マジで終われエピローグ
時は流れ昼休み
「すげえ。スタミナ定食300円でこの量かよ。体育の授業早く終わってよかったな」
俺は一人で昼食をとっていた。
正確にいえば食堂には数人の生徒がいるのだがいるだけで俺と合席をしているわけではないので一人で飯を食うという表現に間違いはない。
「つうか量多すぎ」
ただでさえ多かったのにおばちゃんがサービスしてくれたせいで、目分量で測ると五キロはありそうだった。
とんかつ、焼き肉、豚汁、レバニラ等これらを全部食べ切るのに三十分はかかりそう。
いや間違いなく費やすだろう。
当然俺は食い物を残すなんて恥知らずな真似はしない。
食べ切る。いくら時間がかかっても。
人も多くなり座席が埋もれだした頃
「嘉神さん前いいですか?」
「月夜さんか。いいよ」
彼女はビニル袋をもっていた。
購買派の人間か。
「早苗たちはどうしてる?」
「屋上にいますよ。昼食も食べずにです」
「何やってんだ?」
「さあ。バカやってるんじゃないですか?」
それにしても月夜さん食う量少ないな。
ソ○ジョイ一個か。
彼女はそれを一口食べてから
「少し考えれば分かることですよね。嘉神さんは決闘の日時を『今日の昼休み』としか言ってません。昼休みのいつかなんて一言も言ってないんです」
そう。
それが口約束を守らせるギフト躾けられた支配者の弱点だ。
あのギフトは屁理屈に弱い。
あくまでも守らせるのは口約束。
それ以外はこっちの自由だ。
決闘はする。負けたら約束は守る。時間と場所は今日の昼休み、屋上で。
それだけしか強制できない。
『金を払う』という約束をして金を払うことは強制できても、いつ払わせるかは強制できない。
そうさせるためには『明日までに金を払う』と言わせないといけない。
日本には暗黙の了解というのがあるが、それはあのギフトの天敵なのだ。
「でもよく分かったな。正直誰も分かんないと思っていたんだが」
「いえ、わたし分かっていたわけじゃないです」
「?」
「知っての通り多幸福感は幸せになるための行動を予期するギフトです。予期したのは嘉神さんとこうやってご飯を食べるってことでしたのでそこから推理を繋げて弱点を推測しました」
なるほど。
昼休みこの時間に一緒に飯を食べる→俺は屋上にいない→想定していた約束ではないと連鎖式に分かるわけか。
さすがは一度俺を負かしたことがある多幸福感だ。
やっぱり他のギフトとは格が違う。
通算対戦成績は俺の一敗一分けと試合中止が一つ。
あれ……?俺一回も月夜さんに勝ってないな………………。
「それで嘉神さん、一つ言いたいことがあるんですけど」
「何?多幸福感の指示?」
「はい。『やりすぎには気を付けろ』ですって」
やりすぎねえ。
「そういや月夜さんは俺と笹見先輩どっちが勝つと思う?」
「勝ち負けなんてつかないと思います。恐らく試合にはならないかと」
「?」
「わたし嘉神さんのギフトどんなのか知らないのではっきりと言えないんですけど、戦うという次元じゃないんですよね。パーティーで挑む裏ボスキャラに無装備単体で挑んでいるように感じます」
「それも多幸福感?」
「いいえ。これはわたしの考えです」
ちょうど食べ終わったのでトレイを戻しにいく。
わざわざ月夜さんも着いてきてくれた。
「結局月夜さん見に行くの?」
「いきませんよ。結果が見えている試合程面白くない物はないですから」
「遅いぜぇ」
予想通り笹見先輩はすでに屋上でスタンバイ状態だった。
観客は早苗や時雨、八重崎や真百合。
三年の先輩方に一年は天谷とその仲間たち。
暇な人たちだ。
特に三年は受験勉強に勤しむべきなのにな。
「遅刻は厳禁なんて一言も約束してないですからね。文句あるなら言わなかった過去の自分に行ってください」
「言わないぜぇ。てめぇを殺せるのならこの三十分は無駄じゃねえぜぇ」
何でこの人は痛みを与えるギフトで人を殺せるなんて思っているのだろうか。
理解に苦しむな。
「来ましたか豚野郎」
天谷が俺を無意味になじる。
「てか何で天谷達来てるんだ?」
「先輩が悶え苦しむところ見れるって聞いたんでとんできました」
俺そんなに天谷に嫌われることしたかな……?
