口映し 2
これはひどい
少し短めです。
「あー嘉神。ちょっと来い」
ホームルーム後、高嶺先生は俺を呼んだ。
「今クラスで流行っている噂。あれは本当か」
「本当です。実はギフトホルダーでした」
正直に話す。
「そうか……いつそれを知った?」
「昨日です」
先生は少し黙って
「何かあったら先生に言いなよ。お前は他人の重荷を背負おうとするくせに、自分の重荷を降ろそうとはしないんだ」
「それ、梅田先生からですか?」
元担任、現七組。
「ああ」
「いや……意外に高峰先生、生徒のアフターケア出来るんですね。確か去年新任したんじゃありませんでした?」
「お前は、人が心配しているのにお礼も言えないのか」
体罰を受けた。
ひどいな。褒めているのに。
教室にい続ける空気ではなかったので一元が始まるギリギリまで空きスペースで時間をつぶす気だったが時雨が追ってきた。
「嘉神、お互い色々あったが仲良くやろうや」
どうやら本当に仲良くできると思っているらしい。
無論、俺も仲良くしたいが
「なあ時雨。その前に、お前一回俺を殴れ」
「それでフェアになるってか?いいって。そんな下らん自己満足は。おれは仲間には優しいからよ」
「その仲間ってのは、能力者のことと考えていいんだよな」
「ああ」
「じゃあ俺はお前と仲間だと考えていいのか?」
「当たり前だろ」
そうか。
「これからよろしく」
俺は右手をさしだした。
「こちらこそ」
時雨は、俺の手を堅く握った。
「あのさ、もしよかったらでいいんだけど、時雨。お前先週、仲野に何て言われたんだ?」
「あれか。嘉神はあの野郎から聞いていなかったのか?」
「はぐらかされたからな。だから言いたくないのなら言わなくて良い」
一応真実というものを知っておきたい。
「簡単に言うと、あいつはおれ達ギフトホルダーを汚物扱いにした」
「汚物?」
「あの野郎、席、月夜の後ろだろ」
確かにそうだ。更に言うと、俺の左後ろで衣川さんの左だ。
「あの時、どんなプリントかは忘れたが、何かプリントを配っていたよなあ」
たしか、奨学金だったけ?
「その時偶然見たんだが、月夜が後ろに回したプリントを触った手を、あいつはハンカチで拭いた」
「!!!!!」
「それだけじゃない。手を拭きながら小言で『汚ねえな』だとよ」
仲野ぉ……
「それは……駄目だろ」
「ああ。さすがにカチンときた。だから俺はあの時殴りにかかったんだ」
沈黙せざるを得ない。
「待てよ。あいつ俺と一緒に帰るときにトイレに行ってくるって。でも意外に早く……」
「きっとあいつは、手を洗っていたんだろ」
絶句する。
「時雨。やっぱお前俺殴れ」
「だからいいって。おれら仲間だろ」
「そうだけどそうじゃない。明らかにあの事件はあいつが悪かった。そして俺も同罪だ。だから俺が俺を許せなくなる前に全力でぶん殴ってくれ」
どう考えても、俺が悪人じゃないか。
時雨もそれを組んでくれたらしく
「そうか。じゃ、歯を食いしばれ」
時雨は全力で俺を殴った。
正直あまり痛くなかったがそれでも心が痛かった。
そして大の字で倒れている俺を見ながら
「これでお互いチャラだ。嘉神も変に気に病むことは……ふげぇ」
時雨は後ろから殴られた。
「何をやっとるんだお前は」
一瞬だけ見えたのは高嶺先生が学級簿で時雨の頭を叩くシーンだった。
後頭部を打たれた時雨は、受け身を取れず頭から倒れてくる。
てあれ?このシチュエーション。
「「!!!」」
説明したくない。全力で説明を辞退したい。だが、しなくてはいけないので三文字で表現しよう。
「アッー」
このあと暫く時雨とは気まずくなったのは言うまでもない。
幸い見ていたのは、高嶺先生だけだった。そのあと高嶺先生は申し訳なさそうに俺達を見て
