終極を産んだ男の日記
2000年2月22日
妻の付き人から連絡がきて、陣痛が始まったらしい。
この日記を書き終わった後、病院に向かう。
どんな子だろうか。
日本で最も優秀な血と高貴な血を合わせた子供だ。
どれだけ優秀であるか楽しみである。
2000年2月23日
正直困った。
昨日午後10時過ぎに産まれた子は、産声を上げなかった。
未成熟児だったのだ。
未成熟児は統計的に足りていないことがあるので、僕の子にふさわしくない。
運よくスペアも同時期に産まれそうなの、最悪交換をすることも考えている。
書いている途中に気が付いた。
産まれた子の体重は、確か2222g そして産まれた時刻も2000年2月22日22時22分
面白い。そういうことなら話が別だ。
持って生まれた子だ。
いいだろう。お前が僕の子だ。信一。
だからせいぜい、僕の恥になるなよ。
2000年3月22日
妻との教育方針で揉めている。
妻は出自が特殊であり、普通の人間の暮らしに憧れていた。
だから信一を普通の学校、普通の会社に就職させたいらしい。
冗談じゃない。
優秀なる僕の子だ。僕の強いては僕のために役に立ってもらわないと困る。
第一次成長期の今こそ、知識を詰め込むべきだ。
そのために大量の蔵書を用意したというのに。
これでは計画が狂ってしまう。
信一に本を見せても、一瞬だけ見てすぐに目を閉じるし、知能が足りていないかもしれない。
2000年5月22日
なるほど。信一。お前は体育会系なのか。
生後三か月で、はいはいをできるようになるとは。なかなかに優秀じゃないか。
しかも誰にも気づかれず、蔵書の中に忍び込むとはな。
産業スパイにはいいかもしれない。
2000年6月22日
すまない信一。お前は天才だった。
まさかもう発声と移動ができるようになっているとは思わなかった。
この成長速度なら、僕が作ったあの施設に入れても問題ないかもしれない。
2000年7月22日
信一はどうやら、蔵書に入っては本を散らかすのが好きらしい。
しかし不思議なことに、最近は日本語以外の本を散らかしている。
ひょっとしたら言語の違いを理解しているのかもしれない。
まあ、贔屓に見すぎたか。
2000年8月22日
信一が蔵書に忍び込まなくなり、代わりにテレビを見るようになった。
2000年9月22日
テレビすら見なくなった。
最近は寝てばかりだ。
2001年2月20日
1歳になった記念に何か欲しいものないかと聞いたら、『パパ、お仕事、見たい』
と返事をしてくれた。会話が出来ていることも素晴らしいし、何より僕の役に立とうとする意欲が素晴らしい。せっかくだから、10年ぶりに有休をとって僕の仕事を見せてやる。
2001年2月22日
感情が乏しい子だと思っていたが、ずいぶんとはしゃいでいた。特に常務権限で社外秘の設計書を見せた時はとても喜んでいた。正直管理職になってもらう気でいたが、技術部長としてのコースもありかもしれない。それにはやはり、あそこに活かせる必要がある。
2001年2月23日
いい加減妻の癇癪にもウンザリだ。信一が妻に全く懐かないことに腹を立てすぎだ。
真名子もこの子が特別であると知るべきだ。
2002年10月22日
今日も有休をとり、信一を職場に連れて行った。相変わらず行った所にない所に連れて行くと、たいそう喜ぶ。下手したらこの子、課長より機密情報をしってるかもしれないな(笑)
2002年1月22日
くそったれ。離婚を切り出さすだけじゃなく、そのまま信一を連れて逃げやがった。
お前なんて愛想が尽きているが、信一だけは返してもらうぞ。
2002年2月23日
ざまあみろといいたい。
真名子が風呂で死んでいた。
リストカットによる自殺だ。
まったく、面倒な事させる。
だがお前はいい母体だった。
信一の畑になったこと、そこだけは感謝しといてやるよ。
2002年2月28日
2歳児が親を殺せるわけないだろ。
警察官は馬鹿なのか。
2002年3月22日
本日より信一を施設で育てることにする。
信一、帝王なるもの、話せるようになることも重要なことだ。
同じ天才同士、仲良くなって来い。
2002年3月24日
信一のIQテストの結果が出た。
IQ200をこえているらしい。
当然だ。なにせ2年で園児のように会話ができるのだから。
2003年2月22日
信一は相変わらず職場を、強いては現場を見たがる。
いい点をとったら見せてやると約束する、その約束を信一が守り、僕も約束を守る。
ああ、いい。
こんな優秀な子こそ、僕の後継者にふさわしい。
スペアは一応用意しておくが、もう僕は信一にぞっこんだった。
2005年2月22日
この国の義務教育は糞なので、海外で勉強をさせる。
施設のおかげで、既に2か国語は話せる。問題なく試験をパスできるだろう。
2005年4月22日
最早君が満点で合格することに、何の疑いを抱かないよ。信一。
2006年2月22日
施設から連絡が入る。
データが何者かによって抜き取られて、そして改ざんされたとのこと。
あり得ない。セキュリティは最新のものを使い、持ち込み検査も万全だったはずなのに。
2008年2月22日
信一が8歳で、大学主席で卒業するらしい。
……流石に優秀すぎないか?
だが信一からまだ海外で勉強したいことがあるとのことなので、数年延長する。
2009年2月22日
日本人のおもちゃがほしいとのことなので、孤児院に預けられていた茶髪の娘を送ってやった。
名前は楓というらしい。
名前は変えてもよかったが、信一がそのままでいいといっていたのでそのままにする。
2010年2月22日
信一が、医学、機械学、数学の論文を同時に発表し、コンペで賞をとった。
どれもその道の博士たちが唸る出来栄えだったらしい。
流石にここまでくると信一が、ただの天才ではないことを察する。
いいさ。最高じゃないか。
2012年2月22日
今日は書きたくない。
2012年2月23日
僕の城が乗っ取られた。
信一新派により、株の5割を買われており、事実上信一が大株主になった。
そして信一は糞おやじを懲戒し、僕を社長にたてた。
扱いやすいから。株主総会でそういわれた。
2013年2月22日
フルマラソンと、100m走で世界記録を更新していた。
あいついつ鍛えていた。
そんな素振りは全くなかったぞ。
2014年2月22日
信一主動で会社を動かして早二年。
会社の総資産が世界一になった。
世論は僕を稀代の天才というが、とんでもない。
僕ほどの愚者はいない。
あれを産ませてしまった。
真名子がしたように、もっと幼いうちに殺しておくべきだった。
あれは××××××
もうだめだ。
何もかも等価値に無価値だと思っている。
既に小型の核兵器を製造し終えており、アメリカ一つそれで滅ぼせる。
飛行機もマッハ100で飛ばせ、回避AIも完備しているから迎撃機も意味がない。
政治家も、生命線を掌握され、病気を治してもらう借りがある以上、逆らえない。
15にして信一は天下を取った。
そして信一は取ってしまった天下に興味はない。
必要になくなったら捨てる。
赤ん坊のころ既に読めていた本のように
自分の成長の邪魔と判断した母のように
自分が作った平気で、銀河を吹き飛ばして全てを終わらせる気だ。
くそ。
こうなったら、僕が止めるしかない。
さよなら。
便利だったよ。愚図。




