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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
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鮮血の聖女と群青の魔女 10


「シンボルとは何かをできるだけ短い文で最適な説明をするとするなら、『究極の個(孤)になること』という表現になると思います」


 「ありとあらゆる」が点になる存在、空亡惡匣

 その対策として神薙はシンボルという存在を作った。


「私達はシンボルで特殊な能力を身に着けています。ですがはっきり言って能力はおまけです。本来の目的は空亡惡匣から解脱すること。そのついでに定義や事象等をシンボル化して空亡惡匣から事を奪って我物としているわけです」


 あくまでシンボルを持っているということが重要らしい。


「ちょっと待って。道理は分かるけど、それでいいわけ?」

「真百合? そういうものだと処理していたが、何が気に食わないのだ?」

「個になりますといって、そう簡単になれるものなのかが納得できない。家の中にいるのに、自分が外にいると主張するのは勝手だけど事実として処理されないでしょ」


 ……確かにそういわれるとちょっとした違和感。

 仮に家の外に出れたとしても家の外という定義はないという話だった。


「なんならそういうものも含めた「あらゆる存在」ですって主張されると思うのだけど」

「本当に分析だけは間違えませんね」


 若干の不機嫌さを孕んだ同意は、真百合の発言が確かに議論されたものだという裏付けになっていた。


「あなたの考えは正しいです。結論、σφに対して独立というのは出来なかった。今も完璧に出来ているといえるのはご主人様だけです。200年たった今ですらあの人が干渉しない限りは、全てのモノがσφそのものといいでしょう」

「……それが出来たら、神だって苦労はしないでしょうしね」

「ええ。神では到達しえない手段で突破したので」


 神様が到達できない手段?

 そんなのあるのか?


「私達は空亡惡匣に対する干渉はやめ、別の定義に対する干渉を行ったんです」

「別の定義?」


 椿さんは真百合に向かって、とある質問を投げかけた。


「“全て”や“あらゆる”ってどういうものだと思いますか?」

「言葉通りの意味でしょ。あるもの全部、総じて。辞書で調べた方が余計に分からなくなるほど単純な理論」


 全ては全てだ。それ以上もないだろう。


「ええ。もはや言葉の意味について議論の余地がない。では次に、それって強いと思いますか。弱いと思いますか」

「概念や定義に強い弱いも無い……という話じゃないのよね」


 真百合は考える。

 そして私も考える。


 死とか恐怖とかは強そうで、逆にオタクにやさしいギャル概念は弱そうとかか?

