神と帝国
「メープルちゃんのどきどき☆日本対策講座 どぅぅぅんパチパチ」
帝国第一会議室。
帝王と四天王が席に座り、ボードの隣に柱神メープルが、似合いもしない眼鏡をかけて賢そうなアピールをしていた。
「本日はお集まりいただき、まことにーーーー」
「御託はいい。速やかに悪魔たちの能力を教えろ」
帝国と柱神の同盟内容。
内容は嘉神一樹の暗殺、期間は12月までもしくは嘉神一樹暗殺まで。
柱神は情報を、帝国は力を貸す。
情報とは、何より嘉神一樹の能力。
キスをした相手の能力を上回った状態でコピーできることは知っている。
だが、その先、何を複製したのかを把握していない。
最悪関わったすべての人間の能力を洗い出す必要があるが、それも絶対ではない。
全知に聞くという最適があるのなら、それを用いた方がいい。
「全くせっかちなんだから。長生きするためにはことを急がない方がいいよ。これ、神様からのアドバイスね。参考にして」
「話す気がないのなら」
「はいはい。まず嘉神一樹個人の情報を教えよう。
嘉神一樹 16歳 男性。自分が能力者だとしったのは今年の四月。つまりまだ1年たっていない」
1年たたずして、最強の座に手をかけている。
「なんでそんなことになっているか、客観的な理屈だとお察しの通り口映しの能力による自信の超進化。主観的な話だと、運が良かったから」
「運だと?」
今更帝国側に運なんてものは通じない。
「諸事情により、あいつには強くなってもらわないといけない理由があった。だから強くなった」
「ほう」
「これ以上は明かさない。関わらない方がいけない人間が関わっている、それですべて察してね」
神薙信ではじまって薙信一で終わるあの人。
人外の天敵。異形の捕食者。最強の終極。この世全ての悪欲。
上げ始めたらきりがない。
「話を戻そう。手にした能力を話す前に、戦う上での性格を教えないといけない」
「それは」
「サイコパスって所」
嘉神一樹のサイコパスが神様の名のもとに確定された。
「それが何の関係があるかって言いたそうだけど、関係あるから。これは覚えておいてね」
そう言い残し、白板に1と記述する。
「1つ、相手の精神的上に立ちたがる。実際それは白夜くんが分かるだろ」
この場合の相手の上に立つというのは、能力ではなく、個人。
「強い能力を攻略したり、個人を攻略し尊厳を辱めることにより、そいつの上に立つ。戦略的勝利とは精神的勝利と同等だと考えている」
「ああ。わかるよ。自分が分かってる」
口による攻撃が好き。
キスという意味ではなく、罵倒。
「そしてそのために、分かりやすい能力を好んで使う傾向がある」
「分かりやすい」
「そう、感覚的に分かりやすい能力が好み」
何かえぐいことをしているとみられたい。
「例えば、有体離脱というシンボルがある」
「なんだそれは」
「能力は、因果関係の削除。歩きと距離の関係だったり、攻撃とダメージの関係を削除できる」
「……なかなか強いが、因果ゆえ『運命』だろう? 小生以外に影響があるとは思えんが」
「そうかもね。でも便利な能力だということに変わりはない。仮にクラス耐性の概念がなければ、この能力は上位に食い込む程に強力な能力だ」
5人のうち4人は耐性があるので、結局効果がないが、確かにそれを使わずして攻略できるかと聞かれたら、即座にできるともいえない。
「そんな能力があれば、使うよね」
「使うな」
「でも2回ほどしか使っていない」
「……」
本人としては、獄落常奴からの能力なので面倒だからと思っている。
「使ったところで、説明がなければまず知られることがない」
ほぼ唯一、嘉神一樹が戦闘中に能力を何度も見せられて見抜くことが出来なかった能力。
「逆を言えば、相手は何をされているかわからないので、屈服しようがない」
上下関係を分からして、叩きのめす。
それが嘉神一樹の潜在的な戦い方。
「視覚的に特徴的な能力を好んで使う」
例えば獄落常奴がそのあたり。
業火、死者の復活、即死の手。
どれもこれも見た目的に忌避を伴わせる。
そういった能力が、好み。
「もう一つ、能力を真面目に使う気がない」
「正気の沙汰とはおもえんっ」
帝国人としては、理解できない。
ギフトとは生涯連れ添って共にするもの。
嫌うという感覚が、欠如する。
「とはいっても、これには納得のいく理由があってね。能力を極めても上位互換が出てくる可能性があるだろ」
5人は言われて納得する。
例えば肉体操作のギフトを鍛えたところで、超悦者には勝てない。
どれだけ速度を鍛えても『時間』には勝てない。
能力には限界がある。
能力には上位がある。
ならば、下位の能力を鍛える理由はない。
「努力をすることは効率が悪いと思っている」
「嘆かわしい。そのような男に負けてしまう己が嘆かわしい」
「そういうなって、君は誇っていいよ。神薙に関わっていない中で最強なんだから」
嘉神も王陵も、神薙を血縁としている。
だからこそ強い。
それを抜けば、最強は祟目崇になる。
