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第19話

うぜぇ……。大声を出せば面白いと思っている芸人くらい、うざい。

毎日毎日飽きもせず、金魚のフンみたいに人の後ろをちょろちょろしやがって。


「人気者ですね」


「どんだけ前向きな発想なんだよ」


ありもしない情報欲しさに、ストーカーされているだけだっちゅうに。

あんまりしつこいとハラスメント行為で訴えるぞ、まったく。



―――――



ログイン直後、いつもなら声を掛けてくるか、悪戯を仕掛けて来るアルが、ボーっと立ったままだ。


「アル?」


「………」


全く反応が無い。ただの屍のよ……じゃなくって。

前回こうなった時は、飲み物を物欲しそうにジーっと見ていたけど、ここはホームポイントなので、特に目を惹くような物は無いと思うんだが。

それに、何かを見ているというよりも、どこか生気がない気がする。

いつも、無駄に生き生きとしているせいか、余計にそう感じてしまう。

なにか不具合か? GMコールでも


「シュウ? どうかしましたか?」


「へっ、あ、お前こそ、今……」


キョトンとした顔でこちらを見ている様子から、これといっておかしな所は見られない。

う〜む、ちょっとラグっただけかな。

一昔前ならともかく、今時ラグるって大丈夫かねぇ、この会社。


「いや、なんでもない。それより狩り行くぞ、狩り」


「わかりました」


ホームポイントから外に出て、赤ポの補充の為に道具屋に向かう。

やっぱり、しばらくは目立たない所で狩りする方がいいかな。


「今日は、ちょい過疎った所で狩るからな」


「……ッ!?」


な、なんだ? なんか変な事言ったか?

俺の言った事の何処に、驚愕するような言葉があったんだろ。


「やっぱり……」


「ん? やっぱり?」


「人気の無い所で何をするつもりなんです? このロリコンっ。幼女趣味っ!」


「いや、待て。このアホ幼女。やっぱりってなんだ。やっぱりって……てか、俺はロリコンじゃないし、どちらかと言うと、俺は年上好きだっ!」


何を叫んでるんだ俺は……。

近くにいたプレイヤーから、思いっきり注目集めてるし。


「自分の性癖を大声で叫ぶなんて、恥知らずな人ですね」


「誰のせいだよ」



―――――



赤ポを補充し、道具屋から出る。

人気の無い荒野の方に行こうか……なっ!?


「アル、今日って何かイベントあったっけ?」


「あったとしても、こんな所じゃやらないと思いますよ」


ぱっと見でも30人以上いると思われるプレイヤーが、道具屋を取り巻く様にしてこちらを見ている。

俺には関係無いだろう。無い筈だ。無いといいなぁ。

平静を装いながら、プレイヤーの囲いを抜け出そうとすると、突然PT要請ウィンドウが複数現れる。


「へっ?」


「シュウ、どうかしましたか?」


無言のPT要請って。

『No』ボタンを押して消していくが、それ以上の速さで新たなウィンドウが現れていく。

イジメよくない。

勝手に取引窓まで出してるし……。


「PT組んでくださいっ」


てか、あなた誰?


「早くOK押せよっ!」


命令口調で言われて押すわけねぇだろ。


「要らないアイテム下さいっ!」


クレクレ君、地道に狩りしなさいよ。


「フレンド登録お願いします」


美女なら喜んで受けつけます。



―――――



あまりに酷いので要請拒否に設定し、人込みを掻き分けて逃げ出した。

適当に逃げ回り、人目の付かない路地裏に身を隠す事に……。


「なんで俺がシュウって気付かれるんだよ」


「シュウ、指名手配犯みたいで楽しいすね」


「楽しくねぇよ」


どうせなら、かくれんぼと言って欲しい。

少しは気が紛れ……ないか、やっぱり。


「毎度あり〜」


ん? こんなところに露天か?

