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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
6章 黒白の悪魔
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ワイルド系少女

「いてて。アザできたかな」

「大丈夫?」

「ああ。ノープロだ」


 牢屋の中で赤く染まった自分の背中を見る。


 最初カスピトラさんは自分の能力が効かないことに驚いて、俺とキスしたという事実まで頭が回っていなかったらしい。


 そしてなんでも俺が初めてなんだとか。


 そのことに気づいて顔を真っ赤にし、携帯している鞭を手に俺をぶった。


 当然逃げることも可能だったがなにせ相手はSCO、逆らう気にはなれない。


「初めてだったんです! どう責任取る気ですか!」


 鏡越しにカスピトラさんが叫ぶ。


 そうか、責任か……


「カスピトラさん。結婚しましょう」

「「ぶっ」」


 男らしく責任を取る。


「な、な、な、何を言ってるんですか!」

「責任を取ります。愛してはいませんが一生貴女だけに仕えると誓います」

「…………一番重要なものが無いの」


 まよちゃん。それは子供の意見だ。


「いいかいまよちゃん。結婚に愛なんて必要ないんだ。金銭、人間関係、性処理、生活能力、お互いがお互いを利用し合っているのが結婚なんだよ。愛だの恋だのは子供の意見だから、大人になった方が良いよ」


 愛などいらぬ。それがこの世の真理。


「でもあなた大人になれないじゃないですか」

「…………」


 ものすごく痛いところつかれた。

 ぐうの音も出ない。


「ですので、ごめんなさい」


 ふられてしまいました。


「やーい。ふられたの」

「おう。慰めろ」


 いやー。辛いなー。


 もうこんなに辛いなら恋愛なんてする必要ないなー。


「そんなことよりカスピトラさん。今日一日過ごして何か至らないことはありませんでした? もしあるのなら今すぐ改善します」

「……それ」

「はい?」

「その敬語です」

「敬語……ですか?」


 特に間違えた話法ではないはず。


「出来ればやめてくれませんか」

「そ、そんな!? 何故ですか?」


 尊敬しているのにため口で話せと?


「あなたのそれ、裏がありそうで気持ち悪いんですよ」

「…………はうあぁぁ」


 き、気持ち悪い?

 俺が?


「うぉああ」


 足腰に力が入らない。


 視界がぐるぐる周りだし、おさまった時は床とキスをしていた。


「ひっっぐ」

「ちょ。マジ泣きですか」


 もういい。


 疲れた。


 死ぬ。


「ごめんねまよちゃん。俺もう生きてられないや」

「え? は、早まるのは止めるの!!」


 自分で自分の首を絞める。


「お、お兄ちゃん!?」


 バディは一心同体、俺が死ねばまよちゃんも死ぬルール。


 でもカスピトラさんに気持ち悪いって言われたんだ。


 もうゴールしてもいいよね。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 まよちゃんは俺の手を放そうとするが、大の男と小さな女の握力は比べることすら浅はか。


「お姉ちゃん! さっき言ったこと訂正するの! でないとお兄ちゃん死んじゃう!」

「え? そ、それが目的ですし……」


 もう二人がなんて言っているのか聞き取れなくなった。


「こうなったら仕方ないの。動物さん達! お兄ちゃんを力づくで止めるの!」


 何か右手に痛みが走る。

 虫に噛まれたかな?


