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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
3章 月夜幸と宗教戦争
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戦女神の冠

 戦女神の冠ルナティックティアラの能力説明です。

 三章の中で出てくる能力の中では、最もチートです。

 処刑道具としてもっとも有名なのはギロチンだ。


 中世ヨーロッパに多くの王族の血を吸った非人道的な道具とされているが、受刑者に痛みを与えないように配慮した処刑道具なのだ。


一瞬で首を切り落とせば痛みもなく楽に死ねるという考え方なのだ。


ただここで一つの疑問が生じる。


 首切ったくらいで人間は即死するのか、である。


 答えはNOだ。


 以前読んだことある本で、どこかの教授が助手に自分の首を断ち切らせ、一瞬でも生きているのかを調べるという実験があった。


 助手曰く切断した首は数回瞬きをしたとか。


 つまり俺が何を言いたかったというと、首の切断≠即死ということだ。




 汚い忍者によくわからない仕様で首を切られた俺は、何をされたか考える。


 俺と忍者との間は十メートル程度離れている。


 つまり近接武器は使っていない。


 ただ切断するためには首に何かを近づけないといけない。


 その何かとは一体何だろうか。


 くるくると回転していると一瞬だが見えた。


 俺の血を吸ったものを。


 それは、ごく細い糸だった。


 一瞬で見失うくらいの細い糸。


 それが俺の首をはねた。


 これも本で読んだことあるのだが、物体を切るためには、底面積で高圧力をかけることが重要らしい。


 つまり底面積であればあるほど小さな圧力で物体を切れる。


 そしてあの忍者は限りなく細い糸、一次元()に近いものを使った。


 超低面積による一撃は俺の首を切断するのに十分すぎる攻撃だった。


 つまり、この忍者のギフトは、糸だ。


 糸を使うギフト。


 それが分かった瞬間、俺は死んだ。















 そして生き返った。


 周囲を確認するといたるところに蜘蛛の巣のような罠があった。


 そして注意を払って忍者の指を見ると十本の指に糸が括り付けられていた。


 これは確定したな。


「は?」


 忍者は生き返った俺を見て驚いていた。


 切断された俺の首はすでに体に引っ付いている。


「貴様っ不死身かっ」


 鎧の男も俺を見て驚いている。


「そうだったらまだ可愛かったんだがな」


 俺は思い出す。神薙椿さんとの会話を。






『あの人をあんまり恨まないでください』


 椿さんが自分の夫をかばい出した。


『いや、恨んでいませんよ。ただ敵になりそうですので警戒しているだけです』

『まあまあ。実際ああでもしないとあの雌犬……じゃなくて真百合さんは引かなかったですし』


 ん?今聞こえたらいけない単語が聞こえた。


『そうだとしてもやり方があるでしょ』

『そうですね。実際そのやり方を指定したのは私ですが』


 !?!?


『だいたい酷いと思いますよね、淫乱ドМ似非巫女の子孫だっていうことですら吐き気を催すのにそれに……やっぱ今からでも殺しに行きます』

『ちょ』


 何だこの人。


『冗談ですよ。本題に入りますね。さっきあなたが勝つために足手纏いは捨てろと言っていましたが、足手纏いがいなくても天地人全部負けてる時点でやっぱり勝ち目ないんです』

『……』

『ですからあなたに武器を与えます』

『武器ですか?』

『はい。この不利な戦いを五分にまで戻す武器です』

『それは何ですか?』

『命ですよ』


 そう言って椿さんは


戦女神の冠ルナティックティアラ


 己のシンボルを使った。


 何も変化が無いが。


『何をしたんですか?』

『治癒しました』

『いや最初から怪我なんてありませんよ』

『知っていますよ。私のシンボルは怪我したところを治すわけではありません』


 そして


『これから怪我するところを治しました』


 と言い放った。


『え?』

『治療っていうのは、ダメージを回復することなわけなんですけど、実際それってダメージを受けないといけない訳でその時点でコピーと同じ受動的な能力なんですよ』

『それは仕方ないことでしょ』

『そうですね。でもその仕方ないを許さなかったのが私のシンボルですよ』

『……』



戦女神の冠ルナティックティアラの真の能力は、ギャグ補正で治すことではありません。怪我、病気、状態異常、老い、封印、死、消滅等の対象にとって都合の悪いことを、された後・・・・ではなく、される前・・・・に治す。それが私のシンボルですよ』


 …………。


 ……………………。


 ………………………………。


 なんだそのチートは。


 いくらなんでもそれはやっちゃいけない部類だろ。


『実際の所、最強の回復魔法は何か知りませんけど、最強の治癒能力は間違いなく私のシンボルですよ』

『つまり椿さんは俺のダメージをすでに治療したと』

『はい』

『つまり俺は一度死ねるってことですよね』

『いえ。三回死ねますよ』

『え?』

『誰が治せるのは一度だけと言いました?』

『じゃあ限界って?』

『『物語』の能力なのですから、当然対象が物語の中でダメージを受ける数までですよ。受ける数より多くの治療なんて当然できませんよ』


 無敵……すぎる。


『まあ、実際使わないと思うんですけど、一度にできるのは十人までで、あとこれから受けるダメージを持って来て、あえて治さないという裏技もあります』


 宝瀬先輩のギフトですらチートが入っているというのに、これはそれのはるか先を言っている。


『評価してくれるのはありがたいですけど、戦女神の冠ルナティックティアラはあなたがこれから戦おうとしている多幸福感ユーフォリアと同ランクとは言いませんが同クラスの能力なんです。いかに今からの戦いが危険なのか分かってあげてください』

『そしてそれが『物語』……!』

『はい。これが『物語』クラスです。それと確かに私の能力はチートの部類ですが、上がさらにいることも忘れないでくださいね』


 まだこんなのがいるのかよ。


『とりあえず三回です。三回だけ殺されてもいいですよ』

『なんで、そこまでしてくれるんですか』

『それは、あなたが私の子孫だからに決まっているからですよ』


 ぎゅうって抱きしめられる。


 大人の女性にそんなことされて反応しないのがおかしいのだが、なぜか俺は興奮しなかった。


 そう、例えるのなら母親に抱きつかれるかのような感覚。


 母性……か。


 本当に俺たちは、神薙さんの子孫なのか?


『助けてあげたいのは実はあの人も同じなんです。ただあの人の影響力は強すぎます。警戒していないと間違って『時間』を越え、寝返り程度で『運命』を変え、歩くだけで『世界』をまたにかけ、ただのパンチが『法則』を破壊する。そんな人間がまじめに共闘なんかしたら、周囲に多大なる影響を与えてしまいます』


 迷惑すぎる……


『それに今回は例外で、純粋な『物語』持ち二人を戦わせるのはちょっとまずいので、勝つための条件も変えてあげます』

『は?』

『あなたは護衛三人の能力を当てたら勝ちでいいですよ。あとはあの人が何とかしてくれるでしょう』

『いやいや、それはさすがにおかしいでしょ』


さっき言っていたことと違う。


『手を出したくないってさっき言ったの忘れたんですか?』

『いいえ忘れていませんよ。とどめの一撃はあなたがやって、そこに至るまでの道のりをあの人が切り開いてあげるって言っているんです』

『???』


 都合よすぎないか?


『実際あの人は今、最も効果的に且つ安全に月夜幸さんが改心するための準備をしています』


 確かにこの場にはいないが


『それを俺に信じろと?』


 もう俺は学習している。


 こんなの信じられる方がおかしい。


『いいえ、そんなこと言っていません。あなたは私たちを利用するつもりでやりなさい。それが親と子の役割です』


 そう言って椿さんは一礼して、浄化集会から出ていった。


 一言いい残して。


『二重括弧って結構読みにくいですよね』





 無論椿さんの言葉を信じ切ったわけじゃない。


 ただ、この三人のギフト能力を見破ることは月夜さんを救うためにも重要なことだ。


 戦女神の冠ルナティックティアラは発動していたわけだからある程度は信じるとして、倒せると思ったら倒すことにする。


「…………一度殺して死なないのなら何度も切り刻めばいい」

「忍者風情が黙ってろ。次は拙者の番だ」


 侍が十メートル離れたところから居合の構えをとる。


 こいつのギフトは見当がついている。


 おそらくは瞬間移動だ。


 居抜く時に瞬間移動をして、俺に攻撃をするスタイルだろうな。


 手さえ読めれば怖くない。


 タイミングを合わせて交わせばいいだけだ。


「……覚悟」


 今だ!!


 反辿世界リバースワールドを使いバックステップ。


 これで認識より一メートルずれている。


 『世界』の停止が解除され侍の居合が、俺の上半身と下半身を分けた。


 え!?


 何で!?


 切断されまた死んで生き返る俺。


 向こうもプロなので二度目の復活には驚いている様子ではなかった。


「あの小娘、殺すだけでいいなんて言っておきながら、この輩殺せないじゃないか」

「だったら諦めて、そこからどいてくれないか」

「断る。報酬はそこそこだったが、別段この仕事を辞めてもいいほどのものではない。それにここで引けば剣士としての名が折れる」

「だったらついでにその刀も折ってやるがな」


 この間に思考をまとめる。


1、一周前、俺は間合いを考えて行動したが一瞬で間合いがつめられた。


2、はじめ俺はこの侍のギフトが瞬間移動に準ずる何かだと思った。


3、そこで刀を抜くタイミングでギフトを発動し回避を試みた。


4、だがそれは失敗し、胴体を真っ二つにされた。


5、何だこれ?


 困ったな。分からん。


 あ、一個情報があった。


 この侍居合のときは瞬間移動紛いなことしているのに、攻撃が終わった後は普通に行動している。


 そこから導ける答えは……移動するには居合が必要だということ。


 移動の為に、攻撃が必要だということ。


「拙者の一撃、再び受けるといい」


 …………実験してみるか。


回廊洞穴クロイスターホール


 タイミングを合わせ五メートル上に移動する。


「……!!」


 予想通り。


 侍は自身の予想に反して・・・・・・・・・五メートル上空にいた俺に攻撃した。


 それを俺は鬼人化オーガナイズで防ぐ。


 先ほどは防げなかったが今回は違う。


 一つ目にこれからの展開を予想していたこと。


 二つ目に相手の足場が無いことだ。


 居合は手を使うが、手を使うからこそ足腰に多くの力がいる。


 そもそも全てのスポーツや運動は下半身が重要だ。


 だが今は足場が無い。


 つまり下半身を使うことができないのだ。


 いくら達人の攻撃でも腕だけの居合を受けるのは容易というわけだ。


 そしてこの侍のギフトは


「位置取るギフト」

「……貴様」

「正確にいうならば、攻撃するときに最も効果的な場所で攻撃できるギフト……か」

「…………見事なり。拙者の能力名は座刀位置ラストサムライ。能力は貴様の言う通りだ」


おお。よくわかったな俺。


「ださっ。ばれてるっ」

「煩いぞ」


 最後の男は鎧の男。


 こいつは停止した『世界』の中を動いていた。


 先手必勝で行くか。


鬼人化オーガナイズ回廊洞穴クロイスターホール


 侍との戦いで思いついた技を使う。


 次元に穴を空けそこから鬼のパンチ。


 遠距離にして近距離の威力を持った技だ。


「きかんっ」


 早苗に以前鬼人化オーガナイズのパンチ力はどのくらいかときいたら数トンと返された。


 いくら弱体化しているとはいえ半減まではしていないと思う。


 つまりこいつの鎧はトン単位で耐える仕様になる。


「先に言っておくがっ、この鎧はっ、耐久力だけならっ、原爆にも耐えられるぞっ」

「因みにその鎧何キロ?」

「三百キロだっ」


 ぜってえそれ歩けないだろ。


 ん?歩けない?


 身体能力強化か?


 それだと停止した『世界』に動ける説明ができない。


 神薙さんは『世界』の能力は『物語』の能力で無視できるなんて言っていたが、あの言い方だと今回の敵で『物語』持ちは月夜さんだけだ。


 そして『物語』の上は存在しない。あるのは一個下に『法則』があるだけだ。


 『法則』?


 絶対とか拒絶とかそういうものが『法則』らしいが、


 絶対に動くというものでもあるのか?


 なるほど、それだったら三百キロの鎧をまとっても動ける説明になるな。


 だがもう一つ問題がある。


 こいつは鬼人化オーガナイズした俺より、速かったということだ。


 以上のことから導き出される答えは


反辿世界リバースワールド


 俺は『世界』を停止させ、あえて動かなかった・・・・・・


 そして予想通り、こいつは動けなかった。


 世界が動き出すのと同時に俺は予想しているギフト能力の答え合わせをする。


「つまりあんたの能力は、絶対に相手より速く動けるだろ?」

「っ!!!!」


 もう一つの補正で能力が対峙した場合、上のクラスならばそっちが優先されるらしい。


 反辿世界リバースワールドは『世界』、それを上回るのは『法則』だ。


 動けない状態でも、絶対に速く動く能力。


 『法則』が『世界』を上回っている。


 止まっていようが俺が動いている限り、あいつは俺より速く動けるのだ。


 そして絶対に速く動けるので自身の重さは無視できるのだろう。


 そうでなければあの鎧で動けるわけがない。


「見事だっ、それでどうする気だっ、分かったところで防げるものではないっ」


 だよな。


 状況を整理すると忍者は糸を使い俺を切断して、侍は居合かつ効果的な位置での攻撃。鎧男は何かすれば俺より速くガードする。


 無理ゲー。


 あれほど啖呵切って恥ずかしいが、これ一体どうすれば倒せるんだ?


 下手に動くと糸の餌食、動かなくても日本刀に血を吸われ、逃げるにしても鎧に防がれる。


 今は一人ひとり戦ってくれているが殺すとなれば一度に襲ってくるだろう。


 実際今俺は遊ばれているに過ぎないのだ。


 仕方ないので手元にある銃を使って侍に撃ってみる。


 斬られた。


「え?」

「銃弾程度叩き斬るのは容易」


 いや、待て。


 さも当たり前のように銃弾を斬るのは止めてもらえないだろうか。


 こっちは鬼人化オーガナイズした状態で見えるのがやっとだ。回避なんてできないのに。


「お遊びはここまでだっ。やれっ」


 ついに一対一ではなく一対三になったか。


「辞世の句は考え終わったか」


 忍者と侍と鎧の男が同時に攻撃してくる。


 忍者は動かなかったが、侍が走ってこっちに攻撃をすることで鎧男は侍を超える速度を得る。


 一瞬だった。


 いつ現れたのか気づかなかった。


「貴様はっ誰だっ!」


 その男は右手で糸を絡め取り左手で日本刀を掴み右足で鎧男の突進を受け止めた。


「通りすがりの元主人公だぜ」


 その男の名は、


「神薙さん?」

「ああ。忘れるようなキャラはしていないはずだぜ」


 神薙信一。


 まさか本当に来るとは……


「遅れて悪かった。少々、仕込みに手間取ったぜ」

「別に待ってなんかいませんよ。こうやって助けてくれたことは感謝しますけど信用していませんから」

「構わないぜ。俺を相手するときは疑うくらいがちょうどいい」


 さて、これはどう見るべきなのだろうか。


 二対三になったと考えるべきか、一対四と考えるべきか、はたまた一対三対一と考えるべきか。


「嘉神一樹」

「何ですか?」

「ここは俺に任せて先に行け」


 勝手に死亡フラグを立て始めた。


「いや、遠慮しますよ」

「遠慮なんかするんじゃないぜ。お前の目的は何だ?ここの三人を助けることか?」

「いいえ」

「枯野一家を抹殺することか?」

「いいえ」

「じゃあ何だ?」

「月夜さんを助けることです」

「だったら余計なことは考えないで目的だけを考えろ」


 ………………考えた結果


「行ってきます」


 言っていることは正しかったから従うことにした。


「待てっ」

「待たないぜ。お前らの相手はこの神薙だ」


 俺は振り向かず月夜さんを追った。



 バランスなんて一切考えていません。

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