入ってきた方とは反対側の道に、露天があった。

露天用の絨毯を広げているが、何故か商品が見当たらない。


「情報屋か?」


それにしてもあのプレイヤー、どこかで見た気がするな……思い出せないけど。

絶対に見た事あるんだけど思い出せないって事は、どこかで擦れ違った程度かなぁ。


「……うぬぅ」


「?」


ま、見つかるとマズイし、一旦ホームポイントまで戻るべ。


「アル、ホームポイントまで」


「シュウの情報買いませんかーっ! お買い得ですよーーっ!!」


「って、待てぃ!!」


思わず、隠れていた木箱の陰から出て叫ぶ。

お前のせいか。

まさか、情報が売られてるとは……。


「へっ? あ、シュウだ」


「『あ、シュウだ』じゃないでしょ? 勝手に人の情報売らないで下さいよ」


「な、ナンノコトダカワカラナイナ。アハハハハ」


だったら目を逸らすなよ。


「俺の事がシュウってわかったのはどうしてです? 一応、名前は非表示にしてるんですが」


「……使い魔だよ、使い魔」


「アル?」


なんで、それでわかるんだ?


「そ、汎用使い魔以外は1種類1匹しかいないから、シュウが連れてる使い魔がわかれば、名前の非表示なんて関係無いっしょ」


も、盲点だった。

そういえば、ゴブモドキ以外の使い魔はそうだったな。


「でも、どうして俺が使い魔を連れてるって?」


「前に掲示板で騒がれていた時に調べてたんだよ。いやぁ、無駄にならなくて良かった、良かった」


俺としては、少しは悪いとか思って欲しいんだが。


「まあ、いいですけど……もう売らないで下さいよ。今まで売ったのはどうしようもないけど、これ以上はハラスメント行為でメール送りますから」


「へ〜い。結構稼がせて貰ったし、いいよ」


なんか納得行かないけど、向こうの方がこういう事は上手っぽいし、これ以上は無駄だろう。

俺が口下手なだけかもしれないけど。

正直、儲けの5割くらいは欲しいが。


「じゃあ。アル、行くぞ」


「はい」


「あっ、俺の名前は【ポータ】だから」


聞いてないって。


「いいネタあったら高値で買うからヨロシクね〜」



―――――



しばらくの間は、過疎った狩り場に通う予定だったのだが、何処に行ってもぞろぞろと付いて来るので、効率が悪い分損だと思い、普通に狩りする事にした。

主食は、狩り易いストーンゴーレムとジャイアントフロッグである。

特にゴーレム系は、低い確率だが宝石を落としてくれるので、ドロップ的にも美味く非常に嬉しいMobだ。

宝石とは、装備品の制作過程で使用する事により、ステータスアップや装備条件を軽減する等、様々な効果を付与する事が出来るアイテムだ。

しかし、鉱山での採掘数やドロップ数が少ないので、取引されるアイテムの中でも名持ち程ではないが高額である。


それにしても、何か対策を考えないとな。



―――――



自身考案のマニュアル通り、決まった手順でストーンゴーレムを倒す。

大幅にレベルとスキル熟練度が上がった為、《スティング》の時点で倒せる様になった。

その為、1体にかかる時間が少なくなりサクサク狩れて助かるし、強くなってる事が実感できて嬉しい。


「おおーっ!」


「うわっ、スゲェ……見たか、今の?」


「全然大した事無いじゃん」


「幼女鞭萌え〜」


「俺の方が強いって」


が……相変わらず、外野がうるさい。

近くに他のプレイヤーがいるから、そっちにタゲが分散してあんまり数を狩れないし。

もう少し離れてくれんかな。


「シュウ、サクッと殺っちゃいますか? まずは《毒花粉》で弱らせて」


「いやいや、更に状況を悪化させてどうする。まあ、もう少ししたら飽きるだろうから……たぶん、きっと……そうだったらいいなぁ」


うーむ、どうするべ。

付いて来る事にデメリットがあれば、このパパラッチ達もいなくなるんだろうけど。


「デメリット、デメリット…………あっ」


「?」


そういやアレがこの近くにあったな。

ちょっとだけ可哀想な気もするけど……。

まあ、これだけ嫌な思いをさせられたんだから、ちょっとした嫌がらせをしても罰は当たらないだろ。


「シュウにしては、なかなか卑劣な作戦ですね」


