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第13話

姉さん、事件ピンチです。

まあ、姉さんなんかいない――強制的にそう呼ばせる母親はいる――んだけどね。


「ずいぶん余裕があるんですね」


「いや、ちょっと現実逃避したかっただけだ。気にするな」


「フンッ……愚民の分際で身の程をわきまえないから、こういう事になるんですよ」


う〜む、日増しにツッコミが強くなってるダ。

てか、俺ってそこまで言われるような事をしたか?

一先ず、


「アル。戦略的撤退っ!!」


SIシー


まだストックが有ったのかよ。



―――――



本日のメインディッシュは【スライム】だった。

オーソドックスなRPGでは、よく最弱のモンスターとして登場する不定形でゼリーの様な生物だ。

その弱さに相応しいゴミの様な経験値とアイテムしか手に入らない、まさにキングオブ雑魚キャラ。

しかし、【幻夢】のスライムは、攻略サイトの情報を見た感じ、同レベル帯のMobと比べると経験値やドロップが美味しいようである。

ただ、スライムをメインに狩りをしていると言う話を聞かないので、そこそこの強さか厄介さは有るのだろう。

今の所、確認されている生息地は、南東の鉱山にある洞窟だけみたいだ。

まあ、情報自体が余りないのが不安要素ではあるが、アルと2人ならそれ程苦戦するとは思えない。



―――――



「それにしても」


「シュウ?」


「ああ。いや、そんなに強くないのが引っ掛るんだ。こんなに楽なら、人気の狩り場になると思うんだけど、どうしてかなって」


バスケットボールくらいの大きさで少し攻撃し辛いとは思うが、攻撃力やHPがそれ程高くない。

不意打ち気味に体当たりを食らったが被ダメは大してなく、踏み付けて3回突き刺してみたら呆気なく死んでしまった。

考え過ぎかな?


「この程度なら多少囲まれても大丈夫だろ? もう少し奥に行くぞ」


Да.ダー


「まだ、それ続けるのか? 正直、何語かすら解らなくなってきたから、そろそろ止めないか?」


Нет.ニェート


「……」


日本限定販売なんだから、日本語だけで十分だろうに。

やたらと無駄が多いゲームだ。



―――――



10分程、ちょこちょこ沸いてくるスライムを倒しながら進んでいると、かなり開けた場所に出た。


「もう行き止まりか、宝箱もなんにもないなぁ」


「ですね」


「沸きが悪いから人気がないのかな? PTは論外だろうし、ソロでも豚か犬でも乱獲した方が効率良さそうだ」


不味い狩り場とは言わないが、刺激が無さ過ぎて眠くなりそうだ。

今からでもいつもの所に行くかな。ん?


「アル。何見てるんだ?」


「山です」


「は? 山? 洞窟の中だぞ。そんな物どこにあ」


うん。山田――じゃなく山だ。

先程、かなり開けた場所と言ったが、直径100m位のドーム状の空間だ。

そして、辿り着いた当初はあんなモノは無かった筈である。

てか、あったら、目に入らない方がおかしい。

洞窟の天井に届きそうな勢いで聳え立っているスライムの山。

というと、過剰広告の様であるが、そのくらい大きい。


「で、アル。何時の間にあの山は出て来たんだ?」


「そうですねぇ。シュウが『沸きが悪いから』と言っ」


「って、その時言えよ!!」


「へぶち……。もう! アナタったら乱暴なんだから。でも、そんなワイル「……!!!」いえ、なんでもありませんです、はい」


もうちょい強めでも良かったか?

