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第12話

「行くぞっ!!!」


掛け声と共に4人が一斉に掛かってくる。

戦意を挫く為にも、手早く1人を倒さなければならない。

先程の戦いを思い出し、楽そうな相手を選ぶ。


「アル、両手槍以外を足止めしてくれ」


「赤子を手で捻るようなものです」


2文字違うだけなのに、どこか猟奇的で身の毛が弥立つ台詞だ。

まあ、自信があるのならいいんだけどね。

もちろん、出来るだけ早く片付けて救援に向かうが。


「ここからは通行止めです」


「「「なっ!」」」


巧みに鞭を使い3人を足止めしてくれた。

向こうは見た目からかアルの事をこっちの戦力とは思ってなかったのか、予想外の攻撃に戸惑っている様だ。

そして、根っこの防壁を潜り抜けてきたのは、当初の予定通りの両手槍。

ではなく、両手斧だった。


「オラァッ!!」


両手斧の斬撃を咄嗟に左手の剣で受け止める。


「っ!? ……ん?」


相手が大柄だったのと、武器の見た目からかなりの衝撃を覚悟したのだが、雑誌を丸めた物で叩かれたくらいの感じしかしなかった。

こちらも吃驚したが、それ以上に相手も驚いた様だ。


「な、なんでだ?」


まあ、身長が190近くある熊の様な大男の斧による攻撃を、小柄な子供が片手で微動だにせず受け止めるなんて、リアルでは有り得ないから当然だ。

漫画やアニメ、ゲームでしか見られない光景だが、よくよく考えたらそのゲームの中である。

いやいや、こんな事考えてる場合じゃないし。

左の剣で斧を受け止めたまま、右の剣を使い《クレセント》を始動させる。


「クレセントッ!」


「な、あっ」


「スティングッ!」


そして、攻撃を受けた際に発生する硬直時間が解けない内に、空かさず左の剣で覚えたばかりの技を。

システムによるアシストを受けつつ、脇役Aの左胸目掛けて鋭い突きを放つ。


「えっ、あっ、な、にが?」


予想よりHPと防御力が低かった様で、一気にHPバーが0に近づき、勢いが止まる事無く消滅する。

パリンという、ガラスが割れたような音がすると脇役Aの外装が消えていき、バレーボールくらいの光る玉が現れた。



―――――



この光る玉は、プレイヤーが死亡した時に現れる。

何もしなければ3分間その場に残り、時間経過と共に消える。

玉が消えるとプレイヤーはホームポイントでデスペナを受け蘇生される。

操作により3分待たなくてもホームポイントに戻り蘇生は出来るが、1分間だけは何も出来ない状態で待たなければならない。

その1分間は、倒したプレイヤーにルート権が発生し、死亡したプレイヤーの所持するアイテムからランダムで2〜5個選ばれ、玉に触る事により手に入れることが出来る。

また、PKではなくMobや罠などで死亡した場合は、ルート権が発生しない。

玉が消える前に蘇生アイテムを使用すると、デスペナを受ける事無くその場で蘇生する事が出来る。


《スティング》

対象の身体を貫き動きを止める。

スキル熟練度に応じて硬直時間が増加。



―――――



素早く光る玉に手を触れアイテムを回収し、アルの元に向かう。

脇役3人は、こちらを見ていた様で呆けた顔をしてボーっと佇んでいる。


「そっちの盾持ちを1人任せる」


Jaヤー


1人目はうまく倒せたが、あれは偶々隙が出来たからなので混乱状態から立ち直る前に、後2人は倒しておきたい。

一番近くにいた片手槍に狙いを決め、全力で走る。

そして、その勢いのまま右の剣で盾を弾き、左の剣で胴を薙ぐ。


「ぐ……あっ!? このっ、ガキがっ!!」


攻撃したショックで立ち直ってしまったが、武器が槍なので利点の筈のリーチが邪魔になり取り回しが悪いらしい。

脇役Bが距離を取ろうとするのを逃さず、《スティング》で動きを止め、《クレセント》で斬り裂く。


「クソッ! 覚えて」


「ふぅ」


よし、次っ!

