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チート戦線、異常あり。 作者:いちてる

1章 衣川早苗と化け物退治

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衣川香苗

 例の如く例によって俺はまた牢屋に入れられた。

 それも小一時間前入れられたところは明らかに違う。

 前の牢屋は捕らえるためだけだったが、今入れられている牢屋は、殺すための牢屋だ。

 手錠をし足枷を付けられ周りには拷問具がある。




 捕えられている間、俺は考える。

 自分が何者なのかを。

 俺は一般のはずだった。

 普通で平凡の99%に分類されているはずだった。

 生まれたときに必須とされる、異能者判定テストも何も反応していなかった。

 それなのに、

「何なんだよこれは」

 傷がもう粗方塞がっている。

 試しに右腕を鬼にしようとする。

 失敗した。左足が鬼になった。

 今度は右足を鬼にしようとした。

 うわ。両腕が鬼になった。

「なんなんだ。何なんだ俺は」

 少し落ち着こう。

よくよく考えると思い当たる縁がないこともない。

―――父親。

 俺が小学校に入る前に蒸発したと聞かされた。

 母さんはその事を話したがらなかった。

 だからもし、父親がギフトホルダーだったら。

 所有者かどうかは、親に影響し特に父親が顕著に表れる。

 現在のギフトホルダーの内、実に九割九分が親もギフトホルダーである。

 でもなんだろうな。俺は十六年間一般人として生きてきた。

 それをこの一瞬で砕かれてしまった。

 人生って一瞬で無意味になる物なんだな。

「―――嘉神」

いつからそこにいたのだろうか。

「衣川さん。俺は一体なんですか」

 多分衣川さんが聞きたい質問を先に質問する。

「お前は自分のこと知らないんだな。そうか……」

 少し黙って、次に衣川さんがした質問は俺の度肝を抜いた。

「お前は、嘉神一芽かがみはつがの息子か?」
「何でその事を……」

嘉神一芽かがみはつが。俺の父親の名前だ。

「………鬼人化オーガナイズ
「あの……衣川さん?何黙ってギフト使っているんですか?マジで…怖いですよ」
「………」

 無口だと本当に怖いので、お願いだから反応して欲しい。

 このまま死ぬんじゃないか(これ今日何回思ったか?)と思ったが、衣川さんは鬼化した右腕を軽くグーパーした後、すぐに異能をといてしまった。

 ……やった。俺まだ生きてる。

「ちょっとこい」
「来いって言われましても、俺捕まってますし」
「それくらい鬼人化オーガナイズを手に入れたお前なら楽にはずせるだろう」
「そんなこと言われても……それに俺あれから少し試したんですけど使いこなせていないんですよ」

 出来たらとっくに逃げている。

「はあ。全く世話が焼ける」

 衣川さんは鍵を取り出し、俺の手錠や足枷をといてくれた。

 いつもだったら、ここはなりふり構わず衣川さんを人質にして逃げようとするんだろうが状況が状況だ。

 話しぶりに何やら彼女、何か知っているらしい。

 ここはついていくのが得策だろう。





 連れて行かされた所は、大広間で周りには先程のスーツ服を着たヤクザがわんさかいるのだがみんな正座している。

 その奥に一人座っているのは髪の色が真っ赤で、パイプタバコを吸っている女性だった。

 着物を少し着崩し妙にエロイ。

 二十後半に見えるのだが、恐らくは

「そいつが早苗の言っていた、鬼畜な一般人だったものかい?」
「はい母様」

 予想通り母親である。

「自己紹介がまだだったね。あたしは衣川香苗きぬかわかなえ。見ての通り一児の母だ」

 艶めかしいとすら思える四十代一児の母。

 まあ俺は、熟女もロリも興味ないからこんなやつどうでもいい。

「全くむかつく程そっくりだ」

 ただ何故かこの人、俺に殺意を浮かべていないか?

