第21話
雲一つ無い空の下、俺は一体何をしているんだろう。
辺りは、見渡す限り草原が広がっており、所々思い出した様に疎らに木が生えている。
2週間近くも同じ狩り場に来続けているので、本日も代わり映えのしない、いつもの風景の筈なのだが、
「シュウ君、たすけてー!」
「……ヘルプ」
なんでこんな事になったんだろう。
目の前では、2人の女性がライカンスロープ3体を引き連れ、木の周りをグルグルと走り逃げている。
1時間ほど放置すればバターになれそうな勢いだったりするが、決して服を脱いで欲しいなどと思っている訳ではない。
ないはずだ。……多分。
「シュウ、ぼーっと見てないで、ちゃんとフォローしてください! 私だけでは手に余ります」
アルの方を見てみると、ジャイアントフロッグ2体を鞭を使い上手く牽制しながら、2人を追っているライカンスロープに《悲鳴》を使い、逃走を援護している。
相変わらず器用な奴である。
って、のんきに見物している場合じゃなかったな。
「すいません、ミューさん。マチュアさん。今行きます」
半ば無意識で戦っていたジャイアントフロッグにさっさと止めを刺し、2人を助けるべく駆け出す。
しつこい様だが、本当に、なーんでこんな事になったんだろなぁ。
「類は友を呼ぶですよ」
自分もその中に入ってるっていう、自覚はないのか? アルよ。
―――――
ホームポイントから外に出ると、抜けるような青空が目に入って来た。
絶好の狩り日和である。
まあ、現在、天気は晴れしかないのだから、毎日狩り日和なんだけど。
「いつもの場所に行くぞ」
「楽に狩れるのはいいのですが、正直飽き飽きです」
今日もいつもの通り、ストーンゴーレムの狩り場に行くのだが、そろそろ狩り場の適正レベルから外れるので、近々卒業予定である。
しかし、いつも思うのだが、この無駄に広い街は中々に不便だ。
ホームポイントから各門まで行くのに、歩きだと20分近く掛かってしまうのだ。
当然の事だが、その分狩りの時間が減ってしまう。
プレイヤー数を考えると、収容する為にこの広さもしょうがないのかもしれないけど、夏休みが終わりゲーム時間の確保が難しくなるまでには、なんとか改善して欲しいものである。
「物欲しそうに屋台を見ても、何も買わんぞ」
「相変わらずの渋ちんですね」
「悪かったな」
全体的に相場が下がっているので収入が減り、少しでもお金は貯めておきたいのだ。
そうこうしている内に、ようやく西門に着いた。
そして、狩り場に向かう為に西門から出よう、と?
「ふむ、アル君。あの人達は、一体何してるんだと思うかね?」
「さあ? 私に聞かれましても……痴話喧嘩とかじゃないんですか?」
「いや、流石にそれは無いと思うが」
すんなり通過する筈であった西門の所で、女性2人組が何やら怪しげに会話をしている。
まあ、自分には関係のない事だから、素通りすればいいだけの事だ。
念の為に、
「からまれない様に目を合わせるなよ。気配を無にするんだ」
「野生の猿じゃないんですから」
只でさえ、騒がしい身の上なので、これ以上の厄介事は勘弁してもらいたいのだ。
本当に勘弁して欲しかったのだが、
「あっ、そこの君。ちょっといいかな?」
俺じゃないよね? うん。そうに違いない。
若干の希望を胸に辺りを見まわすが、その2人組以外には自分達しかいない。
まるで、おかしな呪いが掛けられてるかの様に、トラブルが沸いてくる。
「そこのキョロキョロしてる君だよ」
と、2人組が近付いてきた。
とんかつ……、もとい、カツアゲじゃないといいなぁ。
我ながら実にさむい。
「えっと、なんでしょう?」
「私はミューって言うの。で、こっちはマチュアね」
と、徐に自己紹介を始めたのだが、どうしろと?