しかし、


「コレどうすりゃいいんだ?」


「登り」


「登らねえよ!!」


ったく。

ボケるだけじゃなく、建設的な意見も出して欲しいものだ。


「なぁ?」


「なんですか?」


「アレってどうすりゃ正解なんだ? もしも、倒すのだとしたら何時間もかかるぞ」


「それ以前に、下手に倒すと崩れて来てぺちゃんこですよ」


「むぅ」


そういや、そうだな。

絶妙なバランスで積み上がってた場合、下手に倒すとこちらに倒れてきそうだ。

スライムに潰されて圧死。

まあ、厳密には倒れてきた衝撃でダメージを受けて死亡するんだろうが。


「あんまり愉快な死に方じゃないな」


「大丈夫です。録画の準備は出来てます」


「………」


何故そんな物がゲームの中にあるんだ?

などと、もはやツッコミを入れる気にもならんよ。

という事で、冒頭に戻ってみる。



―――――



とりあえず、洞窟の入り口まで戻ろうと振り返り来た道を戻る事に。


「それにしても、アレは何かのイベントなのか?」


「ええ。アレを倒すと、街の中央にある地下迷宮に入る為に必要な、キーアイテムが手に入る事になってます」


なっ、なんですと〜っ!!

βテストの時は、レベル制限だったのが変わったのか。

だから、ここの情報が余り出なかったんかな?


「本当なんだな? じゃあ、倒そ」


「もちろん、嘘です」


「アル。頼むから、疲れる嘘は止めてくれ」


「鋭意努力中」


本当かねぇ。アルルーナの半分は悪ふざけで出来ています、って感じがするんだが。

まあ、アルの特異な性格は今更か。

ん? 疲れ目かな??


「アル」


「なんですか?」


「なんか、来た道が塞がれているのだが、俺の勘違いか?」


「いえ、物の見事に岩で塞がれてますよ。つまり、『逃がさんぞ! ワレェッ!! ウルァアァァッ!!!!』って事だと思われます」


「………」


うむ、最後のはよくわからなかったが、逃亡不能、途中回避不可なイベントって事なのだろう。

しょうがない、覚悟を決めて殺れる所まで殺ってみるか。

どう考えても赤ポが持ちそうもないが。


「アル。今の内にジェノサイドモードに、30秒後に特攻するぞっ!」


「シュウ。そんなモードはありませんが?」


「気にするな、なんとなく言ってみただけだ」


「はぁ」


完全に呆れられてしまった感があるが、俺は負けない。

負けても全然構わないのだが。


「んじゃ、行きますか!!」


Simスィン


Mt.スライムに向かって勢いよく突っ込んでいく。

が、


「ぬおっ!」


残り5mの距離まで近づいた時、突然山が光りを放った。

光りが治まった後に出て来たのは、


「ハッハッハッハ、アル。デカイなぁ」


全長10mの巨大スライムであった。

合体か、元々なかった勝率が更に下がった気がする。


「奥義とか必殺わ」


「ありません」


「じゃあ、こんな事もあろうか」


「勝手にマッドサイエンティストにしないで下さい」


うん。手詰まりだ。

あれだけの数のスライムが合体したんだから、レベルなどステータス的にも大幅に上昇した筈だ。

与ダメが通るかすら怪しい。


「シュウ、来ますよ!!」


「あ、ああ、ってその巨体で飛ぶなよ!!!」


一気に押し潰そうというのか、合体スライムは通常のスライムが体当たりの際にする溜めの動作に入った。


「よ、よけ、ぐふぉっ!!」


衝撃と急激な視界の変化に対応できず、頭がくらくらする。

グッ、あの巨体でその速さは反則だろうが!!

それに一直線に飛んで来るな! 物理的におかしいだろうが!!!

HPを確認すると今の一撃で5分の2がごっそり減っている。


「ま、まずっ」


3本の赤ポを腰の鞄から取り出し、口から零れるのも気にせず一気に飲み、即座にHPを回復させる。

そして、今頃になって、やっとアルの事を思い出し見てみるとうつ伏せに倒れていた。


「アル、大丈夫か!?」


「………」


避け切れなかったのかと赤ポを取り出すが、


「どこかのノロマさんと一緒にしないで下さい。どんな強力な攻撃でも、あたらなければどうという事はないのです」


「クッ」


なんか、色んな意味で悔しい。

俺もかっこいい台詞が言いたいぞっ!


