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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
4章 八重崎咲と文化祭
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文化祭の準備 1

 忘れられているかもしれないが二年十組には、能力持ちと能力持ちで無い二種類の人間がいる。


 六月には文化祭がありクラスで開催する以上ギフト持ちとそうでないのが協力する必要があるのだが、


「なんでこいつらと一緒にやらなきゃならないんだよ」

「それはこっちの台詞だ」


 恐ろしいことに実質ギフト持ちの中心である時雨と反ギフト派の仲野は恐ろしく仲が悪く話が全く進んでいない。


 どれくらい進んでいないかというと今日中に何をやるか生徒会に提出しない(ただし提出したものは確定ではなく、可能かどうかを判断。またかぶりがあるか、そのかぶりは許容できるものかを判断する必要がある)といけないのに誰が文化祭委員になるかすら決まっていないのだ。


 高峰先生はこういうのは生徒たちで勝手にやってろタイプの教師なので、傍観に決め込んでいるらしいのだがここまで進まないと教師の力が必要だろうと感じる。




 一昔前まで超能力者並びギフトホルダーは人種差別並みに酷かった。


現在は一応落ち着いているが決して無くなったとは言えない。


 しぶしぶ共存をとっている人間もいれば、仲野のようにかなりオープンに差別している人もいる。


まあそういう人間の気持ちもある程度理解できる。


なにしろ未だにギフトが何なのか誰も詳しく理解していないのだ。


 100年以上研究が続いて分かっているのは、ある程度遺伝する、だいたい親子で似ている能力というデータを基にした結果に過ぎない。


 どういう仕組みで、どういう理論で、どういう理由があって存在しているのか、そう言った根本的な事は誰一人として知らないのだ。


 そんな未知の存在を警戒するなというのは無茶ぶりというものだ。


例えば拳銃があったとする。


 その中に銃弾が込められているかは分からない。


 さらに仮に銃弾が入っていたとしてその銃弾がペイント弾なのかマグナム弾なのかそういったことも分からない。


 とりあえず誰かが拳銃を持っていて何時でも使える(ただし弾が入っているかは場合による)。


 前提条件はそれだけだ。


 そういう相手に『やっはろー。昨日夜のオカズなんだった?俺はバニーさん』なんて気軽に接するのは出来るだろうか?いやまず出来ない。


 もしかしたら無害かもしれない。


 でもひょっとしたら本当にやばいかもしれない。


 それに撃つ気が無いまたは入っている銃弾が殺生能力の無いものと言い張ろうが、信じる者はごくわずかだろう。


 絶対に手放すことのできない拳銃を、俺達ギフトホルダーは持っている。


 そしてその銃を一般人では見分けがつかない。


 俺が使う拳銃ギフトと、そこら辺にあるどこにでもある拳銃ギフトもある意味同じなのだ。


 だから仲野の様に警戒する、避ける、このことに関して俺はどうこう言う気なんて無い。


 むしろそういった自身の防衛管理を出来るとして俺は好感を持っていた所もあった。


 ただ拳銃を持っているからと言って襲うのは話にならないし、そんなことよりも今は文化祭に何をするかを決めるのが先決すべき事柄だろう。


 個人的にこういうのはみんなが決めてワイワイする方が好きなのだが、どうもそうは言っていられないようだ。


「お前らいい加減にしろよ」


 まずは軽く一言。


 いきなり怒鳴るのもあれだし、これくらいが丁度いいと思ったのだが


「「「…………」」」


 クラスメイト全員が黙った。


 笹見先輩の一件からクラスの皆が俺を避けているような気がする。


「え、えっと……せめて今日までにクラス委員と何をやるかをある程度決めないといけないんだから喧嘩はそれを終わってからにしろよな?」

「その通りだわ」


 そしていつもの通り俺の意見に賛同する真百合。


「あ、ああ」


 そしてそれに従う時雨。


「男女一名ずつ選ばないといけないからここは先に非ギフト持ちから決めていいよ。やりたい奴はいるか?」


 最初は誰も手を挙げなかったが


「ワタシ、やっていいかな?」


 一時して八重崎が自薦した。


「他にやりたい人がいるなら今言え。八重崎でいいんだな?」


 誰も反応しない。


「じゃ、女子クラス委員は八重崎だ。次男子、時雨どうなんだ?」

「い、いや。おれはあんまりそういうの好きじゃねえからよぉ。他あたってくれ」

「そ、じゃ他には……」


 男子は誰一人として俺と目を合わそうとしない。


 なりたくないと受け取っておく。


「誰もいないなら俺がやるが」


 今度は一気に反応した。


 一応話は聞いているらしい。


「お、おい。大丈夫なのか?八重崎が」

「大丈夫だよ。多分」


 まるでオオカミと幼女を一緒の檻にいれた時のような慌てっぷりだった。


「で、どうする?他にやりたい奴がいるなら譲るが、誰もやる気が無いのなら俺がやる。本当にいいんだな」


 沈黙。


 仲野は何か言いたそうだったが、舌打ちして目をそらした。


「沈黙は肯定と受け取る。俺が指揮を執る前に一つ言いたいことがある。俺は高校生だから至らないところも未熟なところもあるだろう。不満になることも言うだろう。それは当然だし、そう言った意見は積極的に取り入れたいと思う。何かあったらすぐに言ってほしい。ただ、何も言わず参加しないで他人の努力に足を引っ張る連中を俺は見限るからな」