「だから、人の思考を読むなと何度……ま、慣れちゃったけど。で? 反対なのか?」


まあ、こいつの性格を考えると有り得ないだろうけど。

案の定、アルは子供が見たら裸足で逃げ出しそうな顔でニヤリと笑い。


「反対する理由は無い。やりたまえ」


「………」


もはや、何処からツッコメばいいのやら。

反対じゃないんだったら、別にいいんだけどさ。



―――――



ふぅ、到着っと。

微妙な沸き具合のMobを倒しながら歩いていると、ようやく目的地に着いた。

前に来た時と変わらず、疎らに木が生えているだけの何の変哲も無い草原が広がっている。


「アル、準備はいいか?」


「ひょっへーへふ」


赤い液体の入った小瓶を咥えながら、恐らく肯定だと思われる返事をする。

それを聞いて俺も、後ろの連中に気付かれない様に、こっそり鞄から赤ポを取り出し赤い液体を口に含む。

パパラッチ共、のこのこと着いてきた事を悔やむがいいさ。


「………」


記憶が確かならココだった筈。

気合を入れ直し、1歩踏み出すと


「!?」


一瞬で大量のMobが沸き、パパラッチと共に囲まれる。

しかし、2度目とはいえ、これだけの数のMobに囲まれるのはちょっとびびるものがあるな。

後ろの連中が騒がしいが、当然無視である。



―――――



『パパラッチ共に嫌がらせをしよう大作戦』の内容は、レオに嵌められた時の罠――モンスターパラダイス(仮)――を有効利用しようという、単純なものだ。

パパラッチの中に、この罠の情報を知っている者が1人でもいれば、成功しなかっただろう。

まあ、掲示板や攻略サイトでも出た事の無い情報なので、知らない可能性の方が高いと思い実行したのだけど……。


口に赤ポを含んだのは、1回目の回復を素早く出来るからだ。

先日掲示板で発見したのだが、赤ポは飲み込まない限り、口に含んだだけでは効果が発揮されない。

その事を利用して?と言っていいのかわからないが、お酒を使ったアルコール消毒の様に、口に含んで吹き付ける行為が一部プレイヤーの間で流行っている様だ。

はっきり言って、映画や時代劇の見過ぎだ。

そんな事をするくらいなら、直接ぶっ掛けた方が速いし……。

まあ、男のロマンと言われれば、何も言えないんだけど。



―――――



多少見た事の無いMobも混じっているが、大半はストーンゴーレムやジャイアントフロッグ,ライカンスロープである。

決めていた通りに、出来るだけストーンゴーレムが多い場所を目指して走り出す。

走りながら後ろの方を見てみると、2,3人は俺の後ろに付いて来ようと走っているが、ほとんどのプレイヤーは目の前のMobの大群にそれどころじゃないようだ。


「んーんっ!」


「んん」


アルの注意の声を聞き、前に向き直る。

しかし、口に飲み物を含んで走るのって、結構辛い物があるな。

ストーンゴーレムを狙ったのは、動きが遅く身体が大きい為、そこが一番包囲網から抜け出し易い為だ。


「んっ! ……あ、飲んじゃった」


ストーンゴーレムの陰から飛び出して来た、ライカンスロープの攻撃を受けた衝撃で思わず飲み込んでしまった。

まあ、ダメージを受けたので無駄になった訳じゃない。

少しだけ損した気分になったけど。

出来るだけ攻撃を避け、無理そうなものは剣で弾きながら進んでいくと、ようやく包囲網から抜け出せた。

少なくない攻撃を受けたが、カナタさんの作ってくれた新装備のお陰で、大した被ダメはなく赤ポ1本で十分だった。


「アル、あの木の向こうで」


「ひゃい」


皆まで言わずとも伝わった様だ。

てか、まだ赤ポ飲んでないって、どんだけ避けるの上手いんだよ……。

若干の敗北感に打ちひしがれながら、追い掛けてきたMobを迎え撃つ為に振り返る。

付いて来ようとしたプレイヤーは、Mobのタゲを貰って足止めされてるのか姿が見えない。


「やっぱ、一番手は足の速い狼か」


十数匹のライカンスロープが、時間差で突っ込んで来た。


「アル、《悲鳴》を使って囲まれない様に」


「ひゅひへふ」


否定っぽい声が聞こえた気がするが、戦いながら目を向ける余裕は無い。

……あっ! 口に赤ポ含んでたら、《悲鳴》使えないじゃん。

