表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章後編 愛と情と正と義と勝と利の物語
353/353

ルーザーズ・ダイアリー 2






「考え直す気はないのか? 嘘でもいいんだ。宝瀬として悪魔を否定する見解を示す。そうしないとグループがまずい」

「無いわ。私が宝瀬にいる以上、嘉神君の否定は許さない。結果この家や会社がどうなろうが、知ったことではないの」


「……せめて数か月間大人しくするだけでいい。それだけなんだ」

「私は私がやれる全力をもって、最善を尽くすだけ。家柄が使えるなら使うし、枷になるなら捨てる。それだけよ」

「………………」

「勘違いを訂正させてもらうわ。これは、私が曲げるかどうかではないの。お父様が決断するか」


「……本当に、良くない所に似てしまったね」

「本当に残念ながらそう思うわね」

「一応聞くけど、娘を説得する気はあるか?」

「いいんじゃない? 娘の巣立ちを喜びましょう」


「……………はぁ。真百合。分かった。仕方がない。一時の間、お前の権限をすべて凍結する。便宜上は敗北の責任を取ってということにする。頭を冷やしなさい」

「それでいいの。ただ、残念だけどこの熱は一生冷めないわ」




***********************



 人類は悪魔に敗北しました。


 そんな言葉が記事のトップニュースになるくらい、おれたちの敗北は世界全体に広まった。


 帝国は日本と交流を完全に断つことを決め、衣川は消息不明、先輩は責任を取って代表を辞任。そんなどう取り繕っても大敗北としかいいようのない結果だった。


 酷い話だ。そもそも上3人が結託していた以上、おれたちに何一つ見込みなんてなかった。

 つーか。まじありえねぇ。先輩はともかく、衣川は何であんなに強ぇんだ。


 超悦者の先にいけるだけで最強なのに、シンボルを可変にするとか頭おかしい。


 シンボルを使える身からしたらそれがどんなに異常なことなのか。

 衣川が説明していたから、理屈はわかるが納得は出来ねぇ。

 なんであんなことが出来る。例えるなら物真似したら家族や知り合いに本人認定されて、本物が蹴飛ばされるようなもんだぞ。


 しかもその状態で、実質衣川早苗としてのスペックは発揮できる。有象無象じゃねぇ。本物より優れたモノホン。

 神薙さんが怪物といったのも頷ける。シンボルを持ってる側の発想じゃねぇ。


 少し前までおれはいつきに勝つつもりだったが、衣川には一切勝てるビジョンが見えねぇ。在り得ねぇ表現をするが、一番あの人に近い人は衣川だ。

 憧れも何もない。精神性として挑む気や比較する気すらねぇよ。


「なんじゃそりゃってやつだ」


 そして、もうおれはいつきに勝てる気もなくなっている。


 いつきのギフトは、形を変えた。いや、あるべき姿に戻った。


 キスした相手の能力を使える、そしてその能力は『物語』として扱う。


 これが本来の嘉神一樹の在り方。

 ぶっこわれの中のぶっ壊れ。これ以上酷いギフトはあるかよ。


 まぁ、これに関しては文句言うのはいつきじゃねぇ


「チートやりすぎだろ。ばかやろー」


 才能の差というより生まれの差。たまたまあの人の直系の一番いいタイミングで生まれたのがいつき。


 ギフトである以上真犯人は、神薙さんその人である。


「最初から当て馬にするっていってたけどよぉ。同意したけどぉよぉ」


 ギフトの性能差酷くねぇか?

