鮮血の聖女と群青の魔女 15
「最後の用件を済ませようか」
おれは今何を見て何を聞いているのだろう。
先輩と衣川。そして神薙先生
ここは今3人しかいない。
そう思う錯覚。
「叢雲天狗。そして時雨驟雨」
名前を呼ばれた。だがおれはいない。
「まずは叢雲天狗のギフト、花魁魔術師。能力は数式の変更」
おれのパートナーとして戦ってくれた人だ。
「物と物を合算させると1+1となり2になるのが通常の処理だ。しかしそれを1-1にして対消滅させたりや、逆に1×1にして1つだけ消すことも出来る」
四則演算だけでなく、存在する全ての数式を変更し事象を捻じ曲げることが出来るギフト。
「もう一つ。裏技として存在するのが、0=1とする数式。これは現実には存在しえない。仮に存在するのならどんな事象もこの数式を用いて表すことが出来てしまう誤った数式。 逆に存在を許すこのギフトによって、どんな事象も再現できる数式を作ることが出来るわけだ」
思えば帝国の人たちは能力を一段階進化させている。
修学旅行でおれが戦った人もバリアと攻撃無効バリアを繋げていた。
バリエーションの数ならおれの方が上だが、いわばジャンプしているまで極めたのは尊敬に値する。
「弱点はいくつもあげられる。その中の一つは、数式は平等に理に影響することだろう。つまり他人にも使われてしまうことだ。衝撃に関する数式を変更すれば自分も相手も同じ数式を適応させてしまう。その切り替えがこの能力のミソなんだが、その場合読み合いというものが発生してしまう」
わざわざ神薙さんがいうことじゃない。
自分以外にも適応されるというのは使用者本人が分かっていたことだ。
「一種の未来視もちの相手だと無力化どころか逆に相手に使われてしまうというのが、致命的な弱点になるだろう」
いつ使う?どう使う? 持ち主の裁量だ。
普通こんな読み合いは勝負にならない。
「それこそ多幸福感を使えばいくらでも攻略はできる」
「……」
だが普通だったら負けないは、おれたちに勝利を約束できるものではない。
寧ろ詐欺師の発言と同等に、不安になる文句だ。
つまり神薙先生じゃなくても、もしかしたらここにいたかもしれない月夜ですら攻略できる能力でしかない。
「つまり俺に狼藉を働くバカにもできるわけだ」
その程度で攻略できる。
「ならばどうすれば俺が俺であるか、愛を使おう。これを使えば俺があれじゃないことを証明できる」
確かに……完全解答かもしれない。
あいつ愛はなんて知らない。
目の前の存在が神薙さんであることに誰も疑っていないが
一応○○の可能性を完全にゼロにするために、そうじゃないという証明も必要か。
いらんけど。
「はぁ? 舐めてんの?」
「愚弄するのもほどほどにしておけ」
反面、先輩は炎のような衣川は水のような怒りを見せた。
らしくないという感情であり、同時にらしい感情でもあった。
「おお。怖い怖い。ところで、俺はどこまで物事を知っているだろうか」
「全知でしょ」
なんてことなく先輩が吐き捨てる。
「とんでもない! 俺は全知じゃないぜ」
神薙先生は、大げさにそれを否定した。
「シンボルがあるから全知じゃないってこと?」
説明を聞くと、全部とかはシンボルが否定してくれるわけだ。
だから全知も否定するってことなのか?
「シンボルについて知らなくても、全知は否定されんよ。もっと俺が全知じゃないのはもっと単純な話だぜ」
そうだった。
全から外れるわけだから、全知であることはそのままなはず。
じゃあ一体何を知らないんだ。
「俺は自分より強い奴を知らない」
「…………でしょうね」
呆れたように先輩は返答するが、まったく同意見だ。
おれは知ってる。
目の前の人達だ。
先輩も目の前の人が自分より強いとしっているだろう。
だが神薙先生だけは、知らない。
自分より強い奴を知らない。
だから全知じゃない。
「もう一つ、俺が知らないのはこの世界の未来だ。俺が見た未来というのは、俺以外変えられないからつまらないだろ。だから知に関しては純粋な知性のみ、能力でのネタバレは踏まないようにしている」
分かる。
分かるというのはこの人ならそうするってことだ。
つまんなくなることはやらない。
面白くなりそうだったら、不利になることでもやる。
「だが未来について知らなくても予測を立てることはできる。微積が出来れば天気予報なんて簡単にできるように、少し考えれば能力なんて使わずとも未来は見えるものだ」
どうでもいいが、海外の天気予報はPCでシミュレートしているが、日本は並行してギフト使って予知している。
日常的な天気予報は日本もPC使っているが、台風や地震といった大きな災害は能力使って先読みしてるらしい。
「その前提を基に聞いてほしいんだが、俺達は最初にあったのはいつだろうか」
「いつって。人それぞれでしょ。早苗だったら山奥、私だったら宗教法人前」
おれだったら学校の帰り道で、帝国の人たちだとおれ達の修学旅行中のスタジアムか。
それで天堂さんはここが初めて。
「実はそうじゃないんだ。もっと前に俺に会っている」
「それは何時の話よ」
「ギフトを渡すとき。つまりはママンのお腹に入っている間」
おれたちが生まれる前ってことか。
「ギフトは基本的にはガチャだ。3%のガチャを成功させた人がギフトを獲得する権利を与えられ、更にそこから親の能力を一部参照してガチャを回す。その出力結果がギフトだ」
だからギフトに血縁関係なんてものがあったわけだ。
一部は話を聞いていたから知っていたわけだが、これだけで世界の常識が2160度ひっくり返る情報だろう。
「お前たちの魂と事前に会っている。目を見れば何を考えていれば分かるように、魂を見ればこれから誰が何時何をするかなんて簡単に分かっちゃうわけだ。簡単だろ」
確かにこれまで説明してもらった中では一番できそうな気がするが錯覚である。
ここにいる最年少はおれでそれでも17歳だ。
叢雲さんは30前後といったところ。
30年前の生まれる前の存在から、考え方やアクションを予期するなんておれには到底できない。
「結論、使い方や応用性を伸ばすのはgood 数式の変更という話し方を変えたのもなお良し。だが知識や知能は、得る側の方は容易く、防ぐ側の方は能力を防ぐよりも難い。別の選択肢も検討するべきだった。95点」
情報というのは能力よりも簡単に身に着けることが出来る。
だから情報が弱点になる初見殺し系の能力は、実際のイメージよりもはるかに弱い。
「最後に、時雨驟雨」
おれの名が呼ばれた。
「ギフトは雷電の球を基底とした、雷撃を放出する能力。そしてシンボル性質の付与する混沌回路。今一度説明するほどもない多く使った所を見ただろう」
なんて言われるんだろう。
火力が足りないだろうか?
