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第15話

「フンフーン フンフーン フンフーンフフンフンフン」


「ご機嫌ですね」


「まあな」


先程、長年……な訳もないが、待ち侘びていた狩りのお誘いメールが着た。

お相手は、嬉しい事にマシロさんである。

まあ、メールの送り主の心当たりなど、カナタさんとマシロさんの2人しかいない。

野良PTでもすれば、知り合いも増えるのだろうけどね。


「そういえば、マシロさんのメインスキルってなんだろ?」


「聞かなかったんですか?」


「ああ、忘れてた」


「ドジッ子属性は健在ですね」


「ぬぅ」


悔しいが、完全に頭から抜け落ちていたので言い返せない。

メインスキルによって狩りでの役割が変わってくるが、コンビ狩りなのであまり関係ない。

という事で、どうしても聞かなければいけない事って訳でもないから、いえ、すいません。舞い上がっててすっかり忘れてました。

会う時はいつも街の中だから、武器を出しているところ見た事ないんだよな。


「う〜む。レイピアとかの細剣かなぁ」


素早く舞うように敵を倒すマシロさん。

イイ。実にイイ。

ご飯をどんぶりで3杯はいけそうだ。

うん。女性プレイヤーには細剣や小型剣を選ぶ人が多いから、予想的にもおかしくない。


「妄想して鼻の下を伸ばさないで下さい」


「ソ、ソンナコトシテナイデスヨ、アルサン」


く、空気が悪い。


「そ、そうだなぁ〜。他にあるとしたら、両手槍の薙刀かな? なんかお嬢様っぽいし、習い事か大学のサークルで」


「安易な発想ですね」


「………」


今日は、妙に突っ掛かって来るな。

カルシウム不足か。ジュースだけじゃなく、魚食え。


「いいだろ! マシロさんに似合いそうなん「シュウ君、私に何が似合うの?」へ?」


「久しぶりだな、凡人と、小娘」


「久しぶりですね、マシロと、金魚のフン」


い、いつの間に? しかも、思いっきり会話を聞かれてる。

って、よく考えたら変な事を話してた訳じゃないから、別に焦る必要もなかったな。


「マシロさん、こんばんはです。あ〜、あとシートも久しぶり」


「こんばんは、シュウ君、アルちゃん。で、何が似合うの?」


「シュウと一緒に、マシロのメインスキルを予想していたんです」


「ふむふむ。それで? 予想では何になったのかな?」


「あ、あのですね。細剣か―――



―――――



「ドリャァアアァァァーッ!!」


『グオォオォオオォ……』


記憶違いでなければ、攻略サイトの情報によると、比較的高いHPと防御力を持つ【ライカンスロープ】。

それが、目の前でピンボールの様に弾き飛ばされて行き……死亡。


「「………」」


「凡人と小娘、サボってないで手伝え」


えーと、先ず整理しよう。

マシロさんとPTを組むのはいつもよりも上の狩り場に行く為である。

目的地は、マシロさんが野良PTで知り合った人から聞いた一部テスターにしか知られていない、経験値・ドロップ共に美味い狩り場。

Mobの強さ、沸き具合が、1人では辛いがコンビ狩りならなんとか処理出来るとの事だ。

マシロさんのメインスキルは、「ん〜、狩り場についてからのお楽しみね」との事で、結局謎のまま。

道中、それ程Mobが沸かなかったのと、マシロさんに良い所を見せたかったので俺が1人で処理した。

目的地までもうすぐという所で、先程までよりもワンランク上のMobであるライカンスロープが6体出現。

Mobの種類が変わったのは、このMobの出現地域に入ったからだ。

Mobの出現地域は、同レベル帯、属性、種族の3パターンで分類される。

ここまでは特におかしい所はない。

待ってましたとばかりに、マシロさんが武器を実体化させながらライカンスロープに向かって走る。

それに続こうと走りだして、興味津々だったマシロさんの武器を見る。

長柄の先に湾曲した巨大な刃が付いている大鎌。

その刃の周りには、毒々しい紫色の靄の様なエフェクトが掛かっている。