「シュウ。また来ますよ!」


「なっ」


慌ててうつ伏せに倒れ込み、なんとか体当たりと言う名の災害を避ける。

伏せながらアルを見ると、先程と同様に上手く避けたようだ。


「フッ……」


そして、見下すかの様な目線を向けられ、止めとばかりに鼻で笑われた。

ぷつんと、頭の中で何かが切れてしまった感じが――――


「クックック」


「しゅ、シュウ?」


「クックックックック、アッハッハッハ、アーッハッハッハッハッハッハッハ!!」


「ちょっと壊れてしまいましたね。からかい過ぎましたか」


アルが何か言っている様だが、もはやどうでもいい。

若干壊れ気味の思考で選び出した打開策を実行に移す。


「こんなこともあろうかと! こんなこともあろうかとぉ〜!! くうぉんなくうぉともあろうかとぉおぉ〜〜〜!!!」


鞄の中からランタンを取り出し、スライムに向けて投げつける。


「Gryyiiiiiiiii!!」


悲鳴と共にその巨体からいえば、かなり小さい身体の一部が燃え上がる。


「ヒィーッヒッヒッヒ、踊れ! 踊れッ!!」


身体に付いた火に炙られのたうつかの様に蠢くスライムを見ていると、無性に可笑しくなってくる。

実際は、この行為でスライムのHPは1ドットくらいしか減ってない。

だが、これで終わりではない。

ある物が入った紙袋を5個取り出し、スライムの真上、洞窟の天井目掛けて思いっきり投げつける。

リアルの自分の筋力では到底届かないが、ココならば、


「単細胞生物がぁ! 人間様を舐めるんじゃねぇ!!!」


「シュウ? 小麦粉な」


アルの疑問の声を遮る様に、大音響の爆発音が――――



―――――



「ん? あ……な、にが?」


まるで現実であるかの様に、意識が朦朧としている。

あれ? 何かが乗っかっているみたいに体が重く感じる。

って、


「あ、アルッ!」


俺の体に跨る様にしてアルが乗っかっていた。

ちなみに俺の今の状態は、岩の壁を背に足を伸ばして座り、その上にアルが乗っているというカタチだ。

件のアルはパチリと目を開け、


「シュウ、謝罪を要求します」


「は? 何を「謝罪を要求します!!」むぅ」


よくわからないが、謝らないと話が進みそうもない。


「多大なご迷惑とご心配をかけたことを心よりお詫びします」


「何故か妙に不快感が残る謝罪ですが、海よりも広い心で許してあげましょう。それと、早く回復しましょう」


と、持たせておいた赤ポを飲み始める。

回復?

体当たりで受けたダメージなら、


「って、死にかけじゃん」


自身のHPバーを見ると、残り2ドットくらいしかなかった。

いつのまに減ったのかはわからないが、即座に赤ポを取り出し完全回復させる。


「ふぃ〜、生き返った。……で、何が起こったんだ?」



―――――



徐々に戻り出した記憶と、アルの話を合わせてみるに。

プッツンしてしまった俺は、料理用に買っておいた小麦粉とランタンを使って粉塵爆発を起こした様だ。

昔見たアクション映画の記憶に影響を受けての行動だろうが。


「しっかし、そんな事までゲームの中で再現出来るとはねぇ。どう考えても、無駄なことに力入れ過ぎだろ」


Mt.スライムは死んだみたいだから、いいけどね。


「よくもまあ、密閉空間での爆発で生き残ったなぁ」


「完全な密閉空間じゃないですよ。岩で塞がれてたといっても、上の方は隙間がありましたし。あと、あの塞いでいた岩は無くなってました」


「イベント終了で消えたかな?」


それにしても、粉塵爆発ってRPGって感じの全くしない倒し方だな。

ゲームによっては銃器や火薬類もあるが、あくまでも弓矢や魔法の代替品的な位置付けだし。

簡単に使える分、値段が恐ろしく高い。

それが、小麦粉とランタンって、どれだけ安上がりなんだ。

安い分、ほとんど自爆技だけど……。


「ま、いっか。損したわけじゃないし」


「ポジティブ、ポジティブ」


いや、無表情で言われても怖いんだが。


「イベントの報酬って何かなぁ〜っと」


「本体と一緒に消し飛んだんじゃないですか?」


えっ?


