衣川早苗 1
ヴァルヴレ〇プのMADが面白すぎて更新が遅れました。
反省していますが後悔はしていません。
帰宅して明日の授業の予習に取り掛かっていると、インターホンが鳴った。
誰だろうか?
先月の家賃ならしっかりと払ったはずだから大家さんじゃない。
いつものあれだったらいいのだが、今日は違うはず。
取りあえず出てみる。
「どちら様ですか」
「私だ」
『私だ』って言われてもな。
「えっと……衣川さん?」
「うむ。そうだが」
衣川さんが来たのは分かったが、なんか用事でもあるのか?
「言わなくては駄目か?」
「いや、言わなくては駄目でしょ」
阿吽の呼吸なんて都市伝説なんだから。
「これ、母様から」
それだけ言って俺に手紙を渡してきた。
その手紙には
『一樹君へ。
突然で悪いけど今日から一週間家を空けることになった。
別そのこと自体は何の問題もないんだよ。
ただあたしの中で女の勘が疼くんだ。
今週中に何かが起こると。
組の者も総動員するから人員も避けない。
用心棒を雇おうとしても早苗が避けてしまう。
だから早苗が少しくらい心を開いている君に早苗の護衛を頼みたい。
他人であることは分かっている。
でもこれも女の勘だが君なら早苗を救ってくれると信じている。
どうかこの通りだ。早苗を守ってほしい。
追伸 フェ○までなら許す』
衣母さん……
何で追伸書いたんだよ。書かなくてもよかったろ。
「何が書かれていたのだ?」
見せられるか。こんなの。
「大したこと書かれてなかったよ。それで衣川さんはこれ届けるためにわざわざ家に来たのか?」
「そのことだが………今晩は泊めてくれぬか?」
?!?!?!?
今衣川さんは何と言ったか。
「母様がどうしてもお前の家に泊まれと。それが嫌なら家に連れ込めと」
流石に心配し過ぎじゃあるまいか。
むしろ女子高生を男子高校生の家に泊まらせる方が危険だと思う。
「因みに断れば、衣川さんはどうなるんですか」
「………折檻Cコース」
「ウェルカムトゥマイハウス」
親の恐ろしさを俺は理解している。
「そうか。助かるぞ」
それにしても衣川さんはついている。
今日は安全な日だもんな。
危険日だったら断っていたところだった。
「その代わりと言っては何ですが一つお願い事があるんですが」
「なんだ?今回はこっちが頼む身だ。変なものじゃない限り聞いてやるが」
一応親からフ○ラの許可は出ているが別俺はそんなこと頼まない。
「どんなことがあっても、誰一人として母のことは話さないでください」
「それだけでいいのか?」
「それがいいんです。むしろそうじゃないと俺が困る」
腑に落ちない衣川さんだが、母さんに会えば納得してくれるはずだ。
「一樹くん、たっだいまー?あれ?そちらの女の子は?」
「クラスメイトの衣川早苗さんです。何でも親が旅行に行って家に一人っきりになったのですが、今彼女ストーカーに狙われている可能性があるらしいんです。ですがあくまで可能性なので警察には取り合ってもらえず、偶然知り合った男の俺に助けを求めたというわけです」
我ながら素晴らしい嘘だ。
「だったら仕方ないね。母さんが許可するよ」
さすが我が母。こう言う所は単純だ。
「えっと自己紹介がまだだったね。あたしは嘉神育美。見ての通り一樹くんの実の母親だよ」
「は……はぁ」
「あと早苗ちゃん。一樹くん安定のヘタレだから。今のご時世年下の女の子と一緒に寝るよりあなたの貞操は安全だよ」
「え…あ…はい」
いつもの衣川さんなら『この前襲われました』と言うのだろうな。
「じゃあ母さん。急いで三人分のご飯作ってくるから」
そして母は台所に消えていった。
数刻の沈黙。
そして、
「嘉神。お前の母さんって……」
「言うな。何も言うな」
俺の母さんは40のくせに身長が百四十満たないという超ロリ体系なのだ。しかも見た目は小学校の頃から変わっていないらしい(アルバム見せて貰った)
「多分小学校入学して、一番初めに親が来るなって言ったのが俺です」
ただ、母さんは写真を撮るのが大好きで機会がある度に必ずと言っていい程来る。
そして来るたびに、母親とは思われないのだ。
「一回。一緒に間違えて授業受けたことあります」
先生は双子と勘違いしたらしい。そのあと一ヶ月の懲戒免職だ。
「年齢が一桁のままで母親の身長を超えたのは有史俺くらいでしょう」
確か八歳だったか?