「嘉神一芽。これがあんたの親で間違いないんやな」
「ええそうです。間違いなく名前だけは同じだと思います」

嘉神なんてけったいな名字、そうそういるもんじゃないから、多分同一人物と考えていいと思う。

「それが一体どうかしましたか。衣川さんのお母さん」
「いやな。ちょっとあたし、あんたの父親に恨みがあるんやけど」

 父さん。何あんた組頭から恨まれてるんですか。

「そうですか。じゃあ余所でやってください」

 父親との因縁ならば俺は無関係だ。

 今知りたいのは父のギフト。どんな人間なのかは二の次三の次だ。

「あいつ……姐さん相手になんて口の利き方なんだ!?」
「殺されるぞ」

 取り巻きが騒がしくなってきたが、何となくこの人は大丈夫と思う。

 決して悪に屈したわけじゃない。

 何というかこう……俺がこういう風に反抗するのを仕向けさせているように感じたのだ。

「あはははははっは」

 急に笑い出す。

 怒りを通り越して笑ったのか、それとも自分の思惑通りに事が進んだからか。

 俺には判断できないが。

「いいじゃないか早苗。あたしはこういう男大好きだが」

 どうやら後者のようだった。

 よかったー。

 ここの選択間違えたらリアルにデッドエンド確定だったと思う。

「いけません母様。私は……」
「早苗、そのことについては後で話そう」

 持っていた鉄扇をビシッィと鳴らし

「客人だ。しっかりと持て成せ」





 鯛の刺身を食べた。

 毒殺する気かと疑いもしたが毒なんて入ってなかった。

 つまりは、普通に持て成されたわけだ。

 本当に死ななくてよかったと思う。



 夜中十時、そろそろ帰ろうとしたとき

「今夜は泊まっていきな」

断ったら殺される気がしたので二つ返事を出したのだが、母親に連絡を入れるべきだと思い、自宅に電話をかけた。

「もしもし母さん?」
『ただ今留守にしております。ピーとなったら希望の折檻コースをいいなさい』

冷や汗が流れる。

『火焙り、水責め、血祭り、生き埋め、好きなのを三ついいなさい』

冷や汗が濁流のように流れる。

『母さんとしては血祭りに上げた後、硫酸で洗い流し火葬してそのまま墓に埋めるコースがオススメね』
「それは四つだ。かあさん」

渇ききった口で何とか声を出す。

「んで、謝るのは明日にして一つ母さんに聞きたいことがある」
『ほう。昨日の折檻が全く効かない一樹くんのために電動ノコギリを用意している母さんに何か聞きたいことがあると。よろしい。好きなだけ聞きなさい』

冷や汗で水溜まりが出来た。決して漏らしたわけではない。

 だが勇気を振り絞って今聞くべき事を聞く。

「父さんのギフトのことだ」
『一樹くん。どこでそれを』
「母さん。驚かないで聞いてくれ。俺よく分からないけどとある人間のギフトが使えるようになった」
『……詳しいことは聞かないであげる。はあ。一樹くんもやっぱりそっち側の人間か。覚悟はしてたんだけどね』

やっぱり知っていたのか。

「母さんはギフトホルダーなのか」
『母さん?違うよ。むしろその逆だ』
「そう。じゃあ父さんは一体どういうギフトを持っていたんだ?知ってんだろ?」
『お父さんのギフト。つまり一芽くんのギフトはね―――――』

 母から聞いた能力は驚きの代物だった。

 個人的にギフトとは、電気を発したり、身体能力を強化したりといった持っているだけでプラスになるような代物だと思っていた。

 だが父さんのは違う。あれは持っていない方がいい。

「そんな能力。あっていいのか?」
『ある物は仕方ないよ。それに一樹くんだって心当たりあるでしょ』

 言われてみれば、確かにそうだ。あれが引き金なら心当たりがある。

「とはいえそれは変だ。だって」
『一樹くん、ギフトってものはね。遺伝するけど全く同じものが遺伝するわけではないのよ。少なからず親と違うものが生まれる。そうやってギフトも進化を続けてきたの』
「………」
『それともう知っていると思うから話しておくね。嘉神一芽はまだ生きている』
「うん知ってる」
『そしてその職業は殺し屋よ』
「………!!」
『その様子だと知らなかったようね。特に専門は異能者殺し』

