英雄と救済者
多幸福感が登場します。
目が覚めた。
顔をつねってみる。
痛い。
ふむ。生きてるな。
だったら今までのは夢だったのだろうか。
夢では早苗がいたはずなので玄関から出てみると……いた。
いつも通りの早苗だ。とくに何も変わったことは無い。
「い、一樹か。早いな」
「早苗。お前が昨日誕生日祝ってもらったのは俺と香苗さんと天谷と月夜さんだけか?」
「な、なぜそれを!?」
どうやらあの夢は本当にあったことらしい。
「………反辿世界か」
それしかない。
俺が死んで宝瀬先輩が『世界』をやり直してくれたか。
感謝しなければ。
「すまん。今日学校遅れる」
折角もう一度チャンスを貰ったわけだから今度は結果を残さなければ。
場所は分かっている。だったら速やかに行動に移すまで。
「何があったのだ」
まあ、説明する時間はあるか。
俺は先輩のギフトを隠しながら事の顛末を話す。
「……一樹。それはあり得ぬぞ」
と、早苗が前にあったことを否定した。
「あり得るもあり得ないも実際に起きたことだからな」
「そうではない。月夜のギフトはそういうことを否定する」
「え?」
「この際だから伝えるのだが、あいつのギフトは多幸福感というのだ。その効果は最大多数の人間を幸せにするための行動を予期する」
分かりづらい。
「例えばだが1から10000のクジがあって、出た数字の数だけ人を殺すという状況になった時どのクジを引けば1が出るか分かるというものだ」
「使い勝手悪っ」
そんな状況起きるかよ。
「そうとも限らん。今から話すのは実話だ。以前月夜に散歩を誘われた時のことだ。父の車を壊せと言われた」
「ほう」
「私は断った」
「ふむ」
「私の父さまは交通事故で死んだ」
「!!!!」
「今度はとある家族の通行を妨げろと言われた」
「……それで」
「私は実行した」
「……」
「家族が本来通る道に看板が落ちてきた」
使いようによっては他人の不幸を防ぐことができるわけか。
最高の、否、最幸のギフトか。
「私はあいつのギフトが外れたことを見たことが無い。だからこそ一樹が死ぬという未来を予期しなかったのはおかしいのだ」
なるほど。
なんかタラコ唇バスガイドの逆のような能力だな。
「言いたいことは分かったがそれでも月夜さんが囚われたのは間違いのない事実だ。だから俺は助ける」
「ま、待つのだ!」
俺は早苗の言葉に耳を貸さないで月夜さん救出に向かった。
「違うのだ一樹、おまえは月夜の恐ろしさを理解していないぞ」
さて、全力で走ったが慣れてきたな。
『世界』停止も一秒まで出来るようになったし、それ以上に回廊洞穴が安全に十メートル移動できるようになったのは大きい。
これならば実質的に瞬間移動が可能だ。
俺は再び侵入を試みる。
「ようこそ」
受付がいた。
そりゃ時間帯が変わったらいるかもしれないが……今8時台だ。
午後5時にいなくて午前8時に受付がいるのはおかしい。
「嘉神一樹様ですね。枯野様がお待ちしています」
こっちの行動が読まれている?
「どうぞこちらに」
これはまずい。嵌められた感が尋常じゃない。
ただここで逃げるのは駄目だ。
月夜さんが助けを求めている。
大丈夫。俺には複数のギフトがある。
何かされても負けることは無い。
連れてこられた場所は体育館のようなところだった。
ステージの上には、数人のシルエットが。
その中の一人が壇上に立って挨拶を始めた。
「初めましてだね。僕の名は枯野礼成。知っているかな?」
「…………」
知っているも何も、浄化集会会長かつ幸心党の総帥だ。
間違ってもこんな街にいる人間じゃない。
「なぜあんたがここに?」
「聞きたいかい?聞かせてあげるよ。結婚式のためだよ」
意味わからん。
「僕はね、月夜幸と結婚するんだ」
察した。
こいつロリコンだ。
月夜さんは母さんほどじゃないけど結構ロリ体系だからな。
「勘違いしてほしくないのだが別僕はこの女が好きといっているわけじゃない。はっきり言ってタイプじゃない」
「え?」
「彼女のギフトだよ。知ってるかい?多幸福感について」
「ああ。多くの人間を幸せにするギフトだろ?」
「その通りだ。それだけ知っていればあとの説明は簡単だ」
笑顔で枯野さんはこういった。
「僕はね、世界中の人間を幸せにしようと思うんだ」
こいつ頭おかしいんじゃねえのと俺は今まで何人の相手に思ってきたが数えることはできないが、それでもこの人は群を抜いていた。
ていうかこれ何でも言っている気がするし、これからも言い続ける気がする。
「そんなこと出来るわけがないじゃないですか」
「出来るよ。君には無理かもだけどね」
できるわけがない。
できてしまったら人類は今まで何をしてきたんだ。
「教えてあげます」
後ろから月夜さんが答えた。
格好におかしなところはない。
至って普通に、普通に過ごしていたような格好だ。
監禁されていたのは演技だったとでもいうのか?