 沈黙は破られることなく永遠に続くとすら思えた。


「取りあえず、一人一つ何をしたいのか順番に言ってくれ。八重崎は黒板の三分の一を使って板書を頼む。意見は必ず言ってほしい。最悪でも保留か放棄かは言ってもらうからな」


 俺は一人ずつ指名していき、五分で全員回した。


「次、もう一周言ってみようか」

「え?」

「文化祭案なんだからまずはあるだけ全部出してみる。全部出しきってそっから加味していけばいいからな。出せるだけ出すということ。それが今一番重要なことだ」


 八重崎に俺の意図を説明し、再びクラスの意見をとる。


 放棄した人間を飛ばしながら再び意見を聞く。


 三回繰り返して、計63個の文化祭案が出てきた。


「じゃ、一人三票投票権やるからやりたいものに手を挙げてくれ。トップ5でもう一回投票入れるから確定じゃないのだけは把握しろ。最低でも一回は手を上げること。数が合わなくても無視するから文句は言わないようにな」


 残った案は、喫茶店、映画作り、ホットドッグ売り、お化け屋敷、劇の五つだった。


 展示関係が無かったのは意外だった。


 個人的な意見を言うと、映画と劇はやる人とやらない人が他の三つに比べて極端に分かれるから、クラスの出し物としてはふさわしくないと思うが、それはあくまでも個人的な考えだ。俺は黙ってクラスの人間がやりたいことをやらせるのが仕事なので何も言わない。


「じゃ、この中で二つ選んで決戦投票するから一人一票で投票お願い」


 投票結果は、一位がお化け屋敷、二位が喫茶店だった。


 俺の投票はお化け屋敷だ。


 理由は自宅がリアルゴーストハウスなので、スペシャルな出し物を作れる自信があるからだ。


 他の皆は、早苗が喫茶店。真百合がお化け屋敷(自分で選んだというよりかは、俺が手を上げるのを見て選んだ様子だった)、月夜さんは劇。時雨はホットドッグ売り。八重崎は喫茶店。仲野は映画作りに投票していた。


「じゃあ、お化け屋敷か、喫茶店かで投票してほしい。これだけは全員投票すること」


 しかし、投票結果は半々。正確にいうとお化け屋敷17.喫茶店13の若干お化け屋敷が上というある意味一番嫌な結果になった。


 26対4とかだったら堂々とお化け屋敷決定と言えるのだが、こういう中途半端な投票結果だと安直に多数だけを選ぶことは難しい。


「じゃあ、お化け屋敷でいいんだよね?」


 八重崎が俺に意見を求めるが、


「…………ちょっと待ってくれ」

「どうしたの?ワタシは喫茶店が良かったけど多数決なんだし、仕方ないと思うよ?」


 ふと、一つ案を思い付いた。


「……お化け喫茶」

「え?」

「安直な発想だけど、この二つをミックスしてお化け屋敷風の喫茶店なんてどうだろうか?雰囲気をホラーにして焼きそばを売るみたいな」

「それすごくいいと思うよ!!」


 八重崎はこの案を気に入ってくれたようだが、他の皆はどうだろうか。


「私はいいと思うぞ」

「賛成よ」

「おれもありだと思う」

「いいんじゃない?」


 どうやら好評のようだった。


「ぽっと出したアイデアだぞ?本当にいいのか?」

「そんなに気になるなら三択で投票すればいいと思うよっ!じゃ、お化け喫茶がいいと思う人?!」


 投票結果は最初の案で三分の二を超えたため、即決されたのだった。






 一週間かけて決まらなかったクラス委員と出し物を何とか三十分で決め終えたが


「一応言っておくけど、これは第一希望であって決定案じゃないからな?先生方がNGと言われたらNGだから保険として第三希望まで決めておく。去年の二年の先輩がやっていたから喫茶店とお化け屋敷は大丈夫だと思うが、お化け喫茶はやっていなかったからもしかしたら通らないかもしれないとは覚悟しておいてほしい」

「ま、そこは生徒会長様が何とかしてくれるんじゃないのか?」


 時雨が真百合を見て皮肉めいたことを言う。


「そうね。宝瀬真百合としてではなく、生徒会長として言わせてもらえば企画案としては素晴らしいと思うわ。ただ否をつけるとするならば、中途半端にやるとお化け屋敷と喫茶店それぞれの劣化になりやすいということかしらね。でもそれは嘉神君についていけば問題ないと思うけど」


