やっと終わるエピローグ
一応前回の続きです。
一話飛ばしたり別の作品を誤って更新したわけではありません。
『嘉神先輩』
『どうしたんだ天谷』
『実は真子、先輩のことが好きだったんです!!』
『なっなんだってー』
『本当です!!』
『天谷俺のこと嫌っていたじゃないか』
『あれはツンデレです!!』
『そうか。ツンデレなのか』
『はい』
『早苗のことはどうするんだ?』
『お姉さまも大好きです』
『俺と早苗どっちかを選べって言われたらどうする』
『先輩です!』
『おおー。俺は早苗だけどな』
『そうですか。そうですよね。諦めます』
『諦めるの早いな』
『はい。ですが思い出を一つ作ってもいいですか?』
『おお。俺に出来ることがあれば何でもやってやる』
『キスしてください』
『駄目だな。俺には早苗と真百合と月夜さんがいる』
『女が多すぎです。ちょっとだけでいいですから。フレンチ程度で許しますから』
『仕方ないな。ちょっとだけだからな?先っちょだけだからな?』
『はい。ではいきますよ』
『『チュー』』
『これで満足か?』
『ごちそうさまでした。最後ついでにもう一ついいですか?』
『これ終わりの終わりが永遠に続くパターンだろ?』
『いえ。本当に最後です』
『で、何?』
『死んでください』
『ぐヴぁ』
『あははははは。これで先輩は真子の物です。誰にも渡しません』
『あ、天谷…………』
『あはやはひゃhさひゃっははやははああああsじゃうあああああ』
「という夢を見たんだ」
「ごめんなさい。それどこからツッコんでいいかわからないわ。取りあえず嘉神君は私に寝取られ属性をつけたいのかしら?」
「いったいこの話をどう解釈すればそういう解釈になるんだよ」
今どういう状況かを説明しよう。
時は笹見先輩が決闘を挑んで一日がたった後の昼休み。
場所は博優学園の裏食堂。
裏食堂とは、真百合と真百合が許可した人間しか入ることのできない食堂で、本食堂の十分の一程度の広さだがその十倍は金がかかっている(らしい)
現在俺はそこに真百合から招待されたのだった。
真百合は早い段階から俺を誘っていたのだが、あんまり気が乗らなかったのでつい今日の今日まで来ることは無かったのだった。
俺と真百合二人っきりなわけだが少し会話に詰まったので、話のタネにと思って今日見た夢の話をしただけである。
「それにしても宝瀬家やばいな」
私立とはいえ、学校に自分だけのスペースを作るとは。
「これお父さんとかに頼んだのか?」
「ええ。弁当はあんまり好きじゃないし、不特定多数と一緒に食べるのは気が乗らないのよ。だからお父様に頼んで作ってもらったわ」
「へえ。因みに真百合の我が儘、どれくらいなら叶えてもらえるんだ?」
父親は溺愛しているらしいし、いったいどれほどのことが出来るか興味がわいてきた。
「どれくらいねえ。そうね、一日あれば日本の首都を東京から島根に変えることはできるんじゃないかしら」
「…………WHAT?」
「半日あれば東京の名前を変えることも出来るし八時間あれば日本の標準時子午線を沖縄の端の方にずらすことも出来るわ」
「…………それマジ?」
「ええ。マジよ」
俺の想像をはるかに超えていた。
以前東京二十三区以外の東京は全て宝瀬の私有地だと聞いたのである程度の覚悟はしていたがまさか地図を変えることが出来るまで金があるとは思わなかった。
あまりの暴挙に俺は角砂糖の入った瓶を落としてしまった。
瓶は割れ、中にあった角砂糖が綺麗にぶちまけられた。
「あ、ごめん」
「気にしないでいいわ。砂糖二個でも飲めるから」
真百合は砂糖を入れるときはたくさん入れ、入れない時はブラックで飲むという両極端が好きな味覚だということを聞いたことがある。
既に一つ角砂糖を入れているのでブラックではない。
残っている角砂糖は付属している一個だけだ。
