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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
10章 最強の終極
306/353

終極オリジン 弐

ルート

銃弾に撃たれて気を失うか

→YES

  本ルート(神薙)

→NO

  IFルート(最上)



「あ、見えるんですか?」


 目の前にいる幽霊が、現実であれ俺の妄想であれ、自分の頭がおかしくなったこと、その可能性は高い。


 広辞苑の単語を100個飛ばしで思い出せるかを確認……問題なし。

 4色問題のアルゴリズムを脳内で実行…………証明終了。


 とりあえず、脳の性能が大幅に落ちているわけではないことの確認は取れた。


「見えてるんですよね?」

「見えるけど、何貴様」


 10秒くらい黙っていたからだろう。そいつは俺に向かって再び話しかける。


「私、清宮椿といいます」

「清宮椿」


 どこかで聞いたことがある、なんて感想は無能だと思う。

 俺には知っていることと、現在知らないことの2つしかない。


 大衆向けの新聞を九面で思い出し、瞬時に読み漁る。


 名前に一致する人間、その中で一番有名なのは


「ピアニスト」

「知っているんですか?」

「1998年生まれ。独系ハーフと日本人の間に産まれたクォーター。8歳にしてフランスのコンクールに入賞。そこから天才ピアニストとして名を広めていくが15で突然の引退。その後行方は不明だったが2年後悪性の腫瘍により死亡が確認される。だったか?」


 ここでいう疑問符は、新聞の記述に誤りはないかという意味だったが


「えっと……熱心なファンなんですね」


 ストーカーと勘違いされたか。


「昔音楽をかじろうとした時期がある」


 それが何かと分からば、興味は薄れた。


「そうなんですか。専門は何を?」

「鍵盤楽器と弦楽器は一通り」

「すごいじゃないですか。ぜひ今度聞かせてほしいです」


 このすごいじゃないですかは、適当なことをいうんじゃないという皮肉が込められている。


「折角だ。指を動かしてみてくれ」

「えー」

「この機会だしいいだろ?」

「しょうがないですね。本当はお金取るんですよ」


 そういいつつも、ベッドを鍵盤に見立てて指先を動かす。


「すごいじゃないか」


 このすごいじゃないかは、猿が5m二足歩行をしている姿を見た時と同じ感情を含んでいる。


「その腕なら、ストリッパー並みの金額は稼げたか」

「……………えっと、馬鹿にしました?」

「ああ。した」


 本来ならこんなことは言わない。

 世間一般的に上の上の能力がある。


 幽霊になっているブランクを考えれば、生前は極上といっていいだろう。


 だがそれは、世間一般の話。


 猿が歩いたという事実に感動はしたが、二度も見たいかというとそうではない。


 それよりも、目の前にいるそいつは幽霊。

 幽霊が人を呪う姿が、見たい。


「残念です」


 ただ一回で俺の希望は叶えられなかった。

 こうなってくると面倒になる。


 生きた人間を誘導することは簡単だが、死んだ人間の心理を掌握した経験はないので、思い通りにならないかもしれない。


「呪いませんよ。絶対に」


 そんな俺の様子を見てからか、幽霊は自分の心情を語った。


「私、嫌われたらその人のこと好きになるようにしているんです。そうすればいつかきっとその人は私のことを好きになってくれると信じて。それが音楽活動をする上で決めたルールです」

「何故」

「好きでいてくれる人を、人は嫌いに離れない。アンチだってファンにして見せる。そうすればアンチのいない音楽家になれる」


 成程。

 俺には関係ないことだが、何かが優れている人間は、他の何かが劣っていることが多い。


 未だすべての人間に好かれることが出来ると信じているのなら、その精神的幼さは劣等だ。


『さいこうをきわめたのなら、さいていをきわめてみたらいいとおもう』


 妹の言葉を思い出す。


 ………………まあ、聞いてやる義理は無いが、その領域を覗いてみるのはいいだろう。


「いいなそれ。とはいえ実力のない人間には難しいんじゃないか」

「いいんです。専門はピアノじゃないですし」

「じゃあ何? 打楽器か」

「弾き語りです」


 ピアノを弾きながら歌うやつか。


「やって見せて」

「いや、ピアノがないと」

「大丈夫。指の動きを見れば脳内で音として変換できる」


 ただ音よりも光の方が早いので、こっちでわずかにチューニングをする必要があるが。


「清宮椿、君は指を動かしながら歌えばいい」

「今度はギャラとりますよ」

「いいよ。常識の範囲内でなら言い値で」

「おお。上客」


 そういうと指で弾きながら、彼女は歌った。


「――――!」


 産まれて初めての感覚。自分の想定を、初めて上回った存在。


 ピアノの腕も、歌のうまさも、どちらも俺に劣っている。


 ただそのハーモニーが、奇跡的に噛み合っていた。


 思わずピアノの音を口ずさんでしまう。


「え? ええ?」

「おいこら! なにやめてんだ」


 生涯に数度しか経験しなかった気分を害され、久々に怒鳴ってしまう。


「いや、鍵盤の音を口で出した? えええ?」

「音楽家が曲の途中で演奏をやめるな!」


 このやり取りの所為で五月蠅くしてしまい、俺が目覚めたことに気づいたらしく看護婦がやってきてしまう。


「――また今度」

「はい」


 これが、神薙椿とのファーストコンタクト




 ここから俺は死者を知った。




「ユルサナイ ユルサナイ」

「死んだ人間に何ができる。ほらほら呪ってみろよ」


 悲しい事故で死んだ悪霊


「ひぃい。除霊しないでくださいぃいぃ」

「土地開発するから邪魔なんだよね」


 特に理由はないが、何となく生き残っている地縛霊


「お待ちしておりました。ああ、神の使徒様」

「どうでもいいけど、500年前でその胸はむりがあるでしょ」


 俺のことを500年待っていたと言い張る守護霊


「ついてくるか?」

「……(コクリ)」


 雪山で野宿している時気に入れらた無口な雪女


「くっくっくっ。お主を凋落すればこの国は妾のもの。覚悟するのじゃ」

「おらっ」

「んほぉー」


 くそ雑魚メギツネ。



 彼女たちの出会いは、確かに俺を変えた。



 自信を持って言える。


 この時、この数年。


 神薙信一にとっての黄金期。


 皆を好きでいられた、人も動物も愛することが出来た。




 この日々がなければ、俺はσφにも自分にも勝てなかった。




 なんてことはない。ありきたりで、つまらなく、ただただ幸福な話。




 神薙信一が神薙信一でいられるのは、日常であり超常ではない。

 通常であり異常ではない。


 結局のところ、王道ではないと頂点になりえない。


 異常では最強(俺)は生まれない。




 故に


 嘉神一樹に期待しない。





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