 何なんだ。何なんだそんなの。

 俺はそんな外れた世界の住民だったのか。

 今まで目を逸らしていただけで、今まで耳を傾けなかっただけで、今まで尻尾巻いて逃げてきただけで、

 ずっと俺はそう言う人種だったのか。

「あははは」

 俺は話の途中でもあるのにもかかわらず電話を切った。

 そして自嘲して、携帯を叩きつけた。

 最近の携帯は衝撃にも強い。

 踏んでみる。割れない。

 四回ほど鬼化を試みてようやく左手が鬼となった状態で携帯を掴む。

 一瞬で砕けた。

 溶けかけた薄い氷を砕くように簡単だった。

「くそ……」

ああもう。何かもうどうでもよくなった。

 俺は制服のまま深い眠りについた。




「起きろ。もう朝だ」

 人は余りに深い眠りにつくと眠ったことにすら気がつかない。

 個人的には一瞬だったのだが窓を見ると日光が指してきている。本当に朝なのだろう。

「おはようございます。衣川さ……ん?」

 衣川さんは制服を着ていたのだがその上にエプロンをしていた。

「ふ、可笑しいだろ。私なんかがこんなフリフリなエプロンをしていたら」

 いや。あまりにも似合いすぎて絶句したんだけど。

「いや。あまりにも似合いすぎて絶句したんだけど」
「ッ!!!」

しまった。どうやら口に出してしまったらしい。さすが寝起き。やることが甘い。

「てあれ?俺確か制服のまま寝てたような」

なぜか今下着姿なのだが。

「ああ。昨日お前が制服のままで寝ていたのでな。組の奴に頼んで脱がさせておいたぞ」
「アーーッ」

急いで尻を確認する。

 よかった。掘られてない。

「てか衣川さん。何でこっち見てんですか?変態ですか?」
「何を言う!人が起こしてやっているのだぞ。礼を言われることはあっても変態呼ばわりされる筋合いはないぞ」
「そんなこと言いながらもいまだにこっち見てる衣川さんの方が変態でしょ」

