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第11話

マシロさんが帰った後、これ以上は無駄だと判断し、露天を終了した。

そして、メールで呼び出したカナタさんに、50個は知り合いに宣伝する際の試食用に、残り10個はその宣伝の報酬にして欲しいと依頼した。

カナタさんの知り合いなら、恐らくテスターなので情報や慣れから、後々形成されるトップ集団になるだろう。

そういう人達なら、上級狩場のドロップ品の取引などで莫大なユリルを得るだろう。

平均的なプレイヤーを狙うよりは、その方が早い時期に高額で果実を売る事が出来て稼げるはずだ。

と、アルに言われて、「ナ、ナルホド」と思わず納得してしまった。

主従関係が著しく間違っている気がする。



―――――



現在、街から北西に歩いて2時間ほどの場所にある【亜人の巣窟】に潜入している。

今回の任務――じゃなくてクエストは、亜人に盗まれた【商人の鞄】を手に入れるのが目的だ。

既に攻略されているクエストだが、情報によるとPTパーティ推奨のクエストで難易度はなかなか高めのようだ。

まあ、俺もアルと2人PTコンビと言えなくもないので、腕試しも兼ね挑戦してみる事にしたのだ。

ちなみに、何故街のすぐ傍にそんな場所があるんだとか、何万個商人が鞄を盗まれたんだとか考えてはいけない。



―――――



「お前の顔は見飽きたっつうの!!」


『ガァァァァアァァァ』


もはや、オークなどレベルと装備で強化された俺にとって、何の障害にもならない。

哀しいかな、戦闘の手際プレイヤースキルは大して向上してない。

直ちに、他の敵を足止めしているアルの元に向かう。


「アル、お待たせ」


「遅いです、シュウ。ナンパされて困ってます」


フッ、いつまでも、俺が同じ位置で足踏みしていると思うなよ。

男子三日会わざれば刮目して見よ、という格言の意味を教えてやろう。


「モテモテで良かったじゃないか。其方の素敵な殿方達にエスコートしてもらえば?」


と、背を向ける。


「…………ッ!!」


勝った。ナニにかはわからないが。

ツッコミ属性など返上してやる。

そもそも、家の外では物静かで人見知りするような人間だったんだ。

このくらいの反撃は許容範囲だろう。


『ギェェエェェェ』


『グェェェェェエ』


『ゴォォォォゥゥ』


ん? なんだ? 新手か?

流石に、放っておくのは可哀想だと思い、手伝おうかと目を向けると、


「なっ!?」


消えていく3体のオークの姿が、そして、


「シュウ、覚悟はいいですか?」


「………」


どうやら、虎の尾を踏んでしまったようだ。

意外と導火線が短かったらしい。


「アル」


「命乞いですか?」


見苦しいとばかりに冷たい視線が向けられる。

俺は、何を言っても無駄だと諦め、無言で目を瞑る。


「いい覚悟です。一撃で葬ってあげましょう。眠りなさいっ! 《クラウンオブソーン》!!」


アルの声を人事の様に聞きながら意識を失った。



―――――



「はっ!!?」


「シュウ、どうかしましたか?」


「い、いや、なんでもないよ」


どういう事だ?