まあ、なんとか逃げ回ってもらおう。


『『『グォオォオオオォオッ!!』』』


「クッ……、よっ、ほっ」


前の時の様に、囲まれて呆気なく死亡という事は流石にないが、結構辛いものがある。

強引でもいいので攻撃を当て、とにかく数を減らす事を優先する。


「3匹目っと、ぬおっ」


3匹目のライカンスロープを《クレセント》で倒し終えた直後、すぐ傍に現れたストーンゴーレムに焦り、動きが止まった所を殴り飛ばされてしまった。


「クッ、もう追い付いて来たのか……アルっ」


ストーンゴーレムを引き離す為に、場所を移動しようとアルを探す。

おいおい。何、私は無関係ですみたいな顔をして、離れて観戦してるんだよ。



―――――



その後、なんとか移動を繰り返しながら、追い付いて来る奴を着実に減らし倒し終えた。

まあ、半分くらいはパパラッチに押し付けた形になったけど……。

マシロさんの様に、群れの中に突っ込んで蹴散らすような真似は出来ないので、今回の方法を取った。

単純だが、Mobは種類によって移動速度が違う――ライカンスロープとストーンゴーレムだと特に顕著――ので、出来るだけ囲まれないように引き狩りするという方法だ。


今回の事で、パパラッチがほぼいなくなった。

MPKだと掲示板で騒ぐのもいたが、「勝手に付いて行って、巻き込まれただけだろ」と擁護してくれる人が多く、あっさり鎮火した。

ほぼなのは、やたらにしつこい情報屋が1人いる為だ。

上手く隠れているつもりだろうが、思いっきり顔が見えてるぞ、ポータ。


ちなみに、サボっていたアルは、餌抜きにしておいた。

次回からは、ちゃんと働いてくれる筈だ。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv34 HP:1087 SP:206


STR:221 VIT:270 INT:286 DEX:95 AGI:99


攻撃力:127 魔法攻撃力:152 防御力:184 魔法防御力:169 敏捷度:102


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


【毒花粉】[消費SP18 土属性]

頭に生えている花から花粉を飛ばし、対象を猛毒状態にする。

5秒毎に現在HPの3%ダメージを与える。


愛情度:??? [若干の黒さ]

満腹度:6% [枯死寸前]


備考:

前前から思っていたのだが、飼い主との関係性を表す筈の愛情度の状態表示が、俺に対する悪口にしか見えない……。

大体、『若干の黒さ』ってなんだよ。

俺が腹黒いとでも言いたいのか。



―――――



※1:GM

GMとはゲームマスターの略。

元々はTRPGのゲームマスターから来ている。

プレイヤー間の揉め事を解決したり、自分ではどうにもできないゲーム進行に関わるトラブルを解消するなど、ユーザーサポートが仕事である。

ゲーム内イベントの進行役をする事もある。

同じ人間がやっている事なので、不正――特定プレイヤーとの癒着等――が行われる事があるが、気にしているとゲームが楽しめないので無視する方が無難かも。


※2:GMコール

GMをゲーム内で呼び出すシステム。

順番待ちする事もある。


※3:ラグ

lagは遅延や遅れの意。

通信負荷などにより、画面がコマ送りみたいになったり、完全な静止画になったりする事を表す。

「ラグった」「重い」「固まった」などと言う事が多い。


※4:クレクレ君

他のプレイヤーにアイテムが欲しいと言うプレイヤー。

初心者に多いが、高レベルプレイヤーにも稀に……。

迷惑がる人も多いので、ほどほどに。

それと、貰えなくても悪態を付かないように。


※5:引き狩り

本来は遠距離職(魔法や弓)で攻撃を受けないように、逃げながら攻撃をする行為。

慣れない内は、動きの遅いMobでやるいい。

ただ、広範囲を使ってやると、他のプレイヤーの迷惑になってしまうので、気を付けてやる事。

適当に逃げると、逃げた先にMobが居て殺されてしまうという間抜けな結果に……。


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