文化祭の準備 2
なんかもうほんとすみません。
「それでは、第二百回博優学園文化祭を始めます、始める前に自己紹介を。生徒会長二年十組の宝瀬真百合です」
「副会長、三年十組笹見水晶」
「会計四楓院琥珀ですわ」
「アタクシは書記の、大賀茂翡翠。よろしくお願いしますわ」
「庶務の、溝端真珠でーす。よーろしくねー」
博優学園の誇るジュエリーシスターズ。
本来生徒会は教師よりも権限を持つことはあり得ない。
しかし、宝瀬の傘下にある笹見、四楓院、大賀茂、溝端は大企業でありこの四人はその家系の一族。
つまりとっても金持ち。
宝瀬の様に年収何十兆の宝瀬とは言わないが、個々の企業が何十億と稼いでいる大人は知らないと恥ずかしい有名な企業だ。
ただ真百合の様に継承権がある、しかも一位、とかそういう人間ではない。
末端だったり家計を継ぐことが許されたりしてない娘さん達だ。
そういった人間の役目は他の企業と仲良くするための駒らしい。
だから彼女たちがここにいる理由というのは、『宝瀬真百合がここにいるから』に尽きる。
宝瀬の娘と仲良くしてそのお零れを貰うという重要な役割を任されているらしい。
ただ本人たちはそんなこと気にせず、真百合と仲良くしているが。
何で俺がこんなに知っているかというと、真百合に教えてもらったからだ。
決してストーカーというわけではない。悪しからず。
ただ一人一人金の暴力で他人を潰せる力はあるのは事実だが。
…………つうかこの町おかしいだろ。
神陵祭町は関西のしかも政令指定都市でもない至って普通の、しかも市ではなく町なんだ。
早苗は衣川組の娘だし、時雨の父親は銀行の専務をやっているらしい。
一方俺はボロアパートで母親と暮らしている。
何だこの格差は。人間は生まれながらにして平等ではなかったのか。
まあ、そんなことはおいといて今は文化祭の予算案である。
「次に予算の方ですが、展示やパフォーマンス関係の出し物は一万、食品売買の出し物は二万円が支給されます。追加要求される方はいますか」
さあいくぞ。こっからは俺の時間だ。
「異議あり!予算が足りない!」
今のは俺じゃないよ。三年の体育会系っぽい人が第一声をあげる。
いきなり出ばなを挫かれてしまった。
「三年四組の出し物は劇ね。いったい何が足りないのかしら」
真百合が淡々と資料を読み返す。
なんか怖い。
それをキラキラとした目で見るジュエリーシスターズ。
めっちゃキモイ。
「衣装のレンタルが最低一泊3000円する。3000×5で最低でも15000円必要でさらに……」
「話にならないわね。なんで企業から借りようとするのよ。自作したらいいじゃない。去年劇やっていたクラスがあって、題材はオズの魔法使いだったけど、衣装代なんて3000円もしなかったわ。創意工夫が足りないんじゃないの」
「しかし制作したとしてもそれでも予算が……」
軽くため息をついてゴミを見るかのように真百合は死刑宣告……じゃなかった、最終的な判決を出す。
「要求するというのはやるべきこと必要なことを終えてから求めることなのよ。あなた努力した?必要なことしないで乞食の様にお金を求めるのは止めてもらえないかしら。本当に必要だとしたら一万だって十万だって支給します。ですがあなたのそれは自分の生活環境を変えようとしないで生活保護を求めようとする賎しい考えだわ。つまりあなたの要求は却下よ」
「……すみません」
全く悪く無い三年の先輩が謝った。
「他に、追加で請求ある人はいますか?」
誰一人として動かなかった。
俺ですら一瞬呑まれていた。
だがそれでも追加予算は必要なのに変わりはない。
俺は勢いよく立ち上がる。
「二年十組嘉神一樹です。生徒会長予算についてご相談があります」
全員の注目がこちらに集中する。
「発言を許可します」
微笑みながら俺を見る。
いつも一緒にいるときの真百合の華のような笑顔ではなく、壇上にたっている時のように乾いていながらも底の見えない海のような笑顔だった。
ただその笑みに屈しない。
俺の役割はここで要求を強引にでも通すこと。
追加で一万、出来れば二万欲しいところ。
そこを俺は
「最初にこちらの要求から言います。追加で三万だ。俺は合計予算五万の要求をする」
あえて多めの三万を請求した。
「はぁ?なめてんのか?」
「そうですわ。そんなの通るわけありません!!」
ジュエリーシスターズだけではなく、他の委員からも文句が出る。
もちろん俺だって通るなんて思っちゃいない。
ここから妥協する素振りを見せる。
こっちは妥協してやるんだと見せつけてやる。
先日早苗相手に使った詐欺テクニック、ドア・イン・ザ・フェイスを再び使う。
「ねえ」
「はい?」
「私、甘かったのかしら?」
「はあ?」
「あなたから舐めてもらうのは一向に構わないのだけれど、その時の私は甘かったかしら?早苗と同じ手に引っかかるような甘ちゃんだったと思うのなら、味覚障害を疑った方が良いわね」
「……………」
背筋に冷たい汗が流れる。
これは…………いや~~~~な予感。
「いいでしょう。二年十組には追加で三万円、認めます」
すんなりと予算の請求は通った。
「やったね嘉神くん」
おいやめろ八重崎。
フラグ抜きにして俺の警戒信号が鳴りっぱなしなのだ。
「ただし」
そして真百合は恐ろしいことを言い出した。
「その他の一年から三年までのクラスの予算を全てマイナス千円とします」
「「「???」」」
「そうでしょ?博優学園が私立である以上私たち生徒が使える予算が限られています。その中で三万円という大金を使うのですからそれなりの節約は必要です。そうなった場合、最初に節約するべきところは同じ文化祭予算というのが筋というものです」
真百合は淡々と発言する。
「こっちだってギリギリでやってるんだぞ!」
「横暴だ!」
「二年十組贔屓もいい加減にしろ!」
数人が文句を言い出すのを皮切りに、一斉に委員の皆が文句を言い出した。
「…………」
これは……そういうことか。
次の真百合の行動が読める。
恐らく真百合の台詞はこうだろう。
「「反対意見があるのなら、私にではなく二年十組にどうぞ」」
自分でNOというわけではなく、周りを使って俺にNOと言わせる。
俺と敵対せずに戦う。
自分では戦わずに他人に戦わせるように仕向ける。
宝瀬真百合、恐ろしい子!!
「二年十組、本当に予算五万もいるのか!?」
ガラの悪い先輩ががんを飛ばしてきた。
「えっ、えっと……そんなには」
八重崎がおどおどしながらそんなにいらないことを伝えようとするが
「いいえ、いりますよ」
俺はその発言を無理矢理打ち切らせ、そのまま突っ切ることにした。
「嘉神くん!?」
八重崎が一番戸惑い始めた。
状況が変わったんだ。
このまま『実はそんなにいりませーん』というとする。
こうなると真百合は強いては他の誰かが次の台詞を言い出すだろう。
『実はもっと削減できるんじゃないか?』
それは出来ない。
ただ出来ないことを言い張っても一度下げた以上もうちょっと下げれるんじゃないかという心理が働く。
何度も言うが最低でも三万は必須、目標として四万なんだ。
このまま五万で通しながらも下げる方法をとらないと四万から三万強いては二万五千みたくなってしまう。
だから五万と言って多少強引ながらも通してその後妥協する素振りを見せないと数の暴力によって潰されてしまうのが容易に予想できる。
「これだよ。これが真百合なんだよ」
笹見先輩がしたり顔になっている。
ちょっとうざい。
「いつもの真百合さんで安心しましたわ」
大賀茂が得意顔になっている。
後で泣かす。
ただ今はこの苦難を乗り切るのが先だ。
この後俺の必死の説明によって、何とか予算を四万円まで手に入れることが出来た。
全クラスの追加予算請求が終え、その他もろもろの説明が終了した時は会議開始から二時間たっていた。
主に二年十組の予算関連で時間の四分の一使ったのだが、はっきり言ってわざとである。
三十分もたてば、周りは疲れや飽きが出てくるのでもういいやと思わせたのが成功した要因だろう。
真百合はこのことに気づいていたっぽいが何も言ってこなかった。
昇降口にて
「じゃあな八重崎、また明日」
俺と八重崎の変える方向は逆だったはずだったので、ここでお別れだ。
「待って」
「?」
待った。
「嘉神くん。ワタシ、邪魔になってない?」
「何のこと?」
「文化祭……だけじゃなくてその他もろもろのことだよ」
「ますますわからん」
こいつは一体何が言いたいんだろうか。
「少し相談したいんだけどいいかな?」
「構わないが、俺一人で解決できる範囲でしてくれよ?」
相談されたからには解決までしてあげたい。
「ワタシね、異能者に憧れてるんだ」
「へえ?なんで?」
まあこういう奴もいるか。
ソースはないがこういう人間はA3より多いらしいから八重崎もその一人なんだろう。
「かっこいいからだよ。なんというかキラキラしているんだ」
「は?」
「ずっと思ってた。そして今日その思いがずっと強くなったんだよ」
「だから何?」
八重崎は一度深く深呼吸をした後