俺ならば普通に落とした角砂糖使うのだが、天下の宝瀬家の長女にそんなことさせる気はない。
仕方ない。
ギフト使うか。
「真百合ギフト使ってもいいか?」
「いいけれどわざわざ世界を巻き戻してまで戻す必要はないと思うわ」
「いいや。反辿世界は使わない」
「でも私の把握している範囲で嘉神君が使えてこの状況で使えるギフトないのだけど」
それは真百合が把握していないだけだ。
ここに一個角砂糖があるのだから
「ああ!分かったわ。大小織製ね」
俺の姉さんの能力であるサイズを変えるギフトか。
「あー。確かにそれもありかもしれないが、角砂糖大きくしたら溶かしにくいと思わないか?」
「でもそしたら本当に思い当たらないわ」
「いや、普通に考えたら分かるじゃないか。真百合は今角砂糖が数個欲しい。でも一個しかない。そこまで言えば分かるだろ?」
「ごめんなさい。本当にわからないわ」
まあギフト当てをする気なんて一切ないから勿体ぶらないでさっさと使うことにする。
角砂糖を一個掴み
「贋工賜杯」
天谷真子のギフト、物の数を増やすギフトを使い角砂糖の数を増やした。
「ほら。これで合計五個の角砂糖が手に入っただろ」
「……………………ちょっと待って」
何やら真百合が何か言いたそうだ。
「何だ?」
「確認するのだけど嘉神君のギフトはキスした相手の能力を使えるようになるギフトであっているわよね?」
「ああ。間違いなくそれで合っている。付け加えるのなら、あくまでも使えるようになるだけで使えこなせるわけじゃないという弱点があるくらいだが」
「ええ。それで一体いつ嘉神君は天谷ちゃんとキスしたのかしら?私の記憶ではキスどころか半径一メートル以内に入ったことは無かったはずのだけれど」
いやあ……真百合実は話聞いていないな
「ちゃんとしてるだろ。夢の中で」
「…………WHAT?」
「だからちゃんと夢の中で天谷とキスしてただろ、言わせんな恥ずかしい」
「え?ええ?普通そう言うのって現実世界とかじゃないの?」
「誰も現実世界なんて指定していないだろ」
「うん。そうなのだけど、そうなのだけれど何かがおかしい気がするわ」
「まったく、文句を言う真百合は嫌いだな」
「ごめんなさい。全くおかしくないわ。嘉神君だもの。仕方ないわね」
実際俺があの夢を見た後、着信拒否していたはずの神薙信一からメールが来ていた。
『口映しは『物語』のギフトだから、夢だろうが幻覚だろうがそういう描写があった時点で発動するぜ。ついでに言うが能力そのものを奪うことは可能だがキスしたこと自体に対して影響を及ぼすことはできないぜ。例えるなら奈落は受けるが神宣きかないぜ』
最後の例えは間違いなくいらない。
そして分かるやつにしか分からない。
「前も真百合に言ったと思うが出来てしまったことをどうこう言うのは良くないことだと思うな。自分が出来ないと思うのは勝手だがそれが他人も出来ないなんて思っちゃいけないからな」
「はい。反省しているわ」
というわけで俺は今朝から贋工賜杯を使えるようになった。
実を言うと俺が持っていないギフトの中で一番あったら便利だろうと思っていたギフトだったので正直嬉しい。
「ねえ。逆に質問をするけれど嘉神君の身内でキスしていない人いるの?」
「やだな真百合。まるで俺がキス魔みたいな言い方を」
失礼しちゃうよな。
俺がキスしたのはせいぜい早苗と時雨と真百合と一年女子全員と四楓院先輩と姉妹しかいないのに。
「折角だしもっと増やしちゃう?」
「え?」
「例えば水晶の犯された聖少女なんてどういかしら?気に食わない悪人を痛めつけるのにすごく便利だと思うのだけれど」
「いや、悪人は即殺しますんで」
「……そうね。だったら苦しませて殺すのに便利だとは思わない?」
うわぁ。
なんという外道的な発想をしているんだ。真百合は。
鬼か?悪魔か?神薙か!?