そこで初めて2人の姿を間近で確認する事なった。
ミューさんは、腰まで届きそうな髪を無造作に背中に流していて、特徴的な大きな瞳が少し垂れているからか、どこか優しげな印象である。
一言で言うと、お姉さん? てか、お姉さま?って感じかな。
富の偏在を思わせるその体付きは、いたいけな青少年には目の毒であり、いつかのバトルドレスを着ると同性を除けば、デュエルで敵無しになりそうな勢いだ。
最後に、悲しい事だが、俺よりも頭1つ分背が高かったりする。
「ヨロシク」
続いてもう一人のマチュアさんは、なんと言えばいいだろう?
涼しげな目元といい。無表情なのが、ちょっと怖いかも。
ミューさんと比べると正反対な容姿をしていて、スレンダーな体形に皮装備が、ばっちり嵌ってたりする。
で、である……、ミューさんよりも少し身長は低いのだが、俺よりは高かったりする。
ま、まだ成長期なんだ。すぐに追いぬいて見せるよ。きっと。
年齢は、ミューさん同様、クリスマスを過ぎてしまった位だと思われる。怖くて本人には聞けないが。
それにしても、2人ともタイプは違うが、かなり綺麗である。
本当にリアルの姿が反映されてるのだろうか?と疑いたくなるほど、知り合う女性は美女揃いだ。
変な所で運がいいのかもしれない。
リアルで女っ気の無い反動だろうか?
「は、はぁ……、どうもです」
―――――
話を聞くと、普段は俺も篭もっていた経験のある豚+死体狩り場で狩っていたそうなのだが、イベントのせいでというか、狩り場荒らしプレイヤーのせいで、追い出されてしまったとの事だ。
となると、1つ上の狩り場に行くしかないのだが、候補はアンデット系Mob満載のダンジョン【死霊の塔】とストーンゴーレム地帯の2択しかない。
死霊の塔は、沸きが良すぎて大人数のPTなら美味しいのだが、流石にコンビではつらく、自然と行き先はストーンゴーレム地帯になってしまう。
適正レベルではあるのだがぎりぎりだし、2人とも初めて狩り場にコンビでっていうのは、ちょっと不安との事で、広場で面子を1人見つけ、早速狩り場に向かおうとした所、知り合いからPTのお誘いWISが来たとかで、あっさり抜けて行ってしまったそうだ。
そして、どうしようかと話し合っている所に、俺様登場といった展開になったようだ。
ちなみに、2人とも職業?は盾持ちの剣士である。
余談ではあるが、俺も死霊の塔は行った事がなかったりする。
というか、ダンジョンってクエストで行った亜人の巣窟以外行ってないな。
ダンジョンは基本的に沸きがいいので、ソロでは辛いからしょうがないのだけど、いつかは行ってみたいものだ。
―――――
「そういえば、名前聞いてなかったね」
散々喋っておいて、今更かと少しツッコミたくなる。
ほんのりと天然が入っているのだろう。
「あ、えっと。シュウって言います。呼び捨てでもいいですし、好きに呼んで下さい」
「じゃあ、私は、シュウ君って呼ぶね。って、シュウくん? ん? シュウって、ファイアドレイク倒したってアナウンスが流れた?」
「……っ!?」
ミューさんって、第1印象では”まったりとした大人しめのお姉さん”って感じだったのだが、中々に慌ただしい性格のようだ。
オーバーリアクションで、ド派手に驚きを表している。
ついでに、表情に余り変化が無いのでわかり難いが、マチュアさんも驚いている様だ。
「はい、悲しい事にそのシュウです」
「という事は、ひょっとして、そこにいるのって噂のアルちゃんじゃない?」
「噂のって言うのはよくわかりませんけど、使い魔のアルです」
「アルルーナです。好きな呼び名で呼んで下さい」
珍しくまともな受け答えをしている。
槍が降らなければいいが。
「それにしても、噂のって一体どんな噂なんですか?」
「えっと、確か、シュウ君に囚われた花の妖精で、夜な夜な良からぬ事をされてるって」
いや、嬉しげに言われても困るのですが。
どっちかって言うと、こっちが弄ばれている感じだし。
「思いっきり誤報です」