「みんなね、自分に自信を持っている気がするんだ。早苗ちゃんも幸ちゃんも、自分は特別だって意識がある。ワタシには無い。だからみんな強いしワタシは弱い」
いやいや、こいつはもうほんとに
「ばっかじゃなかろうか」
「え?」
「お前のその発言、要はあれだろ?自分は能力者じゃないから何やっても出来ませんっていいたいんでしょ?」
「そんなつもり」
「いいや、ある」
否定意見を言う前に強制的に打ち切らせる。
「いいか八重崎、一つ教えておく。今現在お前が自分のことをどんなにできない奴かは知らない。だがな、たとえ八重崎がこれから全知全能の能力を手に入れたとしてもその変わりたい自分には絶対になれない」
「どうして?」
「自分の力で何とかしようとしない人間が、誰かから能力を手に入れたところで所詮は今まで何もやってこなかった器、何でも出来るが何をすればいいか分からない」
「そんなことない!もし本当に能力者だったら」
「もしだのればだの可能性の話を話すんじゃない。俺達は配られたカードで戦わなくてはならない。そしてな、カードチェンジなんて出来ないんだ。そのカードで突っ切るしかないんだよ」
こいつは、俺の元カノだった坂土素子に似ている。
出来る奴に嫉妬している。
「でも嘉神くんだって」
「なに?」
「嘉神くんだって自分がギフトホルダーだから変わっていったんでしょ!」
「はあ」
俺はあまりの馬鹿らしさにため息をついた。
何というかやっぱり他人が他人の気持ちを理解するのは無理のようだ。
「八重崎、お前は俺が変わっていったように見えたのか?」
「そうだよ!嘉神くん高校一年生の時はもっと大人しかった。悪いことは悪いってちゃんと言っていたけど自分の意思を強情なまでに突き通すような人じゃなかったじゃない」
まったくもう
「何で八重崎は俺が高一の時の方が異常と思わないんだ?」
「え?」
そう。
俺は高一の時正確にいえば高校に入学する前からちょっと変だった。
トラウマみたいなものだ。
それを早苗の件のおかげで乗り切ったのだ。
「ちょっと俺の話をする。俺が中学生の頃だ。ここから二百キロは離れた場所の出来事な。中三の三学期になっていじめが起きた。犯人はギフトホルダーだった。でも俺は戦って謝罪文を書かせた。わかるか当時俺は何も能力が無かったのにだ」
「でもそれは嘉神くんが強かったからじゃ」
「はあ、能力者どうこう言い続けて次は才能の話か?」
「違う」
「そうだな、この後俺が努力する話をしても努力する才能があると言いだすんだろ?」
「…………」
否定してこなかった。
「自分が出来ないことを他人の理由にする輩は、今後何をやっても出来ない。覚えておけ」
それだけ言い切って帰ろうとしたのだが
「待って」
「なんだ?」
「じゃあワタシはどうやれば変われるの?」
「普通に今変わればいいじゃないか。なりたい自分に」
再び帰ろうとしたのだが、俺も一つ聞きたいことがあった。
「ところで八重崎、お前は一体何になりたいんだ?」
「特にないよ」
おい。
お前は明確な目的もなく適当なことを言っていたのかよ。
「夢なんかなくて他人が格好良くて羨ましいって思っていたのか?」
「う、うん」
呆れた。それはもうとっても。
「でもありがとう。まじめに相談に付き合ってくれて」
「ま、高二の勝手な意見だからそんな真に受けんな。世の中本当にやばい奴はマジでやばいから」
才能で決まる。
きっとこの言葉は嘘ではなく的確にものを捕らえている。
八重崎はこれからどう頑張っても総理大臣にはなれないだろう。
ただもしかしたら大臣秘書にはなれるかもしれない。
国際弁護士にはなれないだろう。
ただ普通の弁護士にはなれるかもしれない。
トップを目指すのなら何よりも才能が大事だ。
そうでないのなら、努力だけで何とかなる。
目指したいものは本当に努力だけではどうしようのないものだろうか?
俺の将来の夢は医者である。
ただ本音を言うと超エリートであるSCOという職種につきたかった。
自分では無理だというのは分かっている。
だから医者という夢に妥協した。
医者ならば、努力だけで何とかなる。
だから俺の夢は医者になることだ。
以上が高校二年の戯言でした。
翌日から八重崎は少し変わった。
傍目ではあんまり変わっていないともみられるが、自分の意見を素直にいうようになった。
時には的外れなことを言うことはあったが、それでも稀にナイスな意見を出すこともあった。
そして時間はあっという間に流れていき文化祭当日を迎えた。
質問なのですが一気に更新するのと、ちょっとずつ更新するのどっちのほうがいいのでしょうか?