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第1話

わかりにくいものは、ページ下部に注釈を入れてます。

「四季、誕生日プレゼントだ」


「はぁ?」


ニコニコとした笑顔で言われた言葉。

どこにも不自然な所は無い。

大抵の家庭で年に一度は発せられる言葉だろうし、プレゼントを受け取ることであっさり終える事の出来るイベントのはずだ。


「親父、今日は何月何日だ?」


「ん? 7月18日だが、どうした? 記憶喪失か?」


確かに今日は7月18日だ。


「で、俺の誕生日は?」


「2月22日だろうが。どうしたんだ。ま、まさか!? 本当に記憶喪失にでもなったのか?」


まるで、こちらがおかしいかの様な発言に、頭が痛くなってくる。


「あのなぁ。誕生日プレゼントは普通誕生日に渡すもんだろ! それに、どこに誕生日プレゼントがあるってんだ! 何も持ってないじゃないか!?」


思いっきり手ぶらでどこにもそれらしい物がない。

だが、悪びれる所かむしろ胸を張りながら、


「お父さんは常識に囚われない自由人なんだ。それにこの方がサプライズ感があるだろ?」


自由人どころかただの変人である。

だが、さすがに実の父親に向かって「変人の間違いだろ?」とは可哀想で言えず、無難にスルーする。


「ああ、そうだな。で? 肝心のプレゼントは?」


言いながら、ふと嫌な考えが浮かぶ。

この変人のことだ「馬鹿には見えない●●だ」とか言い出しかねない。


「ん? プレゼントならすでにお前の部屋に搬入済みだぞ」


さっきごそごそやっていたのがそれか、部屋に直接持っていくって事はかなり大きな物なんだな。

まともな物とは思えないが、逆に予想外であろうその物体に若干の興味が沸いてくる。


「んじゃ、ちょい見てくる」


と、一言残し部屋に向かう。



―――――



開けた扉を即座に閉める。

頬っぺたを抓ってみる……が痛い。

どうやら夢ではないようだ。

最後に見た時の記憶と照らし合わせてみる。

どう考えても、自分の部屋のレイアウトが明らかに局地的に激しい変貌を遂げている。

俺とした事が、奴の変人具合を甘く見すぎていたようだ。

ベッドがあった筈の場所にあったのは、黒い直方体の物体だった。

雑誌やCMで何度も見た【Ark】である。

【Ark】とは、昨年末から約半年間のcβを経て、明日正式稼動する仮想世界体験型MMORPG【Dreams and Phantasms】のゲーム機だ。

完全予約制の限定5万台で定価は7万9800円だ。

他社のMMO用ゲーム機が、約3万〜5万円ということを考えると、多少高めの値段設定だと思う。

個人的には、期待感を胸にcβに応募したが、募集人数1000名の狭き門に物の見事に弾き返され涙を飲み、正式発表された値段に購入を断念したという、暗い感情が芽生えるゲーム機でもある。

しかし、何故こんな物がここに……。

考えても埒があかないので、元凶を締め上げるために居間に戻る。



―――――



「おお、どうだ? 気に入っ「何処から盗んできた!?」へぶっ!!」


とりあえず、先制攻撃にボディーブローをしかける。


「先月、新しいゴルフクラブを買ったという情報は掴んでいる。月3万円の小遣いからどう融通しても、【Ark】を買う金は無い筈だ」


「ん? ああ。あれは困っていた老人を助けて貰った物だ」


「なっ!?」


言うに事欠いて、そんな見え見えの嘘をつくとは……。

変人だとは思っていたが、ここまで悪化しているとは認識がまだまだ甘かったようだ。


「親父、自首してくれ。初犯……かどうかは分からないが、少なくともこれ以上俺に迷惑がかからない内に自首するべきだ。というか、自首しろ!!」


「う〜む。演劇部にでも入ったのか? 中学からずっと帰宅部だったから、心配していたんだ。いや〜、よかった、よかった」


この家の長男として責任を取り、不思議物体を処理するしかない。

覚悟を決めて通報しようと電話に手を伸ばすが、


「たっだいま〜〜」


「お帰りー」


タイミング悪く、妹の春音はるねが部活から帰って来てしまった。


「あれ? アニキ、何処か電話するの?」


「ああ。警察にな……。親父が強盗をやらかしたみたいなんだ」


「えっ?」


こうなっては事情を知っておいた方がいいと思い、妹に説明をする。


「【Ark】を知ってるか?」


「あれだけ話題になればね。男子連中はその話よくするし。まあ、予約が間に合わなかったりあの値段だから、あんまり買った人いないみたいだけどね。で、それがどうしたの?」


「その【Ark】をどこかから盗んできたみたいでな。今、俺の部屋にあるんだ」


ショックを受けるであろう妹の顔を見ることが出来ず、視線を床に落とす。


「あれって冗談じゃなかったんだ」


「……………………はっ?」


な、なんだ???