と、玉を叩き割る様に殴り、脇役Cに向かおうと視線を向けるが、


「なあ、アル?」


「なんですか? 脇役Dなら倒しましたよ」


「なんで俺が勝手に割り振った脇役A〜Dを把握してるんだよ!? いや、今更か。で、脇役Cは?」


「脇役Dと戦っている間に、尻尾を巻いて逃げていきました」


「そうですか」


多少拍子抜けしたが、まあいい。

相手の鈍さと、レベル、装備等、ステータス的数値に助けられたような勝利だったが、勝ちは勝ちだ。

アルが倒した脇役Dのアイテムを回収し、一息つく。


「シュウ。イメチェンですか? はっきり言って似合ってませんよ」


「ん?」


何の事かと思ったが、ふと公式HPで見た情報が思い浮かび、嫌な予感がしながら聞いてみる。


「アル。俺の目どうなってる?」


「大量殺人犯の様な目になってます」


そうだね。そうだったよ。

PKをすると白目の部分が赤くなり黒目の部分が白くなるという、迷惑な演出があるんだった。


「はぁ〜、こっちは被害者なんだけどな」


まあ、よく考えたら向こうから喧嘩を売ってきたが、こっちは攻撃を受けてないので、PK判定を受けてもしょうがない。

2人殺したから4時間はこのままだ。

当初の予定通り、クエストをしてから街まで歩けば到着する前に元に戻るだろう。

そんなに、気にする必要もないかな。


「多少アクシデントはあったけどオーガを倒そうか」


ouiウイ


いや、別に返事の多様さは求めてないから。



ちなみに、脇役A〜Cから手に入れたアイテムは、NPC店で売られている最低ランクの初期装備や赤ポ、オークの耳等のドロップ品とゴミばかりだった。


「シュウ、脇役相手に期待するだけ無駄です」


「………」


はじめから、それほど期待なんてしてなかったが、これほどとはね。

今度からは相手にせず逃げよ。疲れるだけだ。



―――――



その後、特にトラブルも無くオーガはさっくり倒し街に戻った。

余りにもあっさり終わってしまった為、PK犯状態が解除される前に街の中を歩いてしまい、まるで危険人物かの様に遠巻きから、ヒソヒソと囁きあっている。

この目から流れてくる液体は涙じゃない。

心の汗だ。そうに違いない。

まあ、知り合いと遭遇する前に解除出来たのでよかったとしよう。

知り合いと言っても2人しかいないが……。

この目から流れてくる液体は涙じゃない。

心の汗だ。そうに違いな


「シュウ、つまらない上にテンドンです」


幼女に容赦無く突っ込まれる……。

この目か


「お仕置きです」


街の中で幼女に鞭で打たれる……。

この



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv18 HP:613 SP:121


STR:116 VIT:143 INT:153 DEX:53 AGI:57


攻撃力:70 魔法攻撃力:89 防御力:113 魔法防御力:109 敏捷度:47


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


愛情度:615 [遊び道具]

満腹度:63% [小腹がすいた]


備考:

ツッコミスキルと言うより、お仕置きスキルを覚えてしまった……。

マシロさんの前では絶対発動して欲しくないものだ……。



―――――



【幻夢】では、レベルが上がると最大HP最大SPが上昇し、ステータスポイントが手に入る。

ステータスポイントは、STRとAGIに自由に振り分ける事が出来る。

STRに振ると、攻撃力が上がり重い物を持つ事が出来る――装備品の装備条件になっている場合がある――ようになる。

AGIに振ると、身体の動きが素早くなり、高AGIになると現実では有り得ない速さで走る事も可能になる。

俺の【幻夢】内での身体であるシュウの育成は、今の所STRにほぼ全振りしている。

力の強いMobの攻撃を隙を作らず受け止める為と、少ない攻撃でMobを倒す為だ。

また、急に身体の動きが変わると、素早くなるメリットよりも、慣れない速度に対応出来なくなるというデメリットの方が大きいというのも、AGIに余り振らない理由になっている。

もっとも、戦闘に慣れて来たら徐々にAGIを多く振っていくつもりであるが、あくまで予定である。



―――――



※1:STR

Strengthの略。


※2:AGI

Agilityの略。


※3:ルート権

他のプレイヤーが拾得出来ないようにゲームシステムが一定時間保護して、Mobやプレイヤーを倒したプレイヤーが優先的にアイテムを拾得できる権利。

実際はゲームによって違いますが、作中ではこんな感じの意味で使ってます。


※4:デスペナ

【幻夢】のデスペナは、『Lvに応じた経験値のロスト』と『装備品を一定確率でロストする』です。


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