「うーん。でも、シュウ君って、そういう事に興味津々のお年頃だしぃ。ねぇ?」
「…………」
そこで同意を求めないで下さい。
って、マチュアさん。あっさりと無言で頷かないでよ。
からかっているのだろうが、一応誤解は解かなくては、巡り巡ってマシロさんの耳に入っては大変である。
「だから、あくまでも噂で、誤解なんですよ」
「そうです!」
「あ、アル?」「アルちゃん?」「?」
おお、誤解を解いてくれるのか。
普段は本当に使い魔か?って思うような行動や言動しかしないけど、忠誠心を疑ってごめんよ。
後で、蜂蜜酒を買って上げるからね。
「シュウは、シュウは…………只、鞭で打って、悲鳴を上げろって命令するだけです」
うん。すまない。なんか、そんな予感はしていたんだ。
君にそっち方面の忠誠心を期待した俺が馬鹿だった。
そうだよ。馬鹿だったよ、こんちくしょう!!
「「な、なんて」」
ち、違うんです、ミューさん。マチュアさん。
「羨ましい事を」
「酷い事、を?」「は?」「へ?」
ぽかーんだ。絵に描いたような、ぽかーんだよ。
唖然を広辞苑で引いたら、普通に載ってそうな勢いだ。
マチュアさんが、異世界の住人だったとは。
「あっ……」
今更ながらに自分の発言が、カミングアウト以外の何物でもない事に気付いたのか、マチュアさんは、ほおを赤らめて固まってしまった。
先程の発言を忘れさえすれば、大変可愛らしい姿なのであるが、人間そんなに都合よく記憶の改竄は出来ないのである。
―――――
擦った揉んだの末、なんとか誤解は解けたのだが、同時にPTに入る事が決定していた。
押しに弱いな、俺。年上の女性相手だと特に。
そうして、冒頭に戻り、現在に至る。
「えっとですねぇ。普段はどういう狩り方してるんですか?」
ソロでも楽勝の為、特に不安に思う事も無く狩り場に来たのだが、冒頭の様な事になってしまった。
ひょっとして、Mobの情報とか調べないで狩り場に行こうとしてたとか?
流石にそれはないか。
「んー、みんなで1匹ずつ囲んで一斉攻撃って感じかな? そうだよね?」
「…………」
ま、マジデスカ?
その狩り方って、全くプレイヤースキルが育たないような。
正直、そんな狩り方してたら、ストーンゴーレム1匹で全滅しそうで怖すぎ。
「Mobに攻撃パターンがあるって事は知ってますよね?」
「うんうん」「…………」
よかった。流石にこれは知っていたか。
というか、攻撃パターンを覚えての狩りって基本の筈なんだけどな、攻略サイトどころか公式HPのよくある質問のコーナーにも載ってるし。
「ソロオンリーなので、PTでの動きっていうのはわからないんですけど、各Mobに対応した狩り方さえ覚えたら、グッと狩りの効率も上がりますよ。赤ポの節約にもなりますし、覚えて損は無いと思います」
「ふむふむ」「…………」
なんか、そこまで真剣に聞かれても逆に困るのだが。
第三者から見ると、なに当たり前の事を偉そうに言ってるんだ?って感じに見られそうで、嫌過ぎる。
「今から戻って攻略サイト見るのは、結構時間掛かるし……。この狩り場は3種類しか沸かないので、狩りながら教えた方が早いと思うんですけど、どうします?」
「シュウ先生。お願いしまーす」
「…………」
即答ですか。
いや、まあ、うん。いいんだけどね。
只、マチュアさん、少しは声を出してください。
無言、無表情は受けるプレッシャーがきついっす。
―――――
パーリングダガーを鞄に入れて、代わりに戦略的撤退用の盾を取り出し左手に装備する。
2人とも盾持ちだし、同じスタイルの方がわかり易いだろう。
「じゃあ、ストーンゴーレムの攻略方法から実演しますね」
「シュウ君、頑張ってー」
「がんばれー」
「じろじろ」
何故かアルも一緒になり、擬態語を使ってまで見学をアピールしているが、ツッコミを入れたら負けの様な気がするので、敢えてそこは無視をする。
気持ちを切り替えて、弟子達?の熱い視線を受けながら、のそのそと俺の方に近づいて来る教材君1号に向かって歩く。
「えーっと、まず、ストーンゴーレムは、一定距離まで近づくとっと」
