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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
5章 嘉神一樹の同窓会ならび主人公が知ろうとしなかった物語
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Ⅳ-Ⅰ 無限ループが終わった後で

 ここからは宝瀬真百合さんの話です。


 メインヒロインとは一体誰なんでしょうか。

 今は奪われて持っていないけれど、昔持っていたギフト反辿世界リバースワールドの能力の一つに死んだら無条件で3時間『世界』が巻き戻る効果があった。

 間違いなく死ぬことは無い最硬のギフトでいつだって私を守ってくれると思っていた。


 しかし周囲の人間がすべて敵のサバイバル環境においてそれは敵に寝返った。


ループする前、睡眠薬で眠らされた私は12時に目を覚まし、14時55分に殺された。

 巻き戻った時の時間は12時ではなく11時55分。

 目が覚めるまで5分間のインターバルがある。


 この時私の脳内はレム睡眠状態であり、夢を見る状態だった。

 その時の夢は重要でも何でもなくすぐに忘れる夢だ。


 そして2週目、死んだのは14時30分

 遡った時の時刻は11時30分。

 30分間夢を見る。


 目が覚める。そして殺される。


 また夢を見る。


 死ぬ。


 夢を見る。


 死ぬ。


 夢を見る。


 死ぬ。


 生き残る夢を見る。


 死ぬ。


 殺される夢を見る。


 死ぬ。




 繰り返し。





 1000回を超えたくらいで、夢と現実の区別がつかなくなっていた。


 夢の中で助かったり、殺されたりしていた。


 ありとあらゆる希望は夢だった。


 親が助けに来てくれたのも夢。

 友と共に戦ったのも夢。

 実はドッキリだというのも夢。

 夢オチすらも夢だった。


 ここまでくると良いことがあったら夢なんかじゃないかと思い始める。

 だから希望を持つことを途中でやめた。

 現実は理不尽に殺され犯され壊されていく。


 それでも何も生まない夢よりかは数段マシだった。


 夢は奇跡をおこす。

 好きなだけ起こしてくれる。

 そして落とすのだ。私を絶望に。


 ここら辺から私は狂い始めたと思う。


 不確かな希望より確かな絶望を望み始めた。

 こうなってしまったらもはや破滅だ。


 そう。私はもう破滅している。

 どうしようもないほどに狂っている。




 結論を言えば、私はループから抜け出すことは出来た。


 抜け出す方法は簡単で嘉神君に従うこと。

 素晴らしいほど完璧な答えで、笑っちゃうほどにふざけた答えだった。

 自分は何もせず、たった一人の個人に頼る。


 あっけなく終わったのだ。

 自分の全ての行動よりもたった一人の気まぐれが上回っている。


 ああそうなんだ。自分と彼とはそれくらい差があるんだ。そんな当たり前を今更ながら痛感した。


 終わった後、私の日常は彼と共にあった。

 楽しかった。幸せだった。満ちていた。

 彼と共にあるすべてが愛おしかった。


 楽園の産物だった。


 ただ今度は眠るのが怖くなった。

 実は今この助かっている現実が夢に堕ちる、そんなオチが待っている気がした。

 当然嘉神君と一緒に過ごしている今を現実と認識してはいる。

 ただ私の中では良いことは夢物語だ。


 私にとって現実は理不尽で都合のいいことが夢。

 幸せを現実のものだと認識できない。

 檻にいるのか楽園にいるのか分からない。


 そんな時、私は確かな答えをえるために刺激を求めるのだ。


 苦しさを。恥ずかしさを。痛みを。辛さを。苦汁を。恥辱を。激痛を。辛酸を。


 そんなものが無いと私は現実を現実と認識できない。


 今こうして生きていることが納得できない。


 でもそれがあるからこそ私は私を認識できる。

 生きているって実感できる。

 狂っている、終わっていると言われるかもしれないがそれでもいい。


 楽園にいるのにそれ以上を望む気なんてない。


 楽園いまより幸せなことを望む気にはなれない。

 もし嘉神君と寄り添えるなら文字通り何でもするのだろう。

 人だって殺せるし、今以上に自分を壊せる。


 ただそれはしない。万が一にも追放のリスクがあるのだから。




 あのコロシアイを通じて昔の私と変わったのは3つ。



 眠るという行為を安直にできなくなったこと。

 全てにおいて嘉神一樹を優先するということ。

 被虐趣味を持ち合わせるようになったこと。




 もしこれを昔の私が知ればきっと卒倒するのでしょうね。

 今の私が昔の私の一番なりたくない存在なのだから。


 一昔前の私、水晶や琥珀とつるんでいた頃の私。


 男というのが嫌いで、若干フェミニストの気もあった。

 その理由は親への反抗。


 宝瀬は奉仕から変形した名前。


 奴隷の名。


 日本の頂点に君臨しながら生まれながらの奴隷。


 それが宝瀬。


 幼いころそれを嫌というほど母から叩き込まれた。


 鞭の味を小学生になる前に知っている。

 飢えの苦しみを小3と小5に味わった。

 嫌な言葉を何度も言われ言わされた。


 それでも私は戦った。


 いつかは親元を離れて独立する、そういう夢があったし私なら絶対に出来ると思っていた。

 幸い私には才能があった。

 百年に一度の天才、ガリレオの再来とすら言われ、その自覚もあった。


 株に手をだし、資金を10倍に増やしたこともある。

 絶対に成功する。そんな風に己惚れていた。



 で、このざま。


 結局私は宝瀬の血に勝てなかったのだ。









 朝の陽射しで目が覚めた。

 今日は夢を見ていない。


 見ていないということは無いのでしょうけれど、覚えていない。


 覚えていない夢というのはいいものだ。それまでの物だったのだから。


 体を起こし最早日課になっていることを。


「おはよう嘉神君」


 もちろん嘉神君は私の家になんかいない。


 した相手は四方に貼られた彼の写真。


 たった24畳ほどしかない小さな寝室に、嘉神君の痕跡がある。


 私に盗撮する度胸はないから監視カメラの映像を画像化したものが大半だ。


 我ながら充実した朝を迎えている。


 その後すぐにメールを確認。

 嘉神君からの着信が無いかを確かめる。

 来ていないわね。残念。




 身支度をして学校へ。


「おはようございます、真百合さん」


 琥珀が私に挨拶をするが私はそれに答えない。


 薄情かと言われるかもしれないが、かつて琥珀は数十回私を殺したことがあるのだ。


 本人は覚えていないので悪意はない。


 だが私は覚えている。悪意を持って私を殺した。


 白々しい。こいつは加害者。その加害者が図々しくも私の気をひこうとしている。


 正直目の前から消えてほしい。


「消えて」


 それを素直な気持ちで伝えた。


「そ、そうですか」


 琥珀は黙って学校内へ入っていく。


しまったわ。二度と話しかけないでと伝えるのを忘れていた。


 次話しかけられたらそれも伝えておきましょう。


 下駄箱内に1通の手紙が。


 いつものことなので読まずに破棄。


 そのまま2年10組へむかう。


 私がクラスを1年落としたのは勿論嘉神君と同じクラスになるためなわけだが、それと他の理由として悪意の少なさがある。


 この2年10組のメンバーは3年10組と比べ、私を殺した回数が圧倒的に少ないのだ。


 早苗と時雨君は殺したことが無い。


 ならば仲良く出来るかと言われれば、それは別問題。


 この二人は嘉神君と仲がいい。


 私と嘉神君との時間を奪う存在なのだ。迫害して当然だがそんなことしたら一番怒るのは嘉神君なのでやらない。


 その肝心の嘉神君だが、今九州外れにいるらしい。


 何をしているのかわからないが、誰かを探しているとの報告がある。


 つまり今彼はここにいない。故に私もここにいる必要はない。


 ではなぜいるか? それは彼にこう命令されたからである。


『学校に行け』と。


 命令されたのだ。行くしかない。

 でも命令されたのは行くことに関してだけであり、授業に出席しろとは言われていない。


 だからホームルームだけ参加し、あとは早退する。


 そのことに誰も文句を言う人間はいない。


 それはきっと私が宝瀬であるのと同時に、狂人であることの裏返しなのだろう。




 ホームルームが終わり、鞄を持って昇降口にむかうのだが


「ちょっとまってください。少しお話ししましょうよ。宝瀬さん」


 月夜幸が私を呼び止めた。


 そしてこの日が私の中で2番目に長い1日になるのは予想していなかった。




 最近ループネタが多い気がしたので、その続きもあっていいんじゃないかと思った今日この頃

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