無量大数を超える殺意込めたところで、無限の防御をもつ神薙さんには届かない。
でもシンボルだから使えねえってなると、超悦者か、はたまた別の何かか。
あるならネームドかな?
以前見せてもらったことがある、神薙さんによる他人の物真似
魔力なんてここにはないのに魔法使ったり、すごい剣術使ったりしいてたんだ。
さあなんて罵倒されるんだろうか。
ある意味とても楽しみだ。
「よく、頑張った」
思っていたのと違う回答だった。
すごく優しく、温かく。
「自分が出来ることを極めそれでも足りないものは他者の力を借りる。素晴らしいことだ」
痛かった。
嬉しいのと辛い。
嬉しいのは褒めてもらえたから。
辛いのは、もうこれ以上成長は見込めないということを暗に伝えられているから。
神薙先生は無駄なことはやらせない。
「一日3回の使用制限からよくぞここまで練り上げた。能力をただ使うだけでなく、派生や貫通を作り出す。自分だけのシンボルに、自分だけの工夫をした。俺は教師として時雨驟雨を誇らしく感じている。点数をつけるなら120点を渡そう」
やめてくれ。
おれを褒めないでくれ。
「だがハッキリ言おう。現状だとこれ以上の成長は見込めない」
実質的な死刑宣告だった。
「個人の才能は低いのは確かだ。重要なのはそっちじゃない。目標が存在しなくなっている」
……確かにそうかもしれない。
言われてみれば、言われるまで気づこうとしなかったことだ。
「目標、つまりあれに対する意志が定まらなくなっている。それは時雨驟雨に原因があるわけじゃない。俺があれの存在を歪めたからだ」
あいつはこの世すべての悪だし害になる。
尊敬に値するものはない。
だが数か月前までは、おれは尊敬していたし正の目標を立てていた。
おれが意思を持つ状況が変わっている。
だから、このままだと先には進めない。
別の何かが必要、そう言ってくれている……はず。
「原因はあなたじゃない。だったら返しなさいよ。簡単な話でしょ」
「不快だから嫌だ」
先輩は至極まっとうなことを言っている気がするが、まっとうさではこの人に太刀打ちできない。
「遅いなんてことはない。ゆっくりと観察して自分とは何なのか、何をすればよかったのか。考えてみなさい。遠回りでこそ見えるものがある」
優しい言葉、温かい励まし。
何も知らない天堂さんは、以外に優しいところがあるのだと思うのだろう。
ただ、おれには分かってる。
善意で言ってくれているのだろうが、本質はただの宣告だ。
情勢が変わったからアルバイトをクビにするときに投げる時のように、角を立てない通告だった。
「最終傀。描写できる事象は決して俺には届かない。それをする描写も俺には必要ない」
「……」
おれのシンボルにわざわざ神薙さんのシンボルを使う意味はない。
どんな理屈でも防げてしまう。
これは、あの人なりの餞別。
最後に手加減をしないで防いでくれた。
そして暗にこういわれたのだ。
おれの限界はここだと。
もう無理をするなと。
これ以上の努力は無駄だと。
あの人の求める境界に、届けなかったおれに、興味をなくしている。
もう神薙先生は、おれを見ていない。
できない子を褒めるように、
優しく甘い言葉を贈る。
「もういい?」
「ああ。助かった」
衣川は先輩にお礼を言った。
「望み通り、見せてやったぜ」
「そうだな。それも感謝した方がいいのか」
神薙先生は衣川に、自分の手段を見せてやった。
「それはいらないぜ。欲しいのは成果だ。それで、結局できたのか。できなかったのか」
「私ではなく早苗が答えるべきでしょ」
神薙先生は先輩に、ことの結果を尋ねた。
「答えてもいいがその前に――――時雨。すまんが」
衣川はおれに、単なる連絡を送った。
「視点もらうぞ」
ここからは、私が語ろうか。
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