「真百合は黒いなぁ。真っ黒黒百合だ」
「嘉神君からの罵倒は大好物よ。好きなだけ罵ってちょうだい」
タフだなこの女。
「それでどうする?やっちゃう?実行しちゃう?」
「やる以外の選択肢はないのかよ」
「それで本当にどうする?」
「基本的にギフトはあった方が良いからな、いるかどうかと聞かれたらいると答えるが」
それを聞いた真百合はすぐに行動にうつした。
「そこにいるんでしょ。出てきなさい。水晶、翡翠」
隠れているつもりだったらしい笹見先輩と大賀茂がこの部屋にばつが悪そうに入ってきた。
「そんなこそこそしないでいいですよ。笹見先輩、どうぞ座ってください」
俺は立ち上がって笹見先輩が座れるように椅子をひいた。
「……」
俺を警戒しながら何も言わず席に座る笹見先輩。
「嫌だな……何もしませんよ」
「そうかぁ?オレェはてめえが何か仕掛けてくると思ってんだが」
「笹見先輩にはそんなことしませんよ」
ただし、
「おい何勝手にあんた椅子に座っているんだ?大賀茂、あんたの席なんてないから黙って床に座ってろ」
「…………」
何も言わずに大賀茂翡翠が床に正座した。
彼女のギフトは躾けられた支配者といって、口約束を守らせる効果がある。
昨日彼女は俺に何でも言うことを聞くという約束をしたので、彼女自身俺に逆らうことが出来なくなっている。
自分の能力で自分の首を絞めるなんてゴミにもほどがあるギフトだ。
「なんでオレェとヒスイにこんな差があるんだ?」
「それは当り前ですよ。最後まで友達のために戦った笹見先輩と最終的に自分の保身を選んだ大賀茂、天と地ほどに差があるんですから扱いにも差が出るのは当然のことですね」
「一つ聞くが、もしもオレェがてめえに挑んですぐに命乞いしてたらどうなってた?」
「雑巾使わずに床掃除させられたんじゃないですか?」
一応俺は笹見先輩に対しても命令権を持っているがそんなこと命令しない。
「よかったわね水晶。嘉神君が寛大で」
「あ、ああ。出来ればヒスイにも椅子に座ってほしいんだが、頼めるか」
「はあ。仕方ないですね。さっさと座れ」
「……はい」
他ならぬ笹見先輩の頼みである。
聞かない訳がないな。
大賀茂が席に座りこれで全員が椅子に座ったことになる。
「ねえ、水晶。あなた嘉神君とキスしてくれない?」
「はあ?」
いきなり真百合がとんでもない話題をふってきた。
「ついでに翡翠も、そして終わったらさっさと出ていって」
まるでゴミを見るかのように旧友を見る真百合。
例えるなら恋人とのひと時を邪魔された時に見せるような顔だった。
もちろんこれは例えである。
例えなんだから俺と真百合が恋人なわけがない。
当然だな、うんうん。
「嫌?」
「ああ。嫌だぜぇ。オレェの初めては女と決めているぜぇ」
想像を絶するレズ発言に俺はちびってしまいそうだった。
「で、出来れば、ま……マユリと…………いややっぱいい。今の無しだぜぇ」
「そう。だったらこうしましょう」
真百合は立ち上がり俺の近くに来て
「んっ…………」
キスをした。
フレンチではない。ディープである。
汚い言い方をすればべろちゅーだ。
体が硬直して思うように動けない。
三十年くらいたっただろうか?
時計を見ると三十秒も経っていなかった。
息が続かなくなったので無理やり突き放す。
「やいこら、いったいどういう意味だ!」
「水晶、今なら嘉神君とキスすれば私と間接キスできるわよ」
あり得ない速さで何者かによって押し倒された。
そしてそのまま口の純潔を奪われた。
どこからかお前純潔じゃねえだろとかツッコミが聞こえた。
ホント最近幻聴が多々聞こえる。
疲れているのだろうか。
「ハッ、オレェは一体何を!!」
反射として動いたのかよ。
あんたの脳内構造はどうなってるんだ。
「次、翡翠。嘉神君はあのギフトいるの?」
「まあ、あった方がいいな。大賀茂俺とキスしろ。逆らうことは許さん」
何でもいうことを聞くと口約束してしまったので大賀茂は逆らうことはできない。
愛の無いキスだ。
というか愛のあるキスをしたことが無いので、愛のあるキスがどういうものなのか分からんがな。
「もしかしてアナタのギフトはキスした人間の能力をコピーするんですの!?」
あっ。
しまった。
俺のギフトの弱点はもう一つあった。
それは能力がばれやすいということだ。