「じゅ、授業があるからな。お前ら早く席に着け」
と言って逃げ出した。
「どうした貴様ら。死にそうな顔をして」
真後ろの衣川さんが声をかけた。
「気にしないで下さい」
すると福知が眼鏡を外して
「ブゥーッ」
噴き出したのは間違いではない。
「全く君は、世界でも征服するつもりか」
休み時間、福知から声をかけた。
「鬼人化―雷電の球―柳動体。僕に言わせればどれも恐ろしいギフトだ。それを三つも一人で所有するなんて正気の沙汰とは思えない」
俺だってわざとした訳じゃないんだ。
「僕は隠しておくけど、いつか君のギフトは絶対にばれる。君が今使ってばれないのは柳動体だけだ。残り二つは、使った瞬間僕らからも嫌われると思った方がいい」
そうだろうな。自分を写し取られる上に好きでもない男からキスをのだ。誰だって嫌だろう。
「インチキ能力もいい加減にしなよ」
以前俺が言ったことを期せずして言い返された。
時雨は意外に復活が早く、昼休みはまた仲間だとか言ってくれた。
正直嬉しかった。
「そういえばお前のギフトなんだ?」
「えっと……」
どうしよう。柳動体のことを話すか?
「一応おれのは雷電の球。分かると思うが、電子を集め球として放出するギフトだ」
「あのさ。みんなギフトって隠していないの?」
「ん?まあ五分五分だ。おれや衣川は普通に使っているが、水取や生徒会長は異能を隠している。それに月夜はギフトそのものを嫌っているから自分のギフトを話したがらない」
「だから俺も話さなくていいか?」
まさかキスした相手の異能を使うことが出来るのでいま雷電の球を使えるなんて言えるわけがない。
「そうか。お前がそういうなら仕方ない。気が向いたら話してくれ」
時雨は大して気にしてないようにOKしてくれた。
俺が能力者と分かった最初の放課後
「一緒帰ろうや」
時雨から帰宅を一緒に帰ることを進められた。
鉢合わせした機会が多かったように時雨の家は俺の家の方向だった。
「なあ時雨。この機会だから聞くけど、おまえ仲野とは真逆に非能力者が嫌いなんだよな」
表情筋がピクリと動いた。
「まあそうなる」
「何かあったのか?これも言いたくないなら言わなくてもいい」
少し迷ったようだが
「嘉神。おまえ、A3って知っているか」
仲野から聞いたことがある。
「確か、アンチ(Anti)アブノーマル(Abnormal)アソシエーション(Association)。反異能者協会だったっけ」
仲野の言い分では、能力者の能力を封じ人類を皆平等とする機関だ。
「表上では人類皆平等を謳っているがやっていることは、能力者を陥れたりや殺すことだ」
「そんなのマジであるのか」
「あるんだ。そしておれは、母がA3によって殺された」
息を呑む。
「勿論、全ての無能力者がA3に関係しているわけじゃないのは分かっている。ただどうしてもおれは、みんな同じように思えてしまう。出来るやつの足を引っ張って非難する。
あいつらは弱さを言い分に強くなろうとせずに俺達を否定し続けている。その点お前は例外だった。初めてあったときは嫌いだったし殺してやろうと思ったが、今思うとお前は能力を持ってなかったくせに強くあろうとしてた」
そうだろうな。俺だって強さを求めている。
弱いと何も得られない。
俺のモットーは『強く、何より正しく』なのだ。
そのあと、俺は公平に自分の家族の話をした。
父親が死んだと思っていたら実は生きていたことと、実は父親がギフトホルダーだということを。
ギフトの内容は隠していたが、それでも時雨は黙って聞いててくれた。
「ここでお別れだ」
「じゃ、また明日」
「おう。また明日」
少し手を振った俺だった。
作者のトラウマです。
何でこんなこと書いてるんだろう……