毎度御馴染みとなった振り下ろし攻撃を飛び退き避けると、攻撃後の硬直時間を使って解説を続ける。
「こんな感じに両手を使った振り下ろし攻撃をしてくるんです。この攻撃をした後は、必ず硬直時間が発生するので、その間に攻撃します」
話している間に硬直が解けたので、再び近付いて振り下ろし攻撃を誘い避ける。
そして、何時もの様に後ろに廻り込まず、胸の辺りを一度だけ斬りつける。
「こういう風に前から攻撃してもいいですが……」
そこで言葉を止め、これから来るであろう攻撃に備えて盾を構えた直後、重い衝撃を受け3m程後方に弾き飛ばされた。
ストーンゴーレムは、その鈍重さと引き換えになのか、このレベル帯では考えられない攻撃力を誇っている為、若干ではあるが防御をダメージが突き抜けて来た。
おいおい、完璧に盾でガードしたのに突き抜けるって、普段は美味しい雑魚扱いしてたけど、改めて考えると結構怖い奴だな。
ちなみに今受けた攻撃は、振り下ろし攻撃の硬直後、前方の近距離にプレイヤーがいるとしてくる、バンザイ攻撃である。
ただ両手を振り上げるだけで正にバンザイなのだが、ストーンゴーレムの攻撃の中で一番ダメージが大きく、おまけに普段からは考えられないほどに動きが速い、恐ろしい攻撃なのだ。
「この様に痛い目に遭いますので、無難に後ろに廻り込んで攻撃するのが勧めです」
「「「…………」」」
俺も初めて見た時は、かなり驚いた経験がある。
攻略サイトなどの情報から知ってはいたが、百聞は一見に如かずである。
バンザイ攻撃の恐ろしさは、文字だけでは伝え切れないのだ。
名前がマヌケな分、余計に……。
事実、振り返ってみると3人とも目を丸くしていた。
いやいや、アル君。何故君まで驚いているんだ。
「アル、お前は何度か見てるだろ?」
「はい。ただ、1人だけ驚かないのもなんですので、合わせてみました」
「さいですか……、んじゃ、まあ、続けますね」
相変わらずの高性能である。無駄にではあるが。
いつもの事なので横に置いておき、今度は飛び退きから後ろに廻り込む。
《スティング》を叩き込み、タイミングを計りしゃがみ込む。
そして、頭上を腕が通りすぎた後立ち上がり、胴を斬りつけてから後ろに下がる。
「後ろに廻りこんだ場合は、裏拳の前後が攻撃のチャンスです。ただ、裏拳の硬直後はバンザイ攻撃が来るので、長々と攻撃しないで一旦距離を取って下さいね?」
「はーい」「了解です」「……偉そうに」
一部適切でない返事があった気がするが、我慢をする。
ああ、もちろん、お仕置きまでは我慢するつもりはない。
本日は飯抜き決定。
「あとは、もう一度最初から繰り返すだけで倒せます。ストーンゴーレムの攻撃は、振り下ろしとバンザイと裏拳だけなので、落ち着いてさえいればソロでも十分狩れます。もちろん、沸きの良い場所だと、他に沸いた奴の足止め役も要りますけど、ね!」
話を続けながらも、役目を終えた教材君1号に止めを刺す。
それにしても、慣れない事をしながらだと精神的に疲れるなぁ。
てか、正直、もう勘弁して欲しい。
―――――
その後、教材君2号と教材君3号の倒し方――ストーンゴーレムほど明確な弱点は無いので苦労したが――も説明し終わり、忘れないうちに即チャレンジである。
流石に、いきなり上手くはいかなかったが、2時間の狩りを終える頃には、なんとか2人だけでも狩れる様になった。
ライカンスロープとジャイアントフロッグには多少赤ポを使っていたが、ストーンゴーレム相手なら2人ともノーダメで倒せるようになったので、俺が抜かされる日はそう遠くないだろう。
―――――
無事に狩りを終え街に戻り、とりあえず各ドロップ品を分ける。
余り通常ドロップは良くなかったが、まったりしていた割りに卵が13個落ちたので、まずまずである。
「卵が1個余りますね……。ジャンケンで決めましょうか?」
正直、卵1個の為に相場調べてお金で分配ってのも面倒だしな。
こそこそと2人が話し合っているが、なんだろ?