真百合や月夜さんのギフト能力は初見ではまずばれない、いや絶対にばれない。
前情報がいろいろあってそれでようやく気付くレベルだ。
だが俺のギフトは早苗や時雨と同じで普通に使うと気づかれる。
キスをするという戦闘では明らかに異常な行動をとれば、相手はそれに何か意味があると察してしまうだろう。
「安心して。嘉神君の情報は絶対にばらさないから、反辿世界」
『世界』 が巻き戻される。
ちょうど五分巻き戻った。
五分前はまだ笹見先輩がこの部屋に入ってきていない。
『世界』としてみれば俺と笹見先輩達はキスどころか今日出会ってすらいない。
ただ『物語』として見ればキスはしている。
だから使える。
使えるようになっている。
そう考えると反辿世界と口映しはかなり相性がいいな。
「さあ、嘉神君私に試してみて」
「な、何を?」
「犯された聖少女を……よ。使えるかどうか一度試してみましょう」
「そんな……真百合にそんなことしたら」
俺が下手したら死ぬ。宝瀬の名において。
「大丈夫よ。ついでに口約束で縛ってみたらいいじゃない。私は嘉神君に何をされても怒らない」
そ、そんな約束していいのか。
やっちゃうぞ?やっちゃうぞ俺は。
まあ、口約束関しては使わないが痛みを与えるギフトに関しては実験してみよう。
「犯された聖少女」
軽く虫刺され程度の痛みでいいだろう。
ただ何故か真百合は不満そうだった。
「駄目よ嘉神君。もっと強い痛みじゃないと実践では使えないわ」
「強い痛みって……具体的にどんなのがいいんだよ」
「具体的?そうね……」
真百合はすこし考えてからとんでもないことをぬかした。
「嘉神君に奴隷の烙印を身体中につけられて、そこを重点的に棘つき鞭で何度も責められた時の痛みなんてどうかしら?」
今俺はこの女がどうかしてるんじゃないかと疑った。
「それじゃ足りない?だったら――――」
「待てい」
「じゃそれでお願いね」
なんで痛みを受ける方がノリノリなんだ。
こんなにノリノリだったらやらない俺の方が間違えていると思えてきてしまい、断れなくなってしまった。
「じゃ、いくからな」
こういったタイプの能力はイメージが大切だ。
自分がそうやっているという確固たるイメージがあった方が成功しやすい。
では――――
「犯された聖少女」
「あっあっああぁああん」
真百合はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……ふぁいじょうぶよ。ただもういっはいしてくれるかしら?」
「いやいやいや大丈夫じゃないだろ」
「本当に大丈夫だから。ちょっと昇天しただけだから」
いやぁ……それは間違いなく大丈夫じゃないだろ。
人として。
「でもこれで間違いなく使えることは分かったから、ありがとな」
一応真百合のおかげで新たにギフトが二つ増えたのだから俺はお礼を言わなくてはいけない。
ただそれを待ってましたと言わんばかりに真百合の目が光った、気がした。
「どういたしまして。そこでちょっとご褒美が欲しいのだけれど」
あ、やばい。
これは俗にいう只より高い物はないだ。
後だしでどんどん要求が増えるのだろうな。
だがそれは許さない。
先に俺が見返りを出していれば何も言うことは無いだろう。
そしてこの件は終わりにしよう。
「ほれ、頭撫でてやる」
俺は膝をポンポンと叩き頭を撫でてやるという見返りを出した。
正直断られるかと思ったのだが
「わーい」
まるで主人に呼ばれた子犬のように俺の膝の上に頭を乗せた。
「はやく!はやく!」
「あ、ああ」
俺は促されるまでに頭を撫でる。
やっぱり綺麗な髪だ。
吸い込まれるような藍色のなめらかな髪の毛に摩擦なんてものはなく自然に手が流れていく。
俺は一分間撫で続けた。
「もういいか?」
返事が無い。
「おーい。真百合」
「zzz」
どうやら寝てしまったらしい。
電池が切れたロボットみたいに熟睡している。
そのあまりにも綺麗な寝顔にセクハラしようとすら思えなかった。
結局真百合は休み時間目一杯まで寝ていた。
NEW
贋工賜杯
物体をコピーするギフト。
犯された聖少女
痛みを与えるギフト。主人公が持って良いギフトではない。
躾けられた支配者
口約束を守らせるギフト。これまた主人公が持って良いギフトではない。
今回は次章の伏線回でした。
それにしてもいい加減に他のヒロインも出すべきですね。