第9話
「そういえば、取引を忘れてたね」
「あっ、取引の為に待ち合わせしたんでしたね。忘れてました」
「シュウ」
今回は本当に寝ていたアルが、やっと起きた様だ。
てか、アルってカナタさんとは挨拶しかした事ないんじゃ。
「おはよう、アルちゃん」
「おやすみなさい、カナタ」
「いや、違うだろ!」
相変わらず、AIとは思えない言動をする奴だ。
「で、どうしたんだ?」
「義理チョコです」
「テンドンかよ!!」
「へぶちっ」
若干強めにツッコむ。
本来、俺にはツッコミ属性なんてないのに。
「もう1時間経つのか、速いな。あっ、カナタさんも1つどうです?」
「あ、ああ。よくわからないが貰うよ」
俺達のやり取りに唖然としていたようだ。
まあ、こんなステキAIは俺も見た事ないので気持ちはわかる。
「この果物、アルのスキルで出来たやつなんですよ」
「そんなスキルまであるのかい? すごいなぁ。じゃあ、ありがたく貰うよ、アルちゃん」
「どうぞ」
1つは収納し、俺も食べることにする。
しかし、
「クッ……」
先に食べたカナタさんの様子がおかしい。
まさか!?
一瞬、サラマンダーの怒りの悪夢が鮮明に脳裏を過る。
「どうしたんです? 大丈夫ですか?」
「う……」
「う?」
「美味い! めちゃめちゃ美味い!! 甘くて舌が蕩けそうだぁ」
ナニ? このハイテンションなナマモノ。
しかし、そんなに美味しいのかと、気になり食べてみる。
と、
「……!?」
このまったりとして、蕩けるような……以下略。
正直、今まで食べたどんな果物よりも美味い。
「フッ……」
隣りに座っているアルが勝ち誇ったかの様に鼻で笑うが、それに腹が立たないくらい美味い。
「これは、すごいですね」
「ああ。実際の果物の味を再現したのか、パラメーターをいじって作り出した味なのかはわからないが、今まで食べた事ないよ。こんなに美味しい果物」
嬉しいスキルだ。
こんなに美味しい物が、1時間毎に3個も手に入るなんて。
「そういえば、さっきスキルで出来たって言ったけど、どういうスキルなんだい?」
「ん〜と、簡単に言うと1時間毎に3個、この奉仕の果実っていうのが自動で出来るスキルです」
「えっ? たった1時間で3個も出来るのかい?」
「そうです」
「……」
なんか考え込んでしまった。
「シュウ君」
「なんですか?」
「これ、売るつもりないかい?」
「はぃ?」
―――――
あの後、カナタさんの怒涛の”口撃”に遭った。
絶対に儲かるだの、女性プレイヤーや料理人はいくらでも出す筈だの、最後には独占は犯罪だとまで言い出す始末。
いや、別に独占なんてしませんから。
流石に、こればっかりではいくら美味しくても飽きるだろうし。
なんとか落ち着いてもらい、さっさと取引を済ませた。
その時、奉仕の果実を1個おまけとしてつけたら、ものすごく喜んで10K値引きしてくれた。
アルのお陰なのだが、素直に感謝する気持ちが起きないのは何故だろう?
別れる際に、ぶつぶつ独り言を零していたが、大丈夫だろうか。
価格操作だの果物長者だの不穏な言葉が聞こえたが、聞かなかった事にした。
―――――
「あと3個か。でも、また1時間経てば増えるし」
むぅ。悩み所である。
狩りでの収入はドロップ運に左右されるので、安定した収入源は喉から手が出るほど欲しい。
「シュウ?」
「あ、いや、さっき、カナタさんが言ってただろ? 売ったらどうかって」
「???」
聞いてなかったのかよ!
隣りでコクコクと頷いていたのは何だったんだ!?
「奉仕の果実を売ろうか、迷ってるんだ」
「……ッ!??」
ん? なんだ?
殺人現場を目撃した人くらい驚愕した表情をしてるけど。
そういえば、”感謝の気持ちがこもった”ってアイテム情報にあったっけ。
ひょっとして、売られたりするの嫌なのかな?
だったら、アルに悪いし止めておこう。
「アル、ごめんな」
「金の卵を産む鳥」
「は? 何を言って」
「金の卵を産む鳥として、私は一生幽閉されるんだわ。そして、卵を産めなくなったら、この身体を」
「どこの悲劇のヒロインだよ! ってか、俺はロリコンじゃない!!」
―――――
果実の他に何か売れそうな物がないか、アイテムの整理も兼ねてホームポイントに戻ってきた。
決して、悪い意味で周りの注目を集め、居た堪れなくなり戻ってきたわけではない。
「【目玉】に【腐肉】、【オークの耳】に【オークの心臓】って、こんなのばっかりか!!」
死体と豚しか狩ってなかったから、碌な物がない。
まあ、見た目はあれだが、アイテム情報によると薬の調合と料理に使えるらしい。
だから、売れないって事はないだろう。
「ん? 料理って」
「シュウ?」
「い、いや。なんでもない。気にしないでくれ」
「顔が真っ青ですが?」
まさか、NPCの店の料理の中にも入ってたのか!?
食べた事ない肉だな、とは思ったが、まさかな?
きっと、使い魔用の餌に使うんだ。そうに違いない。
「そうだよな? そうだと言ってくれ、アル!」
「そうですよ」
と、アルが肯定してくれた。
考えていた内容などわかる訳ないので、適当に返事したのだろう。
それでも、第三者の口から聞いただけでも多少違う。
「よかったぁ。多少は気がまぎれる「この前、シュウが食べていたスープの中に入ってましたよ」よ?」
アル、そこを肯定して欲しくなかったよ。
何故考えが読めるのか、という疑問よりも先に、食べたスープを思い出してしまい意識を失った。
―――――
なんとか復帰するには、2時間を要した。
そして、最初に目に入ったのは、こちらに6個の果実を笑顔で差出すアルの姿だった。
受け取った俺の顔は、ちゃんと笑えていただろうか。
目から汗が流れ落ちる。
―――――
アルルーナ成長日誌
Lv15 HP:529 SP:103
STR:96 VIT:118 INT:130 DEX:44 AGI:48
攻撃力:60 魔法攻撃力:77 防御力:96 魔法防御力:93 敏捷度:41
【通常攻撃】[消費SP― 無属性]
根っこを鞭のように使い攻撃する。
【悲鳴】[消費SP5 精神属性]
悲鳴を上げ対象を気絶させる。
【奉仕の実り】[消費SP― パッシブスキル]
主人に対する想いが特殊な果実を生み出す。
奉仕の果実を1時間毎に3個自動生成。
愛情度:488 [玩具かも?]
満腹度:90% [満腹]
備考:
俺の思考を読むようになった。
親父の次は、か、いや、姉さんの影響か?
変人度が2ランクアップした感じだ。
ここら辺で食い止めないと不味い気がする……手遅れっぽいが。