 ただ痛みでどうにかなるほど俺の決心はゆるくない。


「………ううぅ。お姉さん! ごめん! ゴキさん達! 隣の部屋に集合!!」

「え!? きゃ!」


 ああ……意識が朦朧としてきた。


「ご、ゴキブリ!? こんなにたくさん!?」

「もっと増やすの」

「ひぃやぁ!」

「お兄ちゃんを助けなければもっともっと増やすの!」

「わ、分かりました。分かりましたから。恰好いいです。超かっこいい、いけめーん」


 神は言っている。

 ここで死ぬ定めではないと。


「復活した! ありがとお姉ちゃん!」

「はやく! 撤収早く! きゃっ」

「ゴキさん達、撤収なの!」


 空気がおいしい。

 世界はこんなにも綺麗だったんだ。


「ん? なにがどうなってるの?」


 床から起き上がると周りにGが大量発生。


 白雪姫は小人に囲まれて目を覚ましたと聞くが、この仕打ちはあんまりじゃないのか。


 俺は靴を脱いで


「えいや。とりゃ」


 もぐら叩きの要領で潰す。


「やめて!」


 俺とゴキとの間に入るまよちゃん。


「まよちゃんどいて。そいつら殺せない」

「ゴキさんだって生きてるの。可哀想なの」


 どうやらこの子、ゴキブリに愛着がわいているようだ。


「知るか」


 現在14HIT。


「折角助けたのにお兄ちゃん酷いの。鬼いちゃんなの」

「まよちゃんは子供だから知らないかもだけどな、動物保護とかのたまいながら、人間は自分たちに害をなす生き物を絶滅に追い込んできたんだ。絶滅した動物の多くが害獣だったからがあげられる。例えば狼とか海驢とか。そうそう、最近だと……聞いてる?」

「分かんない」


 難しかったらしい。


「理解できなくてもいいからそいつら殺そうな。多くのゴキブリは病原菌を持っていることがあるからさっさと駆除するのが一番」


 50匹近くいたGも残り半分。


「お兄ちゃんは好きだけど、ゴキさん達も大切……動物さん達お兄ちゃんを止めて!!」


 鉄格子の隙間、天井の通気口から大量に虫が。


 確認できるだけでゴキブリ、ハエ、ムカデ。ヤモリ。名前の知らない虫けら共。


 その数1000。


「…………」


 特に俺は虫が苦手なわけではないが、これはキモイ。


 ピンチなんだが、このとき俺の頭はどうなっていたかというと


『ぐへへ。早苗ぇ』

『な! こいつらをどっかにやるのだ! 一樹!』

『おいおい早苗。人にものを頼むときはそれなりの態度があるだろ』

『お願いします一樹様。何でもしますから』

『今なんでもするって言ったよな? ぐへへ』

『やめろ! 本当にやめて……』




 という脳内妄想をかぎたてていた。


 自己嫌悪がやばい。


「まずは軽くするの。蚊さん達血を吸って!」


 100匹の蚊が前方に出てきた。


 おいおい嘘だろ……?


「おいお前何をしている。やめろ!」

「こうさんするならすぐにやめさせるの」

「それはない」

「ゴー――なの」


 これは……俺もギフトを使わざるを得ない。


 絵に描いた画用紙キャンパスライフ(念写するギフト)+二次色の筆レインボードリーム(二次元を三次元にするギフト)で殺虫スプレーを創造。


 このコンボは今後もよく使えそうだから便宜上技名を二次色の画用紙レインボーライフと名付けることにする。


 殺虫スプレーを両手に持ち辺り一面に吹きかける。


 バタバタとその場で落ちていく虫けらたち。


「か、勝てないの」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる。主人公様だぞ」


 あれ? 今俺なんて言った?


 神薙信一やメープルの言っていることが理解できないことはよくあったが、自分が言ってることを理解できないなんて……そんなのあり得るのか?