「いいのかい幸。こいつに計画を教えて」
「大丈夫ですよ。嘉神さんも納得して死んだ方がいいでしょう」
え?
「あ、先に言っておきますけど嘉神さんは全身全霊をもって殺します。異論は受け付けません」
「お、おい」
「それとよく分からないんですけどなぜか嘉神さんを屈服させないといけないんですよね。そうしないと何をしても無駄のようです」
なんだ?まるで反辿世界を理解しているような言い方だ。
いや……理解はしていないが存在そのものを予期していると言った方が正しいのか?
「殺す前に確認しておきたいことがあるんです」
「な、何だ?」
「私と嘉神さんって友達ですか?」
「当たり前だろうが」
そうでないと助けには来ない。
「わたしもそう思ってますよ。うれしいです」
人形のように微笑む月夜さん。
「だったら何で」
「ついでに二三質問をしたいのです。嘉神さん、あなたにとって宗教とは何ですか」
「悪」
「その心は」
「宗教が無ければこの世の戦争は九割以上減る。まさか月夜さん戦争は悪じゃないなんて言わないよな」
「言うわけないじゃないですか、どっかの高二病じゃありませんし、殺し合いは悪ですよ」
「ついでに言うと悪事を働いても神や仏に謝ればいいと思っている輩は吐き気がする」
「もろに浄化集会そのものですね」
「だろ。だったらこんなことしてないで戻ってこい」
「…………次の質問です。この質問はとっても大事なことです。答えられないなんて言わないでください」
彼女は俺を測るようにこういった。
「一万人の無辜な人間と、たった一人の衣川早苗さん。神様からどっちかを殺せと言われたら嘉神さんはどちらを選びますか?」
何を言っている。そんなの決まっているじゃないか。
天秤にかけるまでもない。
「一万人を殺すに決まっているだろ」
「そうですか。確認しておきますけどあなたは衣川さんのこと好きですか?」
「いいや。普通だ」
好きでも嫌いでもなんとも思っていない。
ただ友達だと思っている。
それでも
「どう考えても仲間の命と世界中の人間の命は釣り合わないだろ」
「その発言が聞きたかったです。そうと分かればわたしもやりやすいです」
「だから月夜さん!」
「わたしは逆ですよ。平気で友達を捨てます。たとえ友達が百人いたとしても一万人の人間を救えるのならその程度小さな犠牲です」
「!!!!!!」
何なんだ。この女。
「どっちが正しいかの問答は避けるとして、どっちが迷惑なのは言わなくても分かりますよね?」
「一体お前は何を言ってるんだ!」
「わたしたちの計画の為に嘉神さんは死んでくださいって言ってるんです」
話が通じない。
異なる文化の人間と話しているようだった。
「さて、計画についてはわたしより枯野さんが伝えた方がいいです。その際いつものように説き伏せてください」
「分かったよ」
枯野さんが俺を見下ろしながら
「僕の目的は世界中の人間を幸せにすること、そのために必要なのはたった二つのギフトだ。僕と彼女のものだね」
「あんたA3に関係しているのにギフトホルダーなのかよ」
仲野が泣くぞ。
どうでもいいか。
「ええ。本当に便利ですよ。数以外とりえのない愚かな自尊心だけの塊は、才能だの優越だの言っていればギフトなんか使わずに従わせれますよ」
「それで、一体どうやれば世界中の人間を幸福にできる?」
「簡単ですよ。僕が王になればいい」
いや、そうじゃなくて。
「僕のギフトは諸行無情といって感情を与えるギフトだ。喜びや怒りはもちろん好悪や幸福感も与えられる」
「…………」
「賢い君ならもうわかっているんじゃないのかい?」
「あんたのギフトの恩恵を受けることが、人類最大の幸福だというつもりか!」