 そういった話でいいのなら


「強いだろう。むしろ最強の概念ではないのか? だって他にどんな概念をだしても、全ては含んでいる。下位互換になってしまう」

「衣川早苗さん。あなたは聞き手として素晴らしいです」


 褒められている? でいいのだろうか。


「質問です。すべての資産を合計したらいくらになりますか」

「フェルミ推定でいいのなら、5京」


 フェルミ推定が何なのかは分からないが、おそらくは宝瀬家の総資産が3京付近だからおよそ倍した額を言っている。


「ではその額が正しいとしたとき、世界中のすべての人間が持っているお金を合計したら5京円になると思いますか」

「同じになるのではないか?」

「ありがとうございます」


 椿さんは優しく微笑んで、こういった。


「借金という概念は考えましたか?」

「あ!」


 確かにそうだ。

 そして椿さんが何を言おうとしているのか、その方向が分かった。


「全てのものを足したらそれが最大値になる。確かにそういう時もあるでしょう。ですがそうなる場合の必須条件として、マイナスを含んでいないことが挙げられます」


 世の中にはマイナスというものが確かに存在する。

 ない方がいいものが存在する。


「最小値がゼロ以上、例えば人数や面積とかいったプラスしかありえない概念でのすべてならいいかもしれません。ですがあれは広義の意味で“全て“を使っていました」


 弱さを含めないと全てじゃないが、含んだ時点で弱くなっている。


 弱さを含んでいなければ全てじゃない。

 弱さを含んでいるのなら頂きではない。


「『すべて』『あらゆる』なんてものを含んだその時点で、最強にはなりえない」


 つまり、付け入ることが出来る。


「どれだけ絶対や最強を誇っても、『すべて』『あらゆる』なんて含めたら、最強になりえない」


 足枷があっても勝つかもしれないが、足掛けがある状態で最強とは言わない。


「神が到達しえないというのは、“全”知“全”能だから。全てという定義を否定することが出来なかったからでいいのかしら」

「そういうことです」


 全てを知っていると主張しているからこそ、全ての否定が出来ない。

 存在そのものの自己矛盾になるわけか。


「σφに対して干渉できなくても、『全て』や『あらゆる』に対してはいくらでも干渉できました。

言ってるだけ、妄言化、陳腐化等の『全て』の弱くなる定義や概念を、関わってきた『全て』や『あらゆる』に押し付ける。

人数といったマイナスがない概念にたいして、あえてマイナス定義を作り『全て』の無力化を行う。

『全て』なのは相手側なのですから、当然受け入れないといけないわけです」


 そうして出来上がったのがシンボルというわけか。


「ギフトには神に対する悪意があると聞いていたが、シンボルにあるのは純粋な殺意というわけか」


 綿密に計画された殺意を感じ取った。


「ギフトがレイプ殺神で、シンボルが強盗殺神というわけですね」

「その喩えいるか?」

「いるわ」

「いりますね」

「そうか」


 絶対いらないと思うのだが、2人が同意してしまえば頷くことしかできない。


 やっぱりいらなくないか?


「シンボルは個人そのもの。他者に対する影響を受けません。ですがかといって全体にかかる効果は無視できます」

「対象をとれないけど、全体に対する効果は無視されるって考えね」


 カードゲームみたいな表現だと思った。


「話はちょっとだけ脱線させてしまうのだけど、だから最果ての絶頂はシンボルを使えないの?」

「そういうことです。全ての能力を持っているとあります。つまりバリバリシンボルの殺意内なんです」


 それでバランスをとっているわけで。

 本人も弱くなるための概念だと言っていた。


 持ってるだけで使えなくなる。

 シンボルは確かな個性であると同時に、全てに対する痛烈なアンチ。


 『“全て”の能力を無限に持っている』

 故にシンボルは使えない。シンボルに嫌われているわけか。


 いや本当になんで『すべての能力を無限に持っている』が弱点になるんだ。

 聞いたときは何言っているのか分からないが、今もどうしてこうなったのかが分からない。


「そういうわけで、私達はシンボルというものを作り出し、σφの討伐に成功したわけですね」


 壮絶だったと思う。

 今の私達ですら絶対に勝つことのできない空亡惡匣

 それを特殊能力なしから始め、実際に有効な概念や定義を生み出したというわけか。


「すごいな。本当に。大変だったのであろう」


 私達はあくまで神薙に用意してもらったものを利用しているだけだ。

 こういったらよその人に悪いかもしれないが、別にすごくもなんともない。


「本当にそうですよ! 大変だったんですよ! まずは概念側に干渉するために妖術や魔術を学習してそれらの良い所悪い所を組み合わせ新概念の言語作って、作った言語を適用させるため異世界をまっさらにする破壊兵器作って、まっさらになった世界にマイナス重力とイマジナリーの存在ができるよう異世界ルールを奪い取って、出来上がった世界の理論を改竄して意図したバグを発生させそれを多くの世界に適応できるよう翻訳機を作ったたり……ここまでやってもまだやっぱり別の理論で実施したものを試したいとか言い出して別のアプローチで似たようなことをしたりして……ホント! 忙しかった!」

「で、デスマーチ……それ本当に2年でできるものなの?」

「1発勝負の開発工程でやりました。設計もテストもしてないです」

「えぇ……正直あれの伝説の中で一番引いたのだけど」


 何やら真百合が頭を抱えている。

 何か嫌なことを思い出したのか。


「バグとかでなかったの?」

「1つだけ……これはバグというより当時の仕様としてどうしようもなかったことですが」


 他にもあっていいものだと思うのだが………………


「シンボルは完全な個になること。故に同じものが複数存在することはできません。能力のコピーしかり、分身してシンボルを使うことも出来ません」


 これは知っている情報だったが、こういう風に背景を説明されると確かにそうなると納得する。


「そして、『もしもの自分』というのも同じく存在できません」

「並行世界のことか?」

「ええ」

「でも並行世界に移動するシンボルだってあったはずでしょ」

「並行世界に移動する能力、持っていたのは一人です。同じ体、同じ思考を持っても、そういう風にシンボルを使えていたのは一人だけ」

「……」

「シンボルを持っている人間。それが正しい世界、本物の世界として残ります。ですがそういう風に調整できたのは、後の話。200年前、当時は神の邪魔も入ったりσφが気付きかけたりして時間が惜しく、調整は出来なかった」

「どうなったの?」

「殺し合いです。結果は言うまでもないですが、ただただ悲惨だった」


 神薙信一の並行世界の存在。

 それは多分2番目に強く賢かった存在だったのだろう。


 本物になれなかった神薙。


「あの人との差は、父親に捨てられたかどうかと……パートナーの差でしたね」


 これまでの話はほとんど私を向いて話していたが、この話に限り真百合に対していっていた。


「つまり私達の愛の力が勝ったんですよ。分かりましたか」

「どーでもいい。そもそもそのパートナーって赤の他人でしょ?」

「そうですね。奇跡的にDNAの構図が同一のだけの赤の他人です。ムカつくんですよ」

「待て待て。待って。まさかとは思うけど、あなた達が私にあたりが強い理由って、その赤の他人のそっくりさんだから? 被害妄想であんな目にあわされたの?」


 ここにきてまさか真百合悪くなかった説?


「逆に聞きたいんですけど、別の世界の元カノとそっくりさんがいたとうっきうきで言われて、いい気分になります? 生卵くらい投げつけたくありませんか?」

「つまり神薙が悪いわね」

「まあ、そうですね」


 何やら話が変な方向に拗れてきたので、強引だがまとめに入る。


「つまり、シンボルという「すべて」「あらゆる」から外れた定義を作って、「すべて」の存在である空亡惡匣を倒した、ということでいいのか?」

「そういうことです」

「ん?」


 質問をしておいてなんだが新たな疑問が生まれた。


「結局、どうしてこうなったのだ?」


 シンボルによって「あらゆる」側の定義から外れたのは分かる。

 それによって恐らく勝利したこともわかる。


「私も同じことを考えていたわ。私達内の知識だと、神薙は空亡に勝ちはしたが殺せなかった。完全に勝つことはできず、封印したという認識だった」

「正直封印せざるを得ないのは納得したぞ。だってこの世界が空亡惡匣の一要素なら、あいつを消してしまえば世界そのものがなくなってしまう。だから殺せなかった。理屈としてこれ以上のものはないのではない」


 勝ちはしたが勝ちきれなかった。

 これで私達が事前に知っていたものと、矛盾はない。


「ただ同時にシンボルじゃないものは空亡惡匣なんだろう?」

「そうね。封印したところで、封印という概念は空亡惡匣そのものなはず」

「ならばなぜ封印できたのだ?」


 そもそも封印がシンボル化したのは、○○一芽が生まれた後だ。

 実は200歳ということもない限り、封印という概念は空亡惡匣そのものだったのではないだろうか。


「それは最終傀が、相手がどんな前提を持っていようが「知らん、封印したんだ。その描写をしないがな」で終わるからね」

「その理屈はまだ理解できないが……それができるなら、倒せたんじゃないのか?」

「でしょうね」


 一番強いものが、二番目につよいもの相手に対策をとった。

 これでどうやって二番目が勝てるというのだ。


「じゃあ、殺してしまうと他の人が合わせて死んでしまうからか?」

「それは……あるかもしれないけど、やっぱり「封印した後なんやかんやして関係性を排除した後殺す描写をしない」でいいし、それが仮に出来なくても、全部殺した後に再度世界を創造すればいい」


 じゃあなんで。


 なんでσφは、封印なんかされているんだ。


「σφには勝てなかった。それは能力的に殺せなかったからでも、殺すと他の人間も合わせて消えるからでもありません」


 椿さんは淡々と言葉を紡いでいる。


 いつものように。


 どんな荒唐無稽であっても、神薙信一がやることなら正しいと確信して。


 子供に教えるがごとく。


「倒したくなかったから倒さなかった。それだけです」


 前提を全部ひっくり返した。

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