 シンボル同士の戦いなら敗北受け入れられるかもしんねぇけど、ギフトはもう完全にあの人のお気持ちだろ。


 勝てるわけねぇー。


「いやまぁ、シンボルもたいがい怪しいか」


 衣川が自分をいつきとして使ったシンボル、心気弄ミラージュ

 これをいつきが使うとどうなるかは知れないが、それでも経験操作というのは恐ろしい。


 自他ともの努力の否定。本人がどれだけ頑張ったか、その強みを吸収しそれを弱点とさせる。

 つまりおれに対してあまりにも有効なシンボルである。


 当然『物語』である以上、『法則』の混沌回路カオスチャンネルより序列は上。勝てはしない。

 シンボル同士だったら勝てる、そんな言い訳すらおれには許されていない。


 昨日、おれは何回敗北したんだろうか。


 先輩の奇策を見抜けなかった所。

 衣川に超悦者でもシンボルでも負けた所。

 神薙さんに事実上見限られた所。

 いつきに理論上勝てないと示された所。

 帝王様に関わることが危険と言われた所。


 挙げたらきりがねぇ。


 何より最悪な所が、混沌回路の制限を言い渡されたことだ。


 シンボルは己の在り方を示すこと。

 混沌回路は性質の付与、言い換えると価値をつけること


 負け続けた価値のないおれが、使いこなせるわけではない。

 自己の崩壊を起こす危険があるとして、使用制限を言い渡された(メール)


 止まってる時間はねぇっていうのに、ドクターストップを言い渡されたおれのこころの行き先は、何もない虚空だった。


 あいつらともあれから話せてはいない。

 携帯の履歴だけ見て、内容は見れていない。話す気すら起きない。一人になりたかった。


 なんだったんだろうな。


 母さんを殺したA3はとっくの昔に一樹が滅ぼし、そのいつきを超えることを一つの目標としてきた。

 どちらも叶うことはもう無いだろう。


 夢も目標も失ったおれに、はたして価値はあるのだろうか。


 …………


「くよくよしても意味もねぇ」


 やることをやろう。最後にもう一度決着をつける。

 やり残したこと、抗えることを考える。


「やっぱ成長するっきゃねぇか」


 超悦者になれるかなれないかでステージが変わるように、『物語』を扱えるかどうかでステージがまるっきり異なるといわれている。

 おれもそこに行くしかねぇ。


 手段は3つ。超悦者の先。ギフト、そしてシンボル。


 まずギフトはある意味一番簡単で一番意味がねぇ選択肢。

 神薙さんにお願いしてそれが通れば変更してもらえるかもしれねぇ。


 ただそれにいったい何の意味がある。

 おれがいつきに勝つ。そのためにギフトを貰う。意味がねぇだろ。


 ならば残りは、超悦者の先にいくか、シンボルの成長。

 だがこの二つはどうだ。


 超悦者の先にいけるのは、本当にごく一握りの存在。衣川も先輩も一握り側の存在だから出来ているだけの話で、おれが到底できるとは思えねぇ。


 シンボルの解釈を広げるのも、これも無理臭い。

 自分を変える必要がある。それが良い方向にいくかもわかんねぇのに。

 そもそもシンボルのために自分を変えたところで、強くなれるとは思えねぇ。


 道が分からん、やるべきことが分かっているのにそのための道が一切分からねぇ。


 どうしたもんか。

 今はまず、貯まっているメールを返すか。


 知人には当たり障りのない返答を続ける。

 その中で一つ。印象的な相手からの連絡を見つけた。



『時雨様。折り入って協力をお願いしたいことがあります。お時間の都合の良い時にお電話をいただけないでしょうか。天堂御々』



 天堂さんからの通話依頼だった。


 そういえばあの人とはあまり話せてなかったか。


 残念会でもするのか? わかんねぇが、通話しておくか。



「もしもし久しぶり、といっても昨日の話だったか」

「そうっすね」

「体の方は大丈夫かね?」

「まぁ、もともと怪我とかはしてなかったですので。えっと……」

「あぁ。何の件で電話したいかってことだね」

「はい」

「ではいきなりでまずいんだが、あの悪魔の交流関係について知りたいんだ」

「………それがどうかしましたか?」

「キスした相手の能力を使える、つまり元となった能力者がいるわけだよね。誰からコピーしたのか。知っている限りの身元を教えて欲しい」


 能力ではなく、能力者について?

