黒白の少年と灰色の青年
いまさらですがS4最終シングルレート2115の64位でした。
他のことを頑張るべきだと自分でも思っています
「ねえ、名前は?」
その男は俺の名を聞いたが
「120822」
俺は自分の個人情報を渡す気なんて無かった。
「いや……番号じゃなくて本名。田中とか鈴木とかあるだろ?」
「答えると思っているのか? お前のような人間の屑に俺の名を教えるとでも?」
こいつが何者なのか知れないが、悪者であることは確かだ。
殺したい。
「ハッ。同じ穴の狢なんだよ。穴に住む仲間なんだから仲良くしようぜ」
好意的に友好を築くことを無理だと悟った男はすぐに方針を転換。
一度右手でサムズアップをし、回転させサムズダウンのポーズ。
ものすごい様になっていてきっとそれがこの男の癖なんだろうとどうでもいいことを思った。
それについては何も問題ないはずだった。
問題ないはずだった。
「…………!」
生まれて初めての感覚。
鳥肌が立った。
あの女神や神薙さんと会う時のと似ているようで違う。
強いとかそんなんじゃない。
ただキモイ。
マジでキモい。
生理的に受け付けない。
「オゥエー」
その場で吐いた。
「きったね、掃除お前がやれよ」
「……」
本当に何者だ?
顔はそんなに見て吐くようなものじゃないし、ギフトを使ったとも思えない。
条件反射で吐いてしまった。
「つうかさ、お前がオレのバディーなんだろ? 仲良くしないとこっちも困るんだが」
看守による説明で、ここはバディー制度がとられている。
食事、仕事は勿論、移動するときもずっと一緒に生活することになる。
もし10メートル以上離れて5秒たてば爆発するように爆弾がセットされていると聞いた。
また何かやらかした時の連帯責任も担っている。
自分は優等生でも相方が脱走を図り殺されたら問答無用で殺される、それがここのルール。
「……俺はやっていない。無実の罪でここに入れられた」
やっとの思いで声をひねり出す。
「それこそ興味ねぇなぁ。重要なのはここにいるということ。やったかなんて誰も、オレも手前もクソ看守も一般も誰も気にしねえ。理解してるよなあ?」
「……ああ」
理解してる。
捕まって(こうなって)しまった以上、俺は公務員になれない。
そういうルールだ。
文句を言う気はないし、逆の立場なら俺だって賛成する。
ただ俺の本当の夢であるSCOは公務員、つまり夢破れたことになる。
半ば諦めていたが、完全に無理とつきつけられるとやはり心にくるものがあった。
「何でもいいが大人しくしてくれよ。オレ一応模範囚なんだからな」
模範囚?
こいつが?
「まあ、オレのこと気に食わなくてもあと一週間の辛抱だ。バディー今週で変わるしな」
そうなのか。それは知らなかった。
「それにオレはここをおさらば出来るし」
「おい、脱獄を企てているなら俺はお前を突き出すぞ」
「そんなんじゃねえって。ちゃんと法に則っての行動だ」
ならいいがこの男信用に値しないんだよな。
疑ってかかるくらいが丁度いい。
「あと名前教えないっていってもお互いの呼び方は決めとかないと面倒だろ? えっと……170822長いのでダニなんてどうだ?」
「なんでそうなるんだよ」
「下二ケタが2だろ。ダブルで2、略してダニ」
気分のいい呼ぶ方ではないが名前を呼ばれるよりましか。
「オレのことは122329だから……ニックってどうだ?」
「肉だからハエだな」
「……おっけ。ちょい顔面かせ。イケメンに整形してやる」
「クソバエ」
良い名だ。
「クソをつけんな。バーコード」
俺の髪型を見てのあだ名だろう。
悪口としてはダニよりマシなはずなのに、的確に俺の容姿を責められるとイライラする。
「バーコード」
「クソバエ」
これがお互いの呼び方となった。
ケンカするほど仲がいいというが、絶対にこいつとは仲良くなれないのだろうと心の底から思った。
囚人なので初日は甘いなんてことはない。
収容されたその日から仕事が入る。
しかし最初はここの説明をしてくれた。
まず、ここは東棟地下100階。
東棟ということは西も南も存在する。
北は唯一の女性の収容所で当然ながら全ての棟に勝手に行き来することはできないし、下手に動いたら殺される。
逆に100階といっても全てに囚人がいるわけではない。
自家発電や空調管理のための施設があったりする。
また万が一この施設を囚人ごと破壊する能力があるらしいが、ここはそれ以外にも囚人の人体実験施設や白仮面の寮の機能も備わっている。
90~99は100階を爆破しても上の階に影響が無いように防波堤のようなものらしい。
俺はここに来るときエレベーターを使ったがあのエレベーターはボタンが3つしかない、
開けるのボタン。
地上行きのボタン。
そして地下100階行きのボタン。
つまり一度乗ってしまえば途中で降りることは出来ず数分あの箱の中に入らなくてはならない。
当然エレベーターには毒ガスを散布する機能も備わっており勝手に入ったら死ぬ。
もう一つ非常時の時の為階段がある。
ただこの階段は他の階と繋がっていない。
歩き疲れた時のためトイレや休憩所があるぐらいでまともな部屋が無い。
