宝瀬真百合 6(視点変更あり)
決着です。
その声は私が今一番聞きたかった声で、一番聞けないと思っていた声だった。
彼の温もりはまだ残っており、過去に飛んだときに感じる酔いも感じない。
つまりは現実。
「な、なぜだあ。お前は死んだはず!」
私の前に立っていた男は、私が恋をした背中だった。
「………嘉神君!?」
「……………ああ。そうだ」
嘉神君が立っていた。
あまりにも嬉しくて全身から色んな体液が流れる。
でもそんなこと気にしていられない。
そのまま抱きついた。
彼は嫌がりもせずに私の頭を撫でながら
「先輩。隣で泣き喚かないでくださいよ。耳障りっていったじゃないですか。お陰で永眠から目醒めちまった」
どうやら嘉神君は私の大往生が耳障りだったらしい。
反省する。
「ふざけるな!確かに息が止まっていたぞ!!」
そう。私も確認した。息が止まっていたし脈もなかった。
「ん………ちょっと待って。俺も考えるから」
嘉神君は片手を前に出して考え込んだ。
十秒後
「ああ。そっか。そう言うことか。ようやく理解した」
抱きついている私を見て何か分かったようだった。
「まさかおまえ………死んで生き返るギフトでも持っているのか?」
「いや。それはないことを俺が一番よく知っている」
「だったら一体どんなギフトだ!」
「誰が教えてやるかよ」
最後の白仮面を鬼人化で殺す。
残ったのはバスガイドと観客たち。
「そんな、ありえない。なんで、運命で死ぬこと決まってるのに死んでないの!」
やはりあせるとキャラが崩れるらしい。
「お前さ、何度も言っているだろ。もう一度言わせる気か?だったら最期にもう一度だけ教えてやる。心して聞け。運命が俺に勝てない理由、それはお前がブスだからだよ。運命の女神さん」
と、間違いなく関係のない上に私ですら理解できない理由を述べ引き金を引いた。
「さあて、まだ俺の処刑フェイズは終了していないからな。誰から殺して欲しい?」
「やめろ……そうだ。金だ!金をやる。幾らだ!!」
そんなことを衆議院議員は言う。
「っ!!!………」
嘉神君!今確実に揺らいだわよね?
「ふっ。残念ながら衆議院議員。お前は俺の金より大切なものを傷つけた。その責任は命で払って貰う」
格好良いセリフなのだけど汗が出て、しかも震えている。
「一億だ!一億でどうだ!」
「桁が一桁違うんじゃありませんか?」
嘉神君!?敬語に戻っているわ。もしかして桁が違うって意味下の方だったのかしら。
「どうしよう。こいつ殺すの惜しくなってきた」
「一億くらいなら私が払うわ」
というより一億は私の一年分の利息と同じだ。
「いや、でも……」
どうやら彼は私からお金を貰うことがいやらしい。
「えっと、宝瀬家がどういうところか知りませんけど脱税とかしてるでしょ?」
「法律の穴をついたというべきなのだけど、ただこいつが嘉神君に渡そうとした金は間違いなく横領や脱税の金よ」
「え?」
一体彼どんな価値観をしているのだろうか。
これから私が生きるためにそれは何よりも重要なことだ。
「そんな………酷いよ。信じてたのに」
どうやら本当に信じていたらしい。
「もう許せないな。お前は俺が殺す」
断末魔は大したこと無かった。
そして最後の一人
「うっ……」
急に嘉神君がふらつく。
「大丈夫?」
「……無理っぽい」
え?
「マジで目眩がして焦点が定まってない」
確かにフラフラだった。
「肩、貸した方がいいかしら?」
「頼む」
嘉神君の腕が私を包む。
こんな時にそんなことを考えている私は、本当に最低な人間だと思うわ。
「手も」
私の左手が嘉神君の右手に触れる。
熱い拳銃が間に挟まっていたけれど、私は彼のぬくもりだけを感じた。
「や、やめてくれ……」
「お前には何も言うことは無い。後悔しながら死ね」
私たち、いいえ、嘉神君と私が引き金を引いた。
男から血が噴き出すのと同時に嘉神君も倒れる。
倒れた方向が私のいた場所と逆だったので慌てて下敷きになる。
呼吸はある。ただし本当に危険な呼吸だった。
「うっ……」
誰かが目覚めたようだ。
「………一樹!」
男の声だった。
「あなたは、嘉神君のお父様?」
「ああ。オレはどうしてこうなった」
説明する義務もなかったのだけど、お父様に悪い印象を与えるのは良くないわね。
嘉神君に押し倒されている状態で説明する。
何か落ち着く。
「……ついに来たか」
「何の話ですか」
「いや、話せない。話そうとしたらまたサッカーボールが飛んでくる」
どうやらあのサッカーボールには心当たりがあったらしい。
「ただこれだけは一樹に伝えてくれ。神薙信一を信頼するな」
サッカーボールが嘉神君のお父様を吹き飛ばす。
どこかで聞いたことある名前だったけれど今は嘉神君だ。
結局あのお父様は訳の分からないことをいって退場した。
使えないわね。
本当に嘉神君のお父様なのかしら。
ヘリコプターの音が聞こえてきた。
空を仰ぐと、宝瀬家のヘリだった。
どうやら誰かが助けを呼んできたらしい。
これで本当の本当に助かった。
私は彼の鼓動を感じながらゆっくりと目を閉じた。