 貴重な意見だ。


 真百合が久しぶりにまともなことを言った気がする。


「高峰先生、今日はこれで解散ということでいいんですよね?」

「ああ。ご苦労であった」


 殿様の様に俺を労う高峰恭子。


 あんた何もやってないだろうが。






 翌日、真百合からお化け喫茶の案が通ったと聞かされ取りあえず一安心。


 そして今日から誰が何をするかの班決めであったが割とすぐに決まった。


 まずお化け喫茶の要点は二つ。


 お化けと料理だ。


 どちらかが欠けていれば、ただの喫茶店かお化け屋敷になってしまう。


 というわけでまずは二つグループを作る。


 料理グループは、八重崎、早苗、月夜さんといった女子10名男子5名。

 飾りグループは、俺、真百合、時雨、仲野といった男子10名女子5名。


 ここで補足しておくのは、料理グループの役割は、喫茶店として何を出すかや、それをいくらで売るかと言ったことを決める仕事であり、当日は料理だけするわけじゃない。


 もちろん飾りグループもどういう飾りつけをすれば終わりというわけではなく、食材の運搬や客寄せ、接客などもやらなくてはいけない。


 因みに俺が飾りグループになったのは消去法である。


 仮に俺がガスコンロに触れたら爆発………………で済めば良い方だからな。


 料理についてはそこまで心配していない。


 去年家庭科の実技授業で八重崎は俺の調理自習を手伝ってくれたし(手伝ったというよりかはやってくれたと言った方が正しいが)、何より料理グループには早苗がいる。


 本人曰く免許はないがフグはちゃんとさばけるらしい。


 普段は残念だが早苗は家庭に入ればとっても優秀ないい子なのだ。


「早苗、分かっていると思うが文化祭において料理の美味さなんてそんなに重要じゃないからな。重要なのは安さと安全さ。その二つだけは何より死守しろよ」

「任せるのだ。その期待しっかりと応えてみせるぞ」


 そこまで言うなら大丈夫だ。


「なぁ嘉神、おれたちはいくら使えるんだ?」

「分からん。今日いくら予算貰えるか会議するからその時に決まる」

「大丈夫よ。好きなだけ提出してもらっても。強引に通すし、万が一通らなくても宝瀬をの財力を使えば」


 クラスの数人が好きなだけお金を使えると喜んでいたが


「それは駄目だ。高校の文化祭はあくまでも教育課程。経営とかだったら金を使いまくって客を呼ぶ手段もありだが、向上意欲を高める活動を行うことが目的なんだから、極端な話儲けなんて考えなくていいし、クラスの皆が楽しめばそれで成功しているんだ。さらに逆を言えば向上心を上げないやり方はどんなに強力でもやっちゃいけない」


 だからワンマンプレイは推奨できない。


「…………そう、知った風な口をきいてごめんなさい」


 真百合の瞳が潤んできたぞ。


 や、やばい。俺が泣かせたと思われる。


「ただ真百合の気持ちはありがたかったから、もし本当にどうしようもない時は頼るかもしれないからその時はよろしくな」

「分かったわ」


 何とか地雷を解除できた。


 仮に女子を泣かせたと知られたら俺の評判はガタ落ちである。


 危ない危ない。


「じゃあ今日はちょっと早いがこれで終わり。明日から本格的に始動するから覚悟しておけよな」


 クラスに解散を伝えたが、俺達の仕事は終わっていない。


 今から生徒会で実行委員達の顔合わせと教師たちによる予算の奪い合いが始まる。


 八重崎の話だと、料理だけで最低でも一万、出来れば一万五千ほしいらしい。


 こっちは仮装しないといけないから、衣装代が結構するので二万は必須。


 つまり予算の最低ラインが三万、目標四万が俺達の目標だ。




 俺と八重崎、そして生徒会長の宝瀬真百合は生徒会室に向かった。


 生徒会室に入る前に俺は真百合に一つ言っておきたかったことがあったのでこのタイミングに伝えておく。


「真百合は生徒会長として仕事をしてくれ。別に変に気を使う必要はないからな」

「いいの?」

「ああ。ダメだって思ったらダメと言ってもらって構わない」

「でもそれで嫌いになられたら……」


 何でここで好き嫌いの話になるんだよ。


「むしろ手を抜いたほうが怒るからな」

「そこまで言うなら、分かったわ。生徒会長宝瀬真百合として全力を出すわ」


 はっきり言おう。


 これは俺のミスだった。


 俺はこの時『お手柔らかにお願いします』というべきだった。


 宝瀬真百合は、宝瀬家という家系があるから強いのではなく、真百合という存在が強いというのを思い知らされることになる。



 何事にも準備は大切だと思います。

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