地上とここを結ぶのはこの2つしかなく、当然階段の方もいざとなればそこに住んでいる白仮面が参戦したり、マシンガンやその他もろもろで脱獄囚を殺す。
施設のかたちはL字で横に長いのが俺たちのいる100階。
あとあの糞ダニが説明した通りバディー制度がとられる。
これくらいしないとギフトホルダーの管轄は出来ない。
最後に、ギフトの使用は極力控えるように、怪しい動きがあればそく爆破するとのことでした。
俺は糞ダニと一緒に延々と単純作業をやらされこの日の仕事を終える。
俺がここに入れられたのは昼間で、夕食が俺の最初にここでとる食事となる。
食堂には多くの囚人どもが。
支給された飯をさっさと食べる。
「おい新入り」
いつの間にか俺の周りに屈強な男たちが。
顔に入れ墨をしている輩もいる。
生粋のマゾなんだろう。
「…………なんだ」
相手する気はない。
「てめえ麻生さんに挨拶しねえか」
「は?」
「あー。すみません。こいつに説明するの忘れてました」
クソバエが平謝りをする。
「バーコード。おまえコミュニティって理解できるか」
「ああ。それが?」
理解はしてる。
「ここ東棟に麻生薬がいるんだ。知ってるだろ」
麻生薬。
「麻生組のか?」
「そうそれ」
三年前くらいに結構大きなニュースになっていた。
たしか対抗組織の綿貫組を十人くらい殺したんだった。
「麻生組の幹部だっけ? もう死刑判決出ただろ。さっさと殺せよ」
「お、おい。声でけえって!」
周りにいるすべての囚人が俺達の方を見た。
「なんだ。気持ち悪い顔こっちに向けるなよな」
クソバエは頭を抱える。
「まじ止めろ。連帯責任でオレもやばいんだって」
「知るか」
身内?争いも束の間
「ちょっとこいや」
苔の生えたような髪をしたカビ人間。
テレビで見たことがある。こいつが麻生薬だろう。
「てめえが来いよ。苔にしてやるからさ」
売られた喧嘩はさらに高値で売り返す。
麻生は買い取ってくれた。
「凶行弾丸」
指をピストルの形にして何かを飛ばした。
回避や防御は出来たがそのまま攻撃を受ける。
腹がピストルに射抜かれた感覚。
重心がぐらつき倒れそうになるがなんとか直立を維持。
その男の指を見ると、人差し指が無くなっていた。
ただそれを認識するのと同時に指が生えてきた。
うわっ。キモッ!
「はい!」
右手を上げ周囲に俺を注目させる。
「看守さん看守さん。ギフトで攻撃されました。これ明らかに規則違反ですよね。さ、爆破しちゃってください」
「「「…………」」」
ただ看守は誰もこのゴミを掃除しようとしない。
「お前馬鹿だろ。規則上は使うなって言われてるが、そんなの守る奴いるとでも思っていたのか。ここの看守はノータッチを貫いているからこそ麻生のコミュニティが出来てるんだって」
「…………」
絶望した。
「ほんとすみません。見ての通りこいつ未成年でして。オレの監督責任でもあるんですけどここはどうかオレだけは見逃してください」
クソバエが何か言っているが絶望した俺にその言葉は届かない。
「信じてたのに」
ふざけやがって。
「ふざけんな! お前ら何のために看守になったんだ! 悪党をぶっ殺すためになったんじゃないのか!?」
シーンというオノマトペがこれほどまでにふさわしい場面に遭遇したことが無い。
「いや、違うだろ」
クソバエは無視。
「無視を貫くのなら俺にも考えがある」
誰かのスプーンを掴み早歩きで麻生のもとへ。
「凶行弾丸」
もうこいつの能力は見切った。
指を銃弾にして飛ばす…………じゃなくて
「体の一部を銃弾にして飛ばす」
全ての指を飛ばし終えた後頭をこちら側に向け髪の毛を一気に飛ばした。
一般平均は十万本。
当然ギフトによる攻撃、一本だけで十分殺傷能力はあるのだろう。
「重王無宮」
重力を反転させ俺ではなく周りにいた人間に髪の弾丸が当たるようにした。
一度に10万発の弾丸を放てるギフトだが当然弱点はある。
頭をこちらに向けているため敵を目視できない。
アホみたい。本末転倒、結論ゴミ。
簡単に接近出来た。
禿げになったところを申し訳ないが頭を鷲掴み鬼人化の力で床に叩き付ける。
小規模なクレーターが作られた。
そのまま俺はマウントポジションをとる。
「お仲間は貴様の攻撃を受けてしばらく動けないから助けなんて来ないよ」
まず希望を捨てさせる。
「お、おい。何をする気だ!?」
なにか?
「罪には罰」
鬼人化した手は成人男性の顎の力よりはるかに力強かった。
左指二本で麻生の口をこじ開ける。
「お医者さんごっこ。バージョン歯医者」
先ほど持ってきたスプーンで口腔底(奥の歯肉)を当てる。
「なにふぉする!」
そりゃあ………ねえ。
「えぐる」
アイスクリームをスプーンですくうように、歯肉ごと歯を抉り取った。
「ぎゃっっぁっぁああああああ」
絶叫。
うるさいので喉にこいつの靴を小さくし詰め込んでおいた。
これで静か。
口の中から大量の血が流れ出す。
「下の歯だけで許してやるからもうちょっと頑張ろうね」
歯医者さんも上の歯は治療が面倒だからサボるってよく聞くしな。
ただ残念ながら有言実行とならず前歯2本を残し俺は看守たちに捕らえられてしまった。
懲罰室行きだそうです。
平常運転過ぎてコメントに困ります