余談だが、母さん曰く父さんは百八十三あったらしいので、身長百七十七の俺はまだ抜けていない。
「嘉神。お前の父親ロリコンなのか?」
「それ俺何度言われたと思っていますか」
多分千回は超えている。
「生まれて初めての土下座が、高校入学式、母親が着いてくるのをやめさせたときです」
「嘉神……お前も大変だったんだな」
このあと衣川さんが俺に対する態度が少し軟化してくれた。
こんなことで同情されてもな………
「そういえば、嘉神は家事を手伝わないのか?」
「…………」
そうだよな。衣川さん知らないよな。
「衣川さん。呪いって信じますか?」
「まあ私のギフトも一種の呪いだからな。信じるだろう」
「そんなんじゃなくて、本当に本物の呪いです」
「どういうことだ?」
折角の機会だし話しておくか。
「俺、家事が出来ない呪いにかかっているんですよ」
「はっ。どうせやりたくないからの間違いだろ。私だって初めは出来なかったが今は完璧とはいかないまでも、ある程度の極致は達している」
信じそうにないので
「母さん」
「なあに一樹くん?」
「料理手伝おうか?」
がしゃんと皿が割れる音がした。
「一樹くん。あなたこのアパートを全焼させる気!?」
珍しく母が怯えている。
「冗談」
「言って良い冗談と悪い冗談があるよ!!!」
お冠である。
「と言う感じです」
「いや……それは嘉神が今までやってこなかったからでは?」
そう思いたくなるよな。
「俺が初めて料理を手伝おうとしたのが小学生の時です。ですが結果は小火騒ぎ」
「それは母親が監視してなかったからでは?」
「問題は小六の頃、家庭科の授業でみんなと料理を作っていたんですけど、その時なぜか油と灯油が間違って入っていたんですよね。危うく大惨事でした」
ガソリンじゃなくてよかったとつくづく思う。
「あと服を畳んでいる時なぜか隣の部家にトラックが衝突したりとか」
「……」
「今までで一番酷かったのが三年前の大晦日。さすがにこの日は母に任せっきりの自分の部屋の掃除を……」
「お前は自分の部屋の掃除を親に任せているのか!?」
「俺だって嫌ですよ。ですが最後まで聞いてください。ようやく片づいたと思ったら地震が起きました」
「ああ。確か正月そうそう中国地方で震度五強の地震があった記憶があるぞ。日にちが日にちだったから覚えているぞ」
なら話が早い。
「震源地が俺の部屋の真下でした」
「いや、だからお前が部屋の掃除してたからとかそんな理由じゃ」
「違うんです。震源地が、本当に俺の部屋の真下でした」
「……………………」
絶句してくれた。
「幸い死者は出なかったようですけど、あとで親にこっぴどく叱られました」
それ以来俺は一度も家事をしたことがない。
「そうだ!それはきっとホラ話だ。そうなのだろ?」
信じたくない気持ちは分かる。実際母も小六まで何があってもやらせようとしてたからな。
「じゃあそうですね。そこにあるタオル畳んでみましょうか」
「そうだな。百聞は一見にしかずだ」
俺は一度放り投げて畳む。
「ほらなにもきゃぁ」
何やら衣川さんが可愛らしい声を上げる。
そして俺の背中に抱き付いた。
その勢いで俺は頭から倒れ畳んであったバスタオルをひっくり返した。
「蜘蛛が!蜘蛛があ……」
個人的にはまだかわいい方だ思っている。酷いときなんかマムシが出た。
結果的には畳んであったバスタオルをひっくり返しただけだ。
「これで信じましたか?」
「……まだだ。きっと何かの間違いだ!」
やめた方がいいのに意地になる衣川さん。
なら仕方ない。
少し地獄を見せよう。
俺は崩れ落ちたタオルをたたみ直す。
するとどこからか、大スズメバチがやってきた。
「きゃああああああ」
慌てる衣川さん。余程虫が嫌いなのだろう。
だがしかしもう少しだけやってみよう。
「ひゃあああ」
なぜかゴキ○リが飛んできた。
「衣川さーん。いい加減認めないと多分今度は百足とかが衣川さんの身体の中を這いずり回しますよ」
