槍で戦い靴で帰る
童話パロ、第5弾。今回は二作品合作です。
ツイッターで、
「白雪姫の魔女で、青い髪に銀と赤の瞳、冷徹で、槍で戦い、ドロシーを従える」
と結果が出たのでそれを参考に書いてみました(^∀^)
晴天に吹き荒れる強風。そんな中、舞い上がるようにうねる青い髪に左右で色の違う銀と赤の瞳をした女がいた。目深にかぶっていたフードは強風にあおられ既に後ろへ落ちていた。彼女の手にしているのは身長よりも長い槍。傍には赤い髪を両サイドで三つ編みにした少女を従えていた。
青い髪の女はある場所では「魔女」と呼ばれ、罪を被せられ誰も頼りになる者がいない国から逃げてここに辿りついた。彼女の罪状は、国王の姫君に毒を盛った罪。姫君に乞われて差し出した真っ赤な林檎。しかし姫君がまさかの生の果実アレルギーであったため、起こった悲劇であった。今まで菓子や飲み物に加工された果物しか召しあがってこなかった姫君は、生まれてから十六年にして初めて生の果実を食し倒れたのだ。アレルギー反応であることに気がついた魔女が迅速かつ、適切な処置をしたため姫君は一命をとりとめたが国王は大激怒。魔女の説明にも一切耳を傾けず、魔女を死刑にするよう沙汰を出した。
もちろん魔女は死を望んでいるわけではないので、逃げて逃げてここに辿りついたのだ。そして目の前に広がる黒い有象無象は魔女が逃げてきた先の国の軍隊。何の因果か、魔女が流れ着いた国に戦争をふっかけてきたのだ。
――魔女は、決断した。
「あ、あの……。お師匠」
「なんだ、ドロシー」
魔女の弟子である、迷い人のドロシーは恐る恐る魔女に声をかける。
「本当によろしいのですか? アレはお師匠の大切な故郷の大切な民なのでしょう? 今からでも遅くありません。私と共に、帰りましょう?」
ドロシーの履く、魔法の靴は持ち主が願いを唱えながらかかとを三回鳴らすとどこへでも飛べるという力を秘めている。逃げ込んだ国に、竜巻によってこの世界に迷い込んだというドロシーに魔女が色々と元の世界に帰るための路を示し後は靴を鳴らすだけ。というところで、優しく賢い師匠と慕っていた魔女が戦争に行くと知ったドロシーがついてきたのだった。
「もう決めたことだ。私は彼等と敵対し、手を出してくるというのであれば滅ぼすのみ。お前はもう帰れるのだから、手遅れになる前に帰れ」
ドロシーの願いも虚しく、頑固でいじっぱりな魔女は前を見据えたまま視線を逸らそうとしない。自分が今から手を下すことになるだろう、今は懐かしき故郷への想いを断ち切ろうとしている。
しかしドロシーも負けずに魔女に相手にされずとも、尚も言い募る。
「で、でも! そもそもどうして、女王となるべくして生まれたお師匠が婿入りの脳無夫の狂言で国を追われなければならないのです! 王として必要なカリスマ性も、能力も、誰よりも国を想う心もお持ちなのに。どうしてお師匠が『魔女』だなどと言われ、蔑まれ、憎まれなければならないのです! 本来蔑まれ憎まれるべきなのは現国王の方であるというのに!!」
ドロシーの懇願とも取れる言葉に、魔女が初めて顔を一瞬苦悶に歪めるもすぐに無表情となる。
「――民がそれを望んだのだ。私は王の器ではなかっただけだ」
前国王夫妻の一人娘として生まれ、その知能の高さやカリスマ性は幼き頃より発揮され魔女の両親も家臣も民も、彼女の誕生とこれからの国の未来が希望に包まれていることに歓喜していた。が、病弱だった母が亡くなり。最愛の妻を亡くしたショックに父も体を崩しがちになり、とうとう国王としての責務に耐えられず娘に座を譲り床に臥すようになった。父から王の座を譲り受けた魔女は許婚であった男と結婚し、王としての責務をこなしつつ。夫との間に一人娘を設けた。娘は愛らしく、天使のような美しさで魔女も夫も家臣も民も喜んだ。しかし魔女とは違い娘には王となる才はカケラもなく、純真無垢な何もしらない清らかな赤子のまま体だけが成長した。そんな娘を魔女の夫は目に入れても痛くない可愛がりようで、元より大した能力もなくヒモ状態だった夫は一切の仕事を放棄し娘と過ごすことだけに時間を割いていた。そんな夫と娘に魔女は早々に諦め、娘と民のためによい縁談をもちこむために日夜仕事に奔走した。
