくなってしまったのだ。

アルはというと、態とじゃないと思いたいが、倒そうとせず足止めに専念している。


「そろそろ戻ろ」


何時の間にか辺りは暗くなっていた。

予想以上に乗りに乗っていたようだ……調子に。

敵を求める余りどんどん移動していた為、周りにプレイヤーの姿はない。

それどころか、派手に声を上げていたせいで、近くにいたゴブリンを一気に集めてしまったようだ。

という経緯で、冒頭の部分につながるんだけど。



―――――



何故か襲ってこず、一定距離を保って周りに集まっている。

総攻撃でもするつもりだろうか?


「シュウ。どうしますか?」


再度のアルの問いかけ。

が、これといって打開策が在る筈もない。

しかし、一応だが、主人としての見栄がある為、


「左の方が若干手薄だから、一気に突破しよう。止めは刺さなくていいから、近づかせないよう気を付けて」


「わかりました」


特攻を敢行することにした。

覚悟を決め、突っ込もうとした時、


『ゲギョギョギョ!!!』


ゴブリンの怒鳴り声のようなものが聞こえた。


「ん?」


「行きますか?」


「いや、様子がおかしい。ちょっと待って」


前方のゴブリンが左右に分かれる。

そして、やたらとピカピカした光源が近づいて来た。


「あれ何かわかるか?」


「いえ。ただ、あれが品位に欠けているのはわかります」


2m程前で立ち止まった”ソレ”は、金ぴかのゴブリンだった。

肌の色から手にしている短剣、装飾品まで金ぴかなのだ。

イベントモンスターなのだろうが、何故かあまり喜べない。


『ギャギャギャ。ヨクモオレサマノテシタヲタクサンタオシテクレタナ』


「話せるのか!?」


ちょい吃驚である。

知性の感じられない見た目に反して、言葉を解するとは。

そんな事を考えている間にも、何やらぶつぶつ能書きを垂れている。

当然無視であるが。


『ヨッテ、オレサマミズカラアイテヲシテヤロウ』


「いや、何がどうなってそうなったんだ?」


「シュウ。どんなお馬鹿が相手でも、話はちゃんと聞くものです」


クッ! 口惜しいが正論である。


「悪かったな。アル」


「いえ。次から気を付けていただければ結構ですので、気にしないで下さい」


『アヤマルアイテガチガウダロ!!』


「「…………!!!!!」」


精神系の攻撃か!?

心のどこかを貫かれたような気がする。

まさか、ツッコミスキルを習得しているとは!? 侮れない奴だ。



―――――



『ヨッテ、オレサマミズカラアイテヲシテヤロウ』


「望む所だ!」


「受けて立ちます!」


何とか仕切りなおして、場の空気を守り立てる。

どうやら、金ぴか君を倒せばいいだけらしい。

周りのゴブリン全部を相手にする事を考えれば楽なものだ。


「アル。コードαだ」


「はい」


見た目から、普通のゴブリンとの違いが見つからず、攻撃方法も同じだろうと必勝の策を用いる。

ただ、相手が言葉を話す事から、念の為金ぴか君に聞こえないよう小声で話す。

そして、少しでも注意を引く為に、地面を蹴って音を立てると、


『ギョギョギョ!』


あっさりと、こちらに突っ込んできた。


「のわっ!」


思っていた以上に、普通のゴブリンよりステータスが高かったようだ。

普通のゴブリンとは段違いの速さで襲いかかって来る。


「ちょっ! まっ! って! って!」


短剣一本での攻撃を両手の二本の剣で弾くのが精一杯である。

普通のゴブリンなら、1パターンの斬り降ろししかして来ないのに、むかつくくらい高性能な奴だ。

アルはまだかと、若干の苛立ちを覚えた時、


『ヘブチッ!』


チャンス到来である。

透かさず、両手を踏みしめる。


「クックックック」


『ア、アノ〜?』


「ん? 何だ?」


『アシヲドケテホシイノデスガ』


金ぴか君が、卑屈な感じで懇願をする。


「ん〜〜〜ん。……却下」


勿論、そんな意見は却下である。

というか、まともに戦えば負ける事確実だし。


「アル。根っこはしっかり足に巻きつけておけよ」


「らじゃ」


っ!? いや、今は止めておこう。

いつもであれば、転ばせるまでがアルの仕事なのだが、足をフリーにすると力任せに逃げられるので、倒すまでは掴んでいてもらうことにする。


「ではっ!!」



―――――



10分後、


「まだかよ」


金ぴか君は未だに存命である。


『イタイッテ』


いい加減にして欲しいものだ。


『ニョヘー』


面倒くさい。


『ニュホホ』


……。


『ムニュウ』


……。


『ヘバイドブ』


金ぴか君のHPバーは、いつのまにか0になっている。

本来なら、消えていく筈なのだが、全くその気配がない。


「おい!」


『モベイボ』


「おい!!!」


『マニュノ、ン? ナニ?』


「いや、遊んでるだろ?」


『ソ、ソンナコトハナイデスヨ』


あからさまに目を逸らすな! てか、アルは足から根っこ外してるじゃないか!?

体育座りをして、ぼーっとこちらを見ているし。


「早く死ね」


『ヘッ?』


「早く!」


『ハ、ハイ。ギョブロォォォ』


ナニか拙いものを感じ取ったのか、急に素直になってくれた。

びくんと、一瞬硬直し消えて……いかない。

貴様っ!とばかりに剣を振り下ろすが、


「あら?」


今度は刺さらない。


『エット。イベントヲススメタイノデ、テヲジユウニシテクレマセンカ?』


「ああ」


釈然としない物を感じたが、一応従う。

まさか、「ウソニキマッテルダロ。バカメッ!」って攻撃して来ないだろうな?

さ、流石に、そこまで理不尽じゃないか。


「アル。こっちに来て」


「はーい」


どこか、やれやれと言った感じでこちらに来た。

いやいや。お前はこっち側だろっ!



―――――



『ヨクゾオレサマヲタオシタ。キサマタチノケントウヲタタエテ、コレヲクレテヤロウ。アリガタクチョウダイシロ』


と、身に付けていた腕輪をこちらに投げる。


【ゴブリンロードの腕輪】[防御力+1 クリティカル率上昇]

金メッキが施された悪趣味な腕輪。


『デハ、サラバダ』


その一言を合図にしてか消えていく。

周りにいたゴブリン達も方方に散って行った。


「………」


何故だろう? 勝った筈なのにどこか敗北感がある。

途中までは良かったんだ。

見た目はアレだが強敵との戦い。

ちょっと卑怯だったが、作戦を立てて辛くも勝利を収める。

あれか! コードαがよくなかったのか?

もっと、誰かを壁役にしてとか?

それとも正統派っぽいのがよかったのか?


「シュウ。1つお聞きしたいのですが」


「ん? どうした?」


「ソレ装備するのですか?」


「ソレ?」


アルの視線を辿ると、手の中にある悪趣味な腕輪に行き着いた。

こ、これを俺が装備するのか?

クリティカル率上昇は魅力的だが、こんな物を装備するのは己のアイデンティティー崩壊を意味する。


「アルが付け「嫌です!」そ、そうか」


う〜む。AIすら拒絶するとは、なんという凶悪な腕輪なんだ。

是非ともこの場に捨てて行きたかったが、取引に使えるかもしれないので取っておく事にする。


「なんか、疲れたから街に戻ろうか?」


「そうですね」


ログイン中は身体が睡眠状態にあり、休息は必要ない筈なのだが、精神的なものまでは癒してくれないようだ。


「よし! 街に戻ろう」



―――――



街に帰る途中、ふと疑問に思ったのだが、金ぴかもアルもAIにしてはかなり思考が人間くさい。

もしかしたら、AIじゃなくプレイヤーの様に中に人間がいるんじゃないか、という怖い結論に達したが、自身の為に即座に却下した。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv6 HP:265 SP:55


STR:41 VIT:46 INT:51 DEX:17 AGI:21


攻撃力:24 魔法攻撃力:27 防御力:36 魔法防御力:38 敏捷度:23


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


愛情度:277 [相方候補]

満腹度:93% [満腹]


備考:

思考に謎な部分が多い。

使い魔は基本忠実な筈だが、簡単にNoと言う。

やはり、プログラミングした奴は病院に行くべきだと、改めて思った。


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