精々早苗と仲良くしているくらいだ。
「さて、一応ルール確認しておきます。降参はありですか?」
「無しだぜぇ。勝利条件は対戦相手が十秒間地面に頭をこすり付けるか相手が死ぬかのどちらかだ」
「了解しました。そしてそれを?」
「はい。アタクシしっかりと聞き取らせて頂きましたわ」
これでお互いにこの約束を破ることは出来なくなった。
「あの、こっちからも一ついいですか?」
「なんだぁ?」
「再戦の話です。もしあんたと俺の二人の戦いで、俺が勝ったら二度と俺に逆らうことはしないって約束してください」
「……嫌だぜ。その言い方だとオレェは万が一負けた時言いなりになってしまうだろうが」
それはそうだ。
だから俺は交換条件を出す。
「笹見先輩。よく聞いてください。もしあなたがこの条件を飲んでくれるのなら、俺はこの決闘中ギフトを使わない」
「「「「「!!!!!!」」」」」
「嘘じゃありませんよ。しっかりと言いました。口約束です。聞いてますよね?」
「え、ええ。その通りですわ……」
「これで俺は約束を守るしかない。どうです?飲んでもいい条件だと思うんですが」
そこそこの条件を出したと思うんだが。
「何が目的だ」
「目的ですか……。まず普通に俺が戦ったら勝つのは目に見えてるんですよ。別に俺は決闘なんてしたくないですけど決着はつけときたいですからね、仮に俺が勝ったところであなたのお仲間例えばそこにいる口約束を守らせる先輩名前なんでしたっけ?」
「大賀茂翡翠ですわ」
「大賀茂先輩が俺に挑む可能性も無きにしも非ず、というよりそれ狙っていたでしょ?」
「何のことか分かりませんわ」
とぼけるならとぼけて構わない。
そもそも一対一でなんて一言も言っていない。
向こうも屁理屈に弱いことは重々承知だろう。
当然屁理屈は相手だけのものではない。
使用者だって使えるのだ。
「だから二度と俺に逆らいたくないと思わせます。普通に戦ったら俺のギフト能力知っていたら勝ってたなんて屑が言いそうなこと言いだすでしょ?それを防ぐには事前に俺が教えることも無きにしも非ずですが」
キスした相手の能力を使えるギフトを教えてしまったら学校で何言われるか知れたものじゃない。
「教えない代わり使わない。それでいいでしょ?」
「…………いいぜぇ。ただしオレェは手加減しないぜぇ」
それでいい。
俺はそれでいいのだが、
「駄目!」
真百合は納得しなかった。
「嘉神君が負けたら私は一体どうすればいいの!?貴方のいない世界でどうやって生きればいいのよ」
既に口約束をしたので俺が負けたら一生真百合に近づけない。
ただ俺としては心外である。
「真百合は俺がこんな奴に負けると思っているのか?」
「そんなこと思っていないわ、でもギフト能力使わないで……」
カチンときた。
「真百合、あんたは俺がギフト能力だけで生きてきたと思っているのか?」
「……!!」
確かに最近の俺はギフト能力に頼りすぎていた所がある。
悔しいが神薙信一の言っていることは事実だ。
俺達は人でありギフトじゃない。
強さを決めるのは能力じゃなくて個人だ。
あくまで能力は武器に過ぎない。
この醜さを例えるならば核開発ばかりして己の問題を解決しない国並みといったところか。
「真百合。あんたを守ったのは俺の口映しだったか?それとも俺個人だったか?」
「嘉神君そのものだわ」
「だったら心配ないはずだ。俺は間違いなく今ここにいるんだからな」
それだけ言うと俺はブレザーを脱ぎ捨てる。
昼休みは残り五分。
五限の準備はまだしていない。
だからさっさと終わらせよう。
「来な。俺より一年しか長く生きていないあんたに人生の厳しさを教えてやるよ」