「??」


 まよちゃんも理解していないようだ。


 ま、いっか。


 今はそんなことどうでもよかったりする。


「くらえ」


 先ほど使った殺虫剤を大きくする。


 これくらいあれば一吹きで虫たちは致命傷を受けるだろうな。


「鬼ぃいいい、悪魔ぁああああ」


 殲滅はとっても楽しかったです。





 殲滅はとても楽しかったが、死骸が床一杯に落ちてしまった。


「まよちゃん、片づけて」

「…………や。お兄ちゃん一人でして」


 拗ねるところが子供らしいが、今日は俺がしてやろう。

 重力を使い、死骸を一か所に集め回廊洞穴クロイスターホールでポイ。


 我ながらギフトに慣れてきた。


 多分今の俺なら例外(強化して得たギフト)を除きほとんど元の使用者と同じようにギフトを使える、そう思えた。


「ん……」


 スピーカーから目覚めたような声が聞こえる。


「どうしたんですか? カスピトラさん」

「さっき頭打ってしまって」

「大丈夫ですか! 血は? 出ていてもいなくても危険です! 医務室に、嫌ならせめて僕が治療しますから」


 血が出るならもちろんだが、血が出ていないのは脳内出血をしている可能性がある。


 ともかくすぐに医者にかかるべき。


「……大丈夫です。すぐに医務室に行ってきます。それに今日いろいろ報告することがありそうなのであなたの監視今日はここまでということで」


 それは良かったが、大事にならないことを祈ろう。




 バディと仲が悪いのは不都合極まりないのは前回学んだ。

 仕方ない。機嫌を取ろう。


「まよちゃん。少し、お話ししよう」

「…………」

「まよちゃんにとって虫って何?」

「お友達。暗い部屋の中でずっと一人だったの。でもね、虫さんたちがいてくれたからまよ、さみしく無かった」


 友達か。


「初めもまよは嫌いだったから、嫌われる理由も分かるの。それでもまよにとって虫さんはどんなでも友達」


 つまり俺は友達を殺したというわけだ。


「じゃあさ、まよちゃんのギフトって」


 俺の問いにまよちゃんは


「動物とお話ができるの」


 そう答えた。


「……良いギフトだね。誇っていいよ」

「うん」


 純粋な目だ。


 嘘つきの眼じゃない。


「でもまよちゃんは人間の友達が欲しいんだよね」

「え?」

「そうじゃないなら俺と仲良くしようなんてしないだろ? だってここには1000匹の友達がいるんだから」

「そうなのかも」


 自覚してなかったのかはたまた……


 そしてなぜ多数いる女の中で彼女が男子房に来たのかも憶測だが説明できる。


 まず彼女は幼くバディとなった時下の関係になりやすい。


 対抗するのにギフトを使うが、一々虫を出されたら女性たちの間でペアを組みたがる人はいないだろう。


「ねえお兄ちゃん。まよどうしたらいいの? このまま虫さん達と友達でいいのかな? それとも虫さん達とお別れしないといけないのかな?」

「……そうだね。もしもまよちゃんが子どもだったら俺は虫たちとお別れする方を進めていた。人間は人間以外対等な関係を結ぶことができないから。でももしまよちゃんが大人だというのなら」

「大人だというのなら?」


 優しく微笑み


「自分で考えなさい」

「ずごー」


 良いツッコミだ。


「子供と大人の境界って責任を持てるかどうかなんだ。責任能力が無いと大人でも子供のように扱われる。だから大人は責任を持って自分で決めないといけない」

「……難しいの」

「ああ。難しいだろうね。俺だってどっちが正しいかはっきりといえないし、俺が知っている中でこれが正しいって答えを選べるのは大人を含め一人しかいないし、世界中どこを探してもそいつだけだろう。それくらいまよちゃんの悩みは難しい」


理解すればするほど月夜さんがいかにぶっ壊れたギフトを持っているか思い知らされる。


 度々思うがよく俺はあそこから生きて帰れた。


「そういうまよちゃんの為に、実はとっておきの抜け道があるんだ」

「抜け道?」

「そ、大人なら誰でも一度は経験したことがある秘策だ」

「詳しく聞かせるの」


 顔を近づけ俺の話を食い入るように聞く。


「それはね、先延ばしにするんだ」

「…………」

「もちろん最善の選択肢じゃない。でも最善を選びやすくなる選択肢でもある。そうだね、例えば今回まよちゃんは結局他の皆と仲良くしたいんだよね」

「……うん」

「でも虫さんとは離れたくないと」

「そうなの」

「じゃあね、俺と仲良くなろう」

「え?」

「当然まよちゃんは虫さんとも仲良くしていい。でも、それが出来るのはこの1か月だけ」


 バディが変更されるのが1か月ごと。


 それが終わればまよちゃんは女子房に戻されるだろう。


「その1か月で人間を選ぶか虫を選ぶか考えると良い。ただね、選択を先のばすのと選ばないのは意味が違うから、似ているようでいて全く違うから。それだけははき違えない様に」


 選ばない選択肢を選んだ結果がこれだからな。


「ありがとお兄ちゃん。だいすき」


 そうか。俺は俺のこと実はそんなに好きじゃ無かったりするんだけどな。





 怒涛の一日を終え就寝時間を迎える。


 どう考えても子供なまよちゃんは時間が来るとぴったり眠りについた。


 しかし俺の眼はさえ切っていろいろ考え事をしていた。

 1時間ほど考え、ようやく考えがある程度まとまり眠りにつこうとする、そんなとき。


 俺の頭に何かが落ちてくる衝撃が走った。


 落ちてきた物体を手に取るとそれが何なのかすぐにわかった。

 携帯電話だ。しかも既に通話中。


 恐る恐る耳を当てると良く知った声が聞こえてきた。


「もしもし、もしもし、嘉神君。聞こえますか?」


 声の主は真百合だった。



 6章での早苗さんの出番はこれで終了です。

 とはいえ皆勤組ですのでそんな不遇じゃないです。


 はい。

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