も、もしや、ジャンケンで何を出すかの相談!?
「な、なんか問題でも? あっ! くじ引きの方がよかったですか?」
「ううん。そうじゃなくて、今日は色々面倒を掛けちゃったから、それはシュウ君が貰っておいてよ。家庭教師料としては、ちょっと安いけどね」
ミューさん笑顔が眩し過ぎます。モテナイ君には、目に毒の領域に突入してますですよ。
しかし、出会った当初はどうなる事かと思ったが、この笑顔が見れただけで中々に幸運な1日だったかもしれん。
「受けとって、感謝の気持ち」
マチュアさんは……、なんと言うか、その無表情さに慣れが生じてきましたよ。
不思議発言と合わせて、異世界の住人認定。
「じゃあ、ありがたく頂戴しますね」
「どぞどぞ」
と、ミューさんから卵を受け取ろうとしたのだが、横から何かに掠め取られてしまった。
泥棒か!?と見てみると、そこにはアルが……。
いや、なんとなくわかってたけどさ。そこは期待を裏切ろうよ。
「アル。何をすr「お代官様、これを……」」
「「はい?」」
どこでスイッチが入ったんだろう?
ミューさんを見ると突然の事で吃驚しているが、マチュアさんは何故かヤラレタと言わんばかりの悔しげな顔をしている。
よくわからないが何かの勝負があったようだ。
「お代官様好物の山吹色のお菓子にございます」
ここは乗った方がいいのか。
それとも無難にツッコミを入れるべきだろうか。
助けを求めてミューさんを見るが、さっと目を逸らされてしまった。
自然と目に入ってしまったマチュアさんは、無言で頷いている。
ゴーサインか? それはゴーサインなのか??
「ん、っん。ごほん。……越後屋、おぬしも悪よのぅ」
定番の台詞と共に、アルから卵を受け取る。
俺の選択は、間違ってなかったんだろうか?
「いえいえ、お代官様には敵いません」
「「あっはっはっはっはっは」」
つ、ツッコミが来ない。
ま、まずい。ツッコミがいないという事が、どれほど危険かと言う事を忘れていた。
一縷の望みを胸に、先程の様子からツッコミを入れてくれそうなマチュアさんを探したが、まるで障子越しに会話を聞いているかの様なポーズをしている姿を発見してしまった。
もはや異次元空間。
アルと馬鹿笑いをしつつ、最後の希望とばかりにミューさんを探すが。
い、いない。やはり、救世主はこの世にいないのか?