「分かった!分かったからムカデだけはきゃああああ」
敗北宣言をしてくれたので俺は畳んだ衣類をまき散らした。
すると何と虫がどこかに飛んでいった。家事を邪魔すると元に戻る。
「おにいい。あくまああ」
衣川さんは半ベソである。少し気分が晴れた。
それにしても泣き顔が意外に可愛かった。
もう一回見たいくらいだ。
「衣川さん。泣いている所申し訳ございませんが散らかったのを片づけてくれませんか?」
「何で私が」
「俺がしましょうか?」
「やらせてもらおう」
そんなことをやっていると
「何か騒がしいと思ったら、一樹くん。あなたは一体何をやっているのですか」
げ。
「えっと……家事」
小さい身体でオープンブローされました。
しかも場所が場所なので更に痛い。
少しの間悶絶するのだ。
「ごめんね。一樹くんが家事なんかしちゃって」
「いいんです。私も信じなかったですから」
座布団を敷いて卓袱台でご飯を食べる。
「ごめんな。母さん料理下手で」
箸を投げつけられた。
「実際事実だろ」
身長が身長なので手が短いので、物が届かない。だからいろいろ大変だから許せというのが母さんの言い分なわけだが、いくらなんでも洗剤を間違えて入れて勿体ないからといって朝食に出されたとき、俺は自分の家事の出来なさは母さん直伝だというのを悟った。
「衣川さんも不味ければ吐いていいですよ」
「時々思うのだが、嘉神お前の思考回路少しおかしいぞ」
失礼な。
「ただ少々塩分が多すぎと思わなくはないが。あとこのカボチャ、まだ煮込み切れていないのが気になる。それに―――」
五分間くらいダメ出しをしていた。
文句を言われ続けた母さんは涙目だった。
俺が風呂を沸かすと大変なことになるので母さんが沸かす。
「衣川さん。順番はどうしますか?」
俺は気にしないのだがきっと衣川さんは気にするだろう。
「私は居候させて貰っている身だ。一番風呂など貰えるわけなかろう」
「じゃあ二番と三番。どうします?」
「最後でいい」
普通だったら俺が最初に入って次に母さんという流れが正しいのかもしれない。
ただ、母さんかなり冷たい風呂が好きでおそらく今日も20度で設定しているはずだ。
何でも貧乏なとき冷たい風呂に目覚めたとか。
なので先に母さんを入れてその後俺が調節すべきだろう。
そういえば説明していなかったが俺が住んでいる家はボロアパートである。
家賃が零三つで済むという破格すぎる物件なのだが、その分狭いので寝れる場所が俺の部屋と、今ここで飯を食べている居間にしかない。
夜中十一時。母さんは就寝した。
「衣川さんは俺の布団で寝てていいですよ」
俺は座布団を敷いて寝る。
「いや、いい」
「大丈夫ですって。ちゃんとシーツは洗っているらしいですから」
「そうじゃない。私は寝ないのだ」
「は?」
「いつあの化け物が私を襲うか分からないんだぞ」
それはそうかもだが
「どこにいくんですか?」
「屋根の上が見晴らしがいいだろ」
「……一緒に行きますよ」
「正気か?」
「いや。二人の方が安全でしょうし、二人なら交替で見張れますよ」
今の俺はある程度戦える。
「それにもう俺も関わっているのと同義ですから」
有無を言わせず着いていこう。
周期的には明日が満月で、今日はその前日。
月明りで十分に周りが見渡せる。
俺達は背中を合わせお互いの背後を監視する。
ただ真剣に護衛を続けるのは精神的に無理なので無駄話をすることにした。
「衣川さんはいつもこんな感じなんですか?」
「どういうことだ?」
「いつも夜中は一人で起きて過ごしてるんですかと聞いてます」
「まあそうなる、あいつらは夕方から夜中にしか現れない」
「疲れませんか?」
「一年前からずっとだったからもう慣れたぞ」
だが衣川さん、授業中結構の確率で寝てるぞ。
「それで授業に着いていけますか?」
「ここだけの話、赤点が二つあった」
我が学園は赤点が三つから留年である。
「何が駄目だったんですか?」
「英語と数Ⅰだ」
結構それはまずいんじゃないのかな?