「その通りだ。賢い子は好きだよ」
俺はホモじゃねえ。
「だがあんたの効果範囲はどのくらいだ?」
「だいたい五百人程度だね」
「あんたは世界人口を知ってるのか」
「知っているよ。だがその心配は必要ない。パブロフの犬を知っているかい」
パブロフの犬とは。
パブロフが行った実験で、犬にブザー音を聞かせその後餌を与える。それを何日も繰り返す。最終的にその犬はブザーを鳴らすだけで食事の時間だと思い涎を垂らすようになるのだが、
「それがいったい何の関係がある」
「僕が命令を与える際ギフトを発動し幸福感を与える。それを数回繰り返すだけで信者たちは僕からの命令を与えられるだけでそれが幸福だと思い込むようになるんだ」
「人間はそんな単純なものじゃないよ」
「いいや。単純だよ。そうでなければたった十年でここまでやれて来れたわけがないだろ」
昔から浄化集会はあったのだが、この人がトップになってから浄化集会は一気に勢力を伸ばしたと聞く。
確かに困っているときに幸せな気持ちになれるというのは必要なことかもしれない。
「だがそんなのは仮初めのものじゃないか!一時的に幸福感を与えるなんて麻薬と同じだ!」
「そうだね、だから信者は僕から離れることができない」
「そんなの俺が認めるわけないだろ!」
「君が認めようが認めまいが、僕の支持者は日本国民の十五パーセントつまりは一千万人以上だ。君はその人たちの気持ちを考えたことがあるかい?」
俺は深呼吸してこう答えた。
「クズの気持ちなんて考える必要ないだろ」
月夜さんは
「わたしたちのこと医学用語で何て言うか知っていますか?メサイアコンプレックスっていうんです。人を助けずにはいられない病気のことなんですけど、わたしと嘉神さんでは決定的に違う所があります。それは悪の救済ですよ。嘉神さんは悪人を救わないでいい、救う必要のないと言っていますが、わたしたちは悪人ですら救済します。それが真の救済だからです」
「違う!俺は救済がどうこうなんて考えたことないが悪を救済することは間違っている!」
「そうですね。そう思っているうちはわたしには敵いませんよ」
身長的には彼女が下なのだが、それでも俺を見下して
「助ける人間を選んでいる時点であなたは偽物です」
そう言い放った。
「さて、わたしが嘉神さんを殺す理由はそういう所にあります。つまるところ信念の違いです。わたしたちの救済はあなたにとっての地獄だから、間違いなく嘉神さんは邪魔をします。そしてあなたはいずれ手の付けられない化け物になるでしょう。ですからどうしても今殺さなくてはならないのです」
「別俺を殺すのはいつでもいいだろ」
「そうでもないです。わたしの多幸福感はこのタイミングが最幸だと予期しています。恐らくはわたしの社会的な信用度と嘉神さんのリトライのし難さを考えてのことじゃないですか?」
月夜さんは自分でも分かっていないようだったがそれでも強力な意思があった。
例えるなら神の予言を聞いてそれを実行している預言者のようだった。
それでも俺は負けるわけにはいかない。
「こんなこと言ってますけど、もしかしたらわたしは枯野さんに操られているだけかもしれませんね」
「分かってるよ。どうせこいつのギフトにやられたんだろ」
そうだ。そうに決まっている。
「枯野礼成!あんたのやらせていることは、現実からの逃避だ。別俺は逃げることは悪いと思ってはいないが目を背けることは悪いことだろ」
「あっはははは」
月夜さんが腹を抱えて笑い始めた。
「ごめんなさい。これは俗にいうお前が言うなってやつですね。だって目を背けているのは嘉神さんの方じゃないですか」
「何のことだ!」
「恋愛から逃げているって言ってるんですよ」
は?