 言ってる意味は分かんねぇが、まぁ身元分かってる人だしいいか。


「全部が全部知ってるわけではないですよ。ただ一番多いのは博優学園の生徒ですね。知ってます? 昨年の四月末にあったこと」

「ああ。知ってるとも。あの時は本当に大変だった。行政から口出し無用といわれるくせに同僚の管理不足について口出しされるとは」


 全貌を知っているわけではないので、多くのことを話せるわけではない。

 ただその件があったおかげで、先輩といつきは仲良くなったと聞いている。


「その……恐らくそのタイミングで、能力者の何割かとはキスしてますね。自覚はないと思うんですけど」

「なるほど。すごく助かるよ。他には?」

「後は……姉妹がいるんでその人とか……支倉の何人かとかはしてますね。浄化集会は……結局能力者いたのか分からないので、いたらしているかもしれないです」

「うんうん」

「九州いくといってたこともあったし、あとは……宝瀬や衣川組の案件でコピーしたりとかですかね」


 後半はほぼ憶測で話をしている。

 いつきがコピーしたとしたらそこらへんか。


「他にもあるかもしれないですけど、おれが把握しているのはこれくらいです」

「いやいや。すごく助かるよ。有意義な情報だった」

「どうも」

「名前は顔とかは……」

「さすがにそれは……おれの判断じゃできないです」


 個人情報だし。


「当然の配慮だ。こちらこそ余計なことを聞いてしまってすまない。だが恥を忍んでそれでも聞かせて欲しい。歴史を知る能力者については知ってるか?」


 そういえば、前もの能力について聞いていたな。

 何かあるのか? その能力に?


「すみません。本当に知らないです」


 嘘でもなく本当に知らない。

 可能性としては博優学園の生徒じゃないかとは思うが、まったくもって知らない。


「わかった。ありがとう。それともう一つ。これは確認になるんだけど、心苦しい話題になる」

「はぁ」

「月夜幸の最後ついて教えて欲しい」

「……」

「分かってる。こんなこと聞くなんてどうかしてる。でもどうしてもこれは必要なことなんだ」


 ふざけているようにも思えねぇ。何かやむを得ない事情でもあるのか。


「いっても分かんねぇこと、あると思います。神薙さん関係の話になるので、常識の外になるかと」

「それでもいい。教えてくれ」


 迷ったが教えることにした。


 神と呼ばれる存在がいて、衣川と先輩が誘拐されたこと。

 俺達は救出するため、別れて天国と地獄に向かったこと。


 おれと月夜は地獄の方へ行き、そして敗走した。


 月夜は時間を稼ぐためその場に残り、そして死んだ。


 彼女の名誉のため、おれは精一杯の月夜の生き様を語った。


「そうか。じゃ、やっぱり彼女はこの世界ではない所で死んだのか」

「そうですね」

「じゃぁ、彼女の墓は象徴墓になるのか」

「いえ、頭部だけはかえってきたので、埋葬はされてます」

「…………分かった。すまない。そしてありがとう。こんな話を答えてくれて」

「あの、何でこんなことを?」


 理由があって聞いたことだろうがその理由が全く分からねぇ。


「それはね……いや、聞いておいて悪いんだが、全貌は言わない。これは時雨君のことを思って知らない方がいいと思ってのことだ。善意なんだ。分かってほしい。それでも理由をいうとしたら――――希望の為だよ。僕の強いては人類の希望のためだ」

「は、はぁ」


 希望か。今のおれにはふさわしいようなそうでないような。


 そんなことを思って、




 のちに、今日のやり取りを後悔した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 早苗さんのシンボルについて、 実在してるかしてないか問わずそのキャラを思うことで そのキャラ以上になりきれるシンボルですが それは人じゃなくても概念的存在でも可能ですか?…
連続更新!?やったぜ。 嘉神一樹は嘉神一芽とキスしたのでしょうか? 死ねば勝手に奪う予定があるといってましたけど、 『どうでもいい奴』獲得してたら『教観福音書』で情報抜けなくなりませんか? あと大…
2025/10/15 22:10 目の入力か
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