参ノ参 三下の能力
急いで書いたので誤字脱字が多いかもしれません。
薄れゆく意識の中、走馬灯を見ていた。
思い出していたのは文化祭が終わった時の俺と父さんとの会話。
俺はあの時
『『時間』や『運命』の能力から逃れられる方法を教えろ』
『それ先聞け』
確かそうそう。俺は父さんから能力の潰し方を教わったんだ。
『神薙さんから聞いたことあると思うが、能力には『論外』『時間』『運命』『世界』『法則』『物語』『複合』の7種がある。一樹は『物語』父さんは『法則』だ』
そして優先順位が、『物語』『法則』……『時間』となっていくんだった。
その能力者は2階級下の能力を無視できるという話。
『つまり一樹は『世界』『運命』『時間』の能力を無視できるわけだ』
『知ってる。どうやるんだ』
『簡単だ。踏み潰せばいい』
『踏み潰す? 』
『『時間』を止める。『運命』を操る。実に恐ろしい能力だ。だがそれらはオレ達にとってはカモだ。巨人にとって獅子は別段恐ろしくもなんともない。恐ろしいと思っているのはそれ以下の存在だけで、巨人は違う。どんな牙を持っていようが踏み潰せば関係ない』
『そうだな、だから俺はそれをどうすればいいか聞きたいんだが』
父さんは意外なことを答えたんだっけ。
『一樹は虫を踏み潰すのに特別な何かが必要か?
必要じゃないだろ。邪魔をするのは己の精神的な弱さだけ。
相手の強さを認めるのではなく、見下せ
相手は強敵ではない。ただのクマムシだ。
高温も零度も放射能もそれは耐えることが出来るだろう。
しかしそれがどんなに優れていても
潰せば死ぬ単なる虫けらだ。
生き死にを決めるのはいつだってオレ達強者。
虫に慈悲など与えてはならない
認めず潰せ。踏み潰せ。己の意思で圧殺しろ』
「うっせえな」
「……! 」
俺は深く息を吸った。
素子ちゃんは飛び跳ね俺と距離をとる。
「三下が。『運命』如き三下が。この俺に挑もうとは。片腹痛い」
呼吸が出来た。
あの女神が言っていた。因果も『運命』に含まれると。
「因果関係の削除。恐ろしい。実に恐ろしい。この俺が正体を見破ることが出来なかった。そして対策法も思いつかなかった。ただな、どんなに優れた能力だろうがそれが運命に含まれる時点で、三下なんだ。物語の俺にとっては三つ下の、三下なんだ」
物語
法則
世界
運命
『物語』にとって『運命』は文字通り三下だ。
「悪いが素子ちゃん。お遊びはここまでだ。戦いもここまでだ。こっからは狩りの時間だ」
「…………」
彼女は逃げた。
一目散に。
良い判断だ。あのまま俺の近くにいればそのまま殺されていただろう。
「待て」
「待たない! 占里眼、有体離脱」
ギフトとシンボルを同時に使って逃げようとするが、どちらもクラスは『運命』
それがどんなに強かろうが
どんなに優れていようが
格下の三下で、下等で下劣な相手。
「どうしたもっと走ってみろ。運命見れるんだろ? 因果関係消せるんだろ? 」
踏み潰す。
俺は『運命』を踏み潰す。
墓石の近くに合った石ころを掴み、投げた。
普通の相手なら占里眼で、対応できる。
「きゃ!」
彼女が予期せぬ方向に向かった石は左足に当たり、素子ちゃんはこけた。
倒れている状態の中で重力を操るギフト、重王無宮を発動。
彼女の周りの重力だけを10倍に。
「動けアタシ――――今動かないと次なんて――――」
「這いつくばって。似合ってるな」
体重が400キロ増えたんだ。
動けるわけが無かった。
「有体離脱!! 有体離脱!! 」
ただ彼女は必死に生にしがみつく。
「重力と重さの因果を消したか。確かにそれは素子ちゃんの問題だから俺も踏み潰しようがない。ただ、今の俺からつけられた傷は果たせて消せるのかな」
俺は持っていた日本刀を投げた。
真っ直ぐとそれは彼女の足に刺さった。
「イ゛タ゛イぃぃああ」
「うるさいな。たかが剣一本刺さっただけじゃないか」
このまま畳みかけようとした時、携帯に着信が。
本来戦闘中電話に出るなんてご法度だが、能力を踏み潰すことで一番重要なのは相手にしないということなので出ることにした。
相手を確認すると真百合だった。
最近寝る前に彼女のメールを数十件返信するのが日課になっていたが、直接電話をかけてくるとは珍しい。
何かあったのだろうか。
「もしもし? いつもあなたの心の中に、正義の戦士、嘉神君ですが」
「いつもあなたを私の中に、愛の肉奴隷、宝瀬真百合よ」
ジョークをとんでもない方向で返された。
流石は真百合である。どこが流石なのかは俺も分かっていないが。
ちらりと素子ちゃんの方を見ると這いつくばってでも逃げようとしていたので、一本剣を複製し突きさしておいた。
「っぎゃあああああ。いたいあああああああいいああ」
率直に言おう。うるさい。
「いたいよぉお。抜いていつきいい!! 」
「誰がぬくかよ。今いいところじゃないか」
「え? え?」
「ごめんごめん。何かよう? 」
「 」
「なに? 」
聞こえない。
というか、何も言っていないんじゃ……
「いえ。ごめんなさい。忘れて」
「あ、そう? 」
何だったんだ?
「あのね。質問をしたいのだけど」
「なに? 」
「嘉神君は私のこと……大切? 」
「当たり前だろ。頭でも狂ったのか? 」
「そうかもね。きっとそうなのよね」
冗談のつもりだったんだが
「なんかやばいことが起きているならすぐそっちに向かおうか? 」
「 いえ。大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
本人がそういうのならそうなのか?
ただなんか、嫌な予感が。
「質問の続きなのだけど、じゃあ私は、私の為にどこまでしていい? 」
「どこまでって?」
俺は質問の意図が良くわからなかったが、適当に応答した。
用が済んだので、電話を切る。
「お待たせ素子ちゃん。今生きてる? 」
血だらけになっているが、まだ動いている。
「降参。助けて」
「降参とか無いから。このまま死んで」
「……口約束するから。アタシはギフトもシンボルも使わない」
どうやら本当に降参するようだ。
意外とあっけない。
ただ、あっけなくていい。
むしろ今までがやりすぎた。
俺が遊び過ぎた結果なのだ。
「…………最期にあんたと話がしたい」
そういうことなら……いいか。
複製した日本刀を消し、オリジナルをぬく。
「…………………」
「話って何? 」
「ねえ。あんたギフト使って無いの? 」
躾けられた支配者のことか。
「別に良いだろ。俺は素子ちゃんが降参するって聞いてそれを信じているから」
「…………あんたって普段は頭いいのに、たまに誰よりもばかになるよね」
「そんなことが俺に言いたかったことなのか? 」
「……違うけど」
「ならさっさと本題を話せ」
時間は有限。素子ちゃんを殺して次にいこう。
「あのさ、アタシが自殺した理由理解してる? 」
彼女の死因は自殺である。
「俺の制裁だろ? ただ断っておくが俺は頭下げないから。お前が悪いから」
「……そう。やっぱ分かってないんだ」
分からん女だ。
「ねえ。あんたアタシが消えても覚えていてくれる? 」
「そりゃ、忘れないよ。多分だけど約束はしないけど」
「アタシあんたのそういう所が嫌い」
元カノに嫌われました。もう終わりである。
「こういうのは嘘でもいいから絶対に忘れないっていってほしいんだけど」
「出来ない約束はしない主義」
「絶対嘘だ」
そうだな。嘘だ。
「ほんとなんでアタシあんたと付き合ってたんだろ」
「そりゃ、当時中学生の素子ちゃんは、誰かと付き合うことが一種のステータスだと勘違いしてたんだろ」
「………………………あんたそう認識だったんだ」
そういう認識って。それ以外何があるんだ?
「知らない方が良かった事実どうもありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言われたらどういたしましてと返す。
親しき中にも礼儀あり。
「話ってそれだけ? だったらもう終わらせるが」
「え? えっと……アタシ最後にあんたとデートしたいんだけど」
「だめ。ここで死ね。そもそも死んだ人間が口を開くなよ」
「きびし」
「他には? 」
「……そ、そうだ。三丁目の山口さんの犬どうなってる? 」
「素子ちゃん。もういい? 」
「…………あ、そうだ。一緒にコロッケ食べに行こう!! 昔は2人でいってたでしょ? 最期に」
「鬼人化」
これ以上話ことは無いと見た。
「いやだ。アタシ消えたくない。消えたくなんかない」
「悪いとは思ってる。ただもう素子ちゃんは死んでるじゃないか。生者と死者。どっちを救うかなんて比べるまでも無い」
爪を首に。
「約束。約束して!! アタシのこと絶対に忘れないって!! 」
「同じことを言わせるなって。そんな約束できない」
さようなら。
俺は彼女の首を刎ねた。
弧を描くように顔が飛んでいく。
終わった。
いとも簡単に終わらせた。
さよなら素子ちゃん。あんたと過ごした日々をたぶん俺は忘れない。
「有体離脱。脳の伝令と体の動きの因果関係を削除した」
酷い女である。
使わないって約束したじゃないか。
使ったらもうあんたを潰すしかないじゃないか。
「……」
彼女は最期の力を振り絞り俺を押さえた。
ただその手に敵意なんて無かった。
首だけになった素子ちゃんが飛んできた。
一種のホラーだ。
その首は一直線に俺を目指す・
逃げることも防ぐことも出来たが、なぜかそれは出来なかった。
何だろうな……この力。
俺が知ることのできないなんか。
あで始まっていで終わるそんななにか。
素子ちゃんは何をトチ狂ったか俺とキスをした。
わざわざ約束を破ってまでである。
何を考えているのか。
「有体離脱はシンボルだから無理だけど、占里眼をあんたに渡す。これで少しはあんたの役に立てたでしょ」
そういえば、俺と素子ちゃんはキスしたことなかったんだっけ。
これが初めてのキスとなる。
「ありがとう。そしてさよなら」
「待って!! あんたとはいっぱいやな思い出もあったけど、それでもアタシあんたのことが 」
彼女を潰した。
存在を認めない。
話の途中だったが、これ以上話に付き合ってられなかった。
だって女の話ってすごく長いから。
早めに打ち切るのがコツである。
彼女のお墓は無くなっていた。
存在が消えたのだ。
これで真百合の安全は保障されたことになる。
あーあ。何か疲れた。
お腹すいた。
折角だからコロッケを食おう。
町まで下りて
「おばちゃん。コロッケ2つ」
思い出のコロッケを頬張った。
ただ数年たつとおばちゃんの腕が落ちたようで、塩加減を間違えていた。
しょっぱい。