あまりに予想外なその武器に、アルと2人足が止ま……って、いかん、呑気に考えている場合じゃない。


「俺達も行くぞ。アルは、シートと一緒に足止めを頼む。普段の雑魚とは違うから無理はするなよ」


「化け猫とですか、気が進みませんけど、まあ、いいでしょう」


そこまで毛嫌いしなくてもと思いつつ、今度こそ走り出す。

なんか、マシロさん1人でも全然余裕っぽい。

だけど、


「そうも言ってられないよなっっと!!」


走った勢いを乗せて、マシロさんの背後を狙っていた奴を袈裟斬りに斬りつける。

振り返る前に《スティング》を放ち動きを止め、一旦後ろに下がり距離をとる。


「遅いぞ、凡人」


「悪い」


喋っていた隙を付いた訳ではないだろうが、ライカンスロープが飛び掛かって来る。


「ちょ、っと、お」


防御した時の衝撃も豚さん達とは違うな。

大振りな爪による攻撃を弾いた所で、《スティング》から《クレセント》に繋げて技を叩き込むと、


『ギュィオォォオオォ!』


断末魔の叫びと共に、ライカンスロープの体を構成するポリゴンが崩れ消えていく。



―――――



βテスト時と正式サービス開始後しばらくは、覚えた技を使うのに技の名前を声に出さなければならなかった。

だが、プレイヤー大多数の要望メール、――内容を簡単に言えば一々声に出すのが恥ずかしい――により思考による始動が可能となった。

俺もその内の1人だ。

ただ、何故か中高年の男性には音声入力の方が好まれていて、現在も音声による始動を使っているプレイヤーは残っている。



アルは残念がったが、俺も思考操作に切り替えた。

最初の頃は多少気に入っていたのだが、PTを組んで他人の前で叫ぶのは恥ずかしい。

ソロでも、狩り場に1人っきりという訳ではなく、周りに人がいるので恥ずかしいのだ。

その事を伝えた時のアルの一言、


「ケッ、ガキが一丁前に色気好きやがって」


お前はどこのオッサンだ。

せめて、見た目にあった言葉遣いをして欲しいよ。



―――――



「ラストっと」


『グオォォォオオォォオォ……』


最後の1体が消えていく。

普段の雑魚とは違い、多少手間取ったが2人+2匹なら、なんとかなりそうだ。


「謙遜してたけど強いじゃない」


「そ、そんなことないですよ」


おおっ、好感度アップか?


「凡人にしては、だけどな」


「………」


「シートッ!」


なんか、思いっきり嫌われてるな。

初めて会った時からだから、原因がわからん。


「化け猫は逃げ回ってた。無様に……プッ、ククク」


「アルッ!」


相変わらず口が悪い。

使い魔ペットは飼い主に似るって言うが、あれは間違いだな。


「すいません、マシロさん」


「こちらこそごめんね、シュウ君」


謝罪しあう飼い主。

当のアルとシートはというと、睨めっこ状態である。


「「………」」


「「はぁ……」」


どう考えても、仲良くってのは無理っぽいな。


「じゃ、じゃあ、先に進みましょうか」


「え、ええ」



―――――



険悪なアルとシートは放っておき、目的地までの道すがら大鎌について聞いてみた。

偶々、高レベルプレイヤーのPTに入る機会があり、未攻略のダンジョンで狩りの最中に宝箱の中から見つけた物らしい。

狩り後のくじ引きの結果、マシロさんが見事手に入れたとの事だ。

沸いてくるMobを無難に狩りつつ、雑談に花を咲かせる。

まさに至福の時。

だが、すぐに幸せは長く続かないものだという事を実感させられる。

マシロさんの言う目的地に着き――――



―――――



目の前に広がる、少なくとも30体以上はいるであろうMobの群れ。

囲まれているので、全部合わせると100体は越えるだろう。


「ここまで多いと笑いたくなるな……」


「フン。臆病風に吹かれたのか」


「いや、そういう訳じゃな「オオオオオオオオオォォォ!!!」」


「「「!!!!!!」」」


な、なんだ!?

って、マシロさん??


