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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
321/353

鮮血の聖女と群青の魔女 2



「神薙信一をどうして倒せるという発想に至ったのか。それは視点が違うからだ」

「何よそれ」


 この話になると事前に考えていた私は、事前に準備していた内容を口にする。


「いくら私でもあれが最強でそれ以外のすべてを足しても神薙に劣ることは分かる」

「そうね。単細胞並の知能があればそれはわかるはずよ」

「神薙信一より強い力はなく、神薙信一より強い概念はなく、神薙信一より強いルールはない。ただ唯一を除いては」

「……」

「私は神薙より精神力が強いらしい」

「そうね。本当に不服だけどあなたはそういう存在よ」


 ○○も女神も神薙信一本人もそういわれた。

 人によっては畏れもした。


「みんな私を異常者異常者と持てはやすが、私は自分のことを異常者と思ったことはない」

「……」

「だってそうだろう? 私は偏差値40台の学生で、真百合にも何度も馬鹿にされる程度の女だ」

「知ってる」

「これまで一度も悲しくて泣いたことはないが、親が死ねば辛さを感じ、友人が死ねば悲しみ、一人の男を好きになる。そんな小娘だ」

「……そうなのね」

「みんな怯えすぎだ。奴は最強でありただの人間なのだから」

「……」

「奴がどれだけ強くても、この世でただ一人私だけは、あれに勝てると望むことができる」


 真百合は否定もせず黙って私の話を聞いていた。


「賢い行いじゃない。強い生き様でもない。だが好都合なことに私はどちらも満たしていないのだ。それでも怖いなら、私が言ってやる。神薙信一にも弱いところはある。神薙信一にも勝てる。神薙信一なんて雑魚だっ!と」


 真百合の目を見て、この世界が始まってもっとも愚かなことを言い放つ。

 それを聞いた真百合はしばらく何も言わない。


 何かを言おうとしたが途中で止め、そうしてやっと言葉を紡ぐ。


「………思っていたより数段まっとうな意見で驚いたわ。だから正直ムカつく」


 苦虫を嚙み潰したような表情だった。


「正直納得していない。私はあれに挑むなんて愚行中の愚行だと今でも思ってるわ。ただ、あなたが言うなら、ひょっとしたら……そう思ってしまう私がいるのも事実よ」

「そ、そうか!」

「まだ協力するとは言わない。でももう少しだけ議論はしましょう。もちろん勝つ方法を考えているのでしょうね」


 なんと言うのだろうと思う。

 真百合の正気をここにきて疑う。


「何を言っているのだ。頭脳労働は真百合の役目だろう?」


 私が作戦なんて考えるわけないだろ。


 まっすぐ行ってぶっ飛ばすしか脳のない女だ。


 そもそもそんな頭を持っていたら神薙に挑もうとは思わん。


「…………とりあえず1回くらいは殺しても許されるわね」


 実際に殺されることはなかったが、眼球に指を2本ずつ突っ込まれた。


「いたいいたい。なにをするのだ」

「別に減るものじゃないでしょ。眼球くらいは」


 鬼神化で治るから別にいいが。


「ノープランということでいいのね」

「控えめに言えば」

「大げさに言うと」

「ノーブラ?」

「ノータリンね。承知したわ。ならまずはSWOT分析をしましょう」


 SWOT分析?


「やだのだ。そんな賢そうなことしたくない」

「次あなたがふざけたことを言ったら」

「言ったら?」

「歯にフッ酸をしみ込ませます」

「まじめにやる。だが、本当にSWOT分析?とやらは知らないのだ」

「SWOT分析は、プラス要因マイナス要因を分析して今後の戦略を導き出す手法のことよ。経営者が今後の方針を考えるためよく使用するわ。まず今回の件で私達のゴールは?」

「○○を取り返すこと」


 神薙を倒すといったが、究極的にはそれはさけてもいい。

 大切なのは○○ それを間違えない。


「次に私達にとっての脅威を書き出しましょう」

「神薙信一と書けばいいのか?」

「事実上それ関係で埋まるとおもうけど、私達の要因以外で何が脅威になるのかを書き出すのよ」


 私達は意見を出し合って現状の脅威を抜き出す。


・最終傀

・最果ての絶頂

・究極の超越者(超越者のその先)

・人類全体が○○を敵対視

・全力を見せていないので何をしでかすか分からない

・神薙ラバーズ


「こんなところね。きっと他にもあるけれどあまりあげると更に絶望するからこれくらいにするわ。続いてその逆、私達にとって有利に働くものは何かを抜き出しましょう」

「基本的に神薙信一の弱点を書くのだな」


 こうして出し合ったのは以下の通り。


・神薙信一は本気を出さない(10倍~100倍程度)

・最終傀は使わない(使うのは最終手段)

・ふざける ネタに走る

・シンボル化された能力は干渉できないし、その能力も使えない

・人間は殺さない

・基本受けに回る 先手は譲ってくれる


「これまでは外的要因、つまり私達以外のことを抜き出したけど、今度は逆。私達について何が強みで弱みかを書く。やり方はさっきと同じだから一気に行くわよ」


強み

・純度100の人間

・早苗のメンタル(唯一勝てる)

・真百合のシンボル(ワンパンチ入れた実績あり)

・妊娠中なので手加減される

・社会的立場

・真百合にはめっぽう甘い


弱み

・早苗が雑魚 

シンボルが『法則』 

2つ下を見下す能力者特権を使えない 

超越者のその先が使えない

・真百合のメンタル

シンボルは3回くらいしか使えないし、神薙信一に関わることなら1度が限度 使えても次から当てられるか厳しい

・妊娠中に戦闘するとか「子供を大切にしない大人」案件じゃないのか

・仲間がいない



「こうして書き出した強みや弱みについて、私達が挑む項目や避ける項目を見つけ出し、やることを決める。これがSWOT分析」

「できそうか」

「無理。神薙強すぎ、勝ち目なさすぎ。早苗弱すぎ。諦めるわ」


 待て待て待て待て。

 気持ちは分からないでもないが、諦めるわけにはいかんのだ。


「せめて他に何かないかしらね。私達に有利になる条件が。何でもいいわ」

「そういえば、疑問に思ったことがあるのだが」


 ふと、今まで議論しなかったことについて疑問が発生した。


「言ってみなさい。こういうのは言うだけはタダよ。それを愚弄するのもタダ」

「世界一の金持ちがケチなことを言うものだ」

「世界一の金持ちは、世界一お金の出費をしない生き物よ」


 お金のことになると私では勝てないし、何より本題からずれるから疑問をそのまま尋ねる。


「なぜ私達は元の記憶があるのだ。そこに弱点があるのではないか?」


 私と真百合だけが世界の情勢に取り残されているが、もしかして何か特別な理由があり、そこに付け入るスキがあるかもしれん。


「……わざとよ。絶対に」

「わざと?」

「2つ、私達にとって有利なことを思いついたわ。まず――――」


 真百合はホワイトボードに



・人間相手には配慮する



 と書き込んだ。


「待て待て待て。言わせてくれ。あれが配慮? 配慮から最も遠い人種じゃないのか?」

「いいえ。している。しているつもりかもしれないけど思いやりはある」


 私の発言をバッサリと切り捨て断言した。


「私達が取り残されたのは、私達が彼を好きだから。本当にそれだけの理由」

「それは……うん。そうなのだが、それで?」

「分かってないわね。想い人がいるのに、その想いを改ざんするなんて、洗脳よ。実質的な寝取られと言っていいわ」

「寝ていないのに?」

「寝ましたー 描写がないだけでちゃんと寝てます―」

「めっちゃキレとる」


 なんか別ベクトルで暴れだした。

 この前ボランティアで学童の面倒をみたが、その時の悪ガキみたいだなと思った。


「それはもう蜜月の時間だったわね。ギシギシでアンアンだったに違いないわ」

「更に偽装までしてくる」

「それでそれであの日の体験談の続きだけど」

「話を戻すぞ」


 普段ならともかく、真百合が人類最高峰の知能を持っているといっても信頼ならん。


「配慮というのは、好きな人がいる相手を踏みにじろうとはしないということか」

「最低の最低限だけどね。本当に配慮するならこんなことしないわ」

「それもそうか。ならもう一つは何だ?」

「…………」


 苦虫をかみしめるかのような苦悶の顔をした後で、ホワイトボードに以下の記載をした。



・神薙信一の思考はある程度読める



「…………本当に?」

「自信はないわ。これがビジネスだったら損をしそうだからやらないくらいには」


 断言されたとしてもにわかには信じられないが、そのあいまいさは私をより一層不安にさせる。


「でもたぶん私が、一番読める」

「なら聞くぞ。神薙信一にとって、神薙信一の弱点は何だ?」


 私達の基準ではなく、あいつにとっての弱点。

 本当に突かれて困るところ。


「私達は神薙信一のゴールを知っている」

「?? 自分が人間だと証明することだと聞いた」

「そのための手段も知っている」

「私達の子供のうちの誰かが、神薙信一の領域に届くことを期待していると本人が言った」


 いつ聞いても理外の存在だ。

 最果ての絶頂も強化ではなく弱化に使っていると聞くし、本当にあいつに準ずる人間はいないのだろう。



「でも本当に? 私はそこに納得していない」




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