 衣川さんは顔は明後日の方向に向いていたが、目線はこっちを向いている。

「全く見るくらいなら見せるのも礼儀というものでしょ」

 何言ってんだ俺。そんなこと言ったら変態じゃないか。

「なっ!何を言うこのバカ者!」

 目覚ましビンタを受けた。

全く失礼しちゃうな。

ただおかげで目は覚めた。

 基本俺は朝に弱いのだが、これほどすがすがしい朝はないと思う。

 べ、別に俺がマゾとかそういうんじゃないよ。

「……嘉神」
「ん?」

 突然衣川さんが真剣になった。

「昨日のことだがすまなかった」

 土下座された。

「何のこと?ていうか顔を上げて」

 いきなり土下座されるとこっちが戸惑う。

「昨日私がお前を殺そうとしたことだ」
「……ああ」

 正直忘れていた。

 そういやそんなことあったな。

「言い訳をすれば、衣川の家訓で『接吻を交わした者は婚約するか消すかどちらかにしろ』というのがあったのだ」

 何それ怖い。

 ただ我が家の家訓も負けてはいないな。

 我が家の家訓は『やられる前に三倍返し』だ。

 父親が決めたらしい。

 外道だと思う。

 話を戻すがつまり衣川さんは殺さないという選択肢をとったわけだから

「いや待って。俺まだ十六だし。結婚はまだ早いと思うんだ」
「何を勘違いしているのだ。母様から今回のことは無かったことにしてもいいと言われたのだ」

 うわ……俺早合点してしまったのか。恥ずかしい………。





 既に朝食は準備できているらしい。

 畳の上に朝食が三膳用意されている。

 俺と親子のものだろう。

「おはようございます。衣川さんのお母さん」
「おはよう。昨日はよく眠っていたい?」
「はい」

 昨日はあれほど啖呵を切ったがこうやって向き合ってみると恥ずかしいものだな。

「そういえば、昨日いたスーツ服の人たちどこにいます?」

 別に掘ったかどうかを聞きたいわけじゃない。

 単に気になっただけで、気にしているわけじゃない。

 何度も言うが気にしているわけ(ry

「あいつらはあたしの部下でしかない。あいつらはあいつらの家に帰ってるよ」
「はあ」
「だいたいあんなむさい連中をあたしの家に住まわせるわけないだろう?」

 酷い言われようだったが、想像してみると確かに嫌だ。

「でもそれ危なくないですか。よく知りませんけどよく命狙われるんじゃ」

 弾除けに一人二人必要だと聞いたことがあるが。

「ああ。確かにあたしが組頭と知られていれば危ないだろう。ただねえ、普通に考えてこんなうら若き女が、『衣川組』のトップをやっていると思えるかい?」
「いえ。全く」
「そう。それでいいんだよ。最大の防御は強固であるということでは無い。狙われないということだ」

 確かにその通りだ。

 素人なりに納得してしまう。

「そうですか。まあ、俺はそっち方面あんまり詳しくないんで何も言いませんけど、あなたの娘さんのことはどう思ってるんですか?いくらなんでも知っているでしょ?変な奴に襲われ続けているって」

「警察に相談してもいいって言ってるんだけどね。早苗がどうしても嫌だって聞かないんだよ。あの子、バカみたいにあたしの後を継ぐんだって意気込んでいるからね。変なところで強情なんだから」

 全くだ。

「あたしにも力があれば助けてやれるんだが、それについてはどう思う?」
「申し訳ございませんでした」

 これについては謝罪するしかない。

「嘉神一樹だったよねえ。少し頼まれてくれるかい」

 初めから頼む気だったのだろう。懐に用意してあった札束を俺に渡してきた。

「あいつはよく無茶するからねえ。誰かが止めないと取り返しのつかないところまでいってしまう。もしもそん時が来たら止めてやってくれ」

 数えてみると百万円あった。

 百万か。これからポケ○ンXYが発売されるが、セットで百個買えるな。

「このお金は受け取れません」

 俺は投げ渡す。

「どうしてだい。こっちも財政が厳しいからこれ以上は出せないんだけどねえ」
「違います。俺はヤクザから金を貰いたくないと言っているんです」
「へえ。こういうのは黙って受け取っておくべきと思うんだけどねぇ」

 もう一度、今度は威圧を込めて渡してきたが

「先に言っておきますが、俺はヤクザや暴力団が大嫌いです。義理に厚かろうが信頼があろうがやっていることは、ただの暴力だ。この金だってそう、誰かから奪ったものなんでしょ。そんな金俺は受け取りません」
「………そうかい」

 懐に札束をしまった。

「気持ちだけ受け取っておきます」
「その言い方だと無償で、早苗を守ってくれるように聞こえるよ」

 何を言っているんだろうかこの人。

「そのつもりで言ったんですよ。衣川さん」
「え?」
「金は受け取らん。ただあなたの娘さんをこの命に代えても守る努力はします」
「………そうかい。もしかしなくても早苗に惚れたのかい。だったら婚約破棄させたのは悪いことをしたね」

 何を言っているんだろうかこの人。

「な訳ないでしょ。好きか嫌いかで言えば俺は衣川さん嫌いです」

 彼女もまた親と同じ道をたどろうとしている。

 憧れでギャングスターを目指すのは一昔前の話だ。

「だったら何だい?君がそういう理由は」
「………本人には言わないで下さいよ」

 俺は正直に話す。

「………ぷっ。あははははは」

 笑われた。

 まあ、自覚はあるよ。

「ごめんごめん。まさかそんなこと言うやつがいるとはねぇ。早苗に聞かせてやりたいよ」
「それホント止めてくださいよ。恥ずかしくて死んじゃいます」
「じゃあ本当に頼まれてくれるんだね」
「はい」

 一切迷いなく返事をした。
 サブタイトルに名前が出たのはこれが初めてですが、まさかの主人公でもなくヒロインでもなくその親とは書いている本人もびっくりです。
 あと次で主人公の能力が判明します。
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