「お父さん。この間のお爺ちゃん、本当に送ってきたんだね」


「ああ。てっきり冗談かと思ったんだがな、さっき届いたんだよ」


ダメだ。摩訶不思議な展開に付いて行けない。

何かの暗号なのか? それとも妹が親父に汚染されてしまったのか?


「あの格好で【ディースト】の会長だなんて、ボケてるか冗談だと思ったのにね」


「そうそう。野良犬に追いかけられてる姿からは、とても信じられなかったな」


クッ! どうやら観念するしかない。

信じられないが、本当のことのようだ。


「で? どういうことなんだ?」


「えっとね――――



―――――



話の内容を簡潔に纏めてみる。

先週の日曜日、妹と親父が散歩していた所、前から野良犬に追いかけられている謎の老人に遭遇したらしい。

可哀想なので野良犬を追い払ってあげると、自分は【ディースト】の会長だと自己紹介して、お礼がしたいと言ったらしい。

2人とも冗談だと思ったようで、その冗談に乗ってあげて『だったら【Ark】が欲しい』と言ったそうだ。

老人は、『あんな物でいいのか』と言い、送り先を聞いて去っていったらしい。


「んで、それがさっき届いたと?」


「ああ。冗談だと思ったし、お前欲しがっていただろ?」


ごめんよ。変人だなんて思ってごめんよ、お父さん。


「春音はいいのか? お前の方が貰う権利あるだろ」


「私ゲームって興味ないし」


そういえば、俺と正反対の体育会系だったな。

ちなみに俺は帰宅部で妹はテニス部だ。


「ありがとな」


「駅前のリセリのケーキよろしくね」


「了解しました。軍曹殿」


【Ark】のことを考えると安い物だと諦める。

気は進まないし日頃の行いのせいとはいえ、親父にも謝った方がいいよな。


「親父。疑ってごめん」


「何の事だ?」


「だから、【Ark】を盗んだんじゃないかって、さっき」


「そんな事言ったか?」


「……」


こ、こういう奴だとは分かっていたが……。

気分を入れ替える為に【Ark】の説明書でも読もう、それがいいに違いない。


「ちょっと部屋に戻るな」


”妹に”一声掛け部屋に戻る。

今更だしどうでも良いことだが、親父の名前は冬樹ふゆきだ。



―――――



「ふ〜ん、ちゃんと設置までやってくれてるんだな」


とりあえず説明書を読むことにする。


「へぇ〜」


「うーむ」


「ほぅ……」


要約すると、【Ark】は虹彩認識システムに登録した人しか使えないようだ。

まあ、代理育成が出来なくなるから、学生としては助かるな。

登録出来るのは1人だけで、中に入り目を開けると自動的に登録してくれるらしい。

よし! 登録終了っと。


「1アカウント1キャラクターで削除不能か」


おいおい。育成失敗したら目も当てられないな。

んで、ログイン中の身体は睡眠状態になるらしく、睡眠時間をまるまるゲームに当てられるっぽい。

明日から夏休みだから、1日中眠ることになりそうだな。


「四季、御飯よ」


姉さんの声が聞こえる。

ああ、姉さんといっているが実の母親で、名前は夏子なつこだ。

若く見られることに執着が激しく、外で母さんと呼ぶと地獄を見ることになる。

俺以上の童顔で、友人達には姉だと思われている。


「は〜い」


殴りこまれる前に答える。

今日はさっさと飯と風呂を済ませて、ネットで幻夢の情報を漁るか。

必要な情報を暗記しないといけない。



―――――



※1:cβ

クローズドβ。

正式サービス開始前、少数のテスターに不具合などをチェックさせるテストプレイの事。

人数を限定しない場合は、オープンβ。

大抵は、クローズド→オープン→サービス開始の流れ。

この作品ではcβからサービス開始になってます。


※2:テスター

βテストに参加したプレイヤーの事。

正式サービス開始前に、ゲーム中のバグや不具合や問題点を報告する為、または顧客確保の為に無料で運営側が募った人の事。

しかし、ほとんどのテスターは、単純に先行してゲームを熟知する為にテスターをやったりする。


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