「昔からあまり勉学は得意ではなかったが流石に今度のテストはまずいかもしれん」
軽く自嘲気味で嗤う。
「ところで貴様はどうなのだ。どれくらい頭がいいのだ」
「偏差値72」
「すまん。偏差値とは何だ」
「やっぱいいや。忘れてください」
一応医大が第一希望。理由は秘密。
衣川さんに勉強の話はこれ以上ついてこれそうになかったので別の話をする。
「衣川家って何故か評判悪くなって無いんですけど、実際のところ収入源は何なんですか」
「主にみかじめ料がほとんどだ。それとこの町は祭りが多いだろ?」
確かに。去年引っ越してきたら、春夏秋冬全てに祭りがあって驚いた。
「主催は全て衣川がしている」
「あの一パック三百円の?」
「……うむ」
弱いところをつかれたのだろうか。
「後は金貸しくらいか」
「闇金か」
「いや。地元民のみで利子10パーセントで貸している」
もう普通に銀行でやれよ。
「手軽さが売りの一つだぞ」
「そしてその手軽さで返済できないような借金を作らせたんですね」
「………」
あ、黙った。
「だ、大丈夫だ。担保でチャラにしているから問題ないぞ」
「担保って?」
「山などの地券だ」
「ほう」
「このあたりにある山はほぼ全て衣川のものだぞ」
衣母さん金無いって言っていたのは大嘘かよ。
「あながち嘘ではないぞ。衣川の資産は物がほとんどなのだ」
「じゃああの山も?」
俺は適当に山を指さす。
「あそこだけは違う。あの山以外が衣川の山だ」
なんか適当に指さしたところがクリティカルヒットしたようだ。
「買わないのか?」
「母様も買いたいと言っているのだが、変に近づくと攻撃されるのだ」
何その山。近づきたくないな。
こうした他愛のない会話が続いていると、いつの間にか衣川さんは寝ていた。
グッスリとは言えないまでも、すやすやの寝息を立てている。
やっぱり疲れているのだろうな。
「ああくそ。黙っていたら可愛いのに」
あとついでに泣き顔も。
膝枕をして少しでも苦がないようにする。
「綺麗な月だ」
そう思い天を仰ぐ。
ん?何やら月に穴が空いたぞ。
より詳しく表すなら俺と月の間の空間が穴がぽっかりと出てきた。
視力2.0の俺が見た所、何やらその穴から何かが落ちてきた。
もう何かはすぐに分かった。化け物である。
「やっぱ狙いは衣川さんなワケね」
こんな所まで襲いに来るとは御苦労なことだ。
本来は、眠っている衣川さんを起こし共闘するべきなのだろう。
それが最も正しいし効率的だ。
「でも駄目だよな」
眠り姫を起こすには、あと十年(マイナス九年三百六十四日十八時間)はやい。
「じゃあ、小人が命賭けで守ろうとしますか」
折角だ。鬼人化だけでなく雷電の球も使わせて貰おう。
初バトルは肋骨が折れるだけですんだ。やったね大勝利だ。
きっとこの骨折も明日になれば治ると思う。
それよりも重要なことは
「よかった。衣川さん眠ったままだ」
眠り姫は健在である。
このままなのも何なので、俺は鬼人化を使って腕を鬼化し衣川さんを抱きかかえる。
別にそのままでも出来るのだがそれだと起こす可能性があった。
その結果かどうかは知らないが衣川さんは俺の部屋についても起きなかった。
俺はこのあと一人で監視を続けた。
伏線回でした。