ある日、心労がたたり倒れてしまった魔女は自ら文献を漁った過去の記憶を頼りに栄養剤を作っていた。そんな時、娘が部屋を訪れ真っ赤にうれた林檎を初めて目にし興味のまま口にしたのだった。
「お師匠には幸せになってほしいのです。お師匠が望むのなら、時空さえも飛び越えて過去に飛んだっていいのです。だからお師匠、どうか引いて下さい。お師匠の手を汚す必要などどこにもありません!」
自分のことのように憤るドロシーに、どこかに捨ててきたと思っていた想いがまだ残っていることに驚きつつ、弟子の頭を撫でた。
「――ありがとう。ドロシー」
「お、お礼なんていりません。私と共に、この場から引いて下さればそれだけで!」
大好きな魔女に微笑まれつつ頭を撫でられ、ドロシーは顔を真っ赤に染め上げた。
「お前のその心配りは嬉しい。だが、私はひかない。未だ郷愁に囚われる、愛する故郷だからこそ。終わらせる時は私の手で終止符を打ちたいのだ。これは私のただの我が儘だ。お前が付き合う必要こそ、どこにもない。早く帰れ。お前を待っている故郷があるのだろう?」
「い、いやです! お師匠が戦場に残るのであれば、この一番弟子である私も残ります!!」
聞き分けのない子どものようにぐずるドロシーに、魔女は苦笑を浮かべつつもその瞳には優しい光を灯す。
「お帰り、良い子だから」
そう言うと、魔女は呪文を唱え始めた。
「エセラニバチモヲタカコユツキアカ」
魔女が呪文を唱え始めると、次第にドロシーの靴が光を帯び始め呪文を唱え終わると光はドロシーの身体全体を包みこみ、ドロシーの意思に反して足が動き始めた」
「や、やです! お師匠!」
一体自分の身に何が起こっているのか理解したドロシーは、瞳いっぱいに涙を浮かべ目の前の魔女に向って叫ぶ。
「まだ、帰りたくない! 帰りたくない!!」
それでも靴はすでにかかとを二回鳴らしており、あと一回鳴ってしまえばドロシーは望む場所に移動してしまう。
「いやだ、まだ帰りたくないのに……」
いやだといいながら、ここに、魔女の傍に残りたいと願いながらも、ドロシーの頭には捨てきれない故郷の景色が色濃くなり、もう視界には白い光の向こうに微かに見える魔女の優しい微笑みだけ。
「お、し……しょ」
「さようなら、ドロシー」
魔女の視界には既に白い光しか見えていない。魔女は最後にもう一つ、呪文を唱えた。
「オレイコユコイキイソチ」
「――――っ!」
何かの声の片鱗だけを残し、光が消え去った後にはドロシーの姿はどこにもなかった。
「愛するもう一人の娘。どうか、元の世界で幸せに」
魔女が最後に唱えた呪文は、ドロシーの記憶からこの世界での記憶を消す魔法。
魔女はしばらく瞼を閉じた後、冷徹とも見える無表情の仮面をつけてこれから己が戦うことになる戦場を見据えた―――。
ああ、愛しき我が故郷よ。
ああ、愛しき我が娘よ。
ああ、愛しき我が民よ。
私は生温い甘えも全て捨て、お前たちを滅ぼすだろう。だが、それを望まぬであれば、全力で私を殺しにくるがいい。皆の本気の殺気を受けたその時、私は自身が果たすべき役目だけを果たした後はこの命。惜しむことなく皆の手に委ねよう。この槍を手に、私は逃げも隠れもしない。ただ真っ直ぐに向き合おう。
後の歴史に残る、「サフィア国」を救った長槍の英雄と「ルビリア国」を悲劇に陥れた魔女が全くの同一の存在だったという史実は残っていない。
これは、何百年も後の物書きが今は滅びた両国の歴史を紐解き描いた「もしも」の可能性の一つ。
伝えられることのなかった真実は、こうして描かれるのかもしれない。
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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております