『時間』『運命』『世界』『法則』『物語』
三章はここさえ読んでくれたら大丈夫です。
前回のあらすじ。
神薙さんに月夜さんを助けに行くのを止められました。
「どうしてそんなこと言えるんですか?」
「お前らに勝ち目がないからだ」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないですか」
「例えば、バスケでキセキの六人とそこら辺のから集めた適当な中学生を戦わせてやってみないとどっちが勝つか分からないなんて言えるのか?」
「それは……それは極論でしょ。そこまで差があるとは思えない」
「そこまでの差があるんだぜ。月夜幸と宝瀬真百合には」
いや、言っちゃ悪いが先輩のギフトの方がえぐい気がするのだが。
「勝てない理由。それは能力のクラスが違うからだ。ずっと気になっていただろ?『時間』だの『運命』だの『世界』だの言われて」
確かに気にはしていたが今はそれどころではない。
「さすがにそろそろ時間がありません。早くしないと月夜さんが犯されてしまいます」
「おっけ。ならば撫子」
「はい」
「命令だ。『時間』を止めてやれ」
「かしこまりました、ご主人様」
そばにいた一人の女性(巫女さん)は能力を使う。
時間は止まった。
俺たち以外行動している奴は見当たらない。
ただ俺がいつも見ている反辿世界のとは大きく違った。
反辿世界は周囲の色が反転しているが、今回は色がモノクロになっている。
「では説明を始めるぜ。能力というのは七種類に分類される」
「火とか水とかですか?」
「いいや。そういうのは一つにまとめる。光や闇も含め『論外』に含まれる。この『論外』というのは話にならない位くらい弱いという意味で、衣川早苗の鬼人化や時雨驟雨の雷電の球がこのクラスに含まれる」
いきなり何でこの人が知っているのか分からないことを言われた。
「『論外』のことはいったん忘れろ。まず俺が最初に説明するのは『時間』だ」
『時間』がまずなのか。
「能力を挙げるならば宝瀬真百合の父親のギフトがそれだ」
確か自身の時間を速めることだったか。
「時間軸に影響するもの全てこの『時間』というクラスに分けられる」
「はあ」
「次が『運命』。これも何となく分かるだろ?」
「はい。一度そういうギフトに会ったことあります」
あのバスガイドのギフトが運命的に殺すギフトだったはず。
全く効果なかったが。
「ああ。ついでに言うと俺の女の一人の確定未来もその『運命』に分類される。因果律に作用しているもの全ては『運命』に分類されると考えていいぜ」
「もしかして次は『世界』ですか?」
先輩が自分の能力は『世界』だなんて言っていたことを思い出す。
「その通り。察しが早くて助かるぜ。補足説明をするのなら平行世界や〇×次元、神界、虚無界なども『世界』に入るぜ」
ん?今絶対におかしな単語聞こえた。
「そしてその次が『法則』なのよ」
ずっと黙っていた先輩が口を開いた。
「その通りだぜ。『法則』とは不死身や全知全能や拒絶等の設定みたいなものだ」
「いやいや。二番目おかしい」
何だ全知全能って。
「現在出ている能力は薊の意思で不死身だろうが必ず殺す殺生意思。それと、お前の父親である嘉神一芽のキスした相手の能力をどんなことがあろうとも奪う口留め。このあたりだ」
「じゃあ父さんの能力って一応神様と同クラスなんですか?」
「ああ。ついでに言っておくが並の全知全能ならば奪えるぜ。出来たらの話だが」
「あの人噛ませなのに?」
「噛ませなのにだぜ」
驚き桃の木山椒の木だ。
「そういえば先輩は知っていたんですか?」
「一応は知っていたわ。ただこれを知っている人間はほとんどいないはずだけど」
「そんなこと何で皆知らないんですか?」
「補正を隠したいからよ。たぶんこの神薙って男はその補正について話したいのだと思うわ」
「その通りだぜ。分かってもらって助かる。だがその前に後二つほど説明していないクラスがある」
「残りは『複合』だけでしょう?『時間』や『運命』や『世界』等に任意で影響を与えることのできる」
「『複合』についての説明はあっているぜ。以前俺が見せた完全消去は『複合』だ。『時間』や『運命』『世界』をそれぞれ消去できる」
以前そこにいる巫女さんが言っていた『世界』までとはこういうことなのか。
きっと現在はこの巫女さんは『時間』を止めるギフトを作ったのだろうな。
一見するとこれが最強クラスに思えるが。
「それじゃあ最後の一つはいったい何?」
「最後に登場するクラスが『物語』」
「『物語』?」
「『物語』というのはギャグやメタ、ご都合主義といった能力のことを指す」
…………
「そんなの能力としてありですか?」
「ありに決まっているだろうが。お前はあれか?自分が認められない物は能力じゃないって言いたいのか?」
「いや、そんなことありませんよ」
「ついでに言っておくが口映しは『物語』だぜ」
「は?」
いきなり俺のギフトを言われ、たじろいだ。
「更に言えば俺や椿のシンボルも『物語』だぜ」
「もしかして椿さんの治癒能力ってギャグ補正で治すんですか?」
「…………まあそうですね。そうなります」
椿さんは何やら煮え切らない言い方だったが合っているらしい。
「もう一つ、月夜幸のギフトも『物語』だ」
「てっきりこの説明だと『運命』か『世界』のどちらかだと思いましたけど」
「確かに世界中の人間を幸せにする程度ならば『世界』クラスだ。問題はそこまでに至る過程にある」
「……」
「漫画やアニメとかで、客観的に考えて、どう考えても敵キャラの方が正しいと思ったことはあるか」
「……まあチラホラと」
「だがその話の中だと主人公の言っている方が正しい風潮になっているはずだぜ。実際主人公であるお前も仲野孝太の宗教論をバカにしていたくせにお前の方が正しいという風潮があったはずだ」
「…………まさか!?」
「そのまさかだぜ。多幸福感での行動には主人公補正が付く」
つまりあの時俺が説き伏せられかけたのも、月夜さんが主人公らしきものになっていたからか。
「とりあえず能力のクラスは説明したぜ」
「『論外』『時間』『運命』『世界』『法則』『物語』『複合』ですね」
「ああ。次に補正についてだ。それについてはまず宝瀬真百合にご教授願おうか」
「…………まず先に謝っておくけど私は嘉神君のギフトが『論外』だと考えていたから知る必要のないことだと思っていたの。だから隠していたわけじゃないのよ」
「分かりましたからさっさと進めてください」
言われた通り先輩は説明を始めた。
「今から話すのは『時間』『運命』『世界』『法則』の優劣についてよ。よく『時間』を遡るだけだと『運命』がある限り結果は変わらないって言うでしょ?」
「確かに」
「それは『運命』が『時間』より上位に立っているからよ」
「まあ、ギリギリ分かります」
「ただその『運命』は『世界』には勝てない。『運命』が他世界に影響しないのは理解できるわよね?」
「そうですね」
「このあたりはシュタ〇ンズ・ゲ〇トをやれば分かると思うぜ」
神薙さんが余計な口をはさむ。
「そして『世界』はこの世の真理である『法則』に劣るとされているわ」
確かに全知全能ならば『世界』なんて敵じゃないのは分かる。
「でも『物語』というのは初めて聞いたわね」
「普通に『法則』の上位クラスだぜ。どんなことがあろうともご都合主義や主人公補正に神は勝てないだろ」
「つまり『物語』>『法則』>『世界』>『運命』>『時間』ということですか」
「ああ。それが前提条件だ。そこで補正の話が入る」
「で、どんな補正があるんですか?」
「能力同士が対峙した場合、自分が上位クラスであればその時点でその能力が優先される」
「詳しい説明をお願いします」
「既存の能力で説明するならば、前回のコロシアイ事件が分かりやすい」
何で知ってるんだよ。もしかしてサッカーボールの男はこの人か?
「反辿世界は『世界』、雲迷路は『運命』、この時点で反辿世界が勝っている。だから確定死の未来を否定し続けることに成功したんだぜ」
「そうなんですか?」
「そうよ。そうでなければ反辿世界は発動しないわ」
「ですがあれは勝っていたとは思えないですよ」
殺され続けたのに勝っていたなんて到底理解できない。
「私の反辿世界は三時間で回避できなければ発動することは無いわ。そうでないと寿命で死んだとき死に続けることになるでしょ」
それもそうだな。
「あと止まった『世界』を動けるお前たちが止まっている『時間』に動けるのもこの補正があるからだぜ」
これ俺たちが自分で動いているのか。
「おまけ説明として、嘉神一樹と嘉神一芽がキスをすればどうなるかだが、答えを言えば嘉神一樹が嘉神一芽の今まで手に入れたギフトを手に入れた上に、嘉神一芽のギフトは全て無くなるぜ。『物語』にそういう描写があれば自分のものにするギフトと、キスをすれば『法則』として奪うギフトじゃ話にならないのは火を見るよりも明らかだぜ」
父さんのあまりの弱さに絶望した。
いや、この場合は俺が上なだけなのか?
「この能力の補正は、相手がいかにクズだろうが賢人だろうが関係なく適応される。ただ当然だがこれは能力同士が対決した場合であり能力者同士が対決した場合じゃない。そこで次の補正だ」
「能力の補正はそれ以外にあるんですか?」
「違うぜ。今から俺が話すのは能力ではなく能力者の話だ」
そして神薙さんは
「能力者がいて二つ以上相手の能力のクラスが自分の能力よりも下の場合、自分はその能力の影響を受けない」
と言い放った。
「今度こそ意味が分かりません」
「『物語』>『法則』>『世界』>『運命』>『時間』という優劣だが、『世界』を持っている人間は『時間』の影響を受け付けない。『法則』持ちならば『運命』と『時間』、『物語』持ちならば『世界』『運命』『時間』の影響を受けない」
「は?」
なんだそれ。
「言っておくがこれもフラグがあったぜ。お前『運命』受け付けなかっただろうが」
「……」
あれそういう理屈なわけ?
正直一回死んだから『運命』キャンセルできたと思っていたんだが。
「ついでに言っておくが、『世界』を巻き戻しているのにデジャブがあるのは常識的に考えておかしいだろうが」
「え?」
「無かったことにされているんだぜ。何で記憶がある。デジャブが出たのは嘉神一樹だけだろうが」
「「あ」」
先輩と俺は同時に気付く。
そうだよな。普通に考えてあり得ないよな。
それに無かったことにされているのにギフトが残っているのもそういう理屈だろうな。
「補足説明を加えるぜ。ただしこの二番目の補正は持っているだけで使える補正じゃない。ある程度の訓練をして身に着けることのできる補正だ。だから嘉神一樹はある程度の影響を受けている。それと自分が受けないだけであり、相手の発動を無効化するわけではない。『時間』が止まっても自身は動くことはできるが、相手の能力を解除して『時間』を動かすことは出来ないぜ」
「その説明だと今現在『時間』が止まっているのに気付いている人がいそうですね」
「ああ。数百人はいるぜ」
何か俺達すごい迷惑なことしている気がする。
最初『複合』が一番強いんじゃないかと思っていたがこの補正がある限り『物語』が一番強いな。
「とりあえず補正については理解できました。ですがそれが一体何なんですか?何で失敗するって言い切れるんですか?」
『物語』である月夜さんの能力がやばいのは分かった。
ただ今までに二回発動できている以上今回発動できないわけがない。
「一番目の補正に影響するからだぜ。過去二回の反辿世界は嘉神一樹が生き返るための道具だから発動できた。だが今からする反辿世界は明らかに多幸福感の邪魔を目的としている。『世界』と『物語』、どっちが上か説明は済んだはずだぜ」
前二回は、多幸福感とぶつかっていないから発動できたが今回は違うというわけか。
「それは違うわ。私自身嘉神君を生き返すためだけに使う予定よ。それ以外の目的で使う気はないわ」
神薙さんはギロリと睨み
「宝瀬真百合の意思なんて関係ないぜ。嘉神一樹が共闘の意思がある以上お前は道具ではなく一個人として扱われる。そしてそれが足を引っ張る原因となるぜ」
「…………」
「ちょっと今のは言い過ぎですよ」
いくら神薙さんでもその言い方はあんまりだ。
「確かに言いすぎかもしれない。だが俺は謝らない。実際の所、洒落にならないくらい危ないんだぜ」
そう言って宝瀬先輩に手刀を入れる。
彼女の首は跳ねられた。
その首は地面に落ちる。
「ちょっ!」
「見たか。反辿世界の能力を持っているが発動してはいない。それは『物語』の意思が『世界』の力を否定しているからだ。だから――」
「だからじゃねえ!あんた何やったのかわかってるのか!」
「椿。治してやれ」
「はぁ。はい」
一瞬で宝瀬先輩の体は元通りになった。
「分かったか。今こうして俺が殺せたのは多幸福感の邪魔になるからだ。同じ『物語』のシンボルである戦女神の冠で無ければ治療できなかったんだぜ」
「一体」
「どうした」
「一体あんたは何なんだ!わけわからないことを言って!理解を超える範囲で先を知って!平気で人を殺す!あんたは一体何者だ!神にでもなったつもりか」
神薙さんは落胆したように溜息をして
「そんなつまらないものと一緒にするんじゃないぜ。無論人外でも超越者でも無い。ただのしがない主人公だぜ」