恋愛だって?
俺に最も似つかわしい単語じゃないか。
「ギフト使わなくても見ているだけで分かります。嘉神さんはただの鈍感な主人公なんかじゃない。恋愛感情が一切ない。最早病気でちゃんと病名もあります。ノンセクシュアルっていうんですよ。日本語で書くと非性愛者っていうんでしたっけ?とりあえず言葉は置いておくとして、嘉神さんは女性には興味あるでしょうけど、直接的な性交には一切の興味が無い」
「…………」
「まあ良くも悪くも主人公してますね。仲間は守りますけど、敵なんてどうでもいい。女は好きだけど女を愛さない。わたしに言わせれば嘉神さんは誰よりもわたしよりも破綻してますよ」
確かに、俺は小中高一度も人を愛したことが無いのは事実だ。
「だったら何だ!女を愛さないことは人間じゃないっていうのか!」
「そう取り乱さないでください。そんなこと悪いなんて一言も言っていませんよ。ただ恋愛感情のない人間が一丁前に他人の幸福を邪魔するんじゃねえ、ということを言いたいだけです」
何も、言い返せなかった。
俺が間違えているとでもいうのか?
見た目的に嫌悪感の漂うこの枯野という男に支配されるのが人類にとって幸せなことなのか?
ただなんだろうか。
枯野にだけは負けたくないんだ。
「なぁ父さん。そろそろ飽きたんだが」
隠れていた一人が出てきた。
「礼文。少し黙ってろ」
どうやら枯野礼成の息子らしいが、似ていない。
いや、わずかに似ているのだが親子と言えるほど似ているとは思わないのだ。
そしてこいつはどこかで見たことのある顔だ。
「あ」
思い出した。
宝瀬先輩が下着を履かずに商店街をうろついてきたとき声をかけてきた発情猿だ。
あの時は取り巻きもいたが今回はその取り巻きがいない。
「よぉ。元気?俺のこと覚えてる??」
「あぁ?てってめえは!」
覚えてたか。
「どうだった?大人になっての露出プレイは。新しい境地に目覚めたか?」
「ぶっ殺す!」
無理だって。
返り討ちにしてやる。
具体的に描写するなら豚鼻フックにしてやった。
指が汚いのでこいつの服で拭く。
洒落のつもりじゃない。
「父さん!銃をよこせ!あんた持ってんだろ!」
「護身用に持っているが、お前に貸すために持っているんじゃない。それに何度も言っているだろ。僕は血を見るのが大嫌いなんだ」
「使えねえな」
お前が言うな。
「息子に厳しいですね」
「こんなの息子と思ったことないですけどね」
「いや、あんたの息子だろ」
「違いますよ。こいつは昔死んだ兄と女を輪姦したときにできた子でしてね。じゃんけんで育てる子供を分けたんですが、育ってみると間違いなく兄の血を受け継いでいます。頭が悪くて、すぐに暴力に走る。自分じゃ何も出来ないのにその出来ないことを他人のせいにする。僕とはあんまり似てもいないでしょ」
確かにその通りだったが
「グズっぷりがそっくりだな」
こいつは宝瀬先輩を巻き込んだ犯人以上の屑だ。
「ついでに、こいつだけギフトを持っていないんですよ。他の子たちは持っていたのに」
「……こんなゴミがまだ社会にいるというのか」
清掃員は何をしているんだ。
こんなゴミさっさと焼却炉に入れろ。
それと父さん。
あんた殺し屋なら真っ先にこいつら殺すべきだろ。
「それで、何でこのゴミはこんなところにいるんだ」
「…………何も言わないでください」
月夜さんがゴミに静止を促す。
ここはこいつから情報を聞き出すべきだろうな。
「おい。俺がお前に二つ名をやるよ。汚物まみれ破顔なんてどうだ?」
煽るのは基本だ。
「ぶっ殺す」
さっきからぶっ殺すとしか言っていない気がする。
気のせいじゃないな。
「どうした?お前の武器は口だけか?」
もう一度襲い掛かる。
顎に拳を入れる。
みぞおちにも一発。
倒れたところを足で踏みつける。