俺の覚えている最後の記憶は、アルの逆鱗に触れ殺されたのだが、あれで死んだのならホームポイントに戻る筈だ。

だが、ここはどう見ても亜人の巣窟の中である。


「ターゲットを発見しました。シュウ。シュウ?」


「あ、ああ、すまない。【オーガ】がいたのか?」


何時の間にか、最奥まで着ていたみたいだ。

全く記憶にないが、得したと思っておこう。

ちなみに、オーガはクエストを達成するのに必要なアイテム、商人の鞄を落とすMobだ。

亜人の巣窟の最奥で同時には1匹だけしか沸かない、簡単に言えばボスみたいなクエスト用のMobである。


「はい。でも」


「ん? ああ、先客か」


「ええ。そうです」


クエストを受けた別のPTがオーガと戦闘中である。

そういえば、他人の戦闘なんて気にしてなかったので、じっくり見た事が無かった。

参考になるような事がないかと、見てみるが、


「地味だな」


「面白みが無いです」


実に平凡なPTの戦い方である。

4人PTでPT構成は、片手槍盾持ち1人、両手斧1人、両手槍1人、片手剣盾持ち1人である。

以下、名前がわからないので武器で呼ぶ。

片手剣がタゲ取りをして、両手斧と両手槍の2人が背後から攻撃、タゲがそちらに移ったら片手剣が攻撃してタゲを取り、の繰り返し。

片手槍は、HPの減った人に赤ポを掛けて回復役を担当している。

堅実で失敗の少ない戦い方だが、余り萌え――いや、燃える戦い方ではない。

まあ、アルに転ばせたり、隙を作らせたりしている俺が、人の事をとやかくは言えないが。



―――――



このゲームでは、回復魔法という要素がないため、回復手段は赤ポか【ヒールクリスタル】、後はアルの奉仕の果実のような使い魔のスキルだけである。

少なくとも、今のところはであるが。

赤ポは、通常飲む事によって100%の効果を発揮するが、身体に掛ける事でも飲んだ時の半分であるが効果を得る事が出来る。

戦闘中には呑気に飲む暇はないので、他人に使う場合は掛ける方が多い。

正直、びしょ濡れになり気持ち悪いので好きではないが、万が一の為、アルにも赤ポは持たせてある。

ちなみに、赤ポは4段階に分けて回復し、2秒毎にその赤ポの総回復量の25%ずつ回復する。

ヒールクリスタルの方は、一瞬で最大HPの75%を回復するが、高価であり、ドロップ確率も低い。

cβの時は終盤にやっとドロップしていた物なので、正式サービスが開始されてからはまだ出て来てない。

ドロップが確認されたMobの所まで誰も到達してないのだろう。



―――――



「シュウ、終わったみたいです」


そんな事を考えていると、やっとオーガを倒した様だ。

まだ店売りの初級武器を使っているので、時間が掛かったみたいだ。

目的の物が手に入った様で、オーガ部屋からPTが出てくる。

入れ違いにアルと入ろうとすると、何故か止められた。


「おいおい、ソロかよ」


「PT用クエストって知らないんじゃないの?」


「情報収集は基本だろうが」


「子供を虐めてやるなよ」


ふむ。思いっきり馬鹿にされている。

勿論、PT”用”クエストではなくPT推奨クエストだと知っているし、オーガについても情報を漁って対策は考えている。

このゲームには、外装の年齢によって強さは変わらないので、育て方が同じなら老若男女で強さに違いは出ない。

正直、見た目社会人っぽいのにマナーも知らないのかと、一瞬カチンときたが、ここは大人になって無視する事にした。

もっとも、”俺は”であったが。


「シュウ、いい年した大人がかなりお馬鹿です。どうしましょう?」


「「「「………」」」」


いや、アルさん、どうしましょう? じゃないでしょ。

完全に挑発してるじゃないの。

2対4じゃ、向こうの装備がこちらより劣っているとはいえ、不利なのは変わらない。

PKされるのもするのも余りいい気分じゃないが、雰囲気的にどうしようもないだろう。

若干、諦め気味にPTの方を見てみると、予想とは違った様子である。

何故か、4人共、驚愕の視線で俺を見つめている。

どうしたのか?と不思議に思っていると、


「お、おい、シュウって言ったら」


「ああ、掲示板で」


「だよな」


「なんで、こんな所にこんなのがソロでいるんだよ」


マシロさんの時と一緒か、一体どこまで信用されて広まってるんだ。

まあ、この場合は、勘違いしてくれて助かったと見るべきか。

駄目押しに適当に構えでもとってみる。


「「「「!!!」」」」


おお、反応してる、反応してる。

調子に乗って挑発もしてみる。


「自分達より弱い相手にしか粋がれないのか?」


決まった。かなりかっこよさげ。

アルは何を馬鹿なことをと、呆れた目で見ているが。

男には女子供にはわからないマロン……、もとい、浪漫ロマンがあるんだよ、アル君。


「なっ!! テメッ」


「おい、止めろって」


「止めるな! それに、こいつが本物なら倒せばレアアイテムとか手に入るだろ」


「そうだな。チャンスだよな、よく考えれば」


「だな」


「だろ? デスペナだって、このレベルなら大した事無いし」


あら? ナニ、この展開。

いや、そこは脇役らしく、尻尾を巻いて逃げて行ってくれないと。

ひょっとしてピンチですか?


「ピンチです」


わざわざ思考を読んでまで返答してくれて、ありがとう。

うーむ。

よく考えれば、レベルと装備の差を考えると、アルがいればどうにかなるかもしれない。



―――――



アルルーナ成長日誌



Lv16 HP:557 SP:109


STR:103 VIT:126 INT:137 DEX:47 AGI:52


攻撃力:63 魔法攻撃力:81 防御力:101 魔法防御力:98 敏捷度:43


【通常攻撃】[消費SP― 無属性]

根っこを鞭のように使い攻撃する。


【悲鳴】[消費SP5 精神属性]

悲鳴を上げ対象を気絶させる。


【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]

主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。

奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。


愛情度:543 [玩具かな?]

満腹度:88% [満腹]


備考:

微かに残る記憶の片隅に……。

な、なんだ!?

思い出そうとすると、体が勝手に震えだす。



―――――



※1:タゲ取り

Mobの標的ターゲットになる事。

もしくは、他人が標的になった場合、攻撃やスキル等によって自分に標的を移す役割。


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