「さ、流石にそれはないだろ? おっ、あった、あった。よかった〜」


「チィッ」


今の舌打ちは聞かなかった事にしよう。


【ヒュージスライム召還石】

異界からヒュージスライムを呼び出す事が出来る。

装飾にも使える……かも?


「『かも?』ってなんだ。『かも?』って?」


「その可能性があるという事です」


「言葉の意味を知りたいわけじゃねえよ!」


「我侭ですね」


「このっ!」


って、いかん、いかん。

アルのペースに巻き込まれてはダメだ。

ツッコミ属性がいつのまにか復活しているし、向こうの思う壺だ。

ん? これは、


「称号を獲得しました? えっ!?」


【スライムキラー】

ヒュージスライムを倒した者に与えられる称号。

スライム系の敵がノンアクティブになる。

スライム系の敵に与えるダメージが増加する。


「スライムキラーシュウ参上!! …………プッ、クックック」


はっ!?


「笑うな! それにそんな台詞言わんわぁ!!」



―――――



このイベントについてカナタさんに聞いてみた所、スライムに潰されてという不名誉な死に様を知られたくないのと、同じ目にあった仲間を増やす為に情報が伏せられていたらしい。

後の祭だが、はじめから、カナタさんに聞いとけばよかった。

ヒュージスライムを倒した事を報告するとかなり驚いていたが、称号については激しく笑われてしまった。

『スライムキラーシュウ参上』、という台詞をアルが言ったせいで余計にツボに入ってしまったらしい。

倒し方については企業秘密と誤魔化しておいた。

『転ばす』に続いて『小麦粉で粉塵爆発』では、余りに……ね。



あ〜、あと、逃げ道を塞いでいた岩だが、イベントで消えたわけじゃなかった。

ちなみに、スライムの洞窟は完全な直線一本道で、入り口は街から鉱山に行くと正面に見える。

何が言いたいかというと……いい具合に撃ち出されたみたいだ……はっはっは、笑え、笑え。

撃ち出された岩は街の広場に落ちて、露天やお客さんを何人か潰してしまったらしい……はっはっは、はぁ……流石に笑えんよ、これは……。

街の中は攻撃不可の為、ダメージが発生せず、物や建物が破壊不可能なオブジェクトなので被害は皆無だったのが、せめてもの救いである。

一時、現場の広場と某掲示板は襲撃イベントか?と騒然としたが、それから何も起こらないのでバグか何かだという事で落ち着いたようだ。

マシロさんも広場にいたらしく、WISが着て、誰がやったんだと憤慨していた……あの怒り方だと岩の下敷きになったっぽい。

怖くて絶対に本当の事言えねぇよ。

わざと暴露しそうなアルは、例の飲み物で買収しておいた方が良さそうだ。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv21 HP:697 SP:137


STR:137 VIT:168 INT:180 DEX:58 AGI:65


攻撃力:82 魔法攻撃力:99 防御力:131 魔法防御力:119 敏捷度:58


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


愛情度:733 [玩具]

満腹度:98% [満腹]


備考:

この頃、ログイン直後に背後から驚かせる事を日課にしているようだ。

初めて驚かされた時は、吃驚して顔から床に突っ込んでしまい、爆笑されてしまった……クソッ!

ただ、俺に耐性が出来た為か、新たな事に挑戦しようという兆しがある。



―――――



※1:被ダメ

受けるダメージ。


※2:与ダメ

与えるダメージ。


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