「どうした。ギフト使っていないからせめて、手か足どっちか出してみろ。それともお前が出せるのはどんぐりサイズの矮小な竿だけか?」
何か言おうとしても顔を押しつけているので口が開かないと思うのだが。
「…………」
「どうしたのか?助けないのか?」
「はい。この程度は小さな犠牲です。変に助けに入って怪我するよりもこいつを犠牲にした方が後々の為になります」
あくまでも月夜さんは人類の幸福か。
「これからダッチワイフになる女!オレを助けろ!」
月夜さんに意識を集中しすぎてこいつの拘束が緩かったようだ。
「おい。今なんていった」
それにしても聞き捨てならないことを聞いたな。
「そのままの意味だ。知らなかったのか」
「黙りなさい」
月夜さんが命令する。
「うっせえ。ここまでされて引き下がれるか。イニシエーションだ」
イニシエーションは宗教用語で通過儀礼という意味だが
「何をさせる気だ!」
「教えてやるよ。イニシエーションってのは――――」
「黙れ。この無能」
言ったのは月夜さんだ。
「あなたのそのゴミみたいなプライドで一体どれくらいの損害があると思うのですか!」
やっぱ月夜さんの評価もゴミなんだな。
この場の三人からゴミ扱いされる男、なかなか滑稽と言えば滑稽だが同情に値しないな。
そしてそのゴミ男は
「イニシエーションってのは枯野の一族で女を輪姦すことを…………」
最後まで言わせなかった。
こいつの喉に致命傷となる一撃を。
喉から噴水のように流れる血液。
「ひっ!」
そういえば枯野礼成は血が苦手だと言っていたが
「ひぎがいいがあいがいがいがああああああ」
本当のことだった。
ただまさかここまでとは。
「血ィイイアイアイアイあああいい位置いい」
「落ち着いてください」
月夜さんは落ち着かせようと枯野礼成に近づいたのだが
「く、くるなああ」
そいつは発砲した。
「うっ…………」
銃弾は彼女の腹部を直撃。
ゆっくりと前のめりに倒れる。
あまりのことに俺は動くことすらできなかったが、ようやく動くことができる。
「どうやら引き分けに持ち込まれたようです」
意識はあるようだが問答無用の急所だった。
「諦めるな!鬼人化で治せる!」
「結構です」
死にゆく彼女は治療を拒否した。
「全く、とあるキャラが血を流しただけで敗北だなんてハードモードに限度がありますよ」
「おい。だから」
「次は負けません」
「お、おい」
月夜幸は息を引き取った。
「…………枯野おおおお!」
「ひしいいいあいあいああ。行け!お前たち!」
俺はこいつを殺すために鬼人化を使って距離を詰めたのだが
「ふっ」
全身重そうな甲冑を纏った男に止められた。
馬鹿な。
こっちは鬼人化だぞ!
攻撃を止められたのは百歩譲って許すとして、あの重そうなものを着て俺よりも速いというのか!?
ならば……速さなんて無意味にするまでだ。
「反辿世界」
『世界』を止める。これで何とか体勢を立て直さなければ。
「残念。動けるっ」
体当たりを受けた。
お、おい。なんでだよ。
何でそうも簡単に動けた!?
一秒しか保たないので、すでに『世界』は動き出した。
「拙者の出番」
十メートル以上離れている侍を模した男がい合いの構えをする。
斬撃でも飛ばしてくるかと思い柳動体の準備をしたが
「ぐぶあ」
まるで瞬間移動したかのように本体がいきなり俺の前に現れた。
そのまま居合切りで俺に一撃。
ざっくりと俺の左胸を切りつける。
幸い心臓に達しているわけではないが、それでもやばい一撃を受けたことには変わりない。
俺はバックステップで距離をとる。
とったはずなのだが、いきなり天井が見えた。
天井が見えたと思ったら床が見えて最後に俺の背中が見えた。
首を切られたらしい。
痛いと思う前に俺は死んでいた。
主人公の感覚を例えるならば、二次元の女で抜くことはあっても、二次元の女を好きになることなんてないよみたいな感じです。