第3話
「アル、コードαだっ!!」
襲いかかってくるゴブリンから視線を逸らさず指示を出し、力任せに斬りつけて来た短剣を左の剣で弾く。
短剣を弾かれよろけた所に、アルの手の平から伸びた鞭の様な根っこが足を絡め取り、うつ伏せに転ばせる。
すかさず、ゴブリンの両手を踏みつけ、背中を両手の剣で突き刺す。
『ギョグアァァ』
消え入るような声を最後に、ゴブリンが消えていく。
「う〜む。楽なのはいいんだけど、なんか物足りない気がする」
「???」
この戦法で倒したゴブリンはすでに30を数える。
戦法といっても、自分が注意を引き付けている間に、ターゲットの後ろに移動したアルが、根っこ鞭を使い転ばせるだけの単純なものだ。
何故こうなったかというと、以下の通りである。
―――――
最初は、雑魚の代名詞でもあるゴブリンくらい、自分もアルも楽に倒せるだろうと思っていた。
とりあえず、自分1人で1匹倒してみようと思い、アルに手を出さない様に指示する。
「アル、ちょっと1人で戦ってみるから、手を出さないで見ててね」
「わかりました」
アルの了承を得て、一番近くに居たゴブリンに向け歩いて行く。
SSで見ていたのと迫力が違うな、妙に生々しいというか、食事中は勘弁して欲しいグロ映像だ。
手に持っている錆びた短剣は、斬られたら破傷風とか起こしそうだし。
若干びびっていると、向こうもこちらに気付いた様で短剣を振り上げ襲い掛かって来た。
『ギェギェゲ』
「うぉっ!?」
軽いパニック状態である。
生粋のゲーヲタである自分が、華麗に攻撃を避けれるはずも無く、あっさりと攻撃を受けてしまった。
「ん? 痛くない……って、ゲームだった」
いかん、いかん。あまりのリアルさに現実と混同してしまった。
今度こそと、落ち着いて短剣を左の剣で弾き、がら空きになった胴を右の剣で薙ぐ。
すぐさま後ろに飛び退き、次の攻撃に備える。
『ゲッゲッゲ』
痛みを感じているのかわからないが、若干苦しそうな顔で再度攻撃してきた。
先程同様に、短剣を弾こうとしたが、
「あら?」
見事に空振りし、無防備な胸の辺りに攻撃を受ける。
どうも目測を誤ったようだ。
『ギョッギョッギョー』
なんか、馬鹿にされている気がそこはかとなくする。
こみあげる怒りを静めながら、今度こそ確実に短剣を弾くと、治まらなかった怒りが宿った一撃が、ゴブリンの身体に吸い込まれるように直撃した。
『ギョグアァァァ』
ゴブリンが動きを止め消えていく。
「ふぅ、終わったか」
安堵の息をつくと共に、雑魚相手にこの体たらくな自分に飽きれてしまう。
戦いに慣れてくればマシになるかなと思い直し、今度はアルに戦わせてみることにする。
離れた所で戦いを見ていたアルを呼ぶと、トテトテと擬音がしそうな走り方で近づいて来た。
「シュウ。大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな。今度はアルに戦って欲しいんだけど、いいか?」
「はい、やってみます」
「あそこに1匹でいる奴と戦ってみてくれ」
「わかりました」
ゴブリンに向けて走っていくアルを見送りながら、どんな戦い方をするのか気になってくる。
”根っこを鞭の様に使い攻撃する”との事だが、それらしい物を持ってない。
万が一のことを考え、何時でも手助け出きる様に近くに行くが、
「………」
えっと、一方的ですか? 女王様ですか?
手の平から伸びた根っこの鞭で、距離を保ちながらピシッ!ピシッ!っと危なげなく戦っている。
これは楽勝というか、俺ってアルより弱い?
頭の中で『アル>>>>俺>ゴブリン』という、嫌な力関係の図式が思い浮かぶ。
主人として情けなく思いながら、もう倒したかな?と目を向けるが、
「ん?」
まだ戦闘は続いていた。
不思議に思いゴブリンのHPバーを見てみると、まだ3分の1くらい残っている。
その時、攻撃が当たった様で、ゴブリンのHPバーが減少する。
20分の1くらい。
そうか、そうだったのか、謎は全て解けた!! 犯人はこの、じゃなくって。
妙に強すぎると思ったが、たまたま戦い方がうまく噛み合っただけのようだ。
まあ、プレイヤーよりも強い使い魔というのは、立場が無くなるので困るけど。
しかし、弱ったな。
俺は、少ない攻撃で倒せるが、戦い自体が危なっかしい。
アルは、被ダメ無しで倒せるが、結構1匹辺りの時間が掛かる。
「シュウ、終わりましたよ」
考えているうちに、ゴブリンを倒した様だ。
「アル、よくやったな」
と花を避けて頭を撫でる。
う〜ん、なんか手触りがいい。
「ありがとうございます」
うっとりとしているかどうかは、その無表情な顔からは読み取れないが、避けないことを考えると嫌がってはいない様だ。
どうでもいいと思っている可能性が高いけど。
その後にアルと話し合い、試行錯誤の末に生み出されたのが、【オペレーションコードα】である。
―――――
43匹目っと。
『ギョグエェェ』
倒すと共に、キィーンと効果音がする。
アルのレベルが上がり、新しいスキルを覚えたらしい。
「《悲鳴》ねぇ」
説明文によると、
【悲鳴】[消費SP5 精神属性]
悲鳴を上げ対象を気絶させる。
ゴブリン相手だと使わなくても十分なのだが、どんなものかは興味がある。
「アル、あそこに居るゴブリンに《悲鳴》だ」
「…………………………!!」
「ん? 何も聞こえないけど、おっ!?」
指定したゴブリンがぱたりと倒れるが、3秒ほどでむくりと起きあがり、こちらに向かって走ってくる。
1パターンだが、コードαで倒す。
それにしても、使い様によっては今までよりも効率よく戦えそうだ。
コードαは1匹で居るゴブリンにしか使えないので、2匹以上固まっているのは避けていたが、【悲鳴】を活用すれば2匹までなら行けるっぽい。
まずは1匹を《悲鳴》で気絶させ、その間にもう1匹をコードα倒す。
そして、起きあがってきた奴にもコードαを使い倒す。
この戦法を【オペレーションコードβ】と名付けることにする。
アルにコードβの事を伝え、2匹いるゴブリンを探していると、ピピッ!ピピッ!とアラームの音がした。
「もうそんな時間か、6時間なんてあっという間だな」
これからという所で、夕飯の時間になってしまった。
狩りの続きは夕飯と風呂を済ませてからやることにして、ログアウトする為に急いで街に戻ることにした。
敢えて触れなかったが、狩りの最中も帰り道もすれ違った人の目付きが怖かった。
原因は、俺の後ろからちょこちょこと付いて来るアルなのだろうが、イジメヨクナイ。
―――――
アルルーナ成長日誌
Lv3 HP:178 SP:39
STR:19 VIT:21 INT:25 DEX:8 AGI:11
攻撃力:21 魔法攻撃力:17 防御力:31 魔法防御力:22 敏捷度:14
【通常攻撃】[消費SP― 無属性]
根っこを鞭のように使い攻撃する。
【悲鳴】[消費SP5 精神属性]
悲鳴を上げ対象を気絶させる。
愛情度:112 [普通]
満腹度:76% [小腹がすいた]
備考:
他の使い魔がどうかは知らないが、かなり優秀。
意思疎通が楽な為、苦手な戦闘を1人よりもとても楽にこなせる。
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※1:SS
スクリーンショットの略。
現在画面に映っている映像を、そのまま静止画像ファイルとして保存する機能を使い、撮られた画像の事。