「マシロ?」


「またか。おい、凡人共行くぞ」


「ちょ、ちょっと」


シートも行ってしまった。

しょうがない、覚悟を決めて玉砕と行くか。

囲まれてるから逃げようがないし。

なによりマシロさんを放っておけない。


「アル、行く……ぞ?」


気を取り直した俺の目に、信じられない光景が映る。

マシロさんが向かって行った方向にいたMobが、次々と宙に舞い消えていく。


「ほ、ほぇ??」


ちょ、ちょっと待て、まずは深呼吸からだ。

吸って〜、吐いて〜、吸って〜、吐いて〜。よしっ!

目の前でバーサーカーの如く巨大な鎌を振り回し、次々とMobを蹴散らしていってるのは、


「マシロですね」


そう、マシロさんだ。

見間違えじゃないんだよね?

なんか、俺の中にあった【女神マシロ】のイメージがガラガラと崩れていく。

と、お馬鹿な事を考えて気を抜いたせいか、近づいて来たMobに気付かず、もろに後頭部に攻撃を受ける。


「ぬふぉっ!? な、なんじゃい!!!?」


慌てて振り返ると、そこにはステキな体格の【ストーンゴーレム】さんが―――――



―――――



「ふふふ、蟻さんは今日も元気に働いて偉いね〜」


「シュウ」


「でも、僕はキリギリスさんみたいになり」


「シュウッ!!」


「ん!? な、なんだ? アル?」


ここは? ホームポイント?

なんでこんな所に???


「やっと正気に……ただでさえ、ゲームの世界に入って来てるんですから、更に他の世界にまで突入しないで下さい」


「で、何があったんだ?」


「はぁ。簡単に説明すると―――――



―――――



アルの話によると、ストーンゴーレムはなんとか倒せたが、ライカンスロープに囲まれタコ殴りにあい死亡。

ホームポイントに戻り蘇生するものの、無様な死骸を晒した事にショックを受け、現実逃避に突入。

で、マシロさんからメールが着ているみたいだから、早く読め……って、おい。


「それを先に言えって」


「誰のせいです、誰の」


「ん〜と……………へ?」


「どうしたんですか?」


見間違いかなぁ。

というか、見間違いであって欲しい。


「あの大群を倒したんだと」


「シュウって、役立たず?」


「クッ」


人が気にしている事をズケズケと、照り返しというものがない。


「デリカシーです」


「デリカシーって言ったもん」


「全然可愛くないですよ」


うん。本人もそう思ってるから、あまり触れないように。

やはり、勢いでボケるもんじゃない。

1つ勉強になった。

んん、続き続き。

死に戻ってる俺にWISしてみたけど応じないから、気になってメールしたらしい。

とりあえず、メールの返信しないとな。



―――――



その後、街に戻ってきたマシロさんと補給をしてから、もう一度狩りに。

流石に同じ場所には行かず、マシロさんが普段狩りをしている場所で、まったりと雑談しながら狩りをした。

バーサーカー状態の事は、怖くて聞けなかった。

ちなみに、レア鎌を手に入れる前のメインスキルは両手斧だったらしい。

わ、ワイルドなマシロさんもステキ?


「シュウ、流石に無理がありますよ」


ほっとけ!



雑談をする内にわかった事だが、あの狩り場の情報はやはり嘘情報だった。

マシロさんが鎌を手に入れた時のPTにいた、【レオ】という奴が情報元だったらしい。

あの場所はバグなのか、大量にMobが沸くトラップの様になっていてかなりの危険地帯だったようだ。

レオとやら、探し出して絶対復讐してやる。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv24 HP:791 SP:153


STR:158 VIT:191 INT:205 DEX:65 AGI:71


攻撃力:93 魔法攻撃力:111 防御力:143 魔法防御力:127 敏捷度:67


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


愛情度:??? [甲斐性なし]

満腹度:52% [空腹]


備考:

何故かマシロさんの使い魔のシートとは相性が悪いらしい。

会う度に舌戦を繰り広げている。



―――――



※1:野良PT

広場など人の多い所で募集をかけて、同じ狩り場に行きたい人達とPTを組む事。

必然的に、初対面の人達とPTを組む事が多い。

PTの中に個性の強い人がいると、狩り自体がダメダメな結果に終わる事もある。

ドロップ品の扱いで揉める事も。


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