表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第4話

夕飯と風呂を手早く済ませて、新情報はないかと攻略サイトと掲示板を覗いてみる。

これといってめぼしい物はなく、使い魔関連の情報も有益な物はなかった。

目撃情報は多数あるが、正確な入手方法の情報はまだ出ていない。

度々入手方法が書き込まれるのだが、しばらくするとガセだったとの書き込みが連投されている。

まあ、俺が書き込めばいいのだけど、本人が特定されそうな書き込みは、後々煩わしい事になるのは確実なので御免蒙る。

それに、この手のゲームでは情報こそがもっとも貴重なアイテムだと言える。

運良く手に入れたそれをロハで提供するほどお人好しではない。

なんて、かっこよく言っているが、本当は書き込みをした事が無いので踏ん切りがつかないだけである。


「本当に情報が欲しかったら、ゲームの中で直接聞いて来るだろうし。まあ、いいか」


無駄な事に時間を使うのは止めて、さっさとログインすることにする。



―――――



「ふぅ、こっちの方が身体が軽く感じるな」


ここはホームポイントだ。

ログイン、ログアウトを安全に出来る所で、死亡した時に帰還される場所でもある。

ログアウトはフィールド上でも出来るのだが、10分程プレイヤーが無防備な状態で残ってしまう。

その間にPKやMobに殺されてもデスペナが発生するので、出来るだけホームポイントでログアウトした方がいいのである。


「………」


無言と視線が痛い。

一応挨拶しておいた方がいいかも。


「お待たせ。アル」


「ううん。私も今来た所だから気にしないで」


「………」


こっ、これはツッコミを入れた方がいいのだろうか?

若干頭を差し出した様に見えたのは、ツッコミ待ちか? ツッコミ待ちなのか?

間違っていた場合、愛情度が下がる可能性もあるが、ツッコミ待ちだった場合、スルーしたら可哀想だ。

一か八かだが、ツッコミ待ちの方に賭けてみる!!


「彼女かっ!!」


「………」


外してしまったようだ。

「どこからだよっ!!」の方が良かったか?

悩んでいた分、ツッコミが遅れたのが良くなかったのかもしれない。

やっぱり、人間慣れない事はするべきじゃない。

いや、俺が悪いんじゃない!

よく考えれば、こんなふざけたAIをプログラムした”親父”が悪いんだ!!

すでに脳の中では『開発チーム=変人=親父 即ち 開発チーム=親父』との式が成り立っていた。

そんな事を考えていると、くいくいっとズボンを引っ張られる。


「ん?」


と視線を向けると、そこには、


「………」


親指を立てた無表情のアルが居た。



―――――



すでに心身ともに疲労のピークに達した気がするが、街中をぶらぶら見回る事にする。


「アル。情報収集がてら街の中をぶらつこうと思うんだけど、ここで待ってるか?」


「いえ、シュウと一緒に行きます」


「そっか。んじゃ、迷子にならないようにな」


「はい」


ドアを開けて外に出る。



―――――



まだまだ、プレイヤーの開く露天の数は少ない。

出してる商品も、スモールポーションやクエストアイテムの肉と毛皮くらいしかない。

遠目なのではっきりと値段は見えないが、余り儲けが出るとは思えない。

恐らく、ユリルを得る為というより、会話の切っ掛けが欲しくて露天しているのだろう。

商品を買った人と軽く雑談している姿が、そこそこ見受けられる。

う〜む、社交性のある人はいいな。

ああして、情報や仲間を得られるのはこの手のゲームで重要な才能である。

孤高を気取ってか、敢えてソロプレイを楽しむ人もいるが、会話の切っ掛けが掴めずソロプレイをしている人もいると思う。

かくいう俺も、会話スキルの低さからソロが多かったりする。

そんな事を考えていると、


「屋台か」


NPCの店の方まで来てしまった。

串焼きのような物が売られているが、現実で夕飯を食べたせいか、それ程食欲が沸かない。

飽く迄もデータ上の物なので太ったりする心配がなく、ダイエットにはいいかもしれない。

まあ、はっきり言ってダイエットに縁遠い身体だし、資金不足になりがちな序盤は、唯でさえ少ない資金を娯楽に投入するのは憚られる。

収穫は全くなかったが、気分転換にはなったと思う。

また、狩りに行くかな。


「アル、そろそろ狩りに行こうか?」


「………」


返事がない。ただの屍のよ……じゃなく。

じっと何かを見ている。


「どうかしたか?」


「いえ」


そう言われても気になり、先程見ていた方向を見てみる。

なるほどね。そういう事か。

そこには、NPCの経営する飲み物屋の屋台が在った。

そういえば餌をやってなかったと思い、若干気まずい思いがしてくる。


「あ〜、なんか喉が乾いたな〜」


「………っ!?」


正直、自分でも白々しいと思ったが、屋台に向かう。

お酒類はなかったが、結構色々な種類が用意されている。


『いらっしゃいませ』


「えっと、俺は、【サラマンダーの怒り】を1つ下さい。アルはどれ「【ドライアードの喜び】を1つ!!!」を下さい」


またなんか変なスイッチでも入ったのか。

アルの方を見てみると、いつもの無表情が嘘の様に崩れていた。

NPCの店員がコップに注いでいる作業を、一心不乱に見つめている。

「もう、普段家で何も食べさせてないみたいじゃない」と、母親っぽいツッコミを入れたくなる。


『はい、お待ちどうさまです。2つで、80ユリルになります』


「はい。これ」


『ありがとうございます。また来てくださいね』


この萌え……燃え盛る炎の様な緋色のが俺のだろう。

萌黄色の方をアルに渡す。


「はい。落とさないようにね」


「ありがとう、シュウ。貴方に心からの感謝を」


「あ、ああ」


そこまでのことか? そこまでのことなのか??

小1時間程問い詰めたい気がするが、喜んでくれたので良しとしよう。

コクコクと、至福の表情で飲む姿に不思議な昂ぶりを覚えるが、人間失格のような気がして目を逸らす。


「俺も飲むか」


と、ベリー系の甘酸っぱい味を期待して、飲んでみる。

ん? このまったりとして、それでいてしつこい、不快感を催し味覚を破壊するかのような辛味。


「ぐふぉ!!」


喉が焼けるように痛く、息が出来ない。

クッ!? 無差別殺人か!?

それとも、分不相応な使い魔を得たことにより、暗殺者を差し向けられたか!?


「シュウ」


「………」


「シュウ」


アルの呼び掛けが、失いそうな意識を繋ぎ止める。


「……ぐ……な、なんだ?」


「それ。使い魔用の飲み物」


「え?」


「だから、使い魔用の飲み物」


「な、なんだって〜〜!!!!」



―――――



思いも寄らぬアクシデントには遭ったが、気を取り直して赤ポの補充と新しい装備を購入する。

しかし、アルよ。

出来れば飲む前、いや、購入前に言って欲しかったよ。

あそこが使い魔用ドリンクショップだと……。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv3 HP:178 SP:39


STR:19 VIT:21 INT:25 DEX:8 AGI:11


攻撃力:21 魔法攻撃力:17 防御力:31 魔法防御力:22 敏捷度:14


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


愛情度:216 [相方候補]

満腹度:120% [かなり満腹]


備考:

何故かツッコミをさせようとボケる事がある。

それと若干天然っぽい。



―――――



※1:PK

【Pleyer Kill】、【Player Killer】の略。

他のプレイヤーに対して攻撃を行い殺害する事、またはその行為を行う人の事。


※2:デスペナ

【デスペナルティー】の略。

死亡時に与えられるペナルティー。

経験値を失ったり、アイテムを落としたり、所持金の減額などが行われる。


※3:ソロ

パーティを組まず、一人でプレイすること。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