「つまり、その能力を頑張るという気が芽生えない」
「……なるほど」
「以上のことから、嘉神一樹が使う能力の傾向は、分かりやすい能力かとりあえず使ってみた能力が多くなる。このことを踏まえて、対策しないといけない能力を教えよう」
やっとのことで、女神は本題に入る。
「まずはこれだろうね。回廊洞穴。空間に穴をあける能力」
それは嘉神一樹が比較的初期に手に入れた能力。
「攻撃と移動で、嘉神一樹が最も使っている能力だ。この能力を対策しない限り対策したとはいえないだろう」
空間に穴をあけ、移動。
空間に歪をつけ、切断。
『世界』故執行力も強いときた。
「そして、次は獄落常奴。これは知っている人はいるんじゃないの。楢木魔夜って子がやらかしたって話」
「あったな、そういうことが」
「その子の能力。地獄の支配」
最早人が持っていい能力ではない。
「有力なのが、業火、亡者、亡軍、夢幻」
ギフト1つでこんなに派生をしているが、彼らも似たようなことをするのでそこまで気にしていない。
「業火は、消えない炎。不死裁きの火。亡者は悪人の復活、亡軍は知性を犠牲にして3億ほどのゾンビを操作できる」
「……めんどくせえ」
「そして、夢幻。地獄の世界を出現させ、その世界の情報が死因となり殺し続ける。ただこの能力は流石に本人もえぐいのが分かっているらしく、10秒ほどの詠唱の後使うようにしているから、何か変なことをしでかしたら気を付けてね」
この能力を耐えるか防ぐことができるのは必然的に2人。
帝王のギフト百生一生で100回まで死ねて、同じ死因で殺されることが無くなる。
だが、情報が死因なので、光、音、味、匂い、痛み、知識、直感、超直観、未来視等がそれぞれ死因になる。残機は30ほどしか残っていない帝王だが、それが1つで半分になる。
帝王としては、全力で防がないといけない。
「初めて助かったと思う。感謝する」
「まだ早い。本当に厄介なのは次の3つ」
白板に3と書き
「反辿世界」
宝瀬真百合のギフトだったものを告げた。
「ああ、やはりあるか」
「これは想定内だ」
とはいえ、帝王もまさか魔女と悪魔がキスをしていないとは思っていない。
そして宝瀬真百合の能力は、事前に知っていた。
「『世界』を止め、『世界』を戻す。『世界』だが、『世界』故その範囲は強力」
「そうだね。そして3つ目、死ぬとオートで戻ることも忘れずに」
つまりこれがある限り、絶対に殺せない。
殺そうとすると戻され、相手だけ対策を取られてしまう。
「この能力単体の攻略法は、睡眠薬で眠らせた後縛って3時間以上放置したのち殺すことなんだけど」
「だが今回それはできない」
大会という場を用いた暗殺の都合上、そんな長時間の拘束はできない。
「とはいっても、王様。君なら」
「ああ、殺し切れる」
「よろしい。では最後にとある能力を2つ」
4.5と書き
「卑蔑人形、存罪証明。人形に被害を押し付ける能力と、互いに存在を保証し合う能力。この能力を2つ同時に出した意味、分かるよね」
「最悪ではないか?」
ここまでくると四天王も泣き言を言いたくなる。
何十、何百とある人形を同時に壊すことで初めて嘉神一樹にダメージを入れられる。
「……これは、仕方ないか」
「そうだね。こればっかりはどうしようもない」
「帝王?」
「あまりやりたくはなかったが、王個人で戦うべきではない」
王はこの時、生涯初めて、卑怯なことに手を染めることを決心した。
「対策として、国民に援護を頼むか、それか」
「まあ、僕の能力を貸してもいい」
「役に立つのか」
「『法則』までなら、定義できる能力の3割は持ってるし」
神薙の圧倒的下位互換だが、人間からすると十分すぎた。
「あ、言いたいことは分かるよ。それがあるなら先にやれっていいたいんでしょ」
「それはっ そうだ」
「君たちはそれでいいし、そう主張することに問題はないんだけど、僕はお兄ちゃんが介入する恐れからさけないといけないことを忘れないでね」
「……」
「真百合ちゃんに能力を与えたでしょ。あの時と同じ、バランスを壊しすぎるのはできないし、何よりお兄ちゃんの血筋だから許されているところがあるからね。ごめんね」
圧倒的えこひいき。
だがこれに対して文句は言えない。
何しろもう知っている。
日本と帝国に強力なギフトが多い理由。
それは、神薙の故郷だから。
たったそれだけで、手に入れられる能力のランクが大幅に増加した。
「さて、以上5つ。このほかにの能力はあるけれど、これが最新バージョンの嘉神一樹だ。これらの対策案を練っていこうか。いっておくけど、全知だし神様だけど、そういう力を使っちゃうとNGが出ちゃうから、そこは御了承いただきたいよ」
せいぜいできるのは間違った推論になると訂正できるくらいだと付け足した。
「それで、それ以外にはないのか」
「ないかって? ギフトのこと」
「そうだ」
「あるにはあるけど、まずこの5つの対策を練ってからじゃないと」
「…………そうか」
一先ず帝王は黙って頷いた。