と、諦めかけたその時、後頭部に待ち望んでいた衝撃が走った。
「大岡越前かっ!!」
みゅ、ミューさん。……番組が違います。
―――――
「あっ、そうだ! 早速、卵投げてみようか」
どこか虚ろな笑顔でミューさんが提案をした。
思いの外、ダメージは大きかった様だ。
結論、人間慣れない事はするべきではない。
「そ、そうですね」
余り気は進まないが、先程のピンチを救ってくれたお礼もある。
まあ、5個だけだし、いいだろ。
「じゃあ、私から投げるね」
まずは言い出しっぺからとばかりに、ミューさんが鞄から卵を取り出した。
「ミュー、がんばれー」
何処から取り出したのか、マチュアさんが小さな旗を振って応援している。
な、何故にバングラディッシュ?
「ではでは、1個目ー! おっ、テレポ石だ。ラッキー。幸先いいかも。続いて2個目ー! しくしく、200えーん。負けずに3個目ー! びみょー、赤石かー」
サクサク投げるなぁ。
見た目に反して、男前な性格なのかもしれない。
「テレポ石も赤石も、卵のせいでちょっと相場下がってますけど、中々いい感じじゃないですか」
「そかな?」
「少なくとも、前回のシュウよりは断然マシな結果ですよ。ミュー」
「悪かったな。残り、ラス1どうぞ」
「んじゃ、ラストワーン!」
止めの一撃とばかりに卵を地面に叩きつけると、
「ぬぉっ!?」「きゃっ」「「……っ!?」」
ミューさんを中心とした光の柱が立ち昇り、それが消えると共に紙ふぶきが降って来た。
これが掲示板で騒がれてた”当たり”か。
当たりは総じてレアアイテムが出るらしいけど、ミューさんのは何だろ?
「指輪?」
「指輪ですね」
「指輪以外の何物でもないですね」
「……鼻輪かも」
「「「それはないからっ!」」」
アルにまでツッコミを入れさせるとは、マチュアさん侮りがたし。
綺麗な紫色の宝石が真中にちょこんと鎮座した指輪だ。
素材は恐らく銀製で、彫金はされてなくかなりシンプルである。
「ひょっとして名持ちですか?」
「ううん。違うみたい……、えーと、アイテム名は【浄化の指輪】で……、効果は、……」
「「効果は?」」
浄化って言うくらいだから、ステータス異常無効とか? 回復?
もしくは、アンデット系Mobに追加ダメージ?
どちらにしても、中々の良品っぽい。
「お酒に酔わなくなる」
ん? 聞き間違いかな?
「えっ? もう1回お願いします」
「装備したら、お酒に酔わなくなるんですって……はぁ」
そうですか。アルコールを浄化ですか。
まあ、なんと言うか……、ドンマイ?
―――――
残り2人結果は、
マチュアさん:金鉱石 鉄製のブロードソード 青銅製のスケイルアーマー スモールヒールポーション
俺:200ユリル ミドルヒールポーション 銅鉱石 はずれ×2
以上である。
2人はお礼の言葉を残し、去って行った。
アルにそっと肩を叩かれた時に泣きそうになったのは、ここだけの秘密である。
好感度の上昇により、飯抜きは勘弁してあげた。
てか、リアルラック皆無だな、俺……。
やっぱり、卵は投げずに売った方がよさげだに。
―――――
アルルーナ成長日誌
Lv38 HP:1209 SP:228
STR:248 VIT:304 INT:314 DEX:106 AGI:111
攻撃力:138 魔法攻撃力:172 防御力:202 魔法防御力:188 敏捷度:112
【通常攻撃】[消費SP― 無属性]
根っこを鞭のように使い攻撃する。
【悲鳴】[消費SP5 精神属性]
悲鳴を上げ対象を気絶させる。
【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]
主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。
奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。
【毒花粉】[消費SP18 土属性]
頭に生えている花から花粉を飛ばし、対象を猛毒状態にする。
5秒毎に現在HPの3%ダメージを与える。
愛情度:??? [薄幸の……少年]
満腹度:100% [満腹]
備考:
どこかマチュアさんを意識している様で、普段より2割程パワーが増している。
キャラ被りを警戒しているのだろうか